アンギオモチン
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アンギオモチンまたはアンジオモチン(英: angiomotin、AMOT)は、ヒトではAMOT遺伝子によってコードされているタンパク質である[4][5][6][7]。モチンファミリーに属するアンギオスタチン結合タンパク質であり、このファミリーにはAMOT以外に、AMOTL1、AMOTL2が含まれる。これらのタンパク質ははN末端にコイルドコイルドメイン、C末端にPDZ結合ドメインを有することで特徴づけられる[6]。AMOTは主に毛細血管の内皮細胞に発現しているほか、胎盤や固形腫瘍など血管新生能を有する組織でも発現している[8]。
発見
AMOTは2001年、酵母ツーハイブリッド解析用胎盤cDNAライブラリを用いたアンギオスタチン結合ペプチドのスクリーニングにおいて、アンギオスタチンのクリングルドメイン1から4をコードするコンストラクトをベイトとして用いて発見された[4]。
タンパク質
ヒトのAMOT遺伝子はX染色体に位置する[7]。AMOTはp80、p130と呼ばれる2種類の選択的スプライシングアイソフォームが存在することが知られている。選択的スプライシングにはある程度の組織特異性がみられ、p130を発現している細胞はp80を発現しているものよりもアクチン含量が高いことが示されている。p130にはp80への変換を担うタンパク質切断部位と推定される箇所は存在しておらず、p80はp130の切断産物として形成されているわけではない[9]。
p80は675残基からなる72.54 kDaのタンパク質で[10]、保存されたN末端のコイルドコイルドメインとC末端のPDZ結合モチーフによって特徴づけられる。アンギオスタチン結合ドメイン(ABD)はタンパク質の中心領域に位置している。ABDは細胞外、コイルドコイルとPDZ結合モチーフは細胞内に位置すると考えられている[5]。PDZ結合モチーフはタンパク質認識部位として機能しており、C末端をわずか3アミノ酸欠失するだけで本来持っている遊走促進活性は完全に失われる。こうした変異型AMOTを発現する内皮細胞は遊走や管腔構造の形成を行うことができない[11]。
p130のp80との差異はN末端に409アミノ酸からなるグルタミンリッチ配列が存在している点である。この配列はF-アクチンやタイトジャンクションへの結合を媒介している。サイトカラシンBによってアクチンの脱重合を行った後でも、この結合は維持されている[9]。
プラスミノーゲンやその誘導体に結合する他の細胞表面タンパク質と同様、AMOTにはシグナル配列が存在しないようである。そのため、細胞表面への結合はタンパク質間相互作用によって媒介されている可能性がある[8]。
機能
細胞の運動性と血管新生における役割
内皮細胞におけるAMOT p80の発現は、ランダムな遊走や、成長因子(bFGF、VEGF、LPAなど)に向かう遊走を亢進する。また、AMOTは内皮細胞の管腔形成も媒介する[4][11]。AMOTは細胞の伸展や管腔構造の安定化の双方を刺激することで血管新生を促進する。マウス大動脈内皮細胞(MAE細胞)では、コントロール細胞では3日後には形成された管腔構造の退縮が生じるのに対し、AMOTを発現する細胞から形成される管腔構造は30日以上にわたって安定である[12]。アンギオスタチンの存在下では、AMOT p80を発現している内皮細胞は遊走やin vitroでの管腔形成の低下を示す。これらの観察結果はAMOTが遊走細胞の先導端に局在していることと一致し、アンギオスタチンはAMOTの阻害因子として機能していると考えられる。
AMOT p80は細胞表面に位置し、アンギオスタチンに結合する。CHO細胞にトランスフェクションした際にはAMOTは細胞間結合部位に局在し、ZO-1をリクルートし、MAGI1と相互作用する。そのため、内皮細胞においても同様に細胞結合の組み立てに関与している可能性がある[5]。
AMOT p130は細胞遊走の促進や、アンギオスタチンへの応答を示さない。p80と同様にp130も細胞間結合部位に局在し、傍細胞透過性を調節している。p130のN末端はアクチンフィラメントに結合して安定化を行い、この作用はアンギオスタチンの影響を受けない。MAE細胞へのp130のトランスフェクションは、細胞形状の変化、細胞の平均的サイズの増大、ストレスファイバーの形成を引き起こす。p80は細胞遊走に関与し遊走期に発現しているのに対し、p130はアクチンとの相互作用によって細胞形状を制御し、血管の安定化と成熟の時期に発現する[9][13]。p80とp130の相対的発現レベルの差によって細胞の遊走・非遊走表現型の切り替えが調節されており、この調節にはp80のホモオリゴマー化や双方のアイソフォームによるヘテロオリゴマー化が重要な役割を果たしている[13]。
Hippoシグナル伝達経路における役割
AMOT、AMOTL1、AMOTL2は、コアクチベーターであるYAPやTAZの細胞内局在の調節[14]、LATS2の活性化[15]によってHippoシグナル伝達経路に重要な役割を果たしている。YAPやTAZの活性はAMOTやAMOTL1との相互作用によって制限されており、こうした相互作用はTAZのWWドメインとAMOTのN末端のPPxYモチーフとの相互作用に依存している[16]。
着床前胚における位置依存的Hippoシグナル伝達経路においては、Hippo経路の活性化と正しい細胞運命の決定にAMOTとAMOTL2が必要不可欠である。胚の内側の非極性細胞ではAMOTはアドヘレンスジャンクションに局在しており、GPCRシグナルの下流のLATSによってN末端ドメインのSer176がリン酸化され、アクチン結合活性の阻害とAMOT-LATS相互作用の安定化によってHippo経路が活性化される。このようにAMOTはLATSの直接の基質であり、Ser176のリン酸化によって細胞遊走と血管新生は阻害される。外側の細胞では、細胞極性によってAMOTは側底膜のアドヘレンスジャンクションから頂端部へ隔離され、それによってHippoシグナルは抑制される[17][18]。AMOTはHippo経路の分子スイッチとして機能し、F-アクチンとLATS活性を関連付けていると考えられている[19]。
またAMOTはMerlinに結合することで、Merlinは自己阻害が解除されLATS1/2への結合が促進される。Merlinの自己阻害テールの外部に位置するSer518のリン酸化はAMOTの結合を阻害し、それによってHippo経路のキナーゼの活性化は阻害される[20]。USP9Xはユビキチンを介したAMOTのターンオーバーを調節しており、AMOTを脱ユビキチン化して安定化し、YAP/TAZの活性を低下させる[21]。
がん研究
AMOTを標的としたDNAワクチン接種は内皮細胞表面のAMOTを検出する抗体の産生を誘導し、こうした抗体は遊走を阻害する。In vivoでは最大150日間にわたって、血管新生は遮断され、移植された腫瘍の成長が阻害される。AMOTをコードするDNAワクチンとHer-2/neuの細胞外・膜貫通ドメインをコードするDNAワクチンの併用によって、Her-2/neuトランスジェニックマウスでは乳がんの進行が阻害され、腫瘍血管形成が損なわれることが示されているため、AMOTを標的としたDNAワクチン接種はアンギオスタチンの作用の模倣を目的とした使用の可能性が考えられており、また毒性や正常な血管の障害は検出されていない[22]。
ヒトの乳がん組織では、対照群と比較してAMOTが高度に発現しており、その発現レベルは他の血管新生マーカーと関連している。AMOTは乳がんの増殖・浸潤や全生存期間の短さと関連しており、治療標的としての可能性がある[23][24]。
悪性黒色腫との関連においては、進行のバイオマーカーとして同定されたCD146の可溶性バリアント(sCD146)に対し、血管内皮前駆細胞(EPC)のAMOTが結合する。EPCにおけるAMOTのサイレンシングはsCD146の血管新生効果(EPCの遊走、増殖、マトリゲルにおける毛細血管様構造の形成能)を阻害する[25]。