グリピカン3
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グリピカン3(英: glypican 3、GPC3)は、ヒトではGPC3遺伝子にコードされるタンパク質である[5][6][7][8]。GPC3遺伝子はX染色体(Xq26)に位置し、最も一般的なアイソフォーム(アイソフォーム2、NP_004475)は580アミノ酸からなり約70 kDaである[9]。アイソフォーム1(NP_001158089)、アイソフォーム3(NP_001158090)、アイソフォーム4(NP_001158091)と呼ばれる3つの選択的スプライシングアイソフォームが検出されている[9]。
構造と機能
GPC3遺伝子は約70 kDaの前駆体コアタンパク質をコードし、フーリンによる切断によって約40 kDaのN末端サブユニットと約30 kDaのC末端サブユニットが作り出される[9]。哺乳類では6種類のグリピカンが同定されている。グリピカンは細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンで、膜に結合したタンパク質コアにいくつかのヘパラン硫酸鎖が結合している。グリピカンなどのGRIPS(glypican-related integral membrane proteoglycan family)と呼ばれるプロテオグリカンファミリーのメンバーは、GPIアンカーを介して細胞膜へ固定されたコアタンパク質を含んでいる。こうしたタンパク質は細胞分裂の制御や成長調節に関与している可能性がある[7]。GPC3はWntとFrizzledの双方と結合し、下流のシグナル伝達を開始する複合体を形成する[10][11]。WntはGPC3のIdoA2S(2-O-sulfo-α-L-iduronic acid)とGlcNS6S(2-deoxy-2-sulfamido-α-D-glucopyranosyl-6-O-sulfate)を含むヘパラン硫酸構造を認識し、GlcNS6S3Sへの3-O-硫酸化によって結合は大きく強化される[12]。GPC3のコアタンパク質はWntの共受容体として機能している可能性がある。GPC3のN末端領域のシステインリッチドメインには、Wnt3aと相互作用する疎水的な溝が同定されている[11]。HN3ナノボディを用いてGPC3のWnt結合ドメインをブロックすることで、Wntによる活性化を阻害することができる[11]。
疾患との関係
GPC3遺伝子の欠失変異は、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群と関係している[13]。
診断における利用
グリピカン3に対する免疫染色は硬変肝の肝細胞がんと異形成との鑑別に有用である[14]。抗グリピカン3抗体によって肝細胞がんは染色されるが、異形成や肝硬変は染色されない[15]。YP7マウスモノクローナル抗体を用いることで、GPC3のタンパク質発現は肝細胞がんで見られるものの、正常な肝臓や胆管細胞がんではみられないことが検出される[16]。YP7のヒト化抗体が作製されており、'hYP7'という名称がつけられている[17]。GPC3は悪性黒色腫、卵巣明細胞がん、卵黄嚢腫、神経芽細胞腫、肝芽腫、腎芽腫や他の腫瘍でもより低いレベルで発現している[9]。しかし、肝細胞がん以外の腫瘍において、GPC3の診断ツールとしての重要性は明らかではない。
治療標的としての可能性
GPC3は肝臓がんの治療標的として有望である[18]。GPC3やYP7など、いくつかの抗GPC3抗体治療薬が開発されている[16][17][19]。NIHの国立がん研究所(NCI)のMitchell Hoの研究室はハイブリドーマ技術を利用し、GPCのC末端領域を認識するYP7や他のマウスモノクローナル抗体を単離した[16]。これらの抗体は臨床応用のためにヒト化が行われている(hYP7など)[17]。また、Hoの研究室はファージディスプレイ技術を用いて、GPC3のN末端領域を標的にしたヒト単一ドメイン抗体('human nanobody')HN3や[11][20]、GPC3のヘパラン硫酸部分を標的にしたヒトモノクローナル抗体HS20を同定している[21][22]。HN3とHS20はどちらも肝臓がん細胞のWntシグナリングを阻害する。HN3をベースにした免疫毒素[23][24]、hYP7をベースにした抗体薬物複合体[25]、YP7とGC33に由来する二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE)[26][27]が肝臓がんの治療へ向けて開発が行われている。GC33、hYP7、HN3をベースにしたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法も肝臓がんの治療へ向けてさまざまな開発段階にある[28][29][30][31]。異種移植または同所性移植された肝臓腫瘍を持つマウスにおいて、CAR(hYP7)T細胞はGPC陽性がん細胞を消失させた。この作用はおそらくパーフォリンとグランザイムを介したアポトーシスの誘導またはWntシグナルの低下によって行われていると考えられる[30]。