Galaxy Cruise
国立天文台が運用する市民科学(市民天文学)プロジェクト
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Galaxy Cruise(ギャラクシー クルーズ[2])は、すばる望遠鏡が撮影した画像から誰でも銀河の形態分類を行うことのできるウェブサイト、およびそれを用いた日本の市民科学(市民参加型)プロジェクトである[3]。2019年に正式公開され、2025年10月31日まで市民ボランティアによる分類が行われた。 国立天文台ハワイ観測所准教授の[4]田中賢幸が代表を務め、国立天文台などに所属する研究者らで構成されるスタッフチームによって運用されている[5]。
| URL |
galaxycruise galaxycruise |
|---|---|
| 言語 | 日本語、英語 |
| タイプ | 市民科学 |
| 運営者 | 国立天文台(NAOJ) |
| 営利性 | なし |
| 登録 | 必要(無料) |
| 開始 |
2019年11月1日(日本語) 2020年2月19日(英語)[1] |
| 現在の状態 | 終了 |
概要

Galaxy Cruiseは、ハワイのマウナケア山山頂にある口径8.2mのすばる望遠鏡の主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いて行われた大規模観測プログラム「HSC 戦略枠サーベイプログラム」(HSC-SSP)で撮影された画像に写った、研究者だけでは解析しきれないような膨大な数の銀河の形態特徴について[6]、大人数の一般市民のボランティアに分類を行ってもらうことで解析することを目的としたオープンサイエンスの市民科学(シチズン・サイエンス)プロジェクトである[7]。 特に国立天文台では天文学分野でのシチズン・サイエンスを「市民天文学」という呼称を提唱しており、Galaxy Cruiseを市民天文学の取り組みとしての日本国内第1号であると位置付けている[注釈 1][12]。
使用しているのは、HSC-SSPの画像データとして全世界に公開されているデータのうち[13]、第2期データリリース(PDR2)として2019年5月30日に公開された、2014年から2018年1月までの174夜に撮影された300平方度の領域の画像に写った銀河である[5]。 参加者が分類用のページにアクセスすると、ウェブ側がHSC-SSPデータに写った銀河を次々と参加者に見せるので、その形状や特徴について参加者は見たままに、銀河の特徴について選択肢を選んで分類する[14]。 この銀河の画像は銀河周囲を切り抜いたサムネイルを見せていくのではなく、HSC Mapというエンジン上で観測領域のあちこちをインタラクティブに自動移動しながら、ズームアップされて提示される[15]。 HSC MapはHSC-SSPで撮影された領域を1枚に繋げたような広大な領域を、Google Mapのように自由に拡大・縮小しながらスムーズに移動できる、Galaxy Cruiseとは独立に公開されているツールであり[16]、Galaxy Cruiseのインターフェースにそのまま採用されている。 このほか、日本語で、かつブラウザ以外に専用のクライアントソフトも不要で手軽に参加できることを特徴としている[17]。
1つの銀河について少なくとも50人以上の参加者が分類するので[18]、それぞれの銀河の分類結果は統計的に導き出される[19]。最終的な分類結果が、銀河に関する形状の膨大なカタログデータとして広く研究者に公開されており、カタログデータ公開の論文は何度も引用されるなどして銀河の研究において世界中の研究者に活用されている[20]。
なお既に参加者による分類タスクは完遂されており、そのため新規アカウント作成は受け付けられておらず、いくつかの練習用の分類や画像の閲覧ができる期間も2026年3月31日までとなっている[21]。
科学目標

銀河の形状は渦巻銀河や楕円銀河など多種多様であるが、その多様性が生まれた理由を調べる手掛かりとして、複数の銀河が衝突・合体している最中、或いはした後の衝突銀河が挙げられる。衝突銀河がどれくらいの数存在するか、また個々の衝突銀河はどのような形状をしているかを調べることで、銀河の生い立ちや形状の多様性を解き明かす大きな助けになりうるとされている[22]。
Galaxy Cruiseと似たような銀河の形態分類研究として、同じくシチズン・サイエンスで行われたズーニバース上のプロジェクトであるギャラクシー・ズーが2007年からオックスフォード大学などによって運用され、分類結果が多くの研究で使用されるなど成功を収めていた。しかしギャラクシー・ズーが分類に使用したデータは、アメリカのニューメキシコ州にあるアパッチポイント天文台に設置された、口径2.5mしかない望遠鏡で行われたスローン・デジタル・スカイサーベイが2000年代初頭に撮影した画像で[注釈 2]、すばる望遠鏡による最新の画像でしか捉えられていない銀河の特徴が数多く存在していた[6]。
機械学習によってこうした形態分類を行うにも、そもそも最初にAIの教師データが準備されることが必要となるため、その役目をGalaxy Cruiseが担うことも目的の1つとされた[6]。 ベースとなる手法は古典的な視覚的な分類だが、時間がかかるだけで強力な手法として受け入れられている[24][25]。
なお科学的な目標や市民天文学の普及のほかに、研究成果の社会還元も目的の1つとされており、ウェブサイトやSNSを積極的に利用した情報発信が継続して行われている[26]。
開発
構想
国立天文台の天文情報センターは2015年に、オックスフォード大学のジョスリン・ベル・バーネル[注釈 3]らからなる外部委員会によって国際外部評価を受けた際に、「社会と双方向に関わり合う取り組み(two-way interaction)を行うべき」との意見勧告を受けた[27]。その例としてシチズン・サイエンスを引き合いに出されたことから、2016年4月に国立天文台発の、すばるHSC-SSPのデータを活用したシチズン・サイエンスプロジェクトの検討が始まった[28]。
オランダ・ライデン大学のペドロ・ラッソや、ギャラクシー・ズー創設者のクリス・リントンとも懇談するなど、まずはシチズン・サイエンスについて天文情報センターのスタッフが学ぶことから行われた[1]。 そして2017年4月に、天文情報センターの正式な活動計画としてシチズン・サイエンスが始動し、同時に天文情報センター広報室長の山岡均らによって「市民天文学」との和名が決定した。 さらに同年6月に、ハワイ観測所の田中賢幸らとHSC-SSPデータと重力相互作用(衝突など)する銀河に関する懇親会を行った。田中もまた、2013年にすばる望遠鏡で遠方銀河を観測した際に、膨大な数の銀河の解析に手を焼いた経験があったこともあり[29]、同年8月、今後開発する市民天文学プロジェクトのテーマを「衝突銀河の分類」に正式決定した[30]。
開発とHSC Map

HSCの撮影画像は1ショット分で2GBほどの大きさがあり、それだけでダウンロードに数分かかってしまう[16]。そこで、HSC-SSPの画像データを市民天文学に使用すると決まった後、2017年6月からHSCで撮影された画像を家庭用端末で快適に探査できる一般向けツールの開発が、ハワイ観測所特任専門員の小池美知太郎を中心に始まった[30]。そして、画像のロード時間を短縮するために1/1から1/256に至るまでの拡大率の正方形で分割した画像をあらかじめサーバー側に保存、ユーザーの画面の表示率に応じて表示させることで、画面に表示されている範囲と解像度に応じたデータだけをバックグラウンドでダウンロードするだけで済むので、HSC-SSPの全域を快適に探索できるようになるという仕組みが開発された[15]。さらに明るさや色の調整機能も備わっており、実際の天文学者のような画像解析を体験できるようにされた[31]。
後にHSC Mapと呼ばれるようになるこのツールはGalaxy Cruiseに先駆けて、2018年3月に「HSC ビューワ」という名前でHSC-SSP第1期データ公開分(61.5夜)について公開され[32]、その後第2期データ公開分も実装されている。 Galaxy CruiseではHSC Mapをそのまま使用するのではなく、後に決定した航海をテーマとするコンセプトに合わせたアイコンや、実際に銀河を分類しその結果を保存するためのインターフェースが追加されている[30]。
分類の内容検討

2018年度から、Galaxy Cruiseは日本科学未来館の市民参加型実験「オープンラボ」事業に採択され、未来館のサイエンスコミュニケーターと打ち合わせしながら分類の内容を検討することができるようになった[1]。
そして、Galaxy Cruiseに新しく登録した参加者が実際のデータの分類の前に、銀河の分類を実例を通して練習できる「トレーニングメニュー」を、未来館側と協力して作成することとなった[33]。 2018年6月に未来館で銀河分類のプレイベントを行った後、8月初旬に「宇宙にはどんな銀河がある? 銀河の“形”鑑定団」と題したイベントを2日間行った。このイベントで行った調査は、まず来場者に天文台職員が銀河の形について説明し、その説明を聞いた後の来場者に、銀河を印刷したカードを渦巻銀河か楕円銀河か・衝突銀河かそうでないか、について分類してもらうというものであった[10]。 239人から集めた結果をもとにチュートリアルの改善を行い[34]、12月には未来館展示室に常設されてある操作端末「オピニオンバンク」で完成版と同じ形のトレーニングメニューを公開し、来場者が自分で説明を読んでトレーニング問題に正解できるかを1か月調査した。990人から集めた結果から正答率の低かった箇所の説明などを改良したものを2019年2月に再度オピニオンバンクで約3週間公開し、599人から集めた結果で正答率が改善されていることが確認された[10]。
デザイン・試験運用と完成
2018年11月にハワイ観測所事務支援員の柴田純子がウェブサイトのデザイン担当としてチームに加わり、ウェブ部分の開発が始まった。この時点でズーニバースから独立した、ゲーム要素を加えた日本のオリジナルでウェブサイトを作る、という方針が定まっており、そこからターゲット設定やコンセプトの決定が行われた[35][10]。 そして、「大人の」「本物の」「本格的な」というキーワードをコンセプトに、宇宙を海原に見立て、参加者が乗船したクルーズ船がGalaxy Cruiseという世界観のもと、HSC-SSPの個別の観測領域を海図(クルーズマップ)に見立て、参加者各自が空のあちこちにまたがる各領域を巡っていくという設定が決定された[36]。 製作は外注を入れず、全て国立天文台での台内製作で完成された[1]。
2019年の4月にウェブサイトのベータ版が、7月にはウェブサイトのデザインが完成した。9月には試用版が各地の科学館友の会やアマチュア天文同好会、学校教員から募ったモニターに限定公開され、寄せられたコメントをもとに改良されたのち、2019年11月1日に「出航」として一般公開された[1]。その後2020年2月19日には、コンテンツを英訳した英語版も一般公開され、世界中から参加者が集まるようになった[1]。
運用の沿革
シーズン1
2019年に始まった[37]一般公開時点で分類に使用されたのは、HSC-SSPの第2期公開データに写った銀河から赤方偏移が0.2以内、距離にして地球から24億光年以内に位置する銀河から選ばれた銀河である[38]。
2020年に入って1月21日にはNHKニュースおはよう日本で紹介された他[39]、3月には新型コロナウイルス感染拡大による休校期間がきっかけで若年層に注目され[40]、10代前後の参加者が急増するとともに分類数も急上昇した[41]。 2月の英語版の公開時にはワシントン・ポストをはじめとする海外メディアにも紹介された[42][43][44]。
8月にはキャンペーン「1カ月で1000個分類しようキャンペーン」が開催された結果、キャンペーン終了時点で銀河分類総件数が約76万回に達し、1カ月間で30%増えた[41]。このキャンペーンでは参加者のキャンペーン期間中に分類した銀河の数に応じてアカウントにバーチャルでメダルを授与するという試みもなされており、91人が金メダル(1000個以上分類)、36人が銀メダル(300個以上分類)、85人が銅メダル(100個以上分類)を獲得した[41][45]。1000個分類キャンペーンは2020年12月から翌年1月の年末年始の1か月にも行われ、この期間に累計の分類数が100万回を超えた[46]。 この夏休みと年末年始の1000個分類キャンペーンは2021年以降も毎年行われ、年末年始キャンペーンで一定数の分類を行った参加者には抽選で国立天文台のカレンダーが贈呈されている[47]。
2020年11月15日にはNHKのサイエンスZEROで紹介され[48]、2021年1月からはマレーシアは子供向けに宇宙・天文の普及活動を行っている団体がキャンペーンを組むなど、国内外からの注目も継続して続いた[46]。
シーズン2

Galaxy Cruiseの公開当初以降、距離の条件を満たす銀河の中でも比較的明るい銀河が分類対象となっていたが、そうした銀河への分類が十分数集まったため、2022年4月18日からは銀河を入れ替え、同じ距離範囲でもより暗い銀河3万個を新たに分類対象とした、「Deep Quest」と題した第2シーズンが始まった[49]。 同年9月と11月には、国際天文学連合(IAU)などでの国際会議でも紹介された[50][51]。
シミュレーション銀河の分類

終了したシーズン1の分類結果を解析している際に、衝突・合体銀河の分類に対する定量的な精度の評価が難しいという問題が浮上した[52]。分類精度の比較には、分類の正解が既に分かっている銀河を参加者がどう分類したかを評価する方法が有効だが、正解が確実に分かっている銀河の画像をどうやって準備するかが問題となる。そこで、コンピューターで行った銀河衝突のシミュレーションによって生成された、人工の銀河の画像を参加者に分類してもらえば、シミュレーションの内容である正解が当然前もって分かっているため参加者の回答と比較が可能となる[53]。そこで、2023年9月12日から、いったんシーズン2として分類しているHSC-SSPの銀河の分類を中断し、シミュレーションで生成した約7000個の銀河を分類する「2023特別キャンペーン」が開始された[54]。シミュレーションを見ているという参加者の先入観を無くすため、一部には従来のHSCによる実際の画像が混ぜられ、なおかつHSC画像と見分けがつかないようにシミュレーション画像もHSC画像の画質に合わせて画像化された[55]。 シミュレーションによる銀河は、欧米の研究者が行った、高精度で再現性が高いことで世界中で研究に使われている大規模シミュレーション「IllustrisTNG」によって可視化されたものを提供を受けて使用し[56]、全ての銀河について40人以上の分類が集まるまで続けられた[53]。その目標分類数が達成されたため、2024年4月1日にキャンペーンが終了し、元のシーズン2の実在銀河の分類に戻った[57]。
なお、自分の銀河の分類結果を全て答え合わせできるという点は、参加者にとってのシミュレーションデータの分類のメリットでもあるため、キャンペーン終了後新たにGalaxy Cruiseのウェブ中に「TNG比較コース」が新設され、いつでもシミュレーション銀河を分類し、さらに分類のたびに答えが表示され自身へのフィードバックとして活用できるようになった[58]。
シーズン2再開から完結
全ての銀河において50人以上の分類を集めるというシーズン2の目標は2025年3月に達成された[21]。さらにもう少し分類を集めるためプロジェクトは継続し、2025年8月から10月にかけて、「ファイナルキャンペーン」としてシーズン1と2の銀河をランダムに抽出して分類を行うキャンペーンが実施され、参加者の分類傾向が6年間で変化しているかを評価する材料とされた[59]。 そして10月31日のファイナルキャンペーン終了をもって、Galaxy Cruiseシーズン2、さらにはGalaxy Cruiseの分類が完了、終了した[60]。
完了後も分類結果の解析が行なわれている他、Galaxy Cruiseで発見された衝突銀河やその派生研究で見つかったリング銀河の分子ガスの観測を野辺山宇宙電波観測所45mミリ波電波望遠鏡で行う派生プロジェクト、「OCEANプロジェクト」が研究者間で始まっており[61][62]、2024年度末までに行われた観測で20を超える銀河からの一酸化炭素輝線が検出されている[63]。
特徴と参加手順
「航海」と動機付け
宇宙を航海するというコンセプトのもと、参加者は「乗組員」、研究者のスタッフは「船員」と呼ばれ、代表の田中は「船長」、HSC Map担当の小池は「エンジニア」、他サイエンスチームは「航海士」を名乗っている[5]。画面のイラストも船を想起させるものが多く、1個の銀河の分類の選択肢を入力した際に押す確定ボタンは船の舵がモチーフになっている[64]。
そのほか、HSC-SSPで観測された領域は、有名なCOSMOSフィールドのように研究者間での領域名が決まっているが、Galaxy Cruiseではそれぞれの領域に属する星座や恒星に由来する独自の名前をつけ「大陸」「街」「島」「諸島」と呼ぶようにされた。例えばくじら座(Cetus)のSXDS-XMM-LSS領域[注釈 4]はシーズン1では『ケトゥス・ケントルム街』、シーズン2では『ミラ島』と呼ばれた。それぞれの「大陸」「街」はさらに、銀河30個を含む細かいエリアごとに分かれている[66]。
ボランティア精神が根付いている欧米で開発されたプロジェクトと異なり、日本国内向けで「科学への貢献」だけがモチベーションになりうるかが開発時点では未知数だったため、モチベーションを継続させるシステムが多数導入されている[注釈 5][1]。 さらに参加者のこれまでの分類履歴は「パスポート」から参照でき[67]、パスポートには「大陸」「街」の銀河をすべて分類するごとに「出国スタンプ」が押される。他に、銀河を30個分類して1エリアの分類を終えるごとに「おみやげ」として、記念イラストをジグソーパズルのように構成するピースを集めることをできる仕掛けもされている[68]。また、分類数に応じて乗組員のランクが「4等客室」から「特等客室」まで上がる、分類数上位のランキングが常に公開される、メールニュースで最新情報を配信するといった要素が含まれている[69]。
個人でのモチベーションだけでなく参加者全体としての動機づけとして、観測領域の多くには最初「鍵」がかかっており、分類できる領域の参加者全体での分類数が増加にするにつれて鍵がアンロックされ観測領域が増えるという仕組みも採用されている[66]。
参加手順

分類を始めるには、無料でのアカウント登録後に「トレーニング」という銀河の分類のチュートリアルを受ける必要がある[70]。
トレーニングは3つのステップに分かれ、楕円銀河と渦巻銀河の違い[71]、衝突銀河の判別や衝突銀河特有の外見上の特徴の有無の判別について説明を読んだうえで練習用の画像を分類・答え合わせすることで、分類の行い方の基準を知ることができる[72]。衝突銀河の特徴としてGalaxy Cruiseで選択肢を与えるものは、リング状の構造・シェル状の構造、潮汐テール、銀河ハローの形状の歪みの4つである[73]。 全てのトレーニングを終えると、「乗船証」がアカウントに付与され、実際の分類を行うことができる[74]。
なお、トレーニングが完了し通常の分類が行なえるようになった後も、「練習コース」と題した、自分の分類後に同じ銀河を田中らが分類した結果と比較し「答え合わせ」ができる機能が備えられている[1]。 また、実際の銀河を研究者スタッフが自ら「実況」しながら分類している画面の様子をそのままYouTubeに動画投稿し、分類の参考にしてもらう試みも何度かなされている[75][76][77][78]。
なお、なるべく大きな画面が分類に向いているため、スマートフォンよりパソコン、タブレット端末の使用が推奨されている[79]。
参加者の特徴
アンケート調査では、Galaxy Cruiseの参加者の6割以上が男性で、活発に分類を行っている参加者は50代・60台の年齢層に多いことが分かっている。 これは、ギャラクシー・ズーの参加者の8割以上が男性で、特に50~64歳の年齢層が多いことと共通している[7]。 また、2020年末時点では参加者の8割が日本人で、次いでロシア、アメリカの順に多かったが、2023年7月時点では7割弱が日本人で、次いでマレーシア、インド、アメリカ、ブラジルからの参加登録者が多くなっている[36]。
さらに、ユーザー登録時のアンケートとその後定期的に行っているアンケート調査から、定期的に分類を行っている参加者の宇宙・天文への関心が増していることや[80]、参加時に元々熱心な天文ファンでない人がアクティブユーザーの大半を占め、従来のアマチュア天文学と異なる層を開拓している可能性が示唆されている[36]。これらのアンケートの調査結果は、それ自体が論文として取りまとめられて2026年に出版された[81]。
なお、キャンペーン中に多くの分類を行った参加者や、シーズンを通じて準備された全ての銀河を分類した参加者は、ユーザー名が「表彰」ページに掲載されている[82]。
| 日 | 分類数[1] | 登録者数(国・地域) | 登録者数(日本) | 出典・注釈 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2020年1月10日 | 1052人 | [83] | ||||
| 2020年7月31日 | 約56万件 | [7] | ||||
| 2020年8月31日 | 約76万件 | [7] | ||||
| 2020年11月1日 | 約86万件 | 5124人(77か国) | [84] | |||
| 2020年12月1日 | 約95万件 | 5779人 | 4731人 | [7] | ||
| 2020年12月12日 | 約100万件 | [46] | ||||
| 2021年1月11日 | 約125万件 | 6262人(80か国) | 5013人 | [46] | ||
| 2021年6月1日 | 約150万件 | 6635人(81か国) | 5277人 | [85] | ||
| 2021年9月1日 | 約190万件 | 7769人(84か国) | 5541人 | [86] | ||
| 2022年1月15日 | 約240万件 | 9329人(90か国) | 6637人 | [87] | ||
| 2022年4月1日 | 約250万件 | 9742人(92か国) | 6854人 | [30] | ||
| 2022年9月1日 | 約45万件 | 10566人(100か国) | 7316人 | [88] | ||
| 2023年2月1日 | 約100万件 | 11089人(102か国) | 7489人 | [89] | ||
| 2023年7月1日 | 11603人 | 7870人 | [36] | |||
| 2024年2月1日 | 12364人(107か国) | 8347人 | [90] | |||
| 2024年9月15日 | 約210万件 | 13206人(110か国) | 8822人 | [91] | ||
| 2025年2月1日 | 約268万件 | 14210人(110か国) | 9647人 | [21] | ||
| ||||||
成果
論文成果
2023年9月、シーズン1における約2万個の銀河について[92]、参加者の分類結果を科学的に解析した最初の論文が出版された[93]。 この研究では参加者の分類の精度についても検証されており、明らかに楕円か渦巻きか分かる銀河を間違って分類している参加者を除くことで精度が担保されており[94]、先行例であるギャラクシー・ズーのシーズン2よりもはるかに高い精度が確認された[95]。 約1万人の参加者から集まった200万件以上の分類の解析により[96]、衝突・合体している銀河では活動銀河核の活動が励起され[95]、星形成がより活発になっていること[97]、銀河中心の超大質量ブラックホールの活動性が高まっていることが分かった[98]。 さらに、参加者から集まった分類結果そのものが「シーズン1データリリース(DR1)」として論文出版と同時に公開され、世界中の研究者が誰でも自身の研究に利用できるようになった[99]。 論文末尾の謝辞では、シーズン1参加者全てのアカウント名を列挙したウェブサイトへのリンクが掲載されている。

一方機械学習への応用の面では、2020年にはすばる銀河動物園プロジェクトという名前で56万個の銀河をAIで分類した研究が行われていたが、当時から学習データにGalaxy Cruiseによる分類結果を使用することでさらに発展することが見込まれていた[100]。 2021年時点でその時点での分類結果を機械学習に適用させ、90%の精度で銀河の形態分類を行うことにも成功していた[101]。 一方で、HSC-SSPのデータは2021年8月に、278夜分の観測データまで拡張した第3期データが公開された[102]。 そこで、Galaxy Cruiseには未実装の画像に写ったものも含まれる、赤方偏移0.01~0.3に相当する距離にある第3期データ中の140万個の銀河について[103]、Galaxy Cruiseのシーズン1の全結果を教師データとするAIによって分類を行う計画がなされ[104]、実際に70万天体について機械学習分類がされた結果[105]、1時間にも満たない計算時間で40万個の渦巻銀河と[106]、3万個のリング銀河と呼ばれる形態の銀河が検出された[107]。 リング銀河は銀河全体の5%にも満たない希少な銀河で、この銀河を大量に発見したことで、リング銀河が星形成を起こしている銀河と星形成が止まった銀河の中間の性質を持つことが発見された[108]。 この成果はGalaxy Cruiseチームから2本目の論文成果として2024年1月に出版され[109]、データ駆動型の希少天体探査モデルへの応用が見込まれている[110]。
その他科学的成果
銀河の色は通常、渦巻銀河は青く楕円銀河は赤い傾向にあるところ、DR1で形態分類された楕円銀河から色の青いものを抽出したところ、DR1に含まれる約2万個の銀河のうち1%程度が青い楕円銀河であることが分かり、特に楕円銀河の中心付近が青色をしている銀河が多かったことから、こうした銀河では局所的な銀河合体により中心部の星形成が活発になっていると考えられている[111]。
教育・天文普及
教育現場では、まず大学においては総合研究大学院大学が国立天文台と学部生向けに開いている「サマースチューデントプログラム」での研究体験の題材にGalaxy Cruiseが2020年・2021年に採用された[112][113]。他にも成蹊大学でのAI学習の教材に使用されたり[114]、分類自体がレポート課題のテーマに採用された事例もある[115]。 さらに小学生向け[116]、中学生向けの現場でも活用されている他[117]、画像表示部分のHSC Map自体を教育現場で教材化する取り組みも行われている[118]。
2024年9月26日から9月28日にかけて国立天文台三鷹キャンパス開催された研究会「The Violent Universe」では、銀河合体や活動銀河核などについての研究発表と合わせて「市民天文学者交流会」が開催され、Galaxy Cruiseの参加者と研究者が交流する他、参加者が自分の参加体験を発表する場も設けられた[119][120]。 このほか市民だけではなく科学分野の記者に向けてのレクチャー会も行われた[121]。
普及の動きは日本にはとどまらず、インドネシアでは2024年に現地の研究者やサイエンス・コミュニケータらによってGalaxy Cruiseのワークショップが開催された[122]。
市民天文学の動きは天文学の他分野にも波及しており、2018年に構想中のGalaxy Cruiseのアイデアを聞いた日本スペースガード協会の浦川聖太郞が「小惑星版のGalaxy Cruise」を作る着想を得て[123]、すばるHSC-SSPの画像中に写った多数の未発見小惑星を一般市民のボランティアが発見・測定できる「COIAS」を開発・2023年から運用開始し、すばる望遠鏡から生まれた市民天文学としてGalaxy Cruiseとセットで紹介されることもある[124]。
一連の様々な側面での成果に対して高い評価を受けており、2021年には「すばる望遠鏡ビッグデータを用いた市民参加型研究の普及啓発」として、Galaxy Cruiseを立ち上げたスタッフが科学技術分野の文部科学大臣表彰のうち科学技術賞 (理解増進部門) を受賞した[125]。 さらにGalaxy Cruiseの契機となった外部評価による勧告から8年後である2023年度に再び行われた外部委員による国際評価では、市民天文学の取り組みが高い評価を受け、評価書の表紙をGalaxy Cruiseで参加者が分類した銀河が飾るまでになった[126]。