NFAT5
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NFAT5(nuclear factor of activated T-cells 5)またはTonEBP(tonicity-responsive enhancer binding protein)は、浸透圧ストレスに関与する遺伝子の発現を調節する転写因子であり、ヒトではNFAT5遺伝子にコードされる[5]。
NFAT5は転写因子のNFATファミリーのメンバーである。このファミリーに属するタンパク質は、免疫応答時の遺伝子の転写誘導に中心的役割を果たす。NFAT5は、哺乳類細胞で浸透圧ストレスによって誘導される遺伝子の発現を調節する。このタンパク質はホモ二量体として存在し、DNAエレメントと安定な複合体を形成する。NFAT5遺伝子には異なるアイソフォームをコードする複数の転写バリアントが存在する[5]。
浸透圧ストレス
腎臓、皮膚、そして目を構成する組織は、しばしば浸透圧ストレスにさらされる。細胞外環境が高浸透圧の場合、細胞は水分を喪失して収縮する。細胞はこれに対抗して水分の喪失を少なくするために、ナトリウムの取り込みを増加させる。しかしながら、細胞内のイオン濃度の増大は細胞にとって有害である。その代わりに、細胞は有機オスモライトの細胞内濃度を増加させる酵素やトランスポーターの合成によって対処を行うこともできる。有機オスモライトは過剰なイオンの蓄積よりも毒性が低く、同様に水分の保持を助けることができる。高浸透圧条件下では、NFAT5が合成されて核内に蓄積する。NFAT5は、アルドースレダクターゼ(AR)、塩化ナトリウム/ベタイン 共輸送体(SLC6A12)、ナトリウム/myo-イノシトール共輸送体(SLC5A3)、タウリントランスポーター(SLC6A6)、神経障害標的エステラーゼの遺伝子の転写を促進する。これらは、有機オスモライトの産生や取り込みに関与している[6][7]。さらに、NFAT5は熱ショックタンパク質、Hsp70、浸透圧ストレスタンパク質を誘導する。NFAT5はサイトカインの産生への関与も示唆されている[8]。
腎細胞や免疫細胞でNFAT5が阻害されると、これらの細胞の浸透圧トスレスに対する感受性が大きく高まることが示されている。NFAT5を欠くマウスでは、腎髄質で大規模な細胞喪失がみられる[9]。さらに、目でドミナントネガティブ型のNFAT5を発現しているマウスは細胞外が高浸透圧の環境下での生存が低下する[10]。
構造
NFATファミリーは、NFATc1、NFATc2、NFATc3、NFATc4、NFAT5の5つのメンバーからなる。このファミリーのタンパク質は体中のほぼすべての組織で発現しており、サイトカイン発現の転写調節因子として知られる。その中でも、NFAT5は高浸透圧ストレス応答系の重要な構成要素である[8]。NFAT5のcDNAは、ヒト脳cDNAライブラリから初めて単離された。その後の解析により、NFAT5はRelファミリーのメンバーであることが明らかにされた。このファミリーには、NF-κBやNFATタンパク質が含まれる。他のRelタンパク質と同様、NFAT5には保存されたDNA結合ドメインであるRel相同ドメイン(RHD)を持つ。RHDを除くと、NFAT5とNF-κBや他のNFATタンパク質との類似性は見られない。他の差異としてはカルシニューリンのドッキング部位が存在しないことが挙げられ、この部位は他のNFATタンパク質の核内輸送に必要である[11]。その代わりにNFAT5は常に核内に存在し、その活性と局在はカルシニューリンを介した脱リン酸化には依存していない[8][11]。
活性化機構

細胞が浸透圧ストレスを検知する正確な機構は不明であるが、浸透圧ストレスによって、細胞膜付近に局在するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であるBrxが細胞骨格構造の変化を介して活性化されることが示唆されている。また、Brxは細胞膜に位置する浸透圧センサー分子との相互作用の変化によって活性化されている可能性もある[12]。Brxの活性化に伴って、BrxのGEFドメインはRhoファミリーGタンパク質を不活性なGDP結合型から活性型であるGTP結合型へ変換する。さらに、活性化されたBrxはp38 MAPK特異的足場タンパク質であるJIP4をリクルートして物理的に相互作用する。JIP4は下流のキナーゼであるMKK3とMKK6に結合する[13]。その後、この複合体はp38 MAPKを活性化する。p38 MAPKの活性化はCDC42とRAC1によって調節される。p38 MAPKの活性化はNFAT5の発現に必要な段階である[12]。
高浸透圧後のNFAT5の発現は、p38 MAPKに依存している。p38 MAPKの阻害剤の添加は、浸透圧ストレスシグナルが存在しない場合でも、NFAT5の発現の低下と相関している[9]。p38 MAPKのリン酸化による活性化はc-Fosとインターフェロン制御因子(IRF)を活性化すると考えられており、これらはそれぞれAP-1結合部位とISRES(interferon stimulated response element)に結合する。これらの部位への結合によって、標的遺伝子の転写が活性化される[12]。