三角関数

平面三角法における、角の大きさと線分の長さの関係を記述する関数の族および、それらを拡張して得られる関数の総称 From Wikipedia, the free encyclopedia

三角関数(さんかくかんすう、: trigonometric function)とは、角度の大きさと線分の長さの関係を記述する関数の総称である。初等幾何では直角三角形の辺の比として導入されるが、現代数学では単位円上の座標、微分方程式の解、複素指数関数による表示を通じて理解される。通常は正弦、余弦、正接、余接、正割、余割の6つを指す。[1]

単位円による、6つの三角関数が表す長さ。
     正弦 sin     余弦 cos
     正接 tan     余接 cot
     正割 sec     余割 csc (cosec)

三角関数は周期関数であり、多数の恒等式を満たす。また、その導関数が再び三角関数で表されることから、解析学複素解析微分方程式フーリエ解析物理学工学などの広い範囲で基本的役割を果たす。[2]

定義

直角三角形によるもの

C を直角とする直角三角形ABC
    斜辺AB = h (hypotenuse)
    対辺BC = a (opposite side)
    底辺AC = b (adjacent side、隣辺)

直角三角形において、1つの鋭角の大きさが決まれば、三角形の内角の和が 180° であることから他の1つの鋭角の大きさも決まり、3辺の比も決まる。ゆえに、角度に対して辺比(三角比)の値を与える関数を考えることができる。

をもつ直角三角形において、斜辺の長さを 、対辺の長さを 、隣辺の長さを とすると、

と定義される。

さらに、

も定義される。

この定義は鋭角に対してのみ直接適用できるが、三角関数の幾何学的意味を理解するうえで基本的である。辺の長さの比は三角形の大きさによらず角度のみに依存し、これは相似によって正当化される。

単位円によるもの

6種類の三角関数、単位円、θ = 0.7ラジアンの角度に対する直線の図。直線の色が変わる点3点を考えたとき、1Sec(θ)Csc(θ)については原点から各点への線分の長さを表し、Sin(θ)Tan(θ)1 は各点のy成分を表す。Cos(θ)1Cot(θ)は各点の x 成分を表す。

三角関数を任意の実数角に拡張するには、単位円による定義が用いられる。座標平面において原点中心・半径1の円を考え、正の 軸から反時計回りに角 をとったとき、対応する単位円上の点を

と定める。

この定義により、三角関数は負の角や を超える角に対しても意味をもち、周期性

や偶奇性

が自然に得られる。

また、単位円上の点が方程式

を満たすことから、

が従う。

級数によるもの

三角関数は冪級数によっても定義できる。代表的には、

である。

これらの級数は実数だけでなく複素数全体で収束し、正弦および余弦が整関数であることを示す。

微分方程式によるもの

三角関数は

の基本解としても特徴付けられる。すなわち、

を満たす解として正弦・余弦を定義することができる。

この見方では、正弦と余弦は単振動や波動現象の数学的記述に直接つながる。したがって三角関数は、幾何学的対象であると同時に解析学的対象でもある。

他の定義

オイラーの公式

を用いて三角関数を定義することもできる。これにより、

が得られる。[3]

性質

周期性

正円より得られる cosθsinθ
sinxcosx のグラフ。これらの関数の周期性が確認できる。
三角関数のグラフ: Sine(青実線)、 Cosine(緑実線)、 Tangent(赤実線)、 Cosecant(青点線)、 Secant(緑点線)、 Cotangent(赤点線

三角関数は周期性をもつ。

したがって、三角関数は回転や振動などの周期現象の記述に適している。

相互関係

基本相互関係

三角関数のもっとも基本的な恒等式は

であり、これは単位円の方程式に対応する。

これから

も導かれる。

また、

が成り立つ。

負角・余角・補角公式

三角関数には次のような公式がある。

また余角に関して

が成り立つ。

補角については

が成り立つ。

加法定理

三角関数の最も重要な公式の一群が加法定理である。

加法定理から、倍角公式、半角公式、積和公式、和積公式など多くの公式が導かれる。たとえば

が得られる。

証明

ピタゴラスの基本三角公式

単位円上の点 は円

上にあるから、

が従う。

負角

単位円の点の対称性から、角を反転させると 座標は不変、 座標は符号反転する。したがって、

が成り立つ。

加法定理

加法定理は、回転行列

の積、あるいはオイラーの公式から導くことができる。

不動点

三角関数の反復や方程式においては、不動点の概念が現れることがある。とくに のような方程式は初等関数では陽に解けないが、数値解析や反復法の典型例として知られる。

微積分

三角関数の微分公式は次の通りである。

したがって

であり、これらは単振動や波動現象の基本方程式

の解を与える。

基本積分は

である。

さらに、

が成り立つ。

sin x / x の x → 0 における極限

三角関数の微分公式や多くの極限計算において、

は基本的である。この極限は、幾何学的比較、挟み撃ちの定理、級数展開などによって示される。

テイラー展開との関係

正弦と余弦のテイラー展開は、三角関数を局所的に多項式で近似する基本手段であり、数値計算や解析学において重要である。これにより、たとえば

が得られる。

無限乗積展開

三角関数は無限乗積としても表される。たとえば正弦関数について

が成り立つ。

この展開は、正弦関数の零点が )に現れることと関係している。無限乗積展開は、複素関数論特殊関数論において重要な役割を果たす。

部分分数展開

三角関数やその商は、複素解析の立場から部分分数展開をもつ。たとえば正接関数や余接関数の展開は、極の位置と留数に基づいて表現される。これは複素関数論、特殊関数論、フーリエ解析などと深く関係する。

たとえば、余接関数には

のような部分分数展開がある。これらの公式は、級数評価やゼータ関数論にも応用される。

逆三角関数

三角関数は周期関数であるため、実数全体では逆関数をもたない。しかし各関数を適当な区間に制限すると、逆関数として逆三角関数が定義される。代表的なものは、逆正弦関数 、逆余弦関数 、逆正接関数 である。

逆三角関数は、三角関数値から角度を復元するために用いられるほか、初等積分の結果としても頻繁に現れる。

複素関数として

複素数全体でみると、正弦と余弦は整関数であり、

と表される。これにより、三角関数の多くの公式は複素指数関数の性質から統一的に導くことができる。[4]

正接、余接、正割、余割は複素平面上で有理型関数となる。たとえば正接関数は

により定義され、 となる点に単純極をもつ。

零点と極

正弦関数の零点は )であり、余弦関数の零点は に現れる。正接関数および余接関数は、それぞれこれらの零点に対応して極をもつ。こうした零点と極の構造は、無限乗積展開や部分分数展開と密接に結び付いている。

球面三角法

三角関数は球面三角法とも深く関係する。球面上の三角形では平面三角法とは異なる公式が成り立つが、正弦、余弦、正接といった関数は引き続き中心的役割を果たす。球面三角法は天文学、測地学、航法などに応用される。[5]

語源

三角関数は歴史的には三角法から派生した。古代ギリシアでは弦の表が用いられ、インド数学では半弦に相当する概念が発展し、これが後の正弦につながった。イスラム圏では正弦、余弦、正接などの体系化が進み、中世以降ヨーロッパへ伝わって近代解析学の形成に組み込まれた。[6]

応用

幾何学・測量

三角関数は、三角形の辺と角の関係を記述するため、測量、建築、土木、機械設計などで用いられる。与えられた角と辺から未知の長さを求める際の基本道具である。[7]

物理学

単振動、波動、回転、交流、光学などの周期現象の記述には三角関数が不可欠である。たとえば単振動は

のように表される。

工学・情報科学

信号処理、通信、制御工学、コンピュータグラフィックス、ロボティクスでは、三角関数は角度、位相、回転、振動の記述に用いられる。離散フーリエ変換や高速フーリエ変換も、三角関数または複素指数関数に基づいている。

関連項目

脚注

参考文献

外部リンク

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