アオコ

藍藻が大量に増殖し、湖面を覆い尽くす状態、またその藻類 From Wikipedia, the free encyclopedia

アオコ青粉)とは、富栄養化が進んだ湖沼等において藍藻シアノバクテリア)が大量に増殖し[1]、水面を覆い尽くすほどになった状態、およびその藻類を指す。水面の藻類が青い粉をまいたような様相を呈することから「青粉(あおこ)」の名がある[2]

アオコが大発生した津久井湖

概要

細胞内にガス胞と言われる浮き袋を持つ一部の藍藻類がマット状に集積した状態を指す[2][3]。これに似た現象としては、ミドリムシの大増殖や浮草の浮遊、緑藻の繁殖などが挙げられ、専門家でも見間違う場合がある[1]

狭義には、その中でも優占種となるミクロキスティス属(Microcystis属)によるものを指す[3]。一方、広義には濃い緑色を呈する水の華と呼ばれる現象一般を指すこともある[3]

アオコには独特の臭いがあり[1]、発生場所や季節によって緑色の程度が異なる[1]

湖沼や環境、季節によって、観察される種は変化する。以下はよく見られる属名。

藍藻
  • ミクロキスティス属 Microcystis
  • アナベナ属 Anabaena
  • アナベノプシス属 Anabaenopsis
緑藻

被害

アオコが発生すると様々な不都合が生じる。

人間社会においては、湖沼自体の利用障害となる(例えばをはじめとする養魚、淡水漁業、近隣の生活環境、親水観光産業など)ほか、取水源として利用する水道水の異臭・異味の原因となったり、さらには人や家畜への健康被害も懸念される[1]。2007年に中国の太湖でアオコが大発生した際には、住民の飲用水確保が大きな問題となった[1]。また、湖沼周辺の生態系など自然環境を損なうおそれも高い。

遮光によるもの
水面をアオコが覆うと、水草などの水生植物は光合成ができず死滅する[1]。水草の森は、魚類の産卵や稚魚の成育場所として重要であり、その消滅は生態系の破綻を招くおそれがある。
酸欠によるもの
夜間の呼吸作用により溶存酸素が消費され、魚類などの動物が酸素欠乏により死滅する。湖沼は河川に比べて酸素の供給効率が低く、新鮮水による洗い流し効果も無いため、酸欠を招きやすい。また、アオコの死骸が湖底で腐敗すると、硫化水素などの還元性物質が発生し、やはり酸素を消耗する。
毒素によるもの
藍藻には非リボソームペプチドであるミクロシスチン (Microcystin-LR、略:MC-LR)などの毒素を生産する個体群が含まれており[4]赤潮と同様に魚類のエラを閉塞させ窒息させるほか、毒素によりカモなどの鳥類(アイガモ)の肝臓組織に蓄積し斃死を引き起こす[5]ことがある。また、アメリカオーストラリアなど放牧が盛んな国では、飲用した家畜の斃死被害が多発している[1]。ヒトに対しても、1996年にブラジルで、肝不全による死者50名を出す事件が報告されている[6]ほか、発癌性(肝臓ガン)も指摘されている。

対策

浄水場での高度処理など各種の対策が研究・実用化されているが、アオコそのものを減少・消滅させるためには、湖沼の富栄養化を解消(特にリン濃度を低下)するなど根本的な対策が必要となる。すなわち下水処理における脱リン・脱窒素の高度処理の導入、流域農地での肥料使用量の適正化などである。

一方、対症療法的にアオコを増殖抑制或いは除去する技術の例(技術開発中を含む)として、

  1. 汲み上げ濾過(湖沼水を汲み上げ、アオコを漉し取って水を戻し、アオコは脱水、処分する)
  2. 深層曝気(アオコが植物であることを利用し、光の届かない湖底へ送り込んで不活化する。腐敗を抑えるため、曝気して行う)
  3. 硫酸銅などの殺藻剤の利用
  4. バクテリアを利用
  5. 炭素繊維[7]と鉄を使った除去装置。2011年に館林・つつじが岡公園で実証実験[8][9]
  6. 超音波によりアオコを破壊[10][11][12][13] 、2013年には実証試験が八郎湖で行われた[14][15]
  7. 超高圧水中衝撃波[16]

など様々あるが、低コストで実用的な手法は得られていない。

アオコ(藍藻ブルーム)の発生は、主に湖沼などの富栄養化(eutrophication)によって引き起こされる。 そのため、アオコの制御には「物理的」「化学的」対策に加えて、 生態系のバランスを回復させる生物学的手法(バイオマニピュレーションが重視されている。 以下は、アオコを抑制するための基本方針「増やすもの」「減らすもの」の一覧である。

増やすもの(藍藻を抑える働きを持つ生物・要素)

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区分 生物・要素 主な役割・効果
動物プランクトン ミジンコ類(Daphnia 属) 植物プランクトン(藍藻を含む)を捕食し、水質を自然に浄化する。世界的に重要な「藍藻制御生物」。
ろ過生物 二枚貝類(ドブガイイシガイ類など) 水中の藍藻や懸濁物をろ過除去し、透明度を向上させる。
肉食魚類(捕食者) カワメバルカワカマスナマズ コイフナなどのプランクトン食魚を抑制 → ミジンコ類が増加 → 藍藻が減少(トロフィック・カスケード効果)。
水草類(沈水植物) コウホネNuphar lutea)、シャジクモChara globularis)など 栄養塩(リン・窒素)を吸収し、光環境を改善。底質を安定化し、藍藻ブルームを根本的に抑制する。
微好気環境 曝気・循環装置など 底層の嫌気化を防ぎ、底泥からのリン再溶出(内部負荷)を抑制する。
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減らすもの(藍藻を増やす要因)

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区分 要因・生物 主な影響
栄養塩(リン・窒素) 生活排水、農業排水、底泥由来の内部負荷 藍藻の「エサ」となり、ブルーム(大量発生)の直接的原因となる。
コイ科魚類(底生魚・プランクトン食魚) コイフナなど 底泥を攪乱し濁りを生じさせる。リンの再溶出とミジンコ類の減少を招く。
濁り・底泥の浮遊物 攪乱や波浪による光の遮断 水草の光合成を妨げ、沈水植物群落が衰退。藍藻優占の「濁った状態」へ遷移する。
過剰な有機物負荷 餌・肥料投入、枯死した藻類の堆積 分解過程で酸素を消費し、底層の無酸素化を促進。リン再溶出の原因となる。
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総合的な考え方

増やすべきは ― 自然のろ過者(ミジンコ・貝・水草)と、そのバランスを保つ捕食者。
減らすべきは ― 栄養塩と、それを攪乱・拡散させる魚(コイ類)。

この二方向の調整がそろうことで、 湖沼は濁った状態(turbid state)から澄んだ水状態(clear-water state)へと安定的に遷移する。

これらはヨーロッパ諸国(特にオランダ・フィンランド)の湖沼再生事例において実証されており、 バイオマニピュレーションの基本原理として国際的にも知られている。

アオコの根本対策(根本的な富栄養化対策)

アオコの根本対策(英: Fundamental Measures against Cyanobacterial Bloom)とは、湖沼や貯水池におけるアオコ(藍藻ブルーム)発生の原因となる富栄養化を抑制し、長期的に水質を改善・安定化させるための包括的手法である。 これらの対策は大きく分けて、外部負荷の削減・内部負荷の抑制・生態系バランスの再生・維持管理の4段階で構成され、順序を誤ると効果が得られないとされる。

段階的アプローチ(優先度順)

さらに見る 段階, 対策名 ...
段階対策名主な内容目的・効果優先度
① 外部負荷の削減(栄養塩流入のカット)
  • 農業排水・生活排水の処理強化
  • 無リン洗剤の使用
  • 流入水路への沈砂池設置
湖外から流入するリン・窒素を減らし、藍藻の「栄養源」を断つ アオコの発生原因を根本的に除去する。最も基本的かつ必須の段階。 🔴 最優先
② 内部負荷の抑制(底泥対策)
  • 浚渫(しゅんせつ)による底泥除去
  • 酸化鉄・ゼオライトの散布
  • 曝気・循環装置による嫌気状態の防止
底泥から再溶出するリンを抑制し、栄養塩の再供給を防ぐ 富栄養化の再発防止と底質改善に効果がある。 🟠 次に重要
③ 生態系バランスの再生(バイオマニピュレーション 食物連鎖を利用し、藻類をトップダウン制御で自然抑制する 水の透明度を高め、安定した生態系を再構築する。 🟢 第三段階
④ 維持管理・モニタリング
  • 水質モニタリング(リン・窒素・透明度)
  • 魚類・植生の定期的管理
対策後の生態系を監視し、再富栄養化を防止 長期的な安定性の確保とフィードバック管理を行う。 ⚪ 補完段階
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対策の流れ

以下のような順序で進めることが推奨されている:

外部負荷の削減
  ↓
内部負荷の抑制
  ↓
生態系バランスの再生
  ↓
モニタリング・維持管理

この順序を誤ると、たとえば捕食魚を導入しても外部からの栄養塩流入が続けばアオコは再発するなど、対策の効果が持続しないことが知られている。

藍藻を抑制する生物

藍藻(シアノバクテリア)は厚い粘質の殻(粘液鞘)で覆われており、多くの動物プランクトンにとって摂食が困難な構造をもつ。 しかし、一部の生物群はこれを捕食または間接的に抑制する能力を備えている。

ミジンコ類(Daphnia 属)

大型のミジンコ類は、藍藻を摂取できる数少ないプランクトンであり、「藍藻抑制生物」として世界的に注目されている。 強力な濾過摂食能力によって水中の植物プランクトン量を減少させ、水の透明度を著しく改善する。 この作用はバイオマニピュレーション(生物操作)における中心的なメカニズムのひとつである。

多くの藍藻は防御的な粘質鞘によって捕食を免れているが、 それでも大型ミジンコ類(Daphnia 属)を中心とするろ過摂食者群が、 藍藻の増殖抑制と湖沼の水質改善において最も重要な役割を担っている。

藍藻を間接的に抑制する生物

これらの生物は藍藻(シアノバクテリア)そのものを捕食するわけではないが、 生態系構造や環境条件を変化させることで、藍藻が繁殖しにくい状態を作り出す。 その作用は主に「捕食関係」「植生」「ろ過作用」の3つの経路で生じる。

● 肉食魚類(カワカマス、カワメバル、ナマズなど)

捕食者を導入して、動物プランクトン食魚(コイ・フナ・モツゴなど)の個体数を抑制する。 その結果、これら魚類に捕食されていたミジンコ類などの動物プランクトンが増加し、 植物プランクトン(藍藻を含む)の過剰繁殖を抑えるというトロフィック・カスケード効果を引き起こす。 この構造は、湖沼の透明度回復におけるトップダウン制御の中核をなす。

● 水草(沈水植物・マクロファイト)

沈水植物は、栄養塩(リン・窒素)を吸収し、光透過性を高め、底質の安定化を促す。 これにより、藍藻の増殖を支える環境条件(富栄養・濁り・嫌気化)を根本的に改善し、 アオコの発生を抑える「自然のフィルター」として機能する。

● 二枚貝類(ドブガイ・イシガイ類など)

強力なろ過摂食能力によって、水中の藍藻や懸濁物を物理的に除去し、透明度を改善する。 また、沈降によるリン・窒素の固定化を促進し、内部負荷(internal loading)を軽減する効果も持つ。 強力なろ過摂食能力を持ち、水中の懸濁物や藍藻を物理的に除去する。 これにより透明度の向上や栄養塩の再沈降が促され、富栄養化の抑制に寄与する。

● 巻貝類(Lymnaea, Radix など)

池や湖の底質・付着面に生育する藻類を舐めとる過程で、藍藻を含む微細藻類を摂取する。 これにより付着藻の構成を維持し、底生生態系のバランスを安定化させる。

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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