アオサ

アオサ目アオサ科の緑藻の属 From Wikipedia, the free encyclopedia

アオサ(石蓴[7])は、緑藻アオサ目アオサ科アオサ属(学名: Ulva)に分類される藻類のうち膜状になる種(図1)の総称であるが[注 1]、アオサ属全体に対する総称ともされ、さらにアオサ科やアオサ目など広い意味で用いられることもある[9]。アオサ属に分類される藻類は、2細胞層の膜状または1細胞層の管状の体をもち、後者はアオノリともよばれ、20世紀まではアオノリ属(Enteromorpha)として分けられていた。同形同大の配偶体胞子体の間で世代交代を行う。多くは海岸に生育する海藻であり、潮間帯の岩などに付着しているが、海中を浮遊して生きるものもいる。このような浮遊性アオサが大増殖することがあり、「緑潮(グリーンタイド)」と呼ばれる。アオサ属に分類されるいくつかの種(アナアオサスジアオノリなど)は、食用とされることがある。属名である Ulva の語源については諸説あるが、古代ローマプリニウスウェルギリウスが湿地に生える植物の名に用いた語に由来するとする説が最も有力である[1]

概要 アオサ属, 分類 ...
アオサ属
1. Ulva rigida
分類
: 植物界 Plantae (アーケプラスチダ Archaeplastida)
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
: 緑藻植物門 Chlorophyta
: アオサ藻綱 Ulvophyceae
: アオサ目 Ulvales
: アオサ科 Ulvaceae
: アオサ属 Ulva
学名
Ulva Linnaeus, 1753[1]
タイプ種
リボンアオサ Ulva lactuca Linnaeus, 1753[1]
シノニム
和名
アオサ属、アオサ、シンワカメ(新若布)[2]、バンドウアオ(坂東青)[3]、ニガアオサ(苦石蓴)[4]、チサノリ(萵苣海苔)[5]
英名
sea lettuce[6], green laver[6]
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アオサ属

アオサ属は、アオサ藻綱アオサ目アオサ科に分類される。19世紀以降、ふつうアオサ属(Ulva)には2細胞層の膜状のが分類され、これに類似するが1細胞層の管状の種はアオノリ属Enteromorpha)に分類されていた[10]。「アオサ」とよばれた場合は、この旧義のアオサ属を指すことも多いが[6][7]、アオノリ類を含む広い意味でアオサ類とよぶこともある[9]。21世紀になると、アオサ属とアオノリ属は系統的に分けられないことが明らかとなり、分類学的にはアオサ属にまとめられた[11][12]

特徴

藻体は基本的に1細胞層からなる管状体であるが、これがそのまま成長するもの(アオノリ属に分類されていた種; 図2b, c)と、押しつぶされたように密着して2細胞層の膜状体になるもの(狭義のアオサ属に分類されていた種; 図1, 2a)がいる[1][10]。中間的なものも存在し、ウスバアオノリUlva linza)では基部が管状だが上部が膜状になっている[10][13][14]。膜状になるものでは外形は多様であり、不規則に裂けたり穿孔が形成されたり、網目状になるものもおり、また縁辺に微小な歯状突起をもつものもいる[1]。管状に成長するものでは、分枝することも多い[10](図2c)。特定の分裂細胞はもたず、分散成長(基本的にすべての細胞が分裂する)をする[1]。藻体基部から仮根細胞が生じ、基質に付着している[1]細胞はふつう単核性(は1個)であるが、仮根細胞は多核であることが多い[1]葉緑体は1個、側膜性、ピレノイドを1個から数個もつ[1]染色体数は n = 5–13 が報告されているが、10 であることが多い[1]

2a. 膜状のアオサ属(狭義のアオサ)
2b. 管状のアオサ属(アオノリ
2c. 管状のアオサ属の模式図

生活環は、同形同大で単相染色体を1セットのみもつ)の配偶体複相(染色体を2セットもつ)の胞子体の間で同形世代交代を行う[1][15]。配偶体は2本鞭毛性の配偶子を形成し、ふつう異形配偶子であるが、ときに同形配偶子[1]。配偶子が単為発生することもある[1][15]接合子は胞子体へと発生し、胞子体は減数分裂によって4本鞭毛性の遊走子を形成、遊走子は配偶体へと発生する[1][15]。胞子体が、遊走子によって再び胞子体を形成することもある[1][15]。特定の生殖細胞はもたず、仮根細胞など一部を除いてすべての細胞が配偶子嚢または遊走子嚢になり、細部壁に形成された孔から配偶子または遊走子が放出される[1][15]。配偶子は正の走光性、動接合子は負の走光性を示し、遊走子は正の走光性から負の走光性へ変化する[1]。接合子や遊走子は、ふつう発芽すると糸状体を形成し、これが垂層分裂を繰り返して多列糸状体となり、これが管状体へと成長する[1][15]アオノリ属に分類されていた種ではこれがそのまま成長するが、狭義のアオサ属とされていた種では管状体が扁圧されて2層の膜状体になる[1][15]。また、藻体の断片化や、残った基部からの新個体の発生などによって、無性生殖を行う[1]

生態

世界中の沿岸域の潮間帯河口に広く分布している[1](図3)。ふつう岩など基質に付着しているが、基質から離れて浮遊しながら成長することもある。このような浮遊アオサの中には大増殖するものもあり、この現象は緑潮(グリーンタイド green tide)と呼ばれる(下記参照)。

3a. 海中のアオサ群落(フランス
3b. 潮間帯のアオサ属藻類(スペイン

分類

アオサ属は、アオサ藻綱アオサ目アオサ科に分類される。21世紀初頭までは、2細胞層の膜状体のものと1細胞層の管状体のものは、それぞれアオサ属(Ulva)とアオノリ属Enteromorpha)に分けられていた[10]。しかし形態的に中間的なものもあり[13][14]、また系統的にも分けられないことが明らかとなり、2025年現在ではアオサ属にまとめられている[12][11]

アオサ属の中で、光合成色素としてシフォナキサンチンをもつもの(ヤブレグサウシュクアオサなど)は系統的にもやや異なることが示され、ヤブレグサ属(Umbraulva)として分けられた[9]。また、ヤブレグサ属に分類されていたボニンアオノリは、2020年に新属ボニンアオノリ属(Ryuguphycus)に移すことが提唱されている[16]

2025年時点でアオサ属には100種ほどが知られている[1]。アオサ属の種は、形、大きさ、縁辺の歯状突起の有無、厚さ、細胞の大きさ、ピレノイド数などの形態形質、および分子形質によって分類されている[1]。ただし、環境条件などによって形態形質は大きな種内変異を示す[1]。日本からは、以下に記した30種ほどが報告されている[12]

表1. アオサ属の日本産種[1][12]

人間との関わり

食用

概要 100 gあたりの栄養価, エネルギー ...
藻類/あおさ/素干し
100 gあたりの栄養価
エネルギー 840 kJ (200 kcal)
41.7 g
食物繊維 29.1 g
0.6 g
22.1 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(28%)
220 µg
(23%)
2500 µg
チアミン (B1)
(6%)
0.07 mg
リボフラビン (B2)
(40%)
0.48 mg
ナイアシン (B3)
(67%)
10 mg
パントテン酸 (B5)
(9%)
0.44 mg
ビタミンB6
(7%)
0.09 mg
葉酸 (B9)
(45%)
180 µg
ビタミンB12
(1550%)
37.2 µg
ビタミンC
(30%)
25 mg
ビタミンE
(7%)
1.1 mg
ビタミンK
(5%)
5 µg
ミネラル
ナトリウム
(260%)
3900 mg
カリウム
(68%)
3200 mg
カルシウム
(49%)
490 mg
マグネシウム
(901%)
3200 mg
リン
(23%)
160 mg
鉄分
(41%)
5.3 mg
亜鉛
(13%)
1.2 mg
(40%)
0.8 mg
マンガン
(810%)
17 mg
セレン
(11%)
8 µg
他の成分
水分 16.9 g
ヨウ素 2200 µg
クロム 160 µg
モリブデン 23 µg
食塩相当量 9.9 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。
出典: 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年”. 文部科学省 (2023年). 2025年12月30日閲覧。
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アオサ属の中では、アナアオサミナミアオサなど膜状になる種(旧義のアオサ属)の他にスジアオノリウスバアオノリなど管状になる種(旧義のアオノリ属)が食用として利用されるが、ここでは前者のみを解説する。後者についてはアオノリを参照のこと。

「あおさ」や「あおさのり」の名で食材に利用される海藻の多くはアオサ目アオサ属の藻類ではなく、ヒビミドロ目ヒトエグサである[17][18][19][20](図4a)。また沖縄で「アーサー」や「アーサ」とよばれているものも、アオサ属ではなく、ヒトエグサである[17]。狭義のアオサ(アオサ属の中で2細胞層の膜状体となるもの)は、アオノリ(アオサ属の中で管状体となるもの)と同様に焼きそばお好み焼きたこ焼き煎餅などに使う「青のり」のふりかけの原料とされることがある[21][20](図4b)。青のり業界ではアオサ製品を「坂東粉(ばんどうこ、ばんどこ)」と呼び、アオノリ製品と区別しており、比較的安価である[22]

4a. 「アオサの味噌汁」はアオサではなくヒトエグサを用いている。
4b. アオサのふりかけは、インスタント食品に利用されていることがある。

アオサはアオノリの代用品として利用され始めた[17][23]。当初は普遍種であるアナアオサUlva australis = Ulva pertusa)が使われていたが、アナアオサは藻体が厚く苦味が強いため、利用はあまり進まなかった[17]。しかしその後、藻体が薄くて食用に適したミナミアオサUlva ohnoi)を利用するようになったと考えられており、1970年代ごろから大量に利用されるようになった[17]

日本においてアオサの年間収穫量は約1,000トン(乾燥重量)であり、愛知県三河湾が7割ほどを占め、岡山県徳島県でも収穫されている(2010年ごろ)[17]アオノリヒトエグサとは異なり養殖されておらず、天然資源の収穫が行われている[17]。アオサは自由に輸入できる自由化品目(AA品目)であり、中国、韓国から輸入されており、その量は定かではないが、1,000トン程度であるとされる(2010年ごろ)[17][24]。それに対してアオノリヒトエグサは自由に輸入できない輸入割り当て品目(IQ品目)に指定されている[17]

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』には「あおさ<石蓴>の素干し」(09001)が掲載されており(表)、アナアオサが主に食用とされるとなっている[25](ただし、上記のように実際にはミナミアオサが主ともされる[17])。この食品標準成分表の成分値は、藻体を水洗いし、天日で乾燥したものおよび市販品とされ[25]ワカメ青のり同様に、マグネシウムなどのミネラルが豊富な海藻食品であるとされる[26]。なお、『日本食品標準成分表』では「あおのり<青海苔>の素干し」は別項目とされ(09002)、スジアオノリを主体としてウスバアオノリを混ぜたものとしている[25]

その他の利用

ウニの人工飼育において、飼料用に不稔性のアオサを利用することがある。不稔アオサは成熟せず成長を続けるので飼料に適している[9]

下記のように、アオサ属の藻類の大量繁殖(緑潮)を利用したさまざまな研究が行われている。緑潮のアオサを回収し、塩類除去や乳酸発酵などの工程を経て、魚介類ニワトリの飼料としたり、堆肥として用いる試みが各地で行われており、このような海藻の飼肥料化はマリンサイレージとよばれる[9]。中国では1日で10,000トンが処理できる肥料生産ラインが建設されている[27]

また、回収したアオサを発酵させてメタンガスを発生させ、バイオマスエネルギーとして利用しようとする取り組みが行なわれており、発生したメタンガスは燃料として、あるいは発電用燃料としての利用が考えられている[28]超臨界水によってガス化する取り組みもある[29]。ただしコスト面などの理由で実用化には至っていない。

緑潮

沿岸域で浮遊性のアオサ属藻類が大量繁殖することがあり、この現象は緑潮グリーンタイド green tide)とよばれる[30](図5)。特に黄海沿岸では大規模な緑潮が発生し、2008年北京オリンピックセーリング会場であった青島で発生した緑潮は 600 km2に拡がり、回収量は100万トンに達したという[31]。黄海では4月ごろに江蘇省沿岸で発生し、風と表層流によって北東に拡がり、7月下旬に消失する[27]。緑潮は世界各地で起こっており、グアム島ハワイ北米太平洋岸・大西洋岸、カリブ海ベネズエラブラジルヨーロッパ地中海セネガル南アフリカタンザニアインドオーストラリアニュージーランドでも報告されている[27]。日本でも、東京湾三河湾瀬戸内海四国九州などで発生が確認されている[30][32]

5a. 青島中国)の緑潮
5b. フィニステール県北部(フランス)の緑潮
5c. 漂着したアオサ(Ulva lactuca

緑潮の発生による悪影響として、景観の悪化、海水浴や潮干狩りなど人間活動の阻害、海藻の腐敗に伴う悪臭、アサリなどの貝類の死滅などがあり、各自治体が除去・廃棄を行なっている[27][30][33][34]山東省では、2009年の緑潮によって約1億ドルの直接的な経済損失があったと試算されている[27]。2008年以来(2024年当時)、青島では計3,561万トンの緑潮を回収し、2億ドル以上が使われたとされる[27]

日本における浮遊アオサの存在とその問題化の可能性は岡村 (1921) によって指摘されていたが、1970年代には富栄養化が進んだ東京湾三河湾瀬戸内海などで緑潮が報告されるようになった[33]。緑潮を形成するアオサ属の種は地域によって異なり、フランスでは Ulva lacinulata(= Ulva armoricana)、中国ではスジアオノリ(Ulva prolifera)が報告されており、日本では春から夏にはアナアオサ(Ulva australis = Ulva pertusa)、秋から冬にかけてはミナミアオサ(Ulva ohnoi)が優占することが多い[27][30][31]

緑潮の主要な原因は、沿岸域の富栄養化とされる[9][27]。緑潮は一般的に閉鎖型または半閉鎖型の沿岸域で発生し、これは栄養塩が短期的に拡散されることがないためであると考えられている[27]。ただし、直接的には富栄養化と関連していないと考えられる例もある[30]。また、埋め立て等による潮流の変化やアマモ場(海草群落)の消失が原因となる可能性も指摘されている[9]

上記のように緑潮の原因は富栄養化にあると考えられており、海水中の窒素リンを効率よく吸収するため、海水を浄化している[31]。緑潮に対する制御方法として、生物学的アプローチ(殺藻化学物質を分泌する細菌や海藻の利用)、物理的アプローチ(障壁、水柱混合、ろ過、凝集、浚渫、超音波による溶解)、および化学的アプローチ(殺藻化合物、界面活性剤、アレロケミカル、金属化合物)などが研究されているが、いずれも費用がかかりアオサ類に対する特異性がないため、効果は低い[27]。一方で回収した藻体のバイオマス資源としての利用も検討されており、メタンガスメタノールプラスチック飼料肥料などへの利用が研究されている[31][27][9]。また、硝酸塩排水や重金属排水の処理への応用も検討されている[27]。実用化されているのは肥料への利用であり、中国では1日で10,000トンが処理できる肥料生産ラインが建設されている[27]。日本では、海面の浮遊アオサを回収し(打ち上げられたものは洗浄が困難)、1.8–2.0トンの「青のり粉」が生産されていた(2000年ごろ)[33]

脚注

関連項目

外部リンク

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