カワノリ

カワノリ科の緑藻 From Wikipedia, the free encyclopedia

カワノリ(川苔[3]、川海苔[4]学名: Eaprasiola japonica または Prasiola japonica)は、トレボウクシア藻綱カワノリ目カワノリ科に分類される淡水性の大型緑藻の1種である。藻体は長さ 1–20 cm(図1)、緑色の薄い膜状で1細胞層からなり、各細胞は星状の葉緑体を1個含む。不動胞子などによる無性生殖を行い、卵と精子による有性生殖も知られている。東アジアの清冽な渓流域に生育する。食用とされ、しばしば産地名を冠して大谷川苔、多摩川苔、桐生川苔、芝川苔、菊池川苔などとよばれる。

概要 カワノリ, 分類 ...
カワノリ
1. 藻体
分類
: 植物界 Plantae (アーケプラスチダ Archaeplastida)
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
: 緑藻植物門 Chlorophyta
: トレボウクシア藻綱 Trebouxiophyceae
: カワノリ目 Prasiolales
: カワノリ科 Prasiolaceae
: Eaprasiola
: カワノリ E. japonica
学名
Eaprasiola japonicaR.Yatabe) Heesch, Guiry & Rindi, 2025[1]
シノニム
  • Prasiola japonica R.Yatabe, 1891[1]
  • Prasiola formosana var. coreana Okada, 1939[2]
  • Prasiola yunnanica C.C.Jao, 1947}[2]
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特徴

藻体は1層の細胞層からなる薄い膜状であり、鮮緑色、形は笹葉形や長楕円形、卵形など多様であり、長さ 1–20 cm、縁はときに裂ける[2][5][6][7][8][9](図1)。基部にある小さな付着器で渓流中の岩などに付着している[6]。表面観では、細胞は2個ずつ組になり、2組4個の細胞がまとまって配置している[2][5][10]。細胞は直径 4–7 µm、1個のピレノイドを含む中軸性で星形の葉緑体が細胞中央に1個存在する[2][5][6]

細胞壁キシロマンナンを主成分とし、セルロースラムノースも含まれる[11]。紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸を含む[7]カンペステロールスティグマステロールβ-シトステロールコレステロールフィトールcis-7-ヘプタデセンパルミチン酸リノール酸を含む[12]

一年生であり、ふつう5–6月頃に萌発し始め、夏から秋が最盛期となり、12月から3月頃が凋落期となるが、産地によってかなり差がある[7][6]。若い藻体では、縁辺の細胞が不動胞子(単胞子)になって離脱し、これが新たな藻体へ成長して無性生殖を行う[6][7][9]。また、小乳頭突起や分離小葉片、分離した栄養細胞などによる無性生殖も知られている[6]雌雄同株であり、卵と精子による有性生殖も行う[6][9]。夏から冬にかけて藻体先端から下方へ、各細胞が雄性または雌性の配偶子嚢に分化し、それぞれまとまってモザイク状になる[6]。雄性配偶子嚢は色は淡く、64または128個の雄性配偶子(精子)を形成し、雌性配偶子嚢は濃緑色で16個の雌性配偶子(卵)を形成する[6]。精子は2本鞭毛性で眼点を欠く[6]。接合子は雄性配偶子に由来する鞭毛でしばらく遊泳した後に着生し、肥大成長してから第一分裂で減数分裂を行う[6]。発芽体は付着器が分化し、葉状部が形成される[6]。染色体数は n = 3[6]。このような無性・有性生殖様式であるにもかかわらず、流速の速い渓流で分布域が下流へ移動せず維持される機構は明らかではない[7]

分布

ネパール中国韓国日本から報告されている[1][13]

2. 東京都奥多摩町日原、川苔谷

日本では本州(関東以南)、四国、九州の河川に分布し、本州では太平洋に注ぐ河川のみと考えられていたが、日本海に注ぐ信濃川水系からも見つかっている[8][7]。日本では、以下の河川から報告されている(ただしその後見つかっていない場所もある)。これらの中には、移植によるとされるものもある[14]

生態

渓流に生育し、岩を越流する部分や段落の流れ落ちる部分、急流部にある岩の水際線などに着生している[15]。滝の落ち口の飛沫がかかる部分に見られることもある[15]。人工のコンクリート水路に生育していることもあり、水際線や水深が浅い場合は底面に着生している[15][14]

生育地の水温は11–14°Cほど[15]。ある程度の流量がある環境に生育し、流速 1.0–2.0 m/s の場所に多いが、3.0 m/s の環境にも生育する[15]。このような環境に生育することで、珪藻類や蘚苔類との競合を避けていると考えられている[15]。生育環境の DO(溶存酸素量)は 9.0–11.0 mg/L、pH は7.2–7.8、電気伝導率は 70–100 μS/cm であることが多い[15]。光環境としては、直射日光は当らないが暗すぎない場所に生育する[15]

保全状況評価

情報不足(DD)環境省レッドリスト

Status jenv DD.svg
Status jenv DD.svg

日本においてカワノリは減少しており、開発による河川水量の減少や河川攪乱の減少、護岸、河畔林の発達などが原因と考えられている[7][15]。第2次レッドリスト (1995) では準絶滅危惧 (NT)、第3レッドリスト (2007)、第4次レッドリスト (2012) では絶滅危惧II類(VU)とされていたが、第5次レッドリスト (2025) では情報不足(DD)に変更された[19]

また、2023年時点の各都道府県における、レッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を以下に示す[20]

利用

カワノリは、夏から秋に渓流の岩石上から採集され、抄いて天日乾燥されて濃緑色で板状の乾燥製品にされる[7][8]。晩秋の製品が色よく良品とされる[6]。伝統的に、この乾燥製品は一般的な板海苔(紅藻アマノリ製)よりも大判に仕上げられ、炭火などで炙って食される[7]。また、酢の物三杯酢)や吸い物佃煮として食されることもある[7]。甘味があって美味とされるが、野生品であり、大量に採集できるものではないため、貴重な高級品である[7]。養殖に関する研究も行われているが、実用化されていない[7][21]

カワノリの乾燥製品はタンパク質38.1%、脂質1.6%、炭水化物41.7%を含んでおり、ミネラル、ビタミン類、食物繊維が豊富で海苔(紅藻アマノリ製)と似ている[7]。薬用成分の研究も行われている[22]

板海苔状の乾燥製品はふつう産地の河川名を冠して呼称され、大谷川苔(だいやがわのり; 栃木県日光市大谷川)、桐生苔・高沢苔(群馬県桐生川)、多摩川苔(東京都秋川日原川)、桂川苔(山梨県桂川)、富士川苔(静岡県富士川)、芝川苔(静岡県富士宮市芝川)、円原苔(岐阜県武儀川)、青藍苔(徳島県那賀川)、山浦苔(大分県筑後川)、高千穂苔(宮崎県高千穂川)、菊池川苔(熊本県菊池川)などがある[7][8]

和名類聚抄』(平安時代中期)の17巻、菜蔬部第27、水菜類227、19丁裏2行目に「水苔弁色立成云水苔一名河苔[和名加波奈]」という記述があり、この「水苔(カワナ)」はカワノリではないかとされる[15]。もしこれがカワノリであれば、平安時代には食用として全国に広まっていたことになるが、カワノリは特定の河川の源流域のみに生育するものであることから、疑問視もされる[15]。河川源流域を全国的に渡り歩いていた木地師が伝えたとする説や、平家の一族が全国に伝えたとする説もある[15]

静岡県富士宮市芝川で採集される芝川苔については古くから伝承があり、鎌倉時代に身延山の日蓮聖人へ献上された記録があり、その後も江戸時代の幕府、明治・大正時代の皇室へ献上された[7][15]。また大分県竹田市荻町陽目地区のカワノリは藩主の食膳に提供されていた記録があり、また昭和初期には「陽目(ひなため)のカワノリ」が全国共進会に出品され上位入賞した[7]

カワノリと同様に河川に生育する食用藻類であるスイゼンジノリ藍藻)やアオノリ[注 1]緑藻アオサ藻綱)も「カワノリ」や「川海苔」と呼ばれることがあるが、生物としては全く異なる[7][24]

分類

カワノリは、1891年に矢田部良吉によって Prasiola japonica として記載された[2]。しかし、分子系統学的研究からカワノリ属(広義、Prasiola)が単系統群ではない(Prasiococcus が内群になる)ことが示されたため、2025年に広義の Prasiola を複数の属(PrasiolaMariprasiolaVittaprasiolaEaprasiola)に分割し、カワノリを Eaprasiola に移す(Eaprasiola japonica)ことが提唱されている[25]

カワノリは膜状の藻体をもつため、体制に基づく伝統的な分類体系では緑藻綱のヒビミドロ目やアオサ目に分類されていたが[5][20]、系統的にはアオサなどとは大きく異なることが明らかとなり、21世紀にはトレボウクシア藻綱カワノリ目に分類されるようになった[1]

脚注

外部リンク

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