グリセリン
アルコールの一種
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グリセリン(倔里設林[6]、虞利設林[6]、英: glycerine, glycerin)は、3価のアルコールの一種である。学術分野では20世紀以降グリセロール(英: glycerol)と呼ぶようになったが、医薬品としての名称を含め日常的にはいまだにグリセリンと呼ぶことが多い。食品添加物として、甘味料、保存料、保湿剤、増粘安定剤などの用途がある。虫歯の原因になりにくい。医薬品や化粧品には、保湿剤・潤滑剤として使われている。
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| 物質名 | |||
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別名
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| 識別情報 | |||
3D model (JSmol) |
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| ChEBI | |||
| ChEMBL | |||
| ChemSpider | |||
| DrugBank | |||
| ECHA InfoCard | 100.000.263 | ||
| E番号 | E422 (増粘剤、安定剤、乳化剤) | ||
IUPHAR/BPS |
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| KEGG | |||
PubChem CID |
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| UNII | |||
CompTox Dashboard (EPA) |
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| 性質 | |||
| C3H8O3 | |||
| モル質量 | 92.094 g·mol−1 | ||
| 外観 | 無色の吸湿性液体 | ||
| 匂い | 無臭 | ||
| 密度 | 1.261 g/cm3 | ||
| 融点 | 17.8 °C (64.0 °F; 290.9 K) | ||
| 沸点 | 290 °C (554 °F; 563 K)[2] | ||
| 混和性[3] | |||
| log POW | −2.32[4] | ||
| 蒸気圧 | 0.003 mmHg (0.40 Pa) at 50 °C[3] | ||
| 磁化率 | −57.06×10−6 cm3/mol | ||
| 屈折率 (nD) | 1.4746 | ||
| 粘度 | 1.412 Pa·s (20 °C)[5] | ||
| 薬理学 | |||
| A06AG04 (WHO) A06AX01 (WHO), QA16QA03 (WHO) | |||
| 危険性 | |||
| NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |||
| 引火点 | 160 °C (320 °F; 433 K) (closed cup) 176 °C (349 °F; 449 K) (open cup) | ||
| NIOSH(米国の健康曝露限度): | |||
PEL |
TWA 15 mg/m3 (total) TWA 5 mg/m3 (resp)[3] | ||
REL |
未設定[3] | ||
IDLH |
N.D.[3] | ||
性質
生産
グリセロールは年間100万トン以上生産されている。そのほとんどが大豆油や獣脂などの加水分解によっているが、プロピレンから化学合成することもできる。現在試みられることはないが、発酵法も知られている[7]。
油脂から
生物の油脂には大量のトリアシルグリセロール(トリグリセリド)が含まれている。これは脂肪酸とグリセリンのエステルであり、加水分解によりグリセリンと脂肪酸を生じる。例えば石鹸を生産する際に副産物として大量のグリセリンが得られる。
またバイオディーゼル燃料の主成分は脂肪酸メチルエステルであるが、これは触媒を用いた油脂とメタノールのエステル交換反応により得られ、その副産物がグリセリンである。
こうして得られたグリセリンには不純物が多く含まれている。石鹸生産の副産物の場合、活性炭や、アルカリ処理、イオン交換などによって精製を行い、蒸留によって高純度のグリセリンを得ることができる[7]。バイオディーゼル燃料生産の副産物の場合は不純物が非常に多い場合があり、単に焼却されることが多い[9]。
プロピレンから
プロピレンからエピクロロヒドリンを経由して合成するのが主であるが、ほかにもアクロレインや酸化プロピレンを経由する方法などが知られている。もっともバイオディーゼル燃料の普及にともないグリセリンは供給過剰になっており、こうした化学合成法はコスト的に見合わなくなっている。
生合成と代謝
グリセロールは生体内では中性脂肪、リン脂質、糖脂質などの骨格として存在しており、貯蔵した脂肪からエネルギーをつくる際に脂肪酸とグリセロールに分解される。生じたグリセロールはATPによって活性化されグリセロール3-リン酸となって再度脂質の合成に使われるか、さらにジヒドロキシアセトンリン酸を経て解糖系または糖新生に利用される。
アルコール発酵ではアセトアルデヒドが電子受容体となりエタノールが蓄積するが、このときジヒドロキシアセトンリン酸が電子受容体として働くとグリセロール3-リン酸が生じ、ついでグリセロールが生成する(グリセロール発酵)。たとえば培地がアルカリ性であったり、亜硫酸ナトリウムが添加されていたりすると、アセトアルデヒドが電子受容体として働くことができずグリセロール発酵が優勢となる。
刺激性
利用
化学原料としては、爆薬の成分や狭心症の薬となるニトログリセリンの原料として有名であるほか、有機合成で使うヨウ化アリルの原料である。
- 食品添加物
- 甘味料、保存料、保湿剤、増粘安定剤などの用途がある。甘味料としては虫歯の原因となりにくいことや、エリスリトールやキシリトールが持つ清涼感を打ち消す効果がある。砂糖より甘さが弱いにもかかわらず高カロリーである。
医薬品・生化学
グリセリンの坐剤 - 医薬品、化粧品には、保湿剤・潤滑剤として使われている。浣腸、咳止めシロップ、うがい薬、練り歯磨き、石鹸、ローションなど幅広い製品に利用されている。チンキの溶剤として、あるいは降圧剤としても使われている。実験室では、凍結保護剤として生物の凍結保存や、酵素の低温保存に用いられている。
- 機械工業など
- エチレングリコールやプロピレングリコールと同様に、不凍液を作るのに使われる。自動車用としては、より低温まで凍結しないエチレングリコールに取って代わられたが、エチレングリコールの毒性の強さから環境への悪影響を懸念してグリセリンを再評価する意見もある[12]。
- また材料内部の欠陥を検査する超音波探傷試験に於いて、水溶液が探傷機と材料の間に塗布する接触媒質としても用いられるが、吸湿しやすい性質などからマシン油などと比べて錆が発生しやすく使用には注意が必要である。
- 機械式圧力計では、ケーシングの内部空間にグリセリン水溶液を充填した製品が存在する。これはグリセリンの粘性抵抗によって機械的振動を抑制して、ギアや指針といった可動部が摩耗・破損することを防ぐためである。
反応
ギ酸と加熱するとエステル化を経て脱離が起こり、アリルアルコールを与える[13]。触媒としてα-酸化鉄(III)と金属カリウムを用いて623 Kで反応させたときの収率はおよそ40 %である[14]。
硫酸水素カリウムなどを作用させながら熱すると、脱水が起こりアクロレインに変わる[15]。酸触媒の存在下にアセトンと加熱すると、脱水して1,2位がイソプロピリデン基で保護された形の誘導体が得られる[16]。
赤リンと臭素とともに反応させると1,3位が臭素化された誘導体が得られ[17]、酢酸中で塩化水素を作用させると、その当量により1-モノクロロ体[18]もしくは1,3-ジクロロ体[19]が生成する。後者や1,3-ジブロモ体をアルカリと加熱することにより、エピクロロヒドリン[20][21]、エピブロモヒドリン[21]が得られる。
アニリン誘導体と酸化条件で縮合させるとキノリン骨格が構築できる[22][23]。この手法はスクラウプのキノリン合成と呼ばれる。
歴史
1779年にスウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレがオリーブ油加水分解物の中から発見[7]。1813年にミシェル=ウジェーヌ・シュヴルールが油脂が脂肪酸とグリセリンのエステルであることを見出し、甘味を持つことからギリシャ語のγλυκυς(glykys、甘い)にちなんでglycérineと命名[7]。1846年にアスカニオ・ソブレロによりニトログリセリンが発見され、1866年にアルフレッド・ノーベルが実用化に成功[7]。1872年、シャルル・フリーデルがイソプロピルアルコールからの合成に成功し、グリセロールという名を提案。
結晶化に纏わる都市伝説
生物学者ライアル・ワトソンの1979年の著書Lifetide(邦題『生命潮流』)にて書かれていた事実無根の逸話が、様々な引用・脚色を経て、同じくワトソンによって創作された「百匹目の猿現象」と共にシンクロニシティの代表的伝説となっている。
ワトソンによる逸話は以下のとおり[24]。
- グリセリンの発見から100年以上、どのようにしてもグリセリンの結晶化は起こらなかった。
- 20世紀初頭のある日、ウィーンからロンドンに運ばれる途中の一樽のグリセリンが偶然に結晶化した。
- この樽から小分けしたグリセリンを受け取った化学者の試料は18 °Cで固体になった。
- 熱力学に詳しいある二人の科学者もこのグリセリンを受け取って結晶化に成功すると、実験室の全グリセリンが密閉容器内のものを含めて自然に結晶化した。
- その後、グリセリンの結晶化は世界各地でありふれたものとなった。
しかし『生命潮流』で参考文献とされていた、カリフォルニア大のギブソンとジオークが書いた論文(1923年)には、グリセリン結晶を作る際のコツが記述されているのみである[8][25]。
- グリセリンは世界中の科学者がどのようにしても結晶化しなかった。
- ギブソンとジオークも、イギリスの偶然結晶化したグリセリンを入手した。
- グリセリン結晶が到着した後であったが、ギブソンとジオークは温度管理をすることで種結晶なしでも結晶を作ることができるということを発見した。
- グリセリンを −193 °Cに冷却後、1日以上の時間をかけてゆっくりと温度を上げ、17.8 °Cにすることで結晶化する。
要するに元来グリセリンは、種結晶がなくとも、上記の温度管理手順に従えば結晶化できるのである。なお、グリセリンではなくニトログリセリンにおいてこのような逸話が語られることもあるが、ニトログリセリンの場合は8 °Cで凍結し、14 °Cで融けるため無論事実ではない。(ニトログリセリン参照)





