コークス
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概要
粘結性のある石炭を高温で蒸し焼きにする乾留工程により、コールタールやピッチの他、石炭に含まれる硫黄化合物由来の硫酸、窒素化合物由来のアンモニア、炭化水素分の熱分解によるメタンやエチレン、低分子芳香族炭化水素(粗軽油として分離)が抜けていく[3]。硫黄化合物や窒素化合物の分解とともに、石炭に含まれる炭素を含む分子量の大きな成分が液状化して、投入された石炭が塊状に結合し化合物の分解と脱水・脱メタン・脱水素が進み、最終的に結晶化した炭素と灰分のみが残りコークスになる[4][5]。この工程を経ることで石炭に含まれる硫黄分が抜け、純度が高い炭素分が固く締まった塊状の固体となるため、高炉において還元性ガスの一酸化炭素及び燃焼ガスの通路のみならず溶けた銑鉄の通り道ともなるため、製鉄業には欠かせない存在である。またコークスは高火力の燃料として鋳物産業のキューポラやガラス製造等の燃料だけでなく、アセチレンガス源となるカーバイドの原料、炭素源として亜鉛製錬時の還元剤や人造黒鉛製造など多様な用途がある[6]。外見は石炭に似るが、多孔質であるため金属光沢は石炭に比して弱い。多孔質の外観は、乾留(1,300 ℃以上)の際に石炭中の揮発分が抜けてできるものであり、結果的に炭素の純度が高まり高温度の燃焼を可能とする。
一般的な収量は、瀝青炭程度の品位の石炭100に対し20程度(重量比)で、残部は副産物、灰(燃焼灰・灰分)となる。
乾留時にコークス炉ガスの他、タール(コールタール)・硫酸・アンモニア・芳香族炭化水素に富む軽油が副産品として得られる。これらはそれぞれに燃料や化学合成用原料として用途があり、コークス炉は古くから石炭化学工業の原料転換工程としても重要である。有効成分を含んだガスいわゆるコークス炉ガス (COG: Coke Oven Gas) はコークス焼成に再利用されるなどしている。古くは都市ガス製造のために石炭を乾留して石炭ガスを得ており、その副産物として低品位のコークス(ガスコークス)も得られたが、強度が低く製鉄業や鋳物業には向かなかった。
コークスには石油精製から作られるものもあり、石油コークスと呼ばれる。常圧蒸留残油や減圧蒸留残油、流動接触分解装置の残渣油などの重質油を、コーキングという熱分解処理を行った時の残渣である。石油コークスには、ディレードコーカーから採取されたそのままの生コークス (raw coke または green coke) 、生コークスを煆焼させ揮発分を除去した煆焼コークス (calcined coke) とがある。またコーキングの方法によってはフルード・コークス (fluid coke) と称する粉状で燃料に使用されるものも製造され、製油所の自家燃料として使用される[7]。
なお残渣油分解を主目的とする場合では脱硫処理は実施されないが、副生される石油コークスがなるべく少なくなるよう運転条件が設定され[8]、かつ副生した石油コークスには硫黄分や金属分が多く含まれるため、もっぱら製油所の所内燃料として使用される[8]。一方で石油コークスを得る目的での残渣油分解では製品である石油コークスに含まれる硫黄分や金属分等の混入は好ましくない。そのため原料油はなるべく低硫黄分のもので、バナジウム、ニッケルなどの重金属分も少ないことが望まれる。また、特に高硫黄残油ではコーキングの前処理として直接水素化脱硫装置にかけられ、脱硫および脱メタル(金属分の除去)が行われることもある。石油コークスの主な用途は燃料としての利用だが、石炭コークスに比べて金属分が低く抑えられ、かつ強度で勝るため、電気炉製鋼法で用いるアーク炉やアルミニウムの溶融塩電解炉などの黒鉛電極としての利用の他、リチウムイオン電池の負極材(人造黒鉛)としての利用も有望な用途である[8]。
主な用途
製鉄においての燃料が主な用途である。掘り出したばかりの石炭を投入すると含有する硫黄分が鉄の品質低下を招き、コールタールやピッチは高炉の高温燃焼を妨げる。また高炉において酸化鉄を還元する一酸化炭素や燃焼ガス、溶けた銑鉄の通路をコークスと焼結させた鉄鉱石との隙間が担うことから、高炉の燃料には必ずコークスが用いられる。石炭からコークスを乾留生成するコークス炉を併設している製鉄所が多い。
低品位石炭に鉄鉱石を配合した「フェロコークス」を、JFEスチール西日本製鉄所(広島県福山市)が2020年に量産開始を予定している。高炉内での還元反応を促進して、エネルギー消費や温暖化ガスである二酸化炭素の排出量を抑制する効果を見込んでいる[9]。
その他、冶金材料、鋳物・合金鉄用燃料、カーバイド工業の原料など化学工業における炭素源、アルミニウム精錬用等の人造黒鉛電極、研削材原料に使用される。活性炭(活性コークス)としてコークス炉ガスの精製に利用されることもある[10]。
燃料用としては、寒地での暖房、高圧ボイラー、また特に強い火力が好まれる中華料理やまる鍋(すっぽん鍋)の店舗で使われることでも知られる。中華料理店では屋内の厨房ではガスに取って代わられてしまったが、屋台・店頭などでは今でもコークス燃料のコンロが見受けられる。
家庭での燃焼環境では、大量の一酸化炭素が発生するために、一酸化炭素中毒を避けるため、換気が絶対必要である。1970年代頃までは、関東以北の小中学校の教室の多くでは、主にコークスを燃料としたダルマストーブが暖房器具として利用されていた。
また、日本の自治体のごみ焼却炉の補助燃料として、1980‐1990年頃にはコークスを使用(ごみ 1トンあたり50‐100 kg)していたことがあった。これはコークスの価格がネックとなり、1990年代半ば過ぎにはほとんどが都市ガスを燃料とするものに取って代わられた。2000年代以降、セルロースや可燃ごみの還元雰囲気燃焼で「バイオコークス」を生成し、燃料として外販するような試みもある[11][12]。
副産物
コークス炉ガスはCOGとも呼ばれる。原料炭100に対し、約40(重量比)が発生する[13]。主成分は一酸化炭素で、可燃性であるが有害である。
かつては都市ガスの成分となっていたが、その毒性から、2010年以降、日本国内の都市ガスとしては利用されていない。
代わって火力発電の燃料として利用され、製鉄所内の自家用発電用や、売電用として利用されている。なお、製鉄・製鋼所では高炉ガスも同様の用途に利用され、混合ガスとして利用される例もある[14]。
タール(コールタール)と軽油は、原料炭100に対し、約40(重量比)が発生する。
石油に比べると芳香族化合物(石炭酸に象徴される)を多く含むため、トルエン、ベンゼンなどの原料として使われてきた。製品呼称に「タール系」と付くものは、これらコールタールに由来する(した)ものである。タールを再度嫌気雰囲気で加熱して炭化したものをピッチコークスと呼ぶ。石炭コークスより炭素純度が高く結晶構造の制御が可能なことから、電炉の電極用炭素棒などに利用されている[15]。
