ジャガランディ
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ジャガランディ(学名:Herpailurus yagouaroundi)は、ネコ科に分類される哺乳類の一種。ヤガランデともいう[6]。アルゼンチン中部からメキシコ北部まで、中央アメリカとアンデス山脈東部の南アメリカに分布する。ネコ科の中では中型であり、体形は胴長である。体色には多型があり、灰色と茶色の個体が存在する。長い体、比較的短い四肢、小さく細い頭、小さく丸い耳、短い鼻口部、長い尾など、イタチ科のような特徴を持つ。体の大きさはイエネコの2倍ほどで、肩高は360mmほど、体重は3.5-7kgに達する。
| ジャガランディ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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| 保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
| LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| Herpailurus yagouaroundi (É. Geoffroy Saint-Hilaire, 1803)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
| シノニム[4][5] | ||||||||||||||||||||||||||||||
| 和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| ジャガランディ[6] ヤガランデ[6] | ||||||||||||||||||||||||||||||
| 英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| Jaguarundi[4] | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分布域[1] |
警戒心が強く、身を隠している。野生下では1-2匹で生活するが、飼育下では群れを作る傾向にある。同所的に生息するネコ科のオセロットとは異なり、ジャガランディは昼行性で、昼間と夕方に狩りを行う。行動圏は広く、まばらに分布している。木登りは得意だが、普通は地上で狩りを行う。地上で採餌している鳥類、爬虫類、齧歯類などの哺乳類といった、様々な獲物を捕食する。年間を通じて交尾を行い、繁殖の最盛期は生息域によって異なる。妊娠期間は70-75日で、1-4匹の幼獣を産む。寿命は飼育下で15年である。
熱帯雨林、落葉樹林、砂漠、低木林など、幅広い環境に生息する。ブラジル、ペルー、ベネズエラでは一般的に見られるが、アメリカ合衆国の個体群は絶滅している。国際自然保護連合のレッドリストでは低危険種に指定されているが、生息地の喪失や分断化、家禽を襲う害獣としての駆除により、多くの地域で個体数が減少している。
名称
種小名のyagouaroundiや一般名の「jaguarundi」は、グアラニー語で「褐色の(あるいは第4の)ネコ(ジャガー)」を意味する「yaguarundi」に由来し[4]、トゥピ語の「yawaum'di」に類する[7]。発音は[ˌʒæɡwəˈrʌndi][8][9]または[ˌdʒæɡwəˈrʌndi][10]である。スペイン語圏の国の一部では、gato colorado、gato moro、león breñero、leoncillo、tigrilloと呼ばれる[1]。ブラジルポルトガル語ではeyra、gato-mourisco、gato-preto、gato-vermelho、maracajá-pretoと呼ばれる[11][12]。Eyraは茶色系の個体を指す名称である。胴長な体型で、水場によく生息することから、「otter cat (カワウソネコ)」とも呼ばれる[13]。属名のHerpailurusは、ギリシャ語の「hérpō(這う、忍び寄る)」と「ailouros(ネコ)」の合成語で、狩りを行う際の習性に由来するという[14]。また、ラテン語の「herpa(奇妙な)」とギリシャ語の「ilurus(ネコ)」の合成語とする説もある[4]。
分類
1803年にエティエンヌ・ジョフロワ・サンティレールは、中央アメリカから得られた2匹の毛皮と頭蓋骨を基に、本種を Felis yagouarundi として記載した[15]。19世紀から20世紀にかけて、いくつかの標本が記載された[4]。
- Felis eyra はパラグアイから得られた茶色系の毛皮を基に、1914年にゴットヘルフ・フィッシャー・フォン・ヴァルトハイムによって記載された[16]。
- F. cacomitli は、メキシコのリオ・グランデ川流域から得られた雌の頭骨と灰色形の毛皮を基に、1859年にジャン=ルイ・ベルランディエによって記載された[17]。
- F. yagouaroundi tolteca はシナロア州から得られた頭骨と茶色系の毛皮を基に、オールドフィールド・トーマスによって記載された[18]。
- F. ameghinoi はサン・ルイス近郊から得られたジャガランディと思われる化石の骨を基に、1898年にEduardo Ladislao Holmbergによって記載された[19]。
- F. fossata はユカタン州から得られた大型の頭蓋骨を基に、1901年にエドガー・アレクサンダー・マーンズによって記載された[20]。
- F. panamensis はパナマのチリキ県から得られた若い雌の灰色系の毛皮を基に、1904年にジョエル・アサフ・アレンによって記載された[21]。
- F. yagouaroundi melantho はペルーのパスコ県から得られた雌雄の頭蓋骨と灰色系の毛皮を基に、1914年にOldfield Thomasによって記載された[22]。
ジャガランディ属 Herpailurus は、1858年にニコライ・セヴェルツォフによって設立された[23]。後に本種はピューマとともにピューマ属に分類された[5]。以前はいくつかの亜種に分けられていたが、生物系統地理学的分析によれば、本種に亜種は認められない[24]。2017年にはピューマ属から独立し、単型のジャガランディ属に戻された[25]。
系統と進化
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| Puma lineageと近縁種の系統[26] |
ジャガランディはピューマと最も近縁で、この2種を含む分岐群はチーターの姉妹群である[27]。これら3種は「Puma lineage(ピューマ属系統)」を構成し、これはネコ科の8つの系統の1つである。Puma lineageは約670万年前に他の系統から分岐した。Puma lineageの姉妹群は、ネコ属、マヌルネコ、ベンガルヤマネコ属といった旧世界の小型ネコ科動物を含む分岐群である[26]。
Puma lineage の3種の共通祖先は、約825万年前の中新世に存在した[28][29]。チーター属はアメリカ大陸で分岐し、再び旧世界に戻った可能性もあるが[30][31][32]、旧世界で独自に分岐したという見解もある[33][34]。
Puma lineageはベーリング海峡を通ってユーラシア大陸から北アメリカ大陸へ渡り、後期鮮新世または前期更新世までにパナマ地峡を通って南アメリカ大陸に進出した。その後約400-300万年前に、南アメリカでピューマ属とジャガランディ属が分岐したと考えられる。ジャガランディ属の絶滅種である H. pumoides は、ジャガランディの出現した中期更新世ごろに絶滅した。現生のジャガランディの最古の化石記録は、約50万年前の後期更新世のブラジルのものである。ピューマは元々北アメリカ大陸に生息していたが、約1万年前の第四紀の大量絶滅によって絶滅した。その後、約1万年前から8000年前には、南アメリカ大陸のピューマとジャガランディは再び北アメリカ大陸へと進出した[13][35][36]。絶滅したアメリカチーターもこの分岐群に含まれる[37]。
形態
ネコ科の中では中型の種である。体形は胴長で、体に模様はほとんど無い。同じ新大陸のネコ科動物であり、体に模様を持つ小型のオセロット属とは大きく異なる。オセロット属は染色体が36本だが、本種は38本であり、染色体の特徴は旧世界のベンガルヤマネコなどと似ている[38][39]。本種の形態的特徴はカワウソやイタチと似ており、細長い体と比較的短い四肢、小さく細い頭、小さく丸い耳、短い鼻口部、長い尾を持つ[13][38][40][41]。頭胴長は53-77cmである。尾は頑強かつ筋肉質で、長さは31-52cmである。体の大きさはイエネコの倍ほどあり、肩高36cm、体重5-7kgに達する。大型個体では体重9kgという記録もある[38][42]。雄は雌よりもわずかに大きい[13]。
毛の色は一様で、顔や腹にわずかな薄い模様が入る程度である。幼獣には短い期間斑模様がある。幼獣と一部の成獣では、ピューマのように唇と吻にはっきりと白い斑点が入る。体色には多型があり、二種類の色相が知られるが、中間的な個体も存在する。灰色系の個体の毛色は黒褐色から灰褐色だが、個々の毛には暗色と明色の輪があり、全体的には白い毛が混ざったように見える。茶色系の個体の毛色は、キツネの毛のような色から栗色である。以前は灰色系と茶色系の個体は別種と考えられていた。同じ母親から異なる色相の個体が生まれることもある[38][43]。灰色系の個体はタイラと見た目が似るが、タイラの喉には明瞭な黄色の斑点が入る[4]。茶色系の個体は乾燥した開けた環境で見られる傾向がある。メラニズムの個体も発見されているが、毛色は完全に黒くはなく、頭部と喉の毛色は他の部分より淡くなっている[40]。耳の長さは2.5-4cmで、裏側に斑点は無い。また両耳は離れている[38][44]。マライヤマネコと似ているが、本種は体と四肢が長く、より大型である。また頬に黒い模様は入らない[4]。茶色系の個体の体色は、より大型のピューマに似ている[40]。歯は30本あり、歯式はである[13]。
分布と生息地
熱帯雨林、落葉樹林、砂漠、低木林など、幅広い環境に生息する。雲霧林やマングローブ、サバンナでも見られる[1][44]。同所的に生息するマーゲイ、オセロット、ジャガーネコとは異なり、ジャガランディは開けた環境にも生息する。開けた環境ではサボテンの生えた場所を好み、ここには捕食者が侵入しにくく、周囲には複数の開けた場所がある可能性がある。また流水の近くに留まる傾向にある[38][42][45]。環境の攪乱に強く、再生した森林であっても生息できる[44]。低地から標高2,000mまで生息するが、コロンビアでは標高3,200mでの記録がある[1]。
南はアルゼンチン中央部から北はメキシコ北部まで、中央アメリカとアンデス山脈東部の南アメリカに分布し、分布域の南北の長さは、ネコ科の中ではピューマを除けば最長である。分布域の全域で十分な研究が行われているわけでは無い。ブラジル、ペルー、ベネズエラでは一般的な種である[46]。アメリカ合衆国では局所絶滅した可能性があり[1]、サンタクルス郡の山地での目撃例は、1999年の研究によって否定された[47]。アメリカで最後に得られた標本は、1986年にブラウンズビル近郊で轢死したものであった[46]。1994年時点で、リオ・グランデ・バレーでの個体数は15匹未満であり、その生存は疑わしい[48]。テキサス州では絶滅が宣言されたが[49]、サンタ・アナ国立野生動物保護区では現在も生存している可能性がある[50]。
20世紀初頭以来、フロリダ州で目撃されている。これはとある作家がジャガランディをフロリダ州各地に放したことが原因とされる。物理的な証拠は知られていないものの、1907年以降多くの信頼できる報告がある。1977年には、目撃数が減少していたため、個体数が減少しているとされた。1980年代以降はアラバマ州の内陸部で目撃例があり、フロリダ州の個体群が北へ移動したと考えられる[51]。ウルグアイのセロ・ラルゴ県からも記録があるが、その存在は疑われていた[52]。
生態と行動

ジャガランディは警戒心が高く、人前に姿を見せない。罠に対しては非常に用心深い[51]。発信機を用いた調査の例は少なく、ベリーズ、メキシコ、ブラジルで行われた[40]。昼夜を問わず活動するが、日中と夕方に狩りを行うことが多い。ベリーズでの研究によれば、夜明け前から日没まで活動しており、狩りのピークは朝遅くから正午までであった[4][53]。夜行性の傾向が強い種の多い他のネコ科とは異なり、昼行性の傾向が強い[38][41]。中規模の河川であれば泳いで横断することができ、例えばボリビアではトゥイチ川を横断した記録がある[40]。木登りは得意だが、狩りは主に地上で行う。毛の色は地上でカモフラージュとなる[41]。高さ2mまで跳躍し、鳥を捕らえることが出来る[38]。ボアコンストリクター、ピューマ、イヌなどが天敵である[40]。線形動物の Ancylostoma、条虫の Spirometra、Toxocaridae といった寄生虫の宿主となっており、吸虫の Paragonimus も見つかっている[4]。
多くの研究では、単独または2匹で観察されている。2匹の場合は母親と子か、繁殖期のつがいである可能性が高い。飼育下では群れを作る傾向がある[38]。行動圏は広く、ブラジルでの研究によれば、行動圏の面積は雌で1.4–18km2、雄で8.5–25.3km2であった[40]。ベリーズでの調査では、2匹の雄の行動圏はそれぞれ88km2と100km2であり、例外的に広かった。同地域での雌の行動圏の広さは13–20km2であった[41]。生息密度はブラジルでは0.01-0.05/km2と低かったが、タマウリパス州、コスタリカのリャノ、ベネズエラでは0.2/km2と高かった[13][54]。
ジャガランディはマーキングを行い、これは視覚や嗅覚によるコミュニケーションを目的としている可能性がある。飼育下では後肢で地面を掘る(このとき排尿する場合もある)、丸太を引っかく、物に頭をこすりつける、糞を放置するといった行動が見られる。グルーミング、唸り声を発する、臭いを嗅ぐといった行動も記録されている。多様な鳴き声を発し、クラッキング、喉鳴らし、叫び、ワーワーという声、口笛のような声、吠え声、鳥のさえずりのような声など、13種類の声が記録されている。飼育下では、発情した雌がマーキングを行う際に小さな声を上げることが観察されている[38][4]。
食性

通常は体重1kg未満の小型の獲物を捕食する。例えば地上で採餌する鳥類、爬虫類、カエル、節足動物、齧歯類などの小型哺乳類が獲物となる[55]。より大型の家禽、魚類、マーモセット、ウサギ、オポッサムも捕食し、小型のシカ(おそらく腐肉)を食べた記録もある。草などの植物質を食べた記録もある[38][4][40][44]。平均して毎日400gの脊椎動物を捕食している[4]。哺乳類を非常に好んでおり、14件の論文を分析した結果、食事の3分の2近くは小型の哺乳類が占めていた。いくつかの国では、コメネズミ属、コトンラット属、トウマウス属の齧歯類が獲物の中で最も多い。ベネズエラ、大西洋岸森林、コックスクーム盆地野生生物保護区、メキシコ南部の乾燥林では、これらの齧歯類が獲物の大半を占めていた。次いでカヤマウス属、シロアシマウス属、モリポケットマウス属が獲物となる。より大型のミナミオポッサムやモリウサギを捕食した記録もある[56]。様々な種類の生物を捕食し、その内訳は地域によって異なるため、その地域で元も豊富で捕食しやすい獲物を狙う傾向にあると考えられる[38]。
繁殖と成長
一年を通じて繁殖するが、その最盛期は地域によって異なる。例えばメキシコでは、繁殖期のピークは1月と3月である。発情期は3-5日続き、雌は仰向けになって放尿することでマーキングを行う。性成熟した雄は雌を追いかけるが、雌からの積極的な行動には反応を示さない。多くのネコ科の種と同様に、雄は雌に乗って首に噛みつき、交尾の際には雌は大きな叫び声をあげる[38][4]。
妊娠期間は70-75日程で、一度に1-4匹の子を産む。巣は密集した茂みや木の洞など、隠された場所に作られる。幼獣は十分に体毛が生えており、腹部には斑点が入るが、成長とともに薄れる。毛の色は成長に伴って徐々に変化する[38][44]。生後3週間経つと、母親は子供たちに固形の食べ物を与える。しかしこの時点では子供たちは遊ぶだけで、食べようとはしないため、最終的には母親の獲物になる。生後6週間経つと、幼獣は鳥やモルモットなどの固形の食事を食べることが出来るようになる。1-3年で性成熟し、寿命は飼育下では最長15年である[38][41]。
人との関わり
国際自然保護連合のレッドリストでは低危険種に指定されている。メキシコでは北東部を除き、個体数は安定している。アマゾン盆地には広大な保護区があり、最小存続可能個体数を長期間維持できる唯一の地域である。近危急種に指定すべきとの意見もあるが、分布域の全体でそのような措置をとるためには、データが不十分であった[1]。毛皮の質は良くないため、狩猟の対象にはなっていない。しかし生息地の喪失によって個体数は減少している[41][42]。
その他にも生息地分断化や、家禽を食べる害獣としての駆除が脅威となっている[1]。北アメリカと中央アメリカの個体群はワシントン条約付属書I、その他の個体群は付属書IIに掲載されている[44]。アメリカ合衆国の個体群は絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律によって保護されている[5]。テキサス州公園野生生物局によれば、テキサス州南部の個体群は、生息地の喪失によって絶滅の危機にあるという[57]。ペルーでは狩猟に制限があり、アルゼンチン、ベリーズ、ブラジル、ボリビア、コロンビア、コスタリカ、フランス領ギアナ、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ、パラグアイ、スリナム、ウルグアイ、アメリカ合衆国、ベネズエラでは禁止されている[1]。以前は東山動植物園で飼育されていたことがある[58]。日本では特定動物に指定されており、愛玩目的での新規飼育は出来ない[59]。