ヒザオリ属

藻類の属 From Wikipedia, the free encyclopedia

ヒザオリ属(ヒザオリぞく、学名: Mougeotia)は、接合藻のホシミドロ目に分類される緑藻の一属であり、単にヒザオリ(膝折)[8]や、学名をローマ字読みしモウゲチア属[9]とも呼ばれる。「ヒザオリ」の名は、接合時の細胞糸が折れ曲がっている様子(下図2b)にちなむと考えられている[10]。学名は、植物学者である Jean-Baptiste Mougeot (1776–1858) へ献名したものである[11]。藻体は細胞が一列につながった無分枝糸状体であり、各細胞内にはピレノイドをもつ平板状の葉緑体が1または2枚存在する(図1)。この葉緑体は、光の方向に応じて向きを変えることが知られている。湿原から池沼、水田などの淡水環境に比較的ふつうに見られる。大きな属であり、170種ほどが知られている。

概要 ヒザオリ属, 分類 ...
ヒザオリ属
1. Mougeotia sp.(2細胞のみに分断したもの)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae (アーケプラスチダ Archaeplastida)
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
階級なし : ストレプト植物 Streptophyta
: ホシミドロ綱 (接合藻綱) Zygnematophyceae
: ホシミドロ目 Zygnematales
: ホシミドロ科 Zygnemataceae
: ヒザオリ属 Mougeotia
学名
Mougeotia C.Agardah, 1824, nom. cons.[1]
タイプ種
Mougeotia genuflexa (Roth) C.Agardh, 1824[1]
シノニム
  • Agardhia S.F.Gray, 1821[2]
  • Agardia S.F.Gray, 1821[3]
  • Genuflexa Link, 1833[4]
  • Gonatonema Wittrock, 1878[5]
  • Sphaerospermum Cleve, 1868[6]
和名
ヒザオリ属[7]
約170種
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特徴

形態

藻体は多数の細胞が単列につながった糸状体であり、分枝しない[1](図2a)。ときに末端に付着器(仮根)をもち基物に付着しているが、浮遊していることが多い[12]。各細胞は細長い円筒形、直径 5–30 µm[1][13](図2, 3)。粘液質を伴う細胞壁に囲まれている[1][12]。細胞間の隔壁は平板状[1]。特に決まった分裂細胞はもたず、基本的に全ての細胞が細胞分裂を行って細胞糸が伸長する[14]

細胞には、ふつう1枚(ときに2枚)の板状葉緑体が存在し、各葉緑体には複数のピレノイドが散在または縦列している[1][9](図1, 2)。葉緑体はねじれていることもある[9]。ヒザオリの葉緑体は細胞中を回転して光に対して定位運動をすることが知られており、弱光に対しては面を垂直に、強光に対しては面を水平にする[15][16][17]。これによってより効果的な光捕集と強光阻害に対する防御を行なっていると考えられている。この運動には、青色光受容体であるフォトトロピンと赤色光受容体であるネオクロム(フォトトロピンとフィトクロムのキメラである光受容体)、およびアクチン-ミオシン系が関わっている[18][19][20][21]

は1個、細胞中央に存在し、葉緑体が1枚の場合はその一面に、2枚の場合はその間に位置する[1]。しばしばフェノール化合物を含む小胞が多数存在し、被食防御に有効であると考えられている[11]

2a. 藻体は平板状の葉緑体をもつ。
2b. さまざまな種における接合胞子形成
2c. 配偶子嚢まで広がった接合胞子

生殖

藻体の分断、アキネート (akinete)、不動胞子 (aplanospore)、単為胞子 (parthenospore) による無性生殖を行う[1][9]

接合による有性生殖を行う。接合様式として、ふつうはしご状接合、ときに側面接合(同一の細胞糸内で隣接する細胞間が接合)を行う[1][9]。接合管でつながった細胞は配偶子嚢とよばれ、その原形質は鞭毛をもたない配偶子になり、形態・運動能に差がない同形配偶子である[1][9]。配偶子嚢の細胞質の一部は、配偶子にならず、細胞残渣として配偶子嚢内に残る[9][10]。両配偶子が移動して接合管内で合体し、接合胞子を形成する[1][9](図3b)。ほぼ全てホモタリック(遺伝的に同一な同じ株内で接合を行う)である[1]

接合子は厚い細胞壁で囲まれ、接合胞子 (zygospore) とよばれ、接合管内に残って球形や楕円形になる場合と、配偶子嚢まで広がって扁平な四辺形になる場合がある[9](図2b, c)。いずれの場合も、接合胞子と配偶子嚢を区切る隔壁が形成される[9][10]。接合胞子の細胞壁中層は黄色まれに藍色を呈し、平滑または細点で装飾されている[13][12][9]。条件が整うと、接合胞子はおそらく減数分裂を行い、生じた4核のうち1核のみが残り、発芽して糸状体を形成する[22]

生態

世界中の淡水域に広く分布している[1]。平地の池沼などにも見られるが、特に湿原では目にする頻度が高く、しばしば目立つ藻塊を形成する[9][23]。一般的に中栄養の好気的な水域を好む[1]

分類

2025年現在、ヒザオリ属(Mougeotia)は、ホシミドロ綱(接合藻)、ホシミドロ目、ホシミドロ科に分類される[1]。ただし、ホシミドロ目の中で、ヒザオリ属は同じく無分枝糸状性(ホシミドロ科に分類される)のホシミドロ属やホシミドロモドキ属と近縁ではないことが示唆されている[24]

ヒザオリ属と同様に板状の葉緑体をもつ属として、モウゲオチエラ属(Mougeotiella)、Transeauina(= Debarya nom. illeg.)、テムノガメツム属(Temnogametum)、シロクラジウム属(Sirocladium)がある[25][9][10]。モウゲオチエラ属は、通常時(栄養期)の形態ではヒザオリ属と区別できないが、接合胞子と配偶子嚢を区画化する壁は形成されない[25][9][10]Transeauina では、配偶子嚢内に残った細胞残渣が層状の寒天質になる[9][10]。また、接合胞子に隆起線などがあって特異な形態をしている[9][10]。テムノガメツム属とシロクラジウム属では、接合時に不等分裂をして小さな配偶子嚢と大きな不稔細胞が形成される[9][10]。テムノガメツム属では配偶子嚢が接合管でつながるが、シロクラジウム属では接合管が形成されず、配偶子嚢が膨潤して直接接する[9][10]

ヒザオリモドキ属(Mougeotipsis)は葉緑体にピレノイドを欠く点でヒザオリ属とは異なる[10][23]。また分子系統学的研究からは、ヒザオリモドキ属はヒザオリ属が属するホシミドロ目には含まれないことが示されており、別目(Serritaeniales)に分類することが提唱されている[24]

ヒザオリ属は比較的大きな属であり、約170種が知られている(2025年時点)[26]。日本からは20種ほどが報告されている[25]。分類形質としては、接合型、接合胞子の形、大きさ、色、壁の装飾、栄養細胞の大きさなどが用いられている[13][12][25][10]

脚注

関連項目

外部リンク

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