ブール代数
From Wikipedia, the free encyclopedia
ブール代数(ブールだいすう、英: Boolean algebra)またはブール束(ブールそく、英: Boolean lattice)とは、命題論理における二値的な論理演算、集合論における和集合・共通部分・補集合の演算、ならびにデジタル回路における論理ゲートの計算に共通する代数的構造である。束論の立場からは、ブール代数は可補分配束として特徴づけられる。ブール代数は代数論理、束論、位相空間論、集合論、計算機科学などにまたがる基礎理論であり、ストーンの表現定理やストーン双対性を通じて位相空間との深い関係をもつ。ブール論理の演算はブール代数の基本例であり、現実の応用例としては、組み合わせ回路(論理回路)はブール代数の式で表現できる。[1][2]

歴史
ブール代数の起源は、ジョージ・ブールが1847年の The Mathematical Analysis of Logic および1854年の An Investigation of the Laws of Thought において展開した、論理の代数的取扱いにある。もっとも、現代的意味での抽象的なブール代数は、ブール自身の体系をそのまま現在の公理系として言い換えたものではない。19世紀後半にウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ、チャールズ・サンダース・パース、エルンスト・シュレーダーらが代数的論理を整備し、20世紀初頭にエドワード・ヴァーミリー・ハンティントンが公理化を与えたことで、現代的理論の骨格が確立した。[3][4]
20世紀には、マーシャル・ストーンがブール代数の表現理論を築き、位相空間との深い関係を明らかにした。さらに、クロード・シャノンは1938年、継電器回路の解析にブール代数を適用できることを示し、これが後のスイッチング理論およびデジタル回路設計の理論的基礎となった。[5][6]
定義
ブール代数(ブール束)とは、束論における可補分配束(complemented distributive lattice)のことである。
集合 L と L 上の二項演算 ∨(結び、join と呼ぶ)、∧(交わり、meet と呼ぶ)の組 ⟨ L; ∨, ∧ ⟩ が以下を満たすとき分配束(distributive lattice)と呼ぶ。
- 交換則:x ∧ y = y ∧ x 、x ∨ y = y ∨ x
- 結合則:(x ∧ y) ∧ z = x ∧ (y ∧ z) 、(x ∨ y) ∨ z = x ∨ (y ∨ z)
- 吸収則[注釈 1]:(x ∧ y) ∨ x = x 、(x ∨ y) ∧ x = x
- 分配則:(x ∨ y) ∧ z = (x ∧ z) ∨ (y ∧ z) 、(x ∧ y) ∨ z = (x ∨ z) ∧ (y ∧ z)
さらに L の特別な元 0, 1 と単項演算 ¬ について、以下が成り立つとき組 ⟨ L; ∨, ∧, ¬, 0, 1 ⟩ を可補分配束(ブール束)と呼ぶ。
- 補元則:x ∨ ¬x = 1,x ∧ ¬x = 0。
この定義は、二項演算 \(\vee,\wedge\)、単項演算 \(\neg\)、および定数 \(0,1\) をもつ代数系としての定義と同値であり、ブール代数は「有界分配束であって各元が補元をもつもの」ともいえる。[1][7]
基本性質
ブール代数では、補元は一意に定まる。また、次の基本法則が成り立つ。[1][8]
- 冪等律:x ∧ x = x、x ∨ x = x
- ド・モルガンの法則:¬(x ∨ y) = (¬x) ∧ (¬y)、¬(x ∧ y) = (¬x) ∨ (¬y)
- 二重否定律:¬¬x = x
また、
と定めると、これは同値に
とも書ける。この順序のもとで 0 は最小元、1 は最大元であり、∨ は上限、∧ は下限を与える。[1]
ブール代数の等式論には重要な簡約があり、ある恒等式がすべてのブール代数で成り立つことと、それが 2 元ブール代数 {0, 1} で成り立つことは同値である。これは真理値表による論理式の検証と、抽象的ブール代数における恒等式の検証とを結びつける。[1]
例
典型的な例は、台集合として特別な2つの元 0, 1 のみをもつ 2 点集合 {0, 1} からなるものであり、これはブール論理の真理値代数である。コンピュータの動作原理の理論としてよく知られている。[1]
任意の集合 X の冪集合 \(\mathcal P(X)\) は、和集合・共通部分・補集合を演算としてブール代数をなす。このとき 0 は空集合、1 は X 自身に対応する。これはブール代数の最も基本的な具体例であり、有限ブール代数の標準模型でもある。[1][5]
この代数の上では排他的論理和(xor)や否定論理積(nand)など応用上重要な演算子が ∧、∨、¬ の組み合わせで記述される(∧ または ∨ も ¬ と残りの1つの組み合わせで記述される)。
有限ブール代数
原子と原子性
準同型・イデアル・フィルター
ブール代数の準同型とは、∨、∧、¬、0、1 を保つ写像である。準同型の像はふたたびブール代数をなし、核に対応するイデアルによって商代数が構成される。[1][8]
部分集合 I ⊆ B がイデアルであるとは、0 ∈ I、a, b ∈ I ならば a ∨ b ∈ I、さらに c ≤ a ∈ I ならば c ∈ I が成り立つことをいう。双対的に、部分集合 F ⊆ B がフィルターであるとは、1 ∈ F、a, b ∈ F ならば a ∧ b ∈ F、さらに a ∈ F ≤ c ならば c ∈ F が成り立つことをいう。[1]
超フィルター
フィルター U が超フィルターであるとは、真フィルターであって、任意の a ∈ B に対して
のいずれか一方が成り立つことである。これは極大フィルターであることと同値であり、補元写像を通じて素イデアルと対応する。[1]
超フィルターは、ブール代数の表現理論において中心的役割を果たす。各元 a ∈ B に対して、a を含む超フィルター全体の集合を考えると、これがストーン空間の閉開集合を与える。[1][5]
自由ブール代数
ブール環
論理との関係
表現定理とストーン双対性
完備ブール代数
測度代数
ブール値モデルと強制法
応用
回路理論と情報工学
論理回路では、AND・OR・NOT などのゲートがブール演算として表される。シャノンの解析以後、継電器回路や電子回路の設計はブール代数によって体系化され、論理式の簡約、スイッチング関数の最適化、デジタル計算機の設計へと応用されてきた。[6][2]
数理論理学
ブール代数は、古典命題論理の代数化、リンデンバウム=タルスキ代数、ブール値モデルなどを通じて、数理論理学の基本理論の一部をなす。[1]
位相空間論・集合論
ストーン双対性によって、ブール代数は零次元コンパクト Hausdorff 空間の理論と深く結びつく。また、完備ブール代数は強制法・ブール値解釈・独立性証明に現れ、現代集合論において重要な役割を果たす。[5][1]