割礼
男性器の包皮の一部を切除する風習
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割礼(かつれい)とは、男性器もしくは女性器の一部を切開あるいは切除(場合によっては性器口を封鎖)する外科的施術を指す。割礼の習慣は、ユダヤ教徒、イスラーム教徒、赤道沿いのアフリカ原住民などの間に見られる。割礼の歴史は古く、紀元前の資料にまで遡る。割礼は単に個人に行われる習慣ではなく、通過儀礼・集団規範と関連するケースが多い[1]。
割礼は人類史上最も古くから行われてきた外科的処置の一つであり、かつては主に宗教的・文化的儀式として行われていたが、現代ではその実施理由は医学的効果、衛生面の向上、審美的理由、社会的慣習、宗教的・文化的伝統など多様な要因に基づいている。世界的に見ると、成人男性のおよそ40%が何らかの形で割礼を受けていると推定されており[2]。
男性割礼は、HIVを含む性感染症(HPV、HSV-2など)の感染率を低下させ、乳幼児の尿路感染症および陰茎癌・前立腺癌の発症リスクを減少させる。また、割礼を受けた男性の女性パートナーにおいては、HPV感染率および子宮頸癌発症リスクを低下させ、包皮炎や亀頭炎など包皮関連疾患の予防および局所衛生の向上にも寄与する[3][4][5][6][7]。
女性器切除(female genital mutilation)を『女子割礼』と称す事がある。男子の割礼は包皮を切除、場合によっては尿道や一部睾丸の切除をする。女性器切除は場合によって、クリトリスや小陰唇、大陰唇を切除する。 一部の人権団体からは悪習と批判されている風習でもある。
語意
聖書に記述されるcircumcisio(ラテン語)、circumcision(英語)の訳語として、漢字文化圏の言語(日本語・中国語・朝鮮語)で採用された。日本語では「割礼」「包茎手術」「包皮環状切除術」と区別されるが、英語ではいずれも "circumcision" と呼ばれる。
文化・宗教的な風習ではなく医療行為としての包皮切除については、日本語と朝鮮語では「包茎手術(ほうけいしゅじゅつ)、朝鮮語: 包莖手術(포경수술)」、中国語では「包皮環切術(簡体字:包皮环切术、繁体字:包皮環切術、拼音: )」等の語を用いる。
circumcision(英語)は『男性の陰茎包皮の切除』である。宗教上の行為か否かに関わらず、医療行為としての包茎手術を含む。genital cutting は性器切断だが「割礼」とも翻訳され、これは割礼 (male genital cutting) と女性器切除 (female genital cutting) が含まれる。
概要
男性
古来ユダヤ教では男性器の包皮は不浄なものとされてきた。割礼の実践という清めにより、唯一神との契約関係に入ることができるとされた。唯一神との契約関係に入ることは、正規のイスラエル共同体の成員となることを意味する。イスラム教にも類似の考えが見られる[1]。
割礼の時、下半身は裸の状態(全裸の場合もある)になり,ペニスの付け根あたりに麻酔をする。(この時、刺激によって勃起する場合もあるが、子供の場合大人と違って包皮が余るため問題はない。)そして,血流を止めたあと一気に切除する。 専門機関にて施術されることが多いが、地域によっては、屋外の人の目がある場所で行われる。
割礼の術式と外観の分類
割礼の結果は、宗教的伝統、使用する器具、施術者の技術、個人の解剖学的特徴、創傷治癒の過程など、複数の要因によって決まる。伝統的・宗教的割礼では術式が慣習により定まっていることが多く、結果を意図的に選択することは一般的ではない。一方、現代の医療機関における包茎手術では、患者や保護者の希望により術式を選択できる場合もある。男性割礼後の外観は、切除された包皮の量や位置によって異なる。以下の分類は、主に術後の結果を記述するために用いられる。
切除位置による分類
- ハイカット(高位切除):亀頭から離れた位置で切除。包皮の内板が多く残り、疤痕線が陰茎の根元寄りに位置する。
- ローカット(低位切除):亀頭に近い位置で切除。包皮の内板がほとんど残らず、疤痕線が亀頭直下に位置する。
切除量による分類
- タイトカット(緊切除):包皮を多く切除し、勃起時に皮膚の余裕がほとんどない状態。
- ルースカット(緩切除):包皮の切除量が少なく、勃起時にも皮膚に余裕がある状態。
包皮小帯の処理
- 小帯温存:包皮小帯(フレナム)を残す方法。
- 小帯切除:包皮小帯も切除する方法。
女性
アフリカ原住民などの間に見られる女子割礼(主にクリトリスの切除)も通過儀礼・集団規範として理解される。成人前に割礼を施すことにより、性欲を抑え、処女性を保たせる目的があるとされる。その集団においては、割礼をしていることが結婚をするにふさわしい純潔を保った女性であることの証明になるため、女子割礼は結婚を可能にする条件であり、集団的義務とされてきた[8]。女子の場合はほとんどの場合、布で秘部を隠して施術担当者のみが秘部を見られるようにするのだが、稀に布が秘部よりも上(お腹)に寄ってしまったり布を使わずにオープンな状態で施術する場合もあり、周り(近所の男性など)に秘部を見られることもある。また、切除する箇所がクリトリスということもあり麻酔をせずに切除するため激しい痛みを伴う。
宗教別

『旧約聖書』に割礼の記述があることからユダヤ教、イスラム教では信仰の一環として行われている。キリスト教圏でも衛生上の理由も兼ねて行われている場合がある。また、アフリカ・オセアニアの諸民族などでは宗教とは無関係に「伝統的な風習として」割礼が行われている(後述)。
ユダヤ教では、割礼はブリット (ברית/Brit) と呼ばれ、ヘブライ語で「契約」を意味する語である。ユダヤ教徒の家庭に生まれた乳児および改宗者(=ユダヤ人[9])は、割礼を行わなくてはならない。これはブリット・ミラーと呼ばれ、モーヘールと呼ばれる専門家が行う。現代では割礼に反対するユダヤ人もおり、その場合はブリット・シャーローム(命名式に相当)をもって、割礼の代わりとする。ただしブリット・シャーロームは律法(旧約聖書)に反するとして否定する者も多く、一般的な儀式として広まってはいない。
イスラム教(イスラーム)においては、コーランには言及がないものの、ハディースにこれに関する記載があり、慣行(スンナ)として定着[10]している。生後間もなくか、少年のうちに割礼が行われる。時期は生後7日目に行う場合から、10-12歳頃までの場合など幅がある。割礼後、祝宴が開かれ、盛装した男児が親族や近隣住民から祝福される。割礼を行っていない者が成人になってから改宗した場合は、解釈が一定ではないため必ずしも強制ではないが、なるべく割礼を行ったほうがよいとされる。
一方、キリスト教では、割礼を行う風習が無い地域にもキリスト教の布教を行い、割礼を行わない者がキリスト教へ改宗するための要件として割礼を要件としないという見解がパウロらによってまとめられたため、早い段階で割礼を行う習慣が廃れた。このことは『新約聖書』使徒行伝等で触れられており、キリスト教が世界宗教として広まる一因となった。現在では全く自由であるが、正教会系の一部の教派・地域では割礼を行うことが奨励されている。近代以降、アメリカ合衆国などでは衛生的理由から、割礼が広まった(後述)。ただしキリスト教の一宗派であるスコプチの割礼では、男性は陰茎・睾丸・陰嚢の外性器すべてを切除し、女性は乳房や陰核、小陰唇などを切除する。
この他、オーストラリアのアボリジニーの間では尿道の下部を切開する「尿道割礼」が、ミクロネシア連邦のポナペ島の住人や南アフリカ共和国からナミビアにかけて居住するホッテントット族の間では片方の睾丸を摘出する「半去勢」が行われていたが、いずれも成年男子への通過儀礼としての儀式すなわち割礼として行われている。 近年では、乳幼児期に行われる割礼に対し、本人の同意なく身体に不可逆的な変更を加えることへの倫理的懸念から、反対意見も見られる。これらの議論は主に、自己決定権を行使できない乳幼児に対する施術の是非に焦点を当てている[11]。
歴史
早期の記録

ヘロドトス(前484年 - 前425年)は『歴史』の中で、エジプト人・エチオピア人が昔から割礼を行っている、と書いている。
アルジェリアのワジ・ジェラート(Wadi Djerat)で発見された仮面をつけた弓矢の射手を描いた岩絵には、男性の割礼が描かれており、何らかの儀式に関連していたと考えられる。この岩絵の年代はブバリヌス期(紀元前9200年〜紀元前5500年頃)に遡る。この文化的慣習は、サハラ中央部からサハラ以南のアフリカへ南下し、また東方のナイル川流域へと伝播した可能性がある。
古代エジプトにおける割礼は、壁面の彫刻やミイラの証拠から、少なくとも紀元前4000年頃まで遡ることができる。中東地域でも、紀元前4千年紀にはすでに割礼が行われていたとする証拠があり、この時期、シュメール人やセム系民族が北方および西方から現在のイラク地域へ移住していた。割礼に関する最古の歴史的記録はサッカラにあるアンクマホル墓の浮彫りで、紀元前2400年〜2300年頃のものである。
エジプト人が割礼を行った理由としては衛生上の目的が考えられるが、同時に清浄への強いこだわりや、精神的・知的発達との関連も指摘されている。割礼がエジプト人にとって何を意味したかについて定説はないが、極めて高い名誉と重要性が付与され、成人儀礼として公開の儀式で執り行われた。『エジプト死者の書』には太陽神ラーが自ら割礼を行ったとの記述がある。
古代エジプトでは、割礼は当初、神官階級に限定されていた。神官たちは割礼による清浄に加え、全身の体毛を剃ることでさらなる浄化を図った。その後、貴族、王族、上層の戦士階級にも広まった。古代ギリシアにも同様の慣習が存在し、ピタゴラスの時代の哲学者たちが割礼を受けていたとされるが、知識人階層以外に広まった証拠はない[12][13]。
ユダヤ教

『創世記』17:9-14には、アブラハムと神の永遠の契約[14]として、男子が生まれてから8日目に割礼を行うべきことが説かれている(ヘブライ語のBritは契約を意味するが、割礼の意味でもある)。割礼を受けた者だけが、過越の儀式に加わることを許された(出エジプト記12章43~49節)[15]。ユダヤ教では、この伝統を引き継ぐ。
また創世記34章には、ヒビ人ハモルの息子シケムに娘ディナを陵辱されたヤコブの子らが、ディナに求婚してきたシケムに対して計略をしかけ、割礼を受けた者でなければ娘を嫁にやれないと答え、それに応じてシケムの町の人々が揃って割礼を受けた3日後に痛みに苦しんでいるところをヤコブの子シメオンとレビが襲って町中の男性を皆殺しにした記事がある。このことから、少なくともこれが書かれた当時は割礼後最低3日は日常生活に支障が出るほどの強い痛みが伴うのが当たり前だったということがうかがわれる。
セレウコス朝シリアにおいて、アンティオコス4世エピファネスの時代には割礼が禁じられて違反者は死罪になった記述がマカバイ記にある[16]。
イエスの割礼の日

イエス・キリスト自身も割礼を受けていたことは疑いがない。キリスト教のカトリック教会では、12月25日をイエスの誕生を祝う日としているので、8日後に割礼を行うユダヤ人の習慣から、1月1日をキリストの割礼の日、としている。キリスト教の正教会では、1月14日を主の割礼祭として祝う。
中世ヨーロッパでは、イエスの割礼時に切除された包皮が聖遺物として崇拝された。複数の教会が「本物のイエスの包皮」を所有していると主張し、巡礼の対象となった。最も有名なものはローマのサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂やフランスのシャルー修道院に保管されていたとされる[17]。
この聖遺物をめぐっては神学的議論も生じた。「イエスは昇天の際、完全な肉体で天に上ったのか、それとも包皮は地上に残されたのか」という問題が真剣に議論された。17世紀の神学者レオ・アラティウスは、イエスの包皮が昇天して土星の輪になったという説を唱えたとされる(ただしこれは風刺であった可能性もある)。1900年、カトリック教会は聖包皮について語ることを禁じ、違反者には破門の罰を科すと宣言した[18]。
キリスト教布教と割礼
イエス・キリストの死後、使徒であるパウロらの伝道旅行において、割礼の風習が無い地域にもキリスト教が伝わったが、割礼の風習がない「異邦人」(=ローマ人、ギリシア人など)が改宗した場合に割礼を行うかどうかが大きな問題になった。異邦人への文化適合を重視するアンティオキア教会と、律法(=旧約聖書)の厳格な遵守を重視するエルサレム教会が論争を行った。紀元48 - 49年頃のエルサレム会議でも、割礼について議論され、最終的に「しめ殺した動物、血、偶像礼拝、不品行」を忌避すれば、割礼を含む他の律法の遵守は免除されることで合意が成立した。

キリスト教の信仰と割礼の有無が、まったく関係ないことは、『新約聖書』ガラテヤの信徒への手紙などで明確に述べられている。入信に割礼を求めないことは、割礼の風習が無い地域へキリスト教の信仰が広まり、世界宗教となる大きな要因となった。
多くのキリスト教派が割礼を廃止した一方、一部の教派では現在も割礼が行われている。コプト正教会(エジプト)では生後8日目から幼児期にかけて割礼を行う慣習がある。エチオピア正教会では生後8日目に割礼を行い、男児だけでなく女児にも施術される。エリトリア正教会もエチオピア正教会と同様の慣習を維持している。これらの教派では、割礼は救済に必須とはされていないが、宗教的・文化的伝統として継承されている[19]。
ローマ帝国における禁止令
ローマ帝国のハドリアヌス皇帝の時代には帝国全土に割礼禁止令が出され[20]、『皇帝史(Historia Augusta)』などではこれがユダヤ人たちのバル・コクバの乱の原因になったという説が挙げられている。
この対象はユダヤ人以外の民族にも適用され、サマリア人やナバテア人(ナバテア人にあった割礼の掟自体はトラヤヌス皇帝の時代に直接支配された時に廃止)、およびエジプト人も規制対象になっている記録があるが、後にこれは緩和されユダヤ人の場合は「割礼はユダヤ人達が自分達の息子に施す場合は許される」という勅令が次代のアントニウス・ピウス皇帝の時代に出されたが、成人がユダヤ教に改宗する場合は割礼は認められなかった(前述の説明の後に「他は罰則の適用になる」と続くため)といった記録や、2世紀終わりごろのエジプトで「割礼の風習のある宗教の聖職者は後継者の息子に割礼をする場合、請願書を出して役人とローマ人最高祭司の許可を得れば割礼が認められる。」という記録があり、一律禁止ではなくなったことが分かる[21]。
欧米での現状
アメリカ・イギリス等

キリスト教徒が約8割を占めるアメリカ合衆国では、宗教との関連ではなく、衛生上の理由および子供・青少年の自慰行為を防ぐ目的などの名目で、19世紀末から包茎手術が行われるようになった。これには、医療従事者に割礼を行う宗教(主にユダヤ教)の信徒が多く、包皮切除に対する肯定感が高かったため、という指摘もある。
第二次世界大戦後、英米では割礼に対する姿勢が分かれた。イギリスでは国民保健サービス(NHS)が設立され、1949年にダグラス・ガードナーが論文「包皮の運命」("The Fate of the Foreskin")において割礼のリスクが利益を上回ると主張したことで、実施率は大幅に低下した。一方アメリカでは、小児科医ベンジャミン・スポックがベストセラー育児書『スポック博士の育児書』で割礼を支持し、性病や陰茎がんの予防に効果があるとされたこともあり、実施率は大幅に上昇した[23][24]。

1970年代には、オーストラリアおよびカナダの医師会が新生児への定型的な包皮環切術を推奨しない方針を示し、両国での実施率は低下した。アメリカでも同様の声明が出されたが、明確な反対勧告には至らなかった。
ただし、こうした制度的変化にもかかわらず、社会的・家庭的慣習として割礼が行われた例が完全に消失したわけではない。例えば、イギリス王室では、チャールズ3世国王が出生後に割礼を受け、その子であるウィリアム王子およびハリー王子も同様の処置を受けたとされている。これらの事例は、近代以降のイギリスにおいて割礼が宗教的義務としてではなく、特定の社会階層や家庭内慣習として存続していたことを示す一例といえる。乳幼児期の割礼については、医学的利益の評価や文化的背景により、各国・各家庭で異なる判断がなされている。[26][27][28][29]。
1990年代までは生まれた男児の多くが出生直後に包皮切除手術を受けており、アメリカの病院で出産した日本人の男児が包皮切除をすすめられることも多かった。1999年、米国小児科学会(AAP)は包皮切除を一律に推奨しない方針を示し、実施率は一時低下した。
しかし2005年から2007年にかけて、アフリカで行われた3件のランダム化比較試験により、割礼がHIV感染リスクを約60%低減することが示された。これを受け、2007年にWHOとUNAIDSは割礼をHIV予防策として推奨した。2012年、AAPは方針を改定し、「健康上の利益がリスクを上回る」との見解を発表したが、一律の推奨には至らなかった。現在もなお約6割の男児が包皮切除手術を受けている[30]。
また、「身体の統一性」および「自己の決定権」という意識から、生まれたときに勝手に行われた包皮切除を嫌い、包皮の復元手術を行い「ナチュラル・ペニス」にしようとする人もいる。アメリカの社会学者・マスキュリストであるワレン・ファレルは男児への割礼強制を男性差別であると非難している。
- ヨーロッパにおける法的議論と事故
2010年、イスラム教徒の子どもに割礼を行った際に出血多量となり、施術した医師が傷害罪で起訴される事件が起こった。2012年6月に出されたケルンの裁判所の判決で、医師は無罪となったものの「傷害罪」とみなされるという判断が示された。この判決に対し、ユダヤ教徒とイスラム教徒約300人がベルリンで異例の合同デモを行い[31]、宗教の自由をめぐる激しい論争が繰り広げられた。同年12月、連邦議会で宗教的な割礼手術を法律的に保護する法案が可決された[32]。
2018年12月25日、イタリア・ローマ近郊モンテロンドの移民収容施設で、割礼(男性器の包皮の一部を切り取る風習)の失敗が原因で、2歳の男の子が失血死した。この男児の双子の兄弟も割礼を受けたが、病院で手当てを受け、快方に向かっている。地元メディアによると、施術した66歳の男が殺人容疑で逮捕・訴追された。地元メディアによると、この母親自身はキリスト教カトリック信者だが、ナイジェリアのイスラムの慣習を尊重して兄弟に割礼を受けさせた。
割礼を行う国
世界保健機関(WHO)の推計によると、世界の成人男性の約37〜39%が割礼を受けている。ただし、多くの割礼手術が医療機関ではなく私的な場所(自宅や個人診療所など)で行われているため、実際の割礼率はこれより高い可能性がある。割礼の実施理由は地域によって異なり、宗教的義務(ユダヤ教・イスラム教)、文化的伝統、医学的予防、衛生上の理由など多様である。以下に割礼を行う習慣が一般化している国・地域を挙げる[33][34]。

東アジア
大韓民国では、朝鮮では、朝鮮戦争後に米軍の影響により割礼が急速に普及し、現在も成人男性の約80%が割礼を受けている。宗教的理由ではなく、衛生・慣習上の理由で行われており、非宗教国家としては世界最高の割礼中国持つ[35]。中国では、ウイグル族や回族などのイスラム教徒の間で宗教的慣習として割礼が広く行われている。ウイグル族では通常6〜8歳頃に割礼を行い、伝統的には家族や近隣住民を招いた祝宴を伴う儀式として執り行われてきた。中国全体の割礼率は約14%だが、イスラム教徒の少数民族を除いた漢族のみでは約2.7%にとどまる[36]。
東南アジア
- なお日比ハーフの男児は日本在住であっても割礼を受ける場合がある。たとえばGENERATIONSの白濱亜嵐は10歳のときフィリピンで施術されている[37]。
中央アジア・西アジア

アフリカ
- エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、エリトリア、ガーナ、ギニア、ニジェール、ナイジェリア、トーゴ、ベナン、カメルーン、チャド、ジブチ、ガボン、ガンビア、マダガスカル、マリ、モーリタニア、ケニア、コンゴ共和国、シエラレオネ、ソマリア、スーダン、エチオピア、モザンビーク、ブルキナファソ、コモロ、セネガル、コートジボワール、タンザニア、ルワンダ、マラウイ、ギニアビサウ、赤道ギニア、中央アフリカ共和国、南スーダン、リベリア、レソト、エスワティニ、ボツワナ、ジンバブエ、アンゴラ
北アフリカ、東アフリカなどはイスラム圏。成人儀礼として行われている国もあると考えられる。南アフリカではコサ族などが成人儀礼として割礼を行っており、ネルソン・マンデラも1934年に16歳でこの伝統的儀式を経験したことを自伝『自由への長い道』で述べている。
北アメリカ大陸
現状については前出。アメリカ大陸先住民の中には、ヨーロッパ人到達以前から成人儀礼として包皮切除を行っていた部族があった。
ヨーロッパ

オセアニア
多くの地域で、成人儀礼として行われている。オーストラリアの先住民アボリジニーは、通常の割礼に加えて、陰茎の下部を尿道まで切り開く尿道割礼を行うことで知られていた。
割礼と病気
性感染症
多数の医学研究および国際的公衆衛生機関の評価により、男性割礼は性行為を介して感染する複数の性感染症の感染リスクを低下させることが科学的事実として確立されている。具体的には、**HIV、ヒトパピローマウイルス(HPV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)**に加え、梅毒、軟性下疳、トリコモナス症、クラミジア感染症および淋菌感染症についても、感染率の低下または予防効果が報告されている。また、男性が割礼を受けている場合、女性パートナーにおける高リスク型HPV感染率が28%低下し、細菌性膣症(40%低下)およびトリコモナス症(48%低下)のリスクも軽減されることから、子宮頸癌を含む女性の健康に対して間接的な保護効果が認められている[39][40]。
これらの効果は、包皮切除による局所環境の変化、包皮内に多く存在するウイルスや細菌の標的細胞の減少、ならびに分泌物が滞留しにくくなることなどによって説明されており、男性割礼は性感染症予防における有効な医学的介入の一つとして位置づけられている[41][42][43]。
AIDS
包皮切除(割礼)を受けている男性は、受けていない男性よりも大幅にHIV陽性率が低い、もしくはエイズ罹患率が低いという話もある。現在イスラム圏である西アフリカのエイズ罹患率が南部アフリカよりも大幅に低いのは、割礼を受けている男性の割合が高いことが一因であるという研究もある。この原因はHIVの対象となるCD4陽性T細胞やランゲルハンス細胞が包皮に多くあり、それが切除されるためと言われている[44][45]。
ベルトラン・オヴェールの研究(成人に割礼を行わせ、「受けた群」と「受けない群」の2群を比較した)などを見る限り、割礼はエイズ感染に何らかの予防効果を持つ。ただ、オヴェール自身は安易にその事実を持ち出して割礼を受けさせる事は、複数人との安易な性行為の増加につながりかねないという警告を同時に行っている。現にアフリカではこの研究結果を信じて、コンドームを着けない人が増えたため、更にエイズが拡散されるという事態に陥っている。この研究結果をどれだけよく見積もったとしても、最大で60%の効果しかないので、結局はコンドームをつけないとエイズは防げない[46]。

インドでは、1993年から2000年にかけて、HIV未感染の男性2298名についての追跡調査が行われた。調査期間中、割礼を受けている191名のうち、感染したのは2名だけだったが、割礼を受けていない2107名のうち、165名が感染した。
フランス国立エイズ研究機関 (ANRS) により南アフリカで男性3000人に対して実施された介入試験では、感染率は約1/3になるとされ、イリノイ大学によりケニアで男性2784人を対象に行われた試験では60%のリスク低減が、ジョンズ・ホプキンス大学によりウガンダで男性4996人を対象に行われた試験では、51%のリスク低減が判明している。これらの試験はいずれも途中で、試験の中止および被験者全員への割礼が勧告されている。 これらの研究から、衛生的・医学的に行われた男性割礼はエイズ感染を予防する有用な方法として認められ[47]、UNAIDSを中心に特に東部・南部アフリカでの自発的医学的男子割礼 (VMMC : voluntary medical male circumcision) によるエイズ感染予防策が推進されている。衛生的に実施された男性包皮環切術は、国連や世界保健機関(WHO)をはじめとする国際機関により、HIVの総合的な予防対策の一つとして位置づけられている[48][49][50]。
その他の医学的効果
尿路感染症・衛生面 男性割礼は尿路感染症(UTI)のリスクを大幅に低減させる。2012年のメタアナリシスによると、割礼を受けた男性はUTIリスクが約10分の1に低下し、この予防効果は特に乳児期および尿路系の解剖学的異常を有する男児において顕著である。これは包皮下に細菌が蓄積しやすい環境が除去されることに起因する。同様の理由から、割礼を受けた陰茎は清潔を保ちやすく、恥垢(smegma)の形成が防止されるため、日常的な衛生管理が簡便になる[51][52][53]。
前立腺癌 複数の研究により、男性割礼と前立腺癌リスクの低下との関連が示唆されている。2012年に発表された大規模研究では、割礼を受けた男性は前立腺癌の発症リスクが約15%低いことが報告された。この関連性は、性感染症の減少による慢性炎症の軽減に起因する可能性があるが、因果関係を確立するためにはさらなる研究が必要とされている[7][54]。
陰茎癌 2011年の系統的レビューにより、男性割礼は陰茎癌の予防に有効であることが示されている[32]。割礼率の高いユダヤ人集団において陰茎癌の発症率が著しく低いことは、この関連性を裏付けている。陰茎癌の主要な危険因子である包茎、慢性炎症、およびHPV感染が、割礼によって軽減されることがその機序として考えられている[55]。
包茎および嵌頓包茎の予防 割礼は包茎(包皮が亀頭を覆い、反転できない状態)および嵌頓包茎(反転した包皮が元に戻らなくなる緊急状態)を根本的に予防する。これらの状態は痛み、排尿困難、および血流障害を引き起こす可能性があり、特に嵌頓包茎は緊急の医学的介入を必要とする[56][57]。
亀頭包皮炎 亀頭炎(亀頭の炎症)および亀頭包皮炎(亀頭と包皮の同時炎症)のリスクは、割礼を受けた男性において有意に低い。これらの炎症性疾患は、包皮下における細菌、真菌、またはその他の病原体の蓄積によって引き起こされることが多く、包皮の除去によりこのような環境が排除されるためである[58]。



