化学プラント
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化学プラント(かがくプラント、英:Chemical plant)または化学工場(かがくこうじょう)は、通常は大規模に、化学物質を製造(またはその他の方法で処理)する産業用プロセス施設[1]。化学プラントの一般的な目的は、物質の化学的または生物学的な変換・分離を通じて、新たな物質的価値を創出することにある[2]。製造工程には、専用の装置、ユニット、技術が用いられる。ポリマー、医薬品、食品や一部の飲料の製造施設、発電所、石油精製所やその他の精製施設、天然ガス処理および生物化学(バイオ化学)プラント、水処理・下水処理、汚染制御設備などのプラントも、流体システムや化学反応器システムなど、化学プラント技術と類似する多くの技術を用いる。石油精製所や製薬・ポリマー製造工場を実質的に化学プラントと見なす立場もある。

石油化学プラント(原料またはフィードとして石油由来の化学物質を用いるプラント)は、精製所で生産されるフィードの輸送コストを最小化するため、通常は石油精製所に隣接して立地する。特殊化学品[3]およびファインケミカルのプラントは、通常は規模が小さく、立地条件への感度も比較的低い。地理的に異なる地点間で基準的なプロジェクトコストを換算するための手法も開発されている[4]。
ケミカルプロセス

化学プラントは、原料化学品を製品へと転換するため、工業規模で精緻化されたケミカルプロセスを用いる。同一のケミカルプロセスが複数の化学プラントで用いられ、規模のみが異なる場合や、同一敷地の化学プラントが複数のケミカルプロセスを利用して複数の製品を生産することもある。
化学プラントには、ユニットまたはラインと呼ばれる比較的大型の容器や区画があり、それらは配管やその他の搬送設備で相互に接続され、物質流(ストリーム)を輸送する。この物質流には、配管内を移動する流体(気体または液体)のほか、固体、あるいはスラリーのような混合物が含まれ得る。
全体としてのケミカルプロセスは、各ユニットで行われる単位操作と呼ばれるステップから構成されるのが通例である。製品に転換するためにケミカルプロセスまたはプラントに投入される原料は、一般にフィードストック(フィード)と呼ばれる。プラント全体に対するフィードストックとは別に、特定のユニットに投入される処理対象の物質流も、そのユニットにとってのフィードと見なされる。プラント全体からの出力は最終製品であり、個々のユニットからの出力は当該ユニットにおける中間製品である。
あるプラントの最終製品が、別のプラントにおいてフィードストックとして用いられる中間化学品である場合もある。たとえば、石油精製所の一部製品は石油化学プラントのフィードストックとして用いられ、さらにそれが製薬プラントのフィードストックを生産するために用いられることがある。
フィードストック、製品、あるいはその双方は、単一化合物である場合もあれば、混合物である場合もある。これらの混合物の成分を完全に分離することは、費用対効果の観点から得策でないことが多い。要求される純度は製品の要件とプロセスの経済性に依存する。
運転形態
化学プロセスは連続生産またはバッチ生産で実施される。
連続生産
連続生産では、すべての工程が時間的に連続して進行する[5]。通常の連続生産では、原料の供給および製品のアウトプットが流動する物質流として継続的に進む。連続生産中の化学プラントまたはユニットは、通常、定常状態またはその近傍にある。定常状態とは、運転中にプロセス関連の諸量が時間とともに変化しない状態をいう。一定に保たれる量には、流量、加熱・冷却量、温度、圧力、および任意の位置における化学組成などが含まれる。石油精製所のような多くの大規模操業では、連続生産の方が効率的である。化学プラント内で一部のユニットは連続生産、他のユニットはバッチ生産とする併用も可能である(例:連続蒸留とバッチ蒸留)。
あるプラントまたはユニットが単位時間当たりに処理し得る主原料または製品の量は、そのプラント(またはユニット)の能力(キャパシティ)と呼ばれる。例として、石油精製所の能力は日量原油処理バレル数で示され得るし、化学プラントの能力は日産製品トン数で示されることがある。実際の運用では、プラント(またはユニット)は定格能力に対する一定の割合で稼働する。技術者は一般に、主として流体を扱うプラントで稼働率90%、主として固体を扱うプラントで80%を仮定する。
バッチ生産
バッチ生産では、離散的なロットごとに時間順の工程で生産が行われる。原料のバッチがプロセスまたはユニットに投入され、ケミカルプロセスが進行し、その後に製品およびその他の出力が取り出される。このバッチ生産は、新たな原料バッチを用いて繰り返し実施される。バッチ生産は、柔軟性の確保およびトレーサビリティ向上の目的から、医薬品やスペシャリティケミカルのような小規模プラントで一般的である。連続生産は汎用化学品や石油化学製品の製造に用いられることが多く、バッチ生産プラントはスペシャリティケミカルやファインケミカル、ならびに医薬有効成分(API)の製造でより一般的である。
ユニットおよび流体システム
特定の単位操作はそれぞれ対応する種類のユニットで実施される。常温・常圧で運転されるユニットもあるが、多くは高温または低温、高圧または減圧(参考:減圧蒸留装置)で運転される。化学プラントの容器は、両端が丸い円筒形(鏡板付き)であることが多く、高圧や真空に適した形状である。
化学反応器では、特定の化合物を別の化合物へと変換する化学反応が行われる。化学反応器には、流体が通過する間も固体不均一系触媒が器内に留まる充填層型のもの、あるいは単純な撹拌槽型のものがある。固体不均一系触媒の表面は、コークス等の堆積により触媒毒の影響を受けることがあり、触媒の再生が必要となる場合がある。良好な混合を確保するため、流動層が用いられる場合もある。混合(溶解を含む)、分離、加熱、冷却、またはそれらの組合せを行うユニット(またはサブユニット)も存在する。例えば、化学反応器にはしばしば撹拌装置が備えられ、温度維持のための加熱または冷却が行われる。大規模プラント設計では、化学反応により発生または吸収される熱の考慮が必須である。発酵や酵素生産などの生化学的プロセスのために、微生物培養ユニットを備えるプラントもある。

分離操作には、ろ過、沈殿、抽出または浸出、蒸留、再結晶または析出(後段のろ過または沈降を伴う)、逆浸透、乾燥、吸着などがある。沸騰や凝縮を含む加熱・冷却には熱交換器がしばしば用いられ、蒸留塔など他のユニットと組み合わせて使用されることが多い。原料、中間製品、最終製品、廃棄物を貯蔵するための貯槽も設けられる。貯槽には、充填量を示すレベル計が備わっているのが一般的である。大型ユニットおよび関連機器を支える支持構造物が設けられる場合もある。サンプリング、点検のためにユニット各所へアクセスできるよう、階段、はしご、足場などが設けられていることが多い。多数の貯槽が集積する区域は、特に油槽所において、タンクファーム・タンクヤードと呼ばれることがある。
液体および気体を輸送する流体システムには、各種径の配管・チュービング、流量の制御や遮断に用いる各種バルブ、液体を移送または加圧するポンプ、気体を加圧または移送する圧縮機などが含まれる。高温または極低温で運転される容器、配管、チューブ、その他の機器には、作業者の安全確保および内部温度の維持のため、断熱材が施されるのが一般的である。流体システムや各ユニットには、工場内の適所に温度・圧力センサや流量計などの測定装置が設置されているのが通例である。化学的・物性的特性を解析するオンライン分析計の導入も一般化している。溶媒は、反応物や固体などの材料を抽出・浸出のために溶解する、特定の化学反応のために適切な媒体を提供する、あるいはそれらを流体として取り扱えるようにする、といった目的で用いられることがある。
化学プラント設計

今日では、化学プラントの設計の根幹は化学工学者によって担われている。歴史的には必ずしもそうではなく、化学工学という学問分野が確立する以前には、多くの化学プラントが無計画に建設された。化学工学が専門職として最初に確立したのは英国であり、マンチェスター大学においてジョージ・E・デイヴィスが1887年に、産業化学の実務各分野を扱う12回の講義として初の化学工学課程を提供したことに始まる[6]。このため、ジョージ・E・デイヴィスは世界初の化学工学者と見なされる。今日、化学工学は専門職であり、経験を有する専門の化学工学者は、英国化学工学会を通じてチャータードエンジニア(CEng)の資格を得ることができる。
プラント設計において、新規設計アイデアのうち商業化に至るものは通常1%未満である。設計の探索過程では、一般に、費用対効果の検討が初期スクリーニングとして用いられ、採算性の低い設計が除外される。採算性が見込まれる場合には、安全性、環境制約、可制御性など、他の要因が検討される[2]。プラント設計の一般的目標は、所与の制約条件の近傍において最適設計を構築することにある[7]。
多くの場合、化学者は研究室で化学反応またはその他の化学原理を、一般に小規模のバッチ型実験で研究する。得られた化学情報は、化学工学者の専門知と併せて、ケミカルプロセスへと転換され、バッチサイズや処理能力がスケールアップされる。しばしば、設計および運転情報を得るためにパイロットプラントと呼ばれる小規模化学プラントが建設され、そのデータと運転経験に基づいて、より大きな能力を持つプラントが設計される。プラント設計の基本面が定まった後は、機械的詳細については機械系の、電気的詳細については電気系の技術者が、それぞれ関与する。ユニット、配管、その他機器の重量を支持できるよう、構造技術者が設計に関与することもある。
化学プラントまたはケミカルプロセスのユニット、ストリーム、流体システムは、きわめて簡略化されたブロック図(BFD)や、より詳細なプロセスフロー図(PFD)で表現され得る。ストリームやその他の配管は、物質の通常の流れ方向を示す矢印付きの線で表される。ブロック図ではユニットは単にブロックとして示されることが多い。プロセスフロー図では、ポンプ、圧縮機、主要バルブなどをより詳細な記号で示す。各ストリームの物質流量の想定値または範囲は、所望のプラント能力に基づき物質収支計算によって決定される。また、各点の反応熱、熱容量、想定温度・圧力に基づいてエネルギー収支が行われ、各所で必要となる加熱・冷却量の算定や熱交換器の容量設計がなされる。配管計装図(P&ID)は、全配管、チューブ、バルブ、計装を特有の記号で示し、化学プラント設計をより完全に表す。プラント全体を1枚のP&IDに示すのは複雑であるため、通常は個々のユニットまたは特定の流体システムごとにP&IDが作成される。
プラント設計においては、各ユニットは処理し得る最大能力に合わせてサイジングされる。同様に、配管、ポンプ、圧縮機、関連機器のサイズは、それらが処理すべき流量能力に応じて選定される。電力や用水などのユーティリティ系統も、プラント設計に含められるべきである。プラントやユニットの起動・停止といった非定常または代替運転手順のために、追加配管が必要となる場合がある。流体システムの設計では、漏えい等の問題発生時に区画を隔離できるよう、各ユニットまたはプラントの一部を囲むアイソレーションバルブが一般に配置される。
空気圧または油圧で作動するバルブを用いる場合、アクチュエータへの加圧供給ライン系が必要である。プロセスサンプルを採取する可能性のある地点には、詳細設計の段階でサンプリングライン、バルブ、アクセス経路を含めておくべきである。必要に応じ、サンプリング流の高圧・高温を低減するため、減圧弁やサンプルクーラ(試料冷却器)などの設備を設ける。
プラント内のユニットおよび流体システム(全ての容器、配管、チューブ、バルブ、ポンプ、圧縮機、その他の機器)は、安全率を含め、遭遇し得る全範囲の圧力、温度、その他条件に耐えうる定格または設計でなければならない。これらすべてのユニットと機器について、接触する化学物質への長期曝露に耐えうる化学的適合性の確認も必要である。加熱、発熱反応、特定のポンプや圧縮機など、機器の定格を超える加圧が生じ得る手段を備えたプラント内の任意の密閉系には、過圧防止のため、適切にサイジングされた安全弁を設けるべきである。これらのパラメータ(温度、圧力、流量等)は、重大な危険の既知リスクがないことを確認するため、HAZOP(危険と運転解析)やフォールトツリー解析(FTA)等により総合的に精査されるのが通例である。
課せられた制約条件の範囲内で、経済性を確保しつつ人員と周辺地域の安全・福祉を担保するよう、設計パラメータが最適化される。柔軟性のため、フィードストックや経済条件の変化に応じて再最適化が望ましい場合に備え、ある最適設計パラメータの周囲の範囲で運転できるよう設計されることもある。近年では、コンピュータシミュレーションその他の計算手法が、化学プラントの設計や最適化の支援に用いられている。
運転
プロセス制御
プロセス制御では、プラント内の各種センサや装置から自動的に収集された情報を用いて設備を制御し、プラント運転を制御する。かかる情報信号を受け取り、制御信号を出力して自動的に制御機能を果たす機器は、プロセスコントローラと呼ばれる。かつては空気圧式制御が用いられることもあったが、現在では電気式制御が一般的である。
プラントにはしばしば中央管理室があり、主要温度、圧力、流体の流量・液面、主要バルブやポンプ等機器の動作位置などのパラメータが表示される。加えて、制御室のオペレータは自動制御を上書き(介入)することを含め、運転の各側面を操作できるのが通例である。フィードストック組成の変動、製品仕様や経済性の変化、その他の制約の変化に基づき、利益最大化のために運転条件が再最適化され得る。
作業者
他の産業現場と同様、化学プラント施設でも部門・課・作業班などに組織化された多様な作業者が従事する。典型的な従業員には、技術者、プラントオペレータ、保全技術者が含まれる。その他、化学者、経営・管理部門、事務職員などが配置され得る。運転や保全に関与する技術者には、化学プロセス技術者、機械装置の保全を担う機械系技術者、電気・計算機装置を担う電気・計算機系技術者などが含まれる。
輸送
大量の流体フィードストックや製品は、パイプライン、鉄道タンク車、タンクローリーによって出入りすることがある。例えば、石油は一般にパイプラインで精製所へ輸送される。パイプラインは、石油精製所から近傍の石油化学プラントへ石油化学用フィードストックを輸送することもできる。天然ガスは、天然ガス処理プラントから最終消費者まで、パイプラインまたはチューブで輸送される製品である。大量の液体フィードストックは、通常、ポンプでプロセスユニットに送入される。少量のフィードストックや製品は、ドラム缶で出荷・受入れされることがあり、約55ガロン(約208 L)容量のドラムが工業用化学品の包装に一般的である。より小さなバッチのフィードストックは、作業者によりドラムや他の容器からプロセスユニットへ投入されることがある。
保全
原料投入、プラント運転、出荷に向けた包装・製品準備に加え、定常的およびトラブル対応の分析のためのサンプリング、定常・非定常の保全作業に従事する要員が必要である。定常保全には、定期点検、触媒の交換、分析計試薬、各種センサ、機械部品の交換などが含まれる。非定常保全には、問題の調査と修復(例えば、漏えい、フィードまたは製品仕様未達、バルブ・ポンプ・圧縮機・センサ等の機械的故障)が含まれる。
法令・規制遵守
化学物質を取り扱うに際しては、化学事故等の問題を回避するため安全が重要である。米国では、化学物質を扱う労働者に対し、取り扱うすべての化学品について物質安全データシート(MSDS)へのアクセスを提供することが雇用者に法的に求められている。特定の化学品の安全データシートは、供給者が化学品の購入者に作成・提供する。
化学安全、産業廃棄物、汚染に関するその他の法令も順守されなければならず、資源保全回収法(RCRA)、有害物質規制法(TSCA)といった成文法や、米国における化学施設対テロ基準などの規制が含まれる。危険物(Hazmat)対応チームは、化学物質の漏えい・流出への対応訓練を受けている。プロセスハザード分析(PHA)は、化学プラントにおける潜在的危険を評価するために用いられる。1998年には、米国化学安全委員会(CSB)が運用を開始した。
汎用化学プラントの集積
とりわけ汎用化学品や石油化学品の製造に用いられる化学プラントは、インフラ需要のため、世界の比較的少数の製造拠点に集積している。これは、特殊化学品またはファインケミカルのバッチプラントと異なる。すべての汎用・石油化学品が同一地点で生産されるわけではないが、産業共生を促し、物質・エネルギー・ユーティリティの効率化や規模の経済を得るため、関連する材料群が同じ場所に集まることが多い。こうした製造拠点には、ユーティリティや大規模インフラ(発電所、港湾施設、道路・鉄道ターミナル)を共有する化学プラント群からなる産業集積地が形成される。英国では、汎用化学品製造の主要拠点が4か所あり、イングランド北西部のマージー川流域、ヨークシャー東岸のハンバー川流域、スコットランドのフォース湾近郊のグランジマウス、イングランド北東部プロセス工業地域(NEPIC)の一部であるティーサイドが挙げられる[8]。
英国の石油化学品(汎用化学品でもある)の約50%は、ティーズ川河口の地域にあるウィルトン[9]、ビリンガム、シールサンズ3つの大規模化学工業地域(ティーサイド)で生産されている。
腐食と新材料の利用
化学プロセスプラントにおける腐食は重大な課題であり、毎年数十億ドル規模のコストを要している。酸性粉塵の存在やその他の電解作用により、金属の腐食は化学プロセスプラントで顕著である。近年では、構造材料として繊維強化プラスチック(FRP)が用いられている。英国規格BS4994は、容器やタンク等の設計・製作に広く用いられている。