左玉
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概要
左玉は、相居飛車での右玉と同じ意味で、相振飛車での左玉と呼んでいる。▲3八金(△7二金)で右辺を守る形になることが多い。この金をどう活用するかは常に意識する必要がある。志向的に2014年ごろから流行し始めた中飛車左穴熊に似たところがある。
相振り飛車戦においては、玉を右側に囲うと相手の飛車の攻撃を正面から受けることになるが、左側に囲うことで遠のかせることができる。左玉は「玉飛接近すべからず」という格言に反しているが、バランスが良く自陣に打ち込みの隙が生じにくい[5]。自玉の懐も広く、逃げ道が豊富という利点がある。右辺の薄さが欠点であるが、玉の遠さを生かし、飛車角銀桂や右辺での攻防で得た持ち駒で玉頭を攻めるのが狙いである。
| 9 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
| 香 | 桂 | 香 | 一 | ||||||
| 飛 | 角 | 金 | 王 | 二 | |||||
| 歩 | 歩 | 銀 | 金 | 桂 | 銀 | 三 | |||
| 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 歩 | 四 | ||
| 歩 | 歩 | 五 | |||||||
| 歩 | 角 | 金 | 歩 | 銀 | 歩 | 歩 | 歩 | 六 | |
| 桂 | 銀 | 歩 | 桂 | 七 | |||||
| 玉 | 金 | 八 | |||||||
| 香 | 飛 | 香 | 九 |
この他ひねり飛車戦において、ひねり飛車側が玉を左側に囲う戦略で左玉になる対局も存在している。一例としては右図の1983年第22期十段戦予選トーナメント、▲福崎文吾vs△谷川浩司戦の一局である。
陣形例
いずれも基本は自陣の右辺は金一枚で済ませて、飛を8九に転回させて、直接振り飛車側囲いの玉頭を狙う。
図1の田丸流は、田丸昇が愛用していた左玉。田丸は居飛車党相手の2手目△3四歩に3手目▲7八金として、相手に振り飛車にさせてから自分は向かい飛車に振る。図の田丸流は▲6七銀-5八金型であるが、▲6七銀-5七銀型で玉を6八に配備する金冠型の左玉も指している。 田丸流左玉は、特に相手が向かい飛車棒銀できた場合には、図の3九の銀を▲2八銀とあがって棒銀を抑える。振り飛車側が左銀を右方面に活用するならば田丸流側の右銀は5七に配備するなど、左側に使用する。
なお、6筋(後手なら4筋)の位が取れない場合は、先手であると角は8六(後手2四)に配備しての玉頭戦を行う。
図2は、高田尚平が著書で[1]松浦流銀多伝の構えと紹介されている左玉。松浦隆一が愛用していた。この左玉の駒組みは、先手で▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩と、相振り飛車の出だしに玉を▲7八に配したあと▲6五歩の位を取る。このとき相手の角道が開いていれば、角交換する。
その後は左辺の駒組みを図のようにしてから2八の飛車を5八→5九→8九と送るか、4八→4九→8九と回して左玉が完成となる。玉型が早くに整備されるので、相手が早く動いてきても▲2六歩からも戦えるが、難点は飛車を左に持っていくタイミングがけっこう難しいことであり、また左辺が駒組が完了するにはかなりの手数がかかるため、相手の右辺の攻撃態勢も整っていき、左玉まで安全に組み上げる前に飛車が居飛車の位置のままで戦いが起こる。
実戦的には振り飛車穴熊用の戦術である。
図3の細川流は、元奨励会員で安食総子女流初段の夫である細川大市郎の右玉の戦法書[6]に掲載されている、先手側から一手損角交換する▲6七銀型の対振り飛車左玉である。
▲7六歩△3四歩なら▲2二角成△同銀▲6八銀△3三銀に▲6六歩として、ここから後手が振り飛車にするにはダイレクト向かい飛車もしくは四間飛車+美濃囲いか穴熊(レグスペ型)などで、中飛車と三間飛車は左玉陣に対して戦いの争点ができず、結局は向かい飛車へ振ることが多いとしている。どの場合も先手左玉側は▲6五歩と6筋の位を早めに取り、▲6七銀~7八玉型にする。他の3枚の金銀のうち、基本的には図のように右金は3八であとの2枚で多伝に組むが、相手の陣形や態勢によって使いわけることになる。
この左玉は3手目をこちらから角交換なので、実戦では相手が角交換振り飛車にするかどうかはわからないことに留意。
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図4の高田流は、1990年代後半から高田尚平が指していた、対振り飛車オリジナル戦法。高田流の左玉は、基本的には対四間飛車の作戦、特に玉頭位取りの天敵のひとつである▲6六銀型(△4四銀型)四間飛車(四間飛車#四間飛車の種別先手6筋(後手4筋)位取り型四間飛車参照)対策として、開発されたものである。
高田がこの戦法を開発したきっかけは、四間飛車が玉頭位取り相手に組む位取り型四間飛車に対し、飛車先突破されないよういったん▲4八飛(後手△6二飛)と利かされるのを防ぎたかったからで、居飛車側から6筋/4筋の位取りを目指し、四間飛車側がその対策として腰掛銀型の陣に強要させれば、少なくとも飛車周りの利かされを回避できるとしたものである。そして▲5七銀型(△5三銀型)が四間飛車相手に6筋/4筋を守っており、また振り飛車の左銀は中央にもってこないとなれば、玉頭方面の位に働きかけてこられないとみたのである。
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高田流では田丸や松浦らと異なり、二段目を開けてダイレクトに飛を転回させる。玉頭位取りからの地下鉄飛車の展開は対振り飛車でもみられたが、これを最初から狙っていく。したがって、飛を横に使うことを意識しておく。
この攻撃態勢は、普通の相振り飛車の出だしから狙うこともできる。相振り飛車からの左玉のときは、▲6六角型、多伝型引き角両方可能で、相振り飛車からの左玉では、穴熊には相性が良いが、矢倉(右矢倉)には課題が多い[1]。つまりは相手が振飛車穴熊のときに特に有効となる。このため、穴熊対策の左玉として紹介もされている[7]。
四間飛車に振られたら、振飛車の玉側(左玉側が先手なら9筋)の端歩は早めに打診しておくのがよい。矢倉や角換わりの右玉と違い、特に穴熊ならば、左玉の玉頭や玉側の端から攻められることは、ほぼないからである。
相振り飛車の展開になりそうなので、序盤の飛先不突きは必須条件である。先手序盤で▲2六歩を突いている状態で相振り飛車状態にすると、▲2六歩が負担になるからであるが、一方で後手居飛車だと、飛先不突きになりやすいことから、実は後手番向きであって戦略的には千日手歓迎姿勢で取り組む。また。角交換を要求して角交換相振飛車にする、などの戦略も活用できる。角交換は歓迎の戦法である。
四間飛車側は、あっさり玉頭位取りの理想形にされるわけにはいかないので、さまざまな反発手段がある。それぞれに対応すると、高田流は玉側に飛車を振る型の他にも、意外とバリエーションが出てくるのが特徴で、相手に対してある程度のパターンがあり、使い分けている。
一般的に紹介される高田流は図4-1のような▲6五歩・6六角型を基本としているようだが、厳密にはこれは振り飛車穴熊に対する作戦である。もともと振り飛車側は振り飛車穴熊を、玉頭位取りに対して、玉頭の圧力を緩和するという意味で有力視していた。この振り飛車穴熊に対して図4-1の6六角型に組もうというのが高田流左玉。つまり変幻位取り戦法と高田流左玉は1つのセットの作戦となっており、高田氏はこれらを場合分けして活用しているのである。そして、▲6五歩・▲6六角型の位取りは、後手振り飛車側が美濃であると△6四歩▲同歩△6五歩があり、▲同銀であると△5四銀がある。このため、多くの対局では図4-2のような銀を縦に並べる銀多伝式を多く採用しているが、この銀多伝では振り飛車側は主に石田流三間飛車を採用していることが多い。
高田流の基本的な流れを先手側からみると、▲5六歩→5七銀→7八銀→6六歩→6七銀と2枚銀にしてから、▲7五歩→7六銀の順で組んでいる。つまり、居玉のままでまず左右の銀を中央に上がる。どちらが先でも構わない。常に飛車が横移動できるよう、2段目を開けておくのである。次に▲6六歩で6筋位取りを目指す。後手振り飛車側はここで△6四歩、△4五歩、△5四銀といった有力手がある。ただし、▲6五歩の位取りはあまり急がない。相手が△6四歩などとしてきた場合には▲7五歩~▲7六銀~と7筋の位を取る。つまり、6筋か7筋のどちらかの位を取るのである。
そして、振り飛車側が左銀を△4四銀と飛車先に使うなら、左玉側は▲6八飛~▲6五歩(図4-3)として、6筋からの反撃をも念頭にしておく。この後、後手陣は非常に囲いにくいが、放っておくと木村美濃や振り飛車ミレニアム囲いにはできるので、左玉側の方が攻撃態勢があるうちに戦端を開くのである。このとき、6筋の歩が切れているので、終盤に底歩▲6九歩なども念頭に入れておくほか、居玉での▲6五歩は、常に考えておく。ただしこの攻撃態勢は玉の位置は▲7八金~▲7九玉で支障はないが、薄いうえに▲5七銀も浮いているため、相手からの反撃に注意も必要となる[1]。
6筋位取りの牽制手段は他に△4五歩がある。この場合でも、左玉側は基本形を狙うが、銀の組み方は途中は▲7七銀[1]:40と▲6七銀[1]:57とがある。また、二段目を素通しにしている組み方であると、7筋の位に反発の動きがあれば▲7八飛もある。
一方で図4-3の局面に左玉側が持っていく前に、早くに△5四銀型と備えられた場合は、▲6八飛ではなく玉頭位取りにシフトする。これは前述の棒銀突破の飛車先位取り型の四間飛車が回避できたためで、このことから、これらの戦術を変幻位取り戦法と呼んでいるのである。そして飛車先を伸ばしてから、穏やかに玉を囲う。
2枚の銀の配置は右銀が▲5七銀か▲6六銀、左銀が▲6七銀か▲7六銀が基本形としており、二枚の銀で広い利きを持たせる。▲5七銀、▲6七銀の形からは▲6五歩と位を取る手が成立することが多い[1]:58。ただし駒の連結・離れ駒に注意が必要である[注釈 1]。
高田は前述のとおり最初は純粋の居飛車で玉頭位取りを指していたが、そのうちに飛車先の歩を伸ばす手を玉頭方面に費やした方がいいのではという発想から、高田が変幻位取りと呼んでいる戦法を開発したことからである。ここまでで変幻位取り戦法とは、相手が四間飛車美濃ならば、相手が△4四銀型+高美濃ならば、▲6八飛で6筋制圧を目指し、相手が△5四銀型+美濃ならば、通常の玉頭位取り戦法が利用できる。相手が四間飛車穴熊にするならば、相手歩交換無しなので6六角型が可能の高田流左玉6六角型であり、基本的に相手が振り飛車穴熊模様ならば、6筋の位が取れる。▲6六角の形を作ってから▲8八飛から▲8四歩△同歩▲同飛△8三歩▲8九飛、である。相手が三間飛車石田流ならば、引き角にして、△6四歩▲同歩△6五歩対策に高田流左玉銀多伝にする、といった流れである。
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△中原 持ち駒 角2歩
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図5-1は、中原誠が愛用して中原流と呼ばれる、高田の著書[1]で紹介されている形。5七の地点を厚くしている。5三銀型の振り飛車を想定し、角で相手陣の5三の地点をのぞいている布陣。
なお、図5-2のとおり第34期名人戦第7局で、中原は図のように振り飛車相手に飛車を玉の側に展開した指し方をしている。図5-2で▲4七銀などと指すと、後手から△1六歩▲同香△2五角の狙いがある。