氷VI

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氷VI(こおりろく、ice VI)は、高圧で生じる氷多形のひとつ。液体の水を室温で加圧していくと、1 GPa程度に達した時点で結晶化する。パーシー・ブリッジマンにより1912年に発見された[1]

室温、約1 GPaにおいてサファイアアンビルセル中で成長させた氷VIの単結晶

分光学的データから、天然ダイヤモンド中の包有物として氷VIが含まれる可能性が指摘されている[2]が、氷VIIと異なり、結晶構造に基づく同定が行われたわけではないため、鉱物としては認定されていない。


相関係

水の相図上に示した氷VIと隣接相の三重点。相境界曲線および三重点の値は Dunaeva et al. Solar System Research 44 202 (2010)中にまとめられた値によるもの[3]

氷VIは、室温においてはおよそ1 GPa以上で安定であり、より低圧側の安定相は氷IIおよび氷V、より高圧側の安定相は氷VIIおよび氷VIIIである。ブリッジマンの測定によれば、水・氷VI・氷VIIの三重点は、22,400 kg cm-2 (2.19 GPa), 81.6°C (354.8 K)に位置し[4]、その後、ダイヤモンドアンビルセルを用いた測定でもほぼ同一の値が得られている[5]。 また、2011年版のIAPWSでは、この三重点の位置は355 K, 2.216 GPaとされている。[6]

結晶構造

c軸方向から見た氷VIの結晶構造。黒/白の球はそれぞれ酸素/水素原子を示す。VESTAを用いて描画。

氷VIは正方晶系に属し(a=6.27 Å、 c=5.79 Å)、P42/nmcの空間群をもつ[7][8]。二つの独立な水素結合ネットワークが相互貫入した構造をもち、その密度は液体窒素温度で常圧に回収した試料において1.31 g/cm3である。水素原子の位置を含めた特に詳細な結晶構造は、W. Kuhsによる中性子回折実験によって報告されている[9]

氷VIは水素無秩序相であり、すなわち各酸素サイトを取り囲む4つの水素サイトの占有率はそれぞれ50%である。

状態方程式

室温における氷VIの状態方程式はBirch-Marnaghanの式を用いて以下が報告されている。V0は0 GPaにおける体積、K体積弾性率K'はその圧力微分である。また450 Kまでの高温領域におけるデータからαは熱膨張係数も求められている。

さらに見る V0, K0 (GPa) ...
Bezacier et al. (2014) [10]によるH2O 氷VIのBirch-Marnaghan状態方程式
V0K0 (GPa)K'0α(K-1)
cm3 mol-1Å3 [unit cell volume]
14.17(2)235.298(33)14.05(23)4 (fixed)14.6(14)
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また、別の表式としてMie-Grüneisen の式[11]を用いた状態方程式も提案されている。この状態方程式では0 Kにおける体積の圧力依存性の項に、温度に由来する圧力変化(thermal pressure)を加えるという方法で温度-圧力-体積関係を記述する。

さらに見る V0, K0 (GPa) ...
Journaux et al. (2020) [12]によるH2O 氷VIのMie-Grüneisen状態方程式
V0K0 (GPa)K'0γ0q
cm3 mol-1Å3 [unit cell volume]
13.62(2)226.165(33)15.2(3)6.5 (fixed)1.41
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氷XV

氷XVは、2009年にChristoph Salzmannらによって報告された、氷VIの水素秩序相であり、HClをドープした氷VIを冷却することによって得られる[13][14]。Salzmannらの構造解析によれば、空間群はP-1であるが、ほかにもKomatsuらによってPmmn構造が提案されている[15]。氷VIからXVへの相転移はc軸の伸長を伴い、結果として単位胞体積がわずかに増加することから、高圧下では極めて遅い。そのため、この相転移は液体窒素下において常圧に回収した試料を再度135 K付近まで加熱したのちに再冷却することでもっとも効率よく進行する[16]。高圧下で作成された氷XVは、水素秩序度が高くないため、常圧で加熱すると、まず水素秩序化がある程度進行したのち、氷VIへの無秩序化が起こる(transient ordering)。実験では、徐冷することで水素秩序度を向上することができるが、完全に秩序化した氷XVは未だかつて得られていない[17]。HCl以外にも、HFやHBrをドープした試料において氷VI–XV転移が観測されているが、HClを用いた場合に、もっとも水素秩序度の高い試料を得ることができることがわかっている[18]

密度汎関数理論を用いた理論計算では、空間群Ccをもつ強誘電的構造が最も安定であると予測される[19][20]が、実験から提案された構造は反強誘電的であった。ただ、複数の計算結果から、ありえる水素秩序構造間のエネルギーは近接していることが示唆されており、Komatsuらはこれをもとにして、複数の配置への構造変化が共存しうる可能性を指摘した。

氷XVの報告以前にも、氷VIを冷却した際に構造変化が生じることは知られていた。例えば、Johari and Whalleyは1979年に、誘電測定に基づいて123.1-127.8 Kにおいて非常に遅い構造変化が進行し、252日後にも完了していなかったことを報告している[21]

氷XIX

氷XIXは、氷XVが生じるよりも高い圧力で氷VIを冷却した際に生じる、氷VIに関連する第二の低温相であり、2018年の初報告から2021年までの間は、β-XVと呼ばれていた。

Gasserら(インスブルック大学 Thomas Loertingの研究グループ)は、熱測定や分光測定、中性子回折測定などに基づき、氷XIXを、氷XVとは水素配置の異なる第二の水素秩序相であると主張している[22][23][24][25][26][27]。また東京大学のYamaneらも、誘電測定および中性子回折測定から、氷XVとXIXの境界圧力を1.6 GPaと決定し、構造は水素秩序化していると結論づけている[28][29]。Gasserらは当初、氷XVより低温側に氷XIX(β-XV)の安定領域が存在するような相図を提案していたが、最新の論文(文献[27])を参照するに、Yamaneらの提案するような、高い圧力によって氷XIXが誘起されるような相関係へと解釈を変更したようである。

一方、Rosu-Finsenら(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Christoph Salzmannの研究グループ)は、中性子非弾性散乱や熱測定、中性子回折などに基づき、氷XIXは氷VIの「Deep Glassy State」であると主張している[30][31][32]。これによれば、氷XIX中の水素配置の秩序化では、熱測定に現れる特徴的な挙動を説明できず、また、水素結合ネットワークに歪みを加えることで、中性子回折パターンを再現できるとしている。

2025年現在、これらの論争は決着していない。

脚注

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