超実数

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超実数(ちょうじっすう、: hyperreal number)または超準実数(ちょうじゅんじっすう、: nonstandard real number)は、実数体の拡張として導入される数体系の元であり、無限小や無限大に対応する元を含む。超実数全体はしばしば {}^*R と書かれ、超準解析における基本的な対象である。[1][2]

超実数の重要な特徴は、実数について成り立つ一階述語論理の命題が、その自然な解釈のもとで超実数についても成り立つという移行原理: transfer principle)を満たすことである。これは、ライプニッツの「連続の法則」を現代モデル理論の枠組みで厳密化したものとみなされる。[3][4][5]

概要

超実数体 {}^*R は実数体の順序体拡大であり、実数体を部分体として含む。[3][4] 超実数体には、任意の正の実数より絶対値が小さいが 0 ではない元が存在し、そのような元を無限小という。また、任意の自然数より大きい元が存在し、そのような元を無限大元という。したがって、超実数体はアルキメデスの性質を満たさない。[2][3]

有限な超実数とは、ある実数 r を用いて |x| < r と評価できる超実数である。有限超実数は加法・減法・乗法について閉じており、無限小全体もまた加法・減法・乗法について閉じている。[5]

超実数は一般に一意に定まる体系ではなく、いくつかの構成法がある。代表的なものは、実数列の超冪による構成である。[4][3]

「hyper-real」という語は、エドウィン・ヒューイットが 1948 年に用いた。[6]

移行原理

移行原理とは、実数体について真である一階論理の文が、対応する超実数体についても真であるという原理である。たとえば

のような加法の可換則や、

のような体の公理は、超実数についても成り立つ。[4][3]

一方、移行原理が適用されるのは一階論理で表現できる性質に限られる。そのため、実数と超実数はまったく同じ構造ではない。たとえば超実数体には、任意の自然数より大きい元が存在しうる。[3][4]

超冪による構成では、移行原理はŁoś の定理の帰結として得られる。[3]

有限超実数と標準部

有限な超実数 x に対して、x と無限小だけ異なる実数がただ一つ存在する。この実数を x標準部といい、通常 st(x) と書く。すなわち、

が無限小であるような実数 st(x) が一意に存在する。[4][5]

標準部写像は、有限超実数 x, y に対して

を満たす。また、x が有限かつ無限小でなければ

が成り立つ。[5]

標準部の存在により、有限超実数は「ある実数に無限小だけずれたもの」とみなすことができる。この見方は、超準解析において無限小を用いた計算結果を通常の実数値へ戻す際の基礎になる。[4][5]

解析学における利用

超準解析では、極限、連続性、微分、積分などの概念を無限小を用いて記述できる。たとえば、実関数 f が点 a で連続であることは、xa に無限小だけ近いならば f(x)f(a) に無限小だけ近い、という形で述べられる。[1][5]

このような特徴づけは、極限を用いる通常の定義と同値である。非標準モデルを導入することで、有限から無限への移行に関わる多くの概念を、無限小や無限大を用いた簡潔な形で表せる。[1][4]

微分

関数 の点 における導関数は、非零の無限小 を用いて

と表すことができる。[5]

たとえば に対しては、

となるので、

を得る。[5]

この定義は、無限小の平方のような高次の無限小が、一次の無限小に比べて無視できるという直観を、標準部によって厳密化したものとみなせる。[5]

積分

定積分も、超準有限個の区間分割に対する和の標準部として表すことができる。たとえば、正の無限大超自然数 H を取り、

とおくとき、

のように記述できる。[5][7]

この種の和は超準有限和と呼ばれ、超準解析では有限和と類似した操作を保ったまま積分を扱うことができる。[5][1]

構成

超冪による構成

超実数の代表的な構成法は、実数列全体 RN から商をとって得る方法である。まず実数列に項別に加法・乗法を定めると、RN は可換環になる。定数列を通じて実数体 R はこの環に埋め込まれる。[4][3]

次に、自然数上の自由超フィルター U を 1 つ固定し、2 つの実数列 (a_n), (b_n) に対して

と定める。この同値関係で割った商が、実数体の超冪としての超実数体である。順序も同様に

によって定められる。[4][3]

この構成によって得られる超実数体は、実数体の初等拡大になり、移行原理が成り立つ。[3]

典型的には、数列

は無限大元を、数列

は無限小元を与える。もっとも、どの数列がどの超実数を表すかは、選んだ自由超フィルターに依存する。[5][3]

定義可能なモデル

超実数は一般には一意ではないが、ウラジーミル・カノヴェイサハロン・シェラハは 2004 年、ZFC のもとで、実数体の定義可能な可算飽和初等拡大が存在することを示した。[8]

この結果は、超実数のモデルが必ずしも「定義不可能な対象」に依存するわけではないことを示すものとして言及されることがある。[5][9]

歴史

微積分学の初期には、ライプニッツニュートンによって無限小的な量が用いられたが、その論理的地位は長く明確ではなかった。19 世紀には極限に基づく厳密化が主流となり、無限小は数学の主流的な基礎づけからは後退した。[10]

20 世紀に入り、ロビンソンがモデル理論を用いて超準解析を構築し、無限小を含む議論を厳密な数学として再定式化した。これにより、古典解析と整合的な形で無限小を扱う理論的基盤が与えられた。[4][1]

関連項目

出典

参考文献

外部リンク

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