サーチュイン1
From Wikipedia, the free encyclopedia
サーチュイン1(英: sirtuin 1、SIRT1)は、ヒトではSIRT1遺伝子によってコードされているタンパク質である[5][6][7]。
SIRT1は、最初に発見されたサーチュインである出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのSir2のホモログである。主に細胞核に位置し、細胞機能の調節(特にストレス応答や長寿)に寄与する転写因子の脱アセチル化を担う酵素である[8][9]。
機能
SIRT1はサーチュインファミリーの一員であり、出芽酵母のSir2のホモログである。サーチュインファミリーのメンバーはサーチュインコアドメインによって特徴づけられ、さらに4つのクラスに分類される中でSIRT1はクラスIに属する。酵母のサーチュインタンパク質はエピジェネティックな遺伝子サイレンシングを調節し、またリボソームDNA(rDNA)の組換えを抑制することが知られている[6]。
SIRT1はインスリン抵抗性が高い細胞でダウンレギュレーションされている[10]。SIRT1は、代謝調節に必要不可欠な転写因子であるPGC-1α/ER-α複合体の両者を脱アセチル化し、その活性に影響を及ぼすことが示されている[11][12]。また、SIRT1はp53タンパク質を脱アセチル化し不活性化することがin vitroで示されており[6]、Th17細胞の活性化にも関与している可能性がある[13]。
ホモログの機能
SIRT1の酵母ホモログであるSir2は、最初に発見されたサーチュインである。サーチュインファミリーは高度に保存されており、研究されているほぼすべての生物でこのファミリーに属するタンパク質が発見されている[14]。サーチュインはストレス(熱や飢餓など)に対する応答に重要な役割を果たしており、またカロリー制限による寿命伸長効果を担っていると考えられている[15][16]。
作用機序と観察される影響
サーチュインは主に、NAD+の存在下において、タンパク質内のアセチル化されたリジン残基からアセチル基を除去することで作用する。そのため、NAD+依存性脱アセチル化酵素に分類される[17]。サーチュインはタンパク質からNAD+のADP-リボース部分へアセチル基を転移し、O-アセチル-ADP-リボースを形成する。Sir2のヒストン脱アセチル化活性は標的遺伝子座のクロマチン構造のパッケージングをより強固なものにし、転写の低下をもたらす。こうしたSir2のサイレンシング活性はテロメア領域、HM遺伝子座、rDNA遺伝子座(RDN1)において最も顕著である。
酵母細胞の寿命を母細胞が細胞死までに行う細胞分裂の回数として定義して測定した場合、Sir2の限定的な過剰発現は約30%の寿命伸長効果をもたらす。また、Sir2の欠失は寿命を50%短縮させる[18]。特に、HM遺伝子座においてSir2はSir3やSir4と複合体を形成してサイレンシング活性を発揮し、双方の接合型遺伝子が同時に発現して不稔や寿命短縮が生じることを防いでいる[19]。さらにrDNA遺伝子座におけるSir2活性はERC(extrachromosomal rDNA circle)と呼ばれる環状DNA形成の減少と相関している。ERCはrDNAの反復配列間での相同組換えによって形成されるが、Sir2活性によるクロマチンサイレンシングは相同組換えを低下させる。ERCの蓄積は酵母の「老化」の主要な機構であると考えられており、そのためSir2の作用によるERC蓄積の防止が酵母の長寿に必要な因子となっていると考えらえている[19]。
酵母細胞は飢餓条件下でも同様に寿命が伸長するが、実際に飢餓によって利用可能なNAD+量の増大とニコチンアミドの減少が引き起こされ、そのどちらもがSir2活性の亢進に寄与している可能性がある[20]。さらに、SIR2遺伝子の変異によってカロリー制限による寿命伸長効果は消失する[21]。線虫Caenorhabditis elegansやキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterで行われた実験でもこうした知見は支持されている[22]。一方で、一部の研究ではこうした解釈に疑問を生じさせる結果も得られている。酵母細胞の寿命を非分裂段階での生存時間として定義して測定した場合、SIR2遺伝子のサイレンシングは寿命の伸長をもたらすこととなる[23]。さらに、Sir2が存在しない場合でもカロリー制限によって寿命が大きく伸長することを示す結果も得られている[24]。
キイロショウジョウバエではSir2は必須ではなく、遺伝子の喪失は非常にわずかな影響を及ぼすのみである[25]。一方、Sirt1遺伝子を欠失したマウスは出生段階で正常なマウスよりも小さく、多くの場合早期に致死もしくは不妊となる[26]。
SIRT1の阻害
ヒトの老化は慢性的な低レベルの炎症によって特徴づけられ[27]、炎症と関連した遺伝子の主要な転写調節因子となっているのはNF-κBである[28]。SIRT1はNF-κBのRelA/p65サブユニットのリジン310番を脱アセチル化することで、NF-κBによって調節されている遺伝子の発現を阻害する[29][30]。一方で、NF-κBはより強力にSIRT1を阻害する。NF-κBはマイクロRNAmiR-34aのプロモーター領域に結合することで発現を高め、miR-34aはSIRT1のmRNAの3' UTRに結合することで発現を抑制する[31]。
SIRT1とPARP1は、どちらも活性化にNAD+を必要とする酵素である[32]。PARP1はDNA修復酵素であり、そのためDNA損傷が大きい条件下ではNAD+濃度は低下し、それによってSIRT1の活性も20–30%低下する[32]。
相同組換え
選択的リガンド
活性化因子
- ラミンAは早老症に関する研究において、SIRT1を直接的に活性化する因子として同定された[35]。
- レスベラトロールはSIRT1の活性化因子であるという主張があるが[36]、当初使用されていた活性アッセイでは非生理的な基質ペプチドが用いられていたため実験的アーティファクトである可能性があり、その作用については議論がある[37][38]。レスベラトロールはSIRT1の発現を高め、すなわち必ずしも直接的な活性化ではない形でSIRT1の活性を高めている可能性がある[10]。その後、人為的改変がなされていない基質ペプチドに対してもレスベラトロールがSIRT1を直接活性化することが示された[39][40]。また、レスベラトロールはSIRT1とラミンAとの結合も強化する[35]。レスベラトロール以外にも、さまざまな植物由来ポリフェノールがSIRT1と相互作用することが示されている[41]。
- SRT-1720は活性化因子としての主張がなされたが[36]、現在ではその効果は疑問視されている[42]。
- メチレンブルーはNADH/NAD+比を高めることでSIRT1を活性化する[43]。
- メトホルミンはAMPKとSIRT1の双方を活性化する[44]。
- ミリカノールはSIRT1を活性化する[45]。
レスベラトロール、そしておそらくSRT-1720はAMPKを活性化し、AMPKがSIRT1の活性に必要な補因子であるNAD+の濃度を高めることで間接的にSIRT1を活性化する[46][47][48]。NAD+濃度の上昇は、SIRT1を活性化するための信頼性の高い手法である[48]。
阻害因子
- 4-ブロモレスベラトロール
- セリシスタット