Wikiwand AI

モナリザ・オーヴァドライヴ

ウィリアム・ギブソンのSF小説 From Wikipedia, the free encyclopedia

『モナリザ・オーヴァドライヴ』(Mona Lisa Overdrive)は、ウィリアム・ギブスンによる長編SF小説。

1988年に初版が出版された。日本語訳での初出は1988年の早川書房。

概要

ギブスンの長編3作目。1989年のネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞にノミネートされた。

ギブスンの長編第1作『ニューロマンサー』、第2作『カウント・ゼロ』から続く〈スプロール・シリーズ〉(電脳三部作)の完結編。

前作『カウント・ゼロ』と同様、複数のストーリー・ラインと主人公からなり、最初は無関係だったそれらの物語が次第に関連しながら進行していく構成になっている。

あらすじ

『カウント・ゼロ』から8年後。『ニューロマンサー』から15年後。

ヤクザの巨頭(ウォーロード)の娘・久美子は、母の自殺後、内部抗争を避けるために父によってロンドンに送られる。父が持たせてくれたマース=ネオテク製のユニットが携帯式AIのコリンであることに気づいた久美子は、ロンドンでの保護役のスウェインが何やら陰謀を企てていることを知る。そして眼窩にミラー・サングラスを埋め込んだ女性サリイと出会い……。

廃棄物埋め立て地で廃品からロボットを組み立てることに没頭している青年スリック・ヘンリイは、奇妙な機械に繋がれて昏睡状態にある男の身柄を預かる羽目になる。看護役のチェリイ・チェスターフィールドによると、男は「伯爵(カウント)」と呼ばれている人物であるらしい。スリックの同居人でマトリックスの「外形」の探索に執念を燃やしているジェントリイは、男と装置に並々ならぬ関心を抱き……。

アンジェラ・ミッチェルはロアの導きによってセンス/ネット社の疑験アイドルのトップに昇りつめていたが、恋人ボビイの失踪により麻薬中毒に陥っていた。その治療を終えた保養地で、久方ぶりにロア・ブリジットからの交信を受けたアンジイは、何者かが彼女の脳内に描かれた生体素子に改変を加えてロアとの交信を途絶させようと目論んでいることを告げられる……。

不法居住区で売春して日銭を稼ぐ日々を余儀なくされている少女モナは、ヒモでポン引きのエディから「でかい仕事」を請け負ったと聞かされて、スプロールへ連れ出されるが……。

つながりを絶たれ、漂流するかれらの行き着く先とは。

登場人物

久美子(クミコ)
谷中久美子。13歳。ヤクザの巨頭(ウォーロード)の娘。父によって抗争を避けるためにマース=ネオテク製のAIコリンを持たされてロンドンへ送られる。精神を病んでいた母が自殺したことが心のわだかまりになっている。
スリック・ヘンリイ
廃棄物埋立地「ドッグ・ソリチュード」の只中にある廃屋「ファクトリイ」で、廃物から巨大なロボットを組み立てることに没頭している青年。かつて自動車泥棒の罪により短期記憶を喪失する「コルサコフ法」の執行を受け、そのトラウマに苦しめられている。
アンジイ
アンジェラ・ミッチェル。センス/ネット社の疑験トップアイドル。父が脳内に埋め込んだ生体素子によってマトリックスの神々「ロア」と交信する能力を持っていたが、恋人のボビイ・ニューマークの失踪後、麻薬中毒に陥り、そこから回復した時には何者かによって交信能力を損ねられていた。
モナ
モナ・リザ。おそらく16歳。「SINなし」(個人識別番号なし/「罪」なし)。クリーヴランドの田舎からエディによって連れ出されたが、それからはマリブの不法居住区で売春して日銭を稼ぐことを余儀なくされていた。アンジイに憧れており、どこか彼女に似た容貌を持つ。
サリイ
サリイ・シアーズ。眼窩にミラーサングラスを埋め込んだ、職業婦人(ビジネスウーマン)を名乗る剣呑な女性。何者かに脅迫されて、スウェインの陰謀に加担することを強いられている。
コリン
素子幽霊(チップ・ゴースト)。久美子が父から渡されたマース=ネオテク製の携帯式ユニットに内蔵された最新型AI。ロンドンにまつわるあらゆる情報がインプットされており、久美子をサポートする。
スウェイン
ロジャー・スウェイン。ロンドンの黒幕(フィクサー)で、谷中の子分。久美子をロンドンで保護する役目をおおせつかるが、何者かとの取り引きによって怪しい動きを始める。
ペタル
スウェインの副官。大柄な体格に叩き潰された鼻、優しく悲しげな目。久美子の身の回りの世話をする。
ティック
ロンドンのコンピューター・カウボーイ(ハッカー)。短躯に油染みた巻髪、白いスーツ。サリイの旧知で、サリイとスウェインを脅迫している何者かの背後関係の調査を任される。
ジェントリイ
トマス・トレイル・ジェントリイ。ソリチュードにある廃屋「ファクトリイ」の実質的な家主。痩せて、とさかのように逆立てた髪、ギラギラした目。マトリックスには外形があるというアイデアに取り憑かれており、それを追究することに執念を燃やしている。
チェリイ
チェリイ・チェスターフィールド。ブロンドのみだれ髪にきつね顔。医療技術者(メディテク)の免許持ちであったことから「伯爵」の看護役を任され、ファクトリイへ送られる。
謎の男
スリックが身柄を預かる羽目になった、奇妙な装置に繋がれて昏睡状態にある男。チェリイによると「伯爵(カウント)」と呼ばれている人物であるらしい。
ヒルトン・スウィフト
センス/ネット社の重役。麻薬漬けになったアンジイの健康を気遣い、その復帰を歓迎する。
ポルフィール
アンジイのヘア・デザイナー。軽薄な芸術家然とした態度を装っているが、アンジイの身を深く案じている理解者。
ロビン・レイニア
センス/ネット社の俳優で、疑験番組上のアンジイの相手役。アンジイは気が狂っており「声」を聞く、という噂を吹聴しているらしい。
撮影連鎖(コンティニュイティ)
センス/ネット社のAI。生体素子により構築された新型で、フィードバックループによる自我意識を持つ。
エディ
モナをクリーヴランドから連れ出し、マリブの不法居住区で売春させて日銭を稼がせていたヒモでポン引き。大きな仕事(ビズ)に関わることに執心している。
プライアー
エディと取引してモナをスプロールに連れ出したスーツ男。髭がわざとらしい。
ジェラルド
スプロールの中国人闇医者。
フィン
かつてのスプロールの故買屋。スプロールの辻占いと化している。
3ジェイン
3ジェイン・マリー=フランス・テスィエ=アシュプール。テスィエ=アシュプール一族の最後の一人。
ママ・ブリジット
ロア(電脳神)の一人。ロアとの交信を絶たれたアンジイに唯一語りかける。

用語

ヴェヴェ
アンジイの脳内に埋め込まれた生体素子が描く「図」。これによりアンジイはデッキに依らずにマトリックスにアクセスし、ロアと交信することができた。
クー・プードル
アンジイに盛られた「毒」。脳内のヴェヴェを書き換え、アンジイがロアと交信できないようにした。
ドッグ・ソリチュード
廃棄物が何層にもわたって埋め立てられてできた広大な湿地帯。ここに溜まった水は有害で、飲むことはできない。奇矯な住人が散在して住んでいる。
ファクトリイ
ソリチュードの只中にある、ジェントリイ、スリック・ヘンリイらの住処。冬となればシャワーは使えず、電力はジェントリイが原子力発電所のデータを改竄して不法に送電させることで賄っている。
コルサコフ法
神経(ニューロン)操作により短期記憶を失わせる処置法。これを施されると5分以上の記憶を持続できなくなり、切れ切れの恐怖と混乱の印象だけが後に残る。軽犯罪への刑罰として用いられていたが、現在では使われていない。
センス/ネット
財閥企業。かつて疑験アイドルのタリイ・アイシャムを抱え、現在はアンジェラ・ミッチェルがトップアイドル。
マース=ネオテク
前作におけるマース生命工学(バイオラボ)。生体素子により現在では市場の覇権を握っており、マトリックス・デッキなども最新鋭のものは同社製となっている。
テスィエ=アシュプール
かつての高軌道財閥一族。現在はすっかり解体されて消失している。アンジイはママ・ブリジットの啓示によってこの社の存在を知る。
マトリックス
電脳空間。人類が生み出したデータの総計を視覚象徴化した共感覚幻想。存在する情報の「全て」である以上、そこに輪郭(外)はないはずだが、「マトリックスには外形がある」という奇妙な観念が一部のコンピューター・カウボーイの間で取り沙汰されている。
ロア
ブードゥーの神々を名乗る電脳神。15年前にあるきっかけがあってマトリックスそのものが自意識に目覚め、その後に全体が部分に割かれていくことで誕生した。
アレフ
生体素子の集積による膨大な記憶容量を持った装置。そこには事実上、何があってもおかしくない=あらゆるものがある、とされ、宇宙そのものの近似物が収まっていると噂される。
(その名前とコンセプトはアルゼンチンの幻想文学作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編「アレフ」に由来する)

脚注

関連項目

Related Articles

Timelines

Top Qs

Fact Checks