獅子の門
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『獅子の門』(ししのもん)は、夢枕獏による格闘小説。月刊『小説宝石』(光文社)において1984年から長期の休載を挟み2014年まで連載。キャッチコピーは「スーパー・バイオレンス小説」。表紙と本文のイラストは漫画家の板垣恵介。単行本は全8冊がカッパ・ノベルス(光文社)より刊行。また第1巻から第3巻までは文庫版も発売されている。
性格も出身地も全く異なる芥菊千代、志村礼二、竹智完、室戸武志の4人の少年が、それぞれ格闘技に出会って鍛錬を積み、やがて互いを知りしのぎを削り合うという本筋に、サブキャラクター達が展開する複数のサイドストーリーが絡んでいく。なお、1980年代の連載当初は、この4人に加え加倉文平も含めた5人の少年が主人公だった。また羽柴彦六に関しては夢枕獏いわく、主役として好き放題にやらせたくなってしまうキャラクターなので(少年達から主役の座を奪わないよう)注意が必要だと単行本のあとがきで述べている。
第3巻までは本文イラストなしだったが、第4巻の刊行にあたって漫画家の板垣恵介がイラストを描くことになり、これに併せて既刊分も板垣のイラストで一新、再刊された。これはそもそも板垣恵介が漫画版『餓狼伝』(夢枕獏原作)に久我重明を出演させたことがきっかけであった。巨人の松井秀喜のような顔をした漫画の久我重明を見た夢枕獏はあまりにもイメージ通りなのに感激し、『獅子の門』もぜひ板垣に漫画化してほしくなったと単行本のあとがきで漏らしている。なお漫画版『餓狼伝』での久我重明は、古武術ではなく空手の使い手として登場する。
主要人物
- 芥 菊千代(あくた きくちよ)
- 海辺の町に住む中学生で、気性の激しい母親との2人暮らし。内向的な性格で対人恐怖症の気があり、他人との会話が苦手。また右腕が左腕に比べて3センチほど長いことにコンプレックスを感じている。このため独りでいることが多かったが、空手家の鳴海俊男との出会いに触発されて空手を始める。
- 運動神経や体格には特に秀でたところはないが、苦痛への耐性は人並みはずれており、長時間の反復練習を全く苦にせず、試合でも異常なまでのタフネスを発揮する。得意技は相手のガードをも突き崩す連撃と、リーチが長く強靭な右腕から繰り出されるストレート。
- 竹智 完(たけち かん)
- 夜の東京を徘徊する、暴力団組織の末端構成員。天性の運動神経に加え、昔習っていた空手を実戦向けにアレンジした独特の格闘術を使う。ある夜、鉄砲玉としての任務を遂行して逃走中の自分と、追手である敵対組織の構成員とが共に羽柴彦六によってあっさり倒され、この出会いが竹智の運命を変える。
- やがて行方をくらました武智は海外を放浪し蟷螂拳を身につけて帰国するが、かつての猛々しい部分はなりを潜めている。
- 志村 礼二(しむら れいじ)
- 信州・松本の高校に通うティーンエイジャー。非常な美貌の持ち主だが気性は荒く、札付きの不良で通っている。勝つためには手段を選ばず、また相手の受けるダメージなども一切気にかけない危険な男。ある日、ふとしたことから同級生である加倉文平の秘められた強さに気付く。自分と同じく貧しい父子家庭の出身である文平に対して「喧嘩でだけは負けられない」と、文平に勝つことを目的に同じ空手道場で学ぶが、ある日の組み手で敗北。「同じことをしていては勝てない」と悟り、やがて古武術の使い手である久我重明に弟子入りする。
- 重明に師事してからは心理的なかけひきで相手を出し抜き勝利することが多くなるが、格闘技の実力は高く、変幻自在の蹴り技を得意とする。
- 室戸 武志(むろと たけし)
- 北海道でひとり暮らしをしている少年。プロレスラーであった父親の教えに従って毎日のトレーニングを欠かしたことが無く、大柄かつ強靭な肉体を誇る。相手を傷つけることを恐れて争い事を避けていたが、ふとしたことがきっかけで赤石元一のプロレス団体に入門。さらなるトレーニングを重ね、やがて武林館の開催するトーナメントに飛び入り参加する。
- 格闘技術やかけひきに関してはまだ拙いものの、頑健な肉体と、相手のガードをものともしない強力な一撃で勝利を狙う。
- 羽柴 彦六(はしば ひころく)
- あちこちに現れる年齢不詳、経歴不明の武術の達人。主に中国拳法を使用するが、小石を武器として使ったり、相手の腕を瞬時に極めて折ったりするなどその底は計り知れない。武器の使用や骨折に至る攻撃は相手が相応の実力者である時に限り、実力差が明白な相手に対しては、顎を叩いての脳震盪やツボを突いて動けなくするなど、ダメージを少なく抑える傾向がある。
- 久我 重明(くが じゅうめい)
- 全身黒ずくめの、萩尾流古武術の使い手。“鉄のような男”と形容され、“暗器の重明”としても知られている。彦六とは対照的に、どんな相手であってもほとんど手加減せず、また急所攻撃、倒れた相手への攻撃なども躊躇せずに行う。師である萩尾老山と兄である久我伊吉を倒した羽柴彦六を狙うが、これは単に強い相手を求めてのことであり、「彦六が老山を倒さなかったら自分が老山を倒していただろう」と語る。
- 一時的に志村の師となるが、「裸拳で大木の幹を殴り続けろ」「飼っている犬をその手で殺せ」「目の前で女(香代)とセックスをしてみろ」など、常識はずれの精神修行を課す。
- 鳴海 俊男(なるみ としお)
- 不良にからまれていた菊千代たちを助けた武林館空手の使い手。子供のころは柔道を習っていた。武林館の現役選手の中ではトップクラスだが、天才と呼ばれる大型選手、麻生誠とは3度対戦して全敗。顔面攻撃なしの武林館のルールでは体格に勝る麻生に勝てないと悟りのちに武林館を辞去、自分の空手道場、鳴海塾を立ち上げる。なお、これに際して菊千代も武林館から鳴海塾へと移籍している。
- 加倉 文平(かくら ぶんぺい)
- 貧しい父子家庭出身の苦学生であり、志村 礼二とは高校の同級生。武林館で空手を習っているが、その類まれな才能は早くも周囲の注目を集め始めており、次世代のトップ選手と目される。また父親の友人である羽柴彦六からはたまに中国拳法を学んでおり、その動きを交えた独自の格闘スタイルを開発しつつある。
- 父親である加倉文吉は、夢枕獏の別作品『風果つる街』の主人公である。
その他の登場人物
- 赤石 文三(あかいし ぶんぞう)
- フルコンタクト空手の一大流派、武林館の総帥。かつては最強の座にあったが引退、“空手家”ではなく“空手屋”になったと語る。羽柴彦六とは仲が良く、久我重明とも顔見知りである。
- 麻生 誠(あそう まこと)
- 最強の名をほしいままにする、体格に優れた武林館の空手家。館長の赤石からは“努力する天才”と形容される。竹智完が武林館に在籍していた時代に同じ道場へ通っていたため、互いに面識がある。
- 芥 麗子(あくた れいこ)
- 菊千代の母。気性が激しく、怒ると常軌を逸した行動に出る。のちに蒸発し消息不明だったが、金沢でバーのママになっている。
- 的場 香代(まとば かよ)
- 竹智の元恋人。竹智の兄貴分であるヤクザの黒崎に陵辱され、黒崎から久我重明に引き渡され、重明から志村礼二に与えられるという幸薄い女性。ひょんなことから芥麗子がママを務めるバーに雇われる。
- 萩尾 老山(はぎお ろうざん)
- 萩尾流古武術の先代伝承者だが、羽柴彦六と戦って敗れたことをきっかけに健康を害し、他界した。
- 久我 伊吉(くが いきち)
- 久我重明の兄で同じく萩尾流古武術の使い手。萩尾老山の死が原因で彦六に挑戦するも返り討ちに遭う。実力は高いが、単行本第一巻(群狼編)において格闘シーンもないまま彦六によって倒され横たわっていたり、第六巻(雲竜編)において鹿久間源に完敗したりするなど、かませ犬的役割も多い。芥麗子のバー・狂花の常連らしいが、麗子との関係は不明。菊千代には好かれている。
- 黒崎(くろさき)
- 竹智の兄貴分で、暴力団組織朱雀会の現役組員。的場香代をものにしたいがために竹智を鉄砲玉として送り出し、その隙に香代をレイプするが、戻ってきた竹智によってペニスを2つに裂かれる。用心棒兼便利屋として久我重明を雇っているが、実際はほとんど頭が上がらない。
- 赤石 元一(あかいし げんいち)
- 赤石文三の息子。一流の実力派プロレスラーであり、武志の敬愛する先輩。空手仕込みのキックを使うが、メインとする格闘スタイルはレスリング。志村との私闘では股間を蹴られるなど敗北の描写が多かったが、ブラジリアン柔術とはのちに再戦、リベンジを果たす。
- 天城 六郎(あまぎ ろくろう)
- 鳴海俊男が子供のころに師事し、敬愛していた柔道家。オリンピックの強化選手候補だったほどの実力者だが、寝技にこだわりすぎたために選考にもれたという逸話を持つ。自宅に乱入して来た強盗を絞め殺したことが原因で道場をたたんだため、以後、鳴海は空手に転向した。
- 鹿久間 源(かくま げん)
- ふらりと芥麗子のバーに現れた、体重150キロはあろうかという巨漢。投げ技、極め技を使い、久我伊吉を圧倒する。師は天城六郎(ただし、天城の方から技を教えさせてくれと乞うて結ばれた師弟関係である)。天城のことを「変態オヤジ」と呼んでいる。
- 鬼頭 順之介(きとう じゅんのすけ)
- 水上流柔術の使い手。外見は年齢40歳ほどの、どこにでもいそうな中年男。