主人公は著名な中国学者で書物収集家のペーター・キーンである。彼は2万5000冊もの書物とともに孤高の研究生活を送っており、家人は8年前に雇った20歳年下の家政婦のテレーゼのみであった。キーンは彼女を書物の管理のために雇ったに過ぎなかったが、ある日ふとしたことから蔵書にあった小説を彼女に貸し与えた時に、彼女が自分よりも丁寧に書物を扱ったことで感銘を受け、すぐさま彼女を娶る決意をする。しかし妻の地位を得るやテレーゼの態度は変わっていき、妻の権利として書庫に宛てられていた部屋の半分を要求したり、家具をキーンの金で買い入れたりとキーンの生活に干渉するうち、どんどん厚顔無恥になっていく。そして愛想のいい家具商人への妄念に取り憑かれたテレーゼはキーンをないがしろにし、遺言書の作成を要求したあげく主人を家から追い出してしまう(第一部 世界なき頭脳)。
家から追い出されたものの通帳だけは守り通したキーンは、ホテルに滞在しながら書店を巡り、自分の頭の中に仮設書庫を作ることに熱中する。そんな折、ふと入った酒場で騒動に巻き込まれるが、佝僂のフィッシェルレに助けられたことで彼に恩を感じたキーンはフィッシェルレを自分の助手に任命する。フィッシェルレはキーンを国営の質物取扱所「テレジアヌム」に案内し、キーンはここに質草として持ち込まれる書物を救い出すことに自身の使命を見出し、訪れる客から所持金をはたいて書物を買い上げ始める。これを金儲けのチャンスと見たフィッシェルレは仲間を集めて客に仕立て上げ、キーンから次々と金を騙し取っていく。しかしその詐欺計画の3日目に「テレジアヌム」にテレーゼと玄関番がかつての自分の蔵書を質入れに来たとき、キーンは彼らともみ合いを始め、守衛に引っ立てられた挙句、キーンは混乱のなかで身分も明かせぬまま自宅の玄関番の住居に身を寄せることになる(第二部 頭脳なき世界)。
玄関番ベネディクトに引き取られたキーンは、そこでのぞき穴からの人間観察に熱中するようになり、新たな研究対象を見出したと考えたキーンは玄関番の仕事に固執し始める。そんな折り、フィッシェルレから偽の電報を受け取ったキーンの弟のジョルジュがやって来る。医師である彼は兄が発狂したと思い込み、その原因となったテレーゼと玄関番を巧みな弁舌で追い出し、兄にかつての静かな研究生活を取り戻させる。しかしそのときすでにキーンには狂気の兆候が現れていた。再び自宅での静謐な生活を取り戻したキーンだったが、殺人と火事の妄想に取り憑かれてしまい、最期は自ら書庫に火を放ち、蔵書もろとも炎に包まれる(第三部 頭脳の中の世界)。