AS21 レッドバック
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AS21レッドバック (Redback)は、韓国陸軍K21歩兵戦闘車の派生型として、ハンファ・ディフェンス・オーストラリア(HDA)社がオーストラリアに設立した「H-ACE(Hanwha Armoured Vehicle Centre of Excellence )[注 1]」で製造されるオーストラリア陸軍向けの歩兵戦闘車である。
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AS21レッドバックのデモンストレーター(2024年) | |
| 基礎データ | |
|---|---|
| 全長 | 8.8m |
| 全幅 | 3.6m |
| 全高 | 3.8m |
| 重量 | 42t |
| 乗員数 | 3名+下車歩兵6名 |
| 乗員配置 | 車長、砲手、操縦士+兵員6名 |
| 装甲・武装 | |
| 装甲 | 鋼鉄製車体+増加装甲 |
| 主武装 | Mk44 30mmチェーンガン×1 |
| 副武装 | MAG58 7.62mm機関銃×1、スパイクLR連装発射機×1、R400 RWS×1 |
| 機動力 | |
| 整地速度 | 70km/h |
| 不整地速度 | 40km/h |
| エンジン |
MTU MT 881 Ka-500ディーゼルエンジン 1000PS |
| 懸架・駆動 | ISU(In-arm Suspension Unit) |
| 行動距離 | 520km |
「レッドバック」とは、オーストラリア原産で非常に攻撃的な性質を持ち、自身より巨大な獲物を狩り殺す毒グモの「レッドバック・スパイダー(セアカゴケグモ)」から採られている[1]。
概要
AS21レッドバックは、オーストラリアのM113装甲兵員輸送車の後継として開発された歩兵戦闘車で、原型のK21歩兵戦闘車が水上航行能力を重視して25トンに重量を制限していたところ、「アフガン戦争」と「イラク戦争」の戦訓を反映し浮航能力をオミットする事で重量42トンと装甲防護力を大幅に強化している。
韓国ハンファのオーストラリア現地法人ハンファ・ディフェンス・オーストラリアを中核としてオーストラリア現地法人多数を含む企業グループ「Team Redback」によって開発されており、オーストラリア軍の要求に応じた大幅な設計変更と先進技術の積極的な採用を図っている事が大きな特徴である。この際、韓国企業製に固執することなく、オーストラリア製・イスラエル製コンポーネントを積極的に採用し、サプライヤーであるオーストラリア軍の要求仕様を迅速確実に満たすことを重視した構成となっている。
多種弾薬を使用可能なMk44ブッシュマスターⅡ 30mm機関砲を主兵装としており、装甲防護力は基本装甲でSTANAG4569レベル2、増加装甲により最大でレベル6まで強化可能であり、さらにアクティブ防護システムを搭載し、火力・防護力を高水準に纏めた設計となっている。
オーストラリア現地工場H-ACEにより合計129両の生産が予定されており、オーストラリア陸軍で優先的に海外派兵任務を有する即応展開部隊の第3機甲戦闘旅団に集中配備される。
設計
主としてK21歩兵戦闘車に対し「アフガン戦争」と「イラク戦争」の戦訓を反映した発展改良型となる[4]。
ハンファ・ディフェンス・オーストラリアが率いる企業グループ「Team Redback」により開発されており、主要な構成企業として「Electro Optic Systems(EOS)」、「エルビット・システムズ」、「ECLIPS」、「Milspec」、「Bisalloy」、「Soucy」、「Marand」、「CBG Systems」などが参画している[5]。
オーストラリア陸軍の要求を満たす試作車を短納期で完成し納入するため、国産開発を妥協して外国製コンポーネントの既製品を積極的に採用しており、車筐部を除いたほぼすべてが外国製に近い構成となっている[4]。
砲塔部
オーストラリア企業EOS社製2人乗り砲塔「T-2000[注 2]」を搭載し、Mk44 30mmチェーンガン1基に同軸機銃としてMAG58 7.62mm機関銃1挺、対戦車火器としてスパイクLR連装発射機を装備する[2][6]。Mk44 30mmチェーンガンにはプログラム式空中炸裂弾や近接信管弾など、各種プログラム式弾頭に対応した信管設定装置が装備されており、これらの弾薬を使用可能となっている[5]。
オーストラリア軍向けT-2000砲塔にはエルビット・システムズ社製の全周監視システム「Iron Vision[注 3][8]」および同社製アクティブ防護システム「Iron Fist」が統合されている[1]。加えて、EOS社製R400 RWSをオーストラリア陸軍の要求に合わせた改良型が搭載される[9]。
T-2000を含むAS21レッドバックは、特別に設計されたオープンアーキテクチャにより将来的に追加のモジュールや電子アセンブリを比較的容易に接続することが可能となっている[2]。
車体部
オーストラリアの鉄鋼メーカーBisalloy社製鋼材による鋼鉄製車体で構成されている[1]。装甲防護力はSTANAG4569レベル2を基準とし、イスラエルの装甲車メーカー「プラサン」が開発した追加装甲モジュール[10]を装備することで[2]25mm APFSDS-T弾に抗堪可能なSTANAG4569レベル6まで強化可能となっている[11]。
K21歩兵戦闘車用車体の設計をベースに、ハンファ・エアロスペースとプラサンの共同開発により地雷防護、対運動エネルギー防護、上面防護など全般的な装甲防護力を向上させており[12]、車体部は原型であるK21の6.9mから7.6mに延長され、砲塔も含む全備重量は25トンから42トンへ大幅に増加されている[2]。 しかしながら、車体延長にも関わらず後部兵員室の兵員数はK21の乗員9名から6名へと減少している[1][注 4]。車体レイアウトについては車体右前部に操縦手を、左前部が動力室となっている。エアコンやNBC防護システムを標準装備しており、事前準備無しで深さ1.5mの水系障害を突破可能である[2]。
動力系は出力1000PSのMTU MT 881 Ka-500ディーゼルエンジンとアリソンX1100-5A3トランスミッションで構成されており、舗装路で70km/h、不整地で40km/hを発揮可能である[2]。
カナダのSoucy社製CRT(Campsite Rubber Track、複合ゴム履帯)は騒音と振動を低減し乗員及びヴェトロニクスの保護を提供するとともに[1]、ISU(In-arm Suspension Unit)を採用してトーションバー等使用時に生じる設計上の制約を回避して地雷防護システム実装のスペースを確保している[8][5]。
K21歩兵戦闘車からの変更点
| バリエーション | K21 | AS21 |
|---|---|---|
| 砲塔 | ハンファ製砲塔 40mm機関砲 |
EOS製T-2000砲塔 30mm機関砲、スパイクLR発射器 |
| 車体 | アルミ合金&グラスファイバー製 車体長6.9m(転輪6対) 9人乗り |
鋼鉄製 車体長7.6m(転輪7対) 6人乗り(資料により8人) |
| 特殊装甲 | 韓国サムヤンコンテック製 | イスラエル プラサン製 |
| 重量 | 25t | 42t |
| 浮上航行能力 | 有り | 無し |
| 履帯 | 鋼鉄製 | CRT(複合ゴム履帯) |
| 動力系 | MAN D2840LXEディーゼルエンジン(750PS) RENK HMPT 800トランスミッション |
MTU MT 881 Ka-500ディーゼルエンジン(1000PS) アリソンX1100-5A3トランスミッション |
| 全長×全幅×全高(m) | 6.9×3.4×2.6 | 8.8×3.6×3.8 |
開発史
オーストラリア軍「Land 400 Phase 3」
- 2018年、オーストラリア国防省はM113AS4後継となる装軌式歩兵戦闘車選定計画「 Land 400 Phase 3」の入札を開始[2]。締め切りは2019年3月1日の午前5時であり、独ラインメタル社のKF41 Lynxと韓国AS21レッドバックがエントリーした[14]。調達予定数は450両であり、3コ旅団分の歩兵大隊に充足する数量となる[15]。これらはオーストラリア国内で運用される可能性は低く、空路及び海路で輸送され、世界的に多目的な戦場で活用される事を要求されていた[2]。
- 2021年3月12日、最大450両調達予定のM113S4装軌装甲車後継を次期歩兵戦闘車候補を独ラインメタルKF-41 Lynxとハンファ・ディフェンス・オーストラリア製AS21 レッドバックの2車種に絞り、評価試験を実施する事を発表した[16]。
- 2021年10月8日、KF41 LynxとAS21レッドバックの各3両ずつの試作車両の実車を用いた評価試験が終了[17]。
- 2023年4月24日、オーストラリア国防省は「2023年国防戦略見直し」を発表[18]、長射程攻撃兵器や陸軍の水陸両用作戦能力の強化を優先するため、歩兵戦闘車調達予定数を450両から129両に削減する事を発表した[19]。
- 2023年7月、オーストラリア当局はM113AS4の後継としてAS21レッドバックを選定したと発表した[20][21]。
- 2023年12月8日、AS21レッドバック購入の正式契約を締結した。調達数は129両で、AS21の入札額はKF41 Lynxよりも高かったにもかかわらず、オーストラリア国防省がAS21を性能面でより高く評価した事により選定された[13]。ただし、当初450両調達予定だったのが、国防戦略の見直しによる歩兵戦闘車調達数削減により129両での契約となった。
- 2024年8月27日、オーストラリア南東部の港町ジーロングに、K9自走砲やAS21歩兵戦闘車の製造工場となる装甲車製造工場「H-ACE」が完成[22]。
K-NIFVの開発
ハンファ・エアロスペースは、オーストラリア軍向けのAS21レッドバックには複数の問題点があり、特に性能・価格面の問題から韓国陸軍の要求仕様への適合は困難である問題があると認識していた[4]。
1点目の問題点は、オーストラリア軍の要求仕様(オーストラリア企業の大幅な参画も含む)を満たす試作車量を短納期で完成させる事を優先したため、オーストラリア・イスラエル共同開発の砲塔とセンサーFCS、オーストラリア製RWS、イスラエル製対戦車ミサイルにアクティブ防護システム、米国製機関砲など、車筐部を除くほぼ全てが外国製コンポーネントとなっている事であった。国産化率が非常に低く「ガワだけ国産」との批判があるのみならず、外国製コンポーネントは安定したサプライチェーン構築が困難で米・イスラエルの国内事情によって納入遅延が発生する上に、輸入価格によるAS21の価格競争力上が低い事が特に問題視された[4]。
2点目の問題点は、AS21レッドバックは「アフガン戦争」と「イラク戦争」の戦訓を反映し開発されたモデルであり、自爆ドローン対処等を始めとした「ロシアのウクライナ侵攻」の戦訓が未反映であるという点であった[4]。
上記二つの問題点を解決するため、コア部のコンポーネントの国産化を図り、外貨流出の低減と輸出の自由度の獲得、総合的な取得費・維持運用費を削減するためにK-NIFVの開発が決定された。ハンファ・エアロスペースはK-NIFV Block1を韓国陸軍のK200装甲兵員輸送車後継車両として、更なる発展型のBlock2をK21歩兵戦闘車の後継車両として提案している[4]。
輸出構想
ブラッドレー歩兵戦闘車後継開発計画「XM-30 MICV」(不採用)
アメリカ陸軍はM2ブラッドレー歩兵戦闘車は各種近代化改修が限界に達したとされ、後継選定計画として「XM-30 MICV(Mechanized Infantry Combat Vehicle)」開発計画(旧呼称:OMFV)が開始された[26]。
XM-30(旧OMFV)は「要件定義」のフェイズ1、「概念設計」のフェイズ2、「詳細設計」のフェイズ3、「試作車製造及び実射試験」のフェイズ4、「量産配備」のフェイズ5の5段階のアプローチで開発される[26]。
- 2021年7月23日、アメリカ陸軍はXM-30フェイズ2の概念設計契約を締結した。契約企業は「ジェネラル・ダイナミクス(新規設計)」「BAEシステムズ/エルビット・システムズ(新規設計)」「オシュコシュ/ハンファ・エアロスペース(AS21レッドバックベース)」「ラインメタル(KF41 Lynxベース)」、「ポイントブランク(新規設計)」の5社[26][27][28]。
- 2023年6月26日、アメリカ陸軍はXM-30フェイズ3及びフェイズ4の「詳細設計」「試作車製造及び実射試験」の競争入札及び契約を締結。「ジェネラル・ダイナミクス」と「ラインメタル」が選定され、「オシュコシュ/ハンファ・エアロスペース」のチームは落選した[26]。
ポーランド重歩兵戦闘車調達計画(不採用)
ポーランド陸軍は第18機械化師団に集中配備されるM1A2/A1戦車を中核とした重装甲で衝撃力の強い部隊の構築を企図し、エイブラムスと連携するための重装甲歩兵戦闘車の調達を企図している。その候補の一つとしてAS-21レッドバックが検討された[29][30]。
- 2022年6月15日、ポーランド兵器庁スポークスマンは取材に対し、AS-21レッドバックの調達を検討している事を発表した[31]。
- 2022年6月22日、ハンファディフェンスCEOはポーランド・韓国の両防衛当局の協議内容について触れる権限が無いと断った上で、ポーランドのニーズに基づきK21歩兵戦闘車、AS21レッドバックの双方を提供可能である事、ポーランド国産無人砲塔ZSSW-30をK21/AS21に統合する事も可能である事を発表した[32]。
- 2022年10月、ポーランド陸軍第18機械化師団にてAS-21の試験運用を開始[30]。試験車両はT-2000砲塔搭載型の原型AS21であり、試験内容は制止状態、機動状態での戦闘試験に加え、昼夜間の射撃試験が行われた[33]。
- 2022年12月、ハンファはポーランド・韓国防衛産業協力セミナーにおいてポーランド製のZSSW-30無人砲塔を搭載したAS21派生型「PL21」を発表[34]。
- 2023年8月、ポーランドのマリウシュ・ブワシュチャク国防大臣(当時)はポーランド企業HSWと、第18機械化師団用の重歩兵戦闘車(CBWP,ciężki BWP)700両を調達する枠組み契約を締結。国産ZSSW-30無人砲塔とボルスク歩兵戦闘車又はK9自走砲車体を組み合わせた国産装備品となり、AS21/PL21歩兵戦闘車は候補から外れる事となった[35][36]。
運用国等
型式
- AS21
- T-2000砲塔を装備した基本形。オーストラリア陸軍採用モデル。
- OMFV(不採用)
- AS21の車体にラファエル社製無人砲塔のサムソン RCWS-30を搭載したアメリカ提案モデル[28]
- PL21(不採用)[34]
- ZSSW-30無人砲塔を装備したポーランド提案モデル。車体部はOMFVにオシュコシュ社と共同提案した無人砲塔搭載型の車体設計をベースとしている。
派生型
K-NIFV
AS21レッドバックの外国製コンポーネントの大部分を韓国製コンポーネントに置き換え、更に自爆ドローン対処能力等の「ロシアのウクライナ侵攻」の戦訓を反映した発展型で、2025年現在K200A1装甲兵員輸送車及びK21歩兵戦闘車の後継として提案されている[4]。以下はADEX2025で発表されたデモンストレーターの仕様である。
- 砲塔部
国産砲塔に国産火器・ヴェトロニクスを搭載し、30/40mm機関砲(距離3~4km)+RWS(距離1km)(+DIRCM(オプション))+アクティブ防護システム(距離300m)の「対自爆ドローン多層防御システム」を搭載している[4]
- ハンファ・エアロスペースが設計・開発した無人砲塔を搭載する。主砲はMk44 30mmチェーンガンとSNTダイナミクス製40mm機関砲の選択式で、砲塔右側面にはハンファ・エアロスペース製の最大射程8㎞のTApiers-L対戦車ミサイル連装発射器が搭載されている。40mm機関砲とRWSの12.7mm機銃はアクティブ防護システムのレーダーと連動した対空射撃が可能であり、対自爆ドローン迎撃機能を有する[23][4]。
- アクティブ防護システムはイスラエル製「Iron Fist」からハンファ・エアロスペース/ハンファ・システムズ製の国産品に換装される。APSは砲塔四隅の4基のAESAレーダー、4基の電子光学センサーに、ランチャー制御器と統合コンピュータ、加えて砲塔後部左右に装備された2連装ランチャー×2基で構成されており、前述のとおり、APSのレーダーや電子光学センサーはC-UASセンサーとしても機能し、探知した対空目標は砲塔部のFCSのAIにより自動追尾され主火器の30/40mm機関砲やRWSで射撃する事が可能となる。「Iron Fist」との外見上の相違点はランチャー後部が閉鎖式になっており、発射時に砲塔部センサーが損傷する可能性が低減されている[23][4]
- APS用レーダーと連動するハンファ・エアロスペース製「インテリジェントRCWS」を搭載し、上記の通りRWSによる対空射撃可能である[4][39]
- 砲塔部のオプションとして「指向性赤外線妨害装置(DIRCM)」が追加可能であり、飛来する対戦車ミサイルや自爆ドローンの赤外線シーカーに向けて妨害レーザー光を照射して無力化し、アクティブ防護システムの即応弾の節用が可能となる[23]。
- 車体部
車体寸法及び砲塔部を含む全備重量は43トンでAS21レッドバックとほぼ同じであるが、パワーパックを含む各種サブシステムを韓国国内メーカー製に換装している[23]。
K-NIFVは初期生産型のBlock1と発展型Block2で計画されており、Block2には「ハイブリッドパワーパック」「アクティブサスペンション」「複合型アクティブ防護装置」「フルスペクトラム全周状況認識システム」が搭載されるとしている[39][4]。