CSI効果

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CSI効果(CSIこうか、CSI effect)、またはCSI症候群(CSIしょうこうぐん、CSI syndrome)[1]CSIインフェクション(CSI infection)[2]とは、『CSI:科学捜査班』などの犯罪を扱ったテレビ番組において、法医学科学捜査の誇張された描写が世間の認識に与える影響を指す。この用語の初出は2004年のUSAトゥデイ紙において、法医学を特集したテレビ番組が裁判の陪審員に与える影響について述べられた記事であった[3]。陪審員が刑事裁判において、より多くの法医学的証拠を要求するようになり[4]、これにより検察官の有効な立証基準が上がったという認識を指すことが多い。この傾向はアメリカの法曹関係者の間では広く認められているもので、CSIの視聴者は状況証拠の価値を軽んじているかもしれないが、犯罪を扱った番組がそのような効果をもたらす可能性は低いという研究報告もある[5]。テクノロジーの進歩及び社会への浸透にしたがって人々が科学捜査技術の能力により強い期待を抱いている可能性もある[6]

CSI効果は、2000年に放送が開始された犯罪捜査ドラマ『CSI:科学捜査班』に由来する。CSIでは架空の犯罪捜査チームがラスベガスで発生した殺人事件を解決していく。各エピソードでは殺人事件の被害者の発見を発端に、チームのメンバーたちが捜査を行い、法医学的証拠を集めて分析し、目撃者に質問し、最後に犯人を逮捕する[7]:ch.IIA。その人気を受けて『CSI:マイアミ』(2002年)、『CSI:ニューヨーク』(2004年)、『CSI:サイバー』(2015年)の3つのスピンオフ作品も放映された。

CSIシリーズの成功は多くの類似番組を生み出し[8]、またCSIに先行するドラマやトゥルー・クライム系番組にもCSI効果という言葉は使われ、例えば『American Justice』『Cold Case Files』『Cold Squad』『Exhibit A: Secrets of Forensic Science』『Forensic Files』『Silent Witness』『ウォーキング・ザ・デッド英語版』があり、またCSIのフォロワーとして『BONES -骨は語る-』『コールドケース 迷宮事件簿』『クリミナル・マインド FBI行動分析課』『女検死医ジョーダン』『NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班』『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル』『ワイヤー・イン・ザ・ブラッド英語版』『WITHOUT A TRACE/FBI 失踪者を追え!』などがある[1]:ch.2[8][9]。ニールセン視聴率によれば2005年においてアメリカで人気があったテレビ番組TOP10の内、6つが犯罪捜査ドラマであり、2007年11月のランキングでは『CSI:科学捜査班』が1位となった[1]:ch.2

人気の犯罪番組のいくつかの描写は非現実的だという批判がある。例えば科学捜査班(鑑識)に所属する登場人物たちは、犯行現場を調査し、遺留証拠などの採取及び押収などを行うだけではなく、通常の捜査、容疑者の追跡・逮捕、取り調べ、事件の解決などを行なっているが、こうした活動は制服警官や刑事が行うものである。また、科学捜査班(鑑識)が犯罪現場を調査する際、その現場から採取した証拠品の検査やテストにも同じ人物が関与することは科学的証拠の公平性を損なうため不適切である。実際の捜査ではDNAや指紋は採取できないことが多く、仮に採取できたとしても処理には数週間から数ヶ月掛かるのが普通だが、テレビの科学捜査研究所では数時間で結果が出るのが普通である[10]。CSIの第1シーズンではナイフによる裂傷の調査において、技術者が傷跡に石膏を流し込んで石膏型を作り、そこからナイフの種類を特定したが、これは現在の技術では不可能である[2]。また、テレビでは2つの証拠品の決定的な関係性を表すために、よく「一致(match)」という言葉を使うが、実際の科学捜査においては絶対的な確実性が得られることは稀であり、断定しない曖昧な言葉を使う傾向がある[11]

CSIシリーズの生みの親であるアンソニー・E・ズイカーは、番組中のものは「すべての科学描写は正確だ」と主張しているが[12]、研究者たちはCSIの科学捜査の描写を「ハイテク・マジック(魔法)」と称している[13]。法医学者のトマス・モーリエロは、CSIで描かれている科学技術の4割は存在しないと推定している[14]。非現実的な技術を用いること以外にも、CSIは実際の捜査に存在する不確実性の要素をすべて無視し、一方で実験結果を絶対的な真実として描いているとも指摘される[15]

こうした不正確な描写が法医学的証拠に対する一般の人々の認識を変えてしまうという話は、「CSI効果」と呼ばれ、早くは2004年に主要メディアに登場していた[9]

この影響によって、被害者やその家族、また陪審員はDNA分析や指紋採取などの番組に登場した技術によってすぐに答えが得られると期待するが、実際の法医学的処理には数日から数週間かかることが多く、また検察側の主張を裏付ける「決定的な証拠(smoking gun)」が得られる保証もない。地方検事は物的証拠が少ない事件の有罪率が低下したと指摘しているが、これはCSIが陪審員に与えた影響が大きいと考えられている[16]

2009年までにCSI効果に関する記事が、250以上、新聞や雑誌で掲載され[17] 、その中には『ナショナルジオグラフィック[18]サイエンティフィック・アメリカン[19][20]USニューズ&ワールド・レポート[21]によるものも含まれている。

研究報告

CSI効果それ自体は比較的近年の現象であるが、アメリカの法制度に関するメディアの描写が、法制度に対する一般市民の認識、知識、意見を大きく変えてしまう可能性は以前から認識されていた[22]。1990年のニューヨーク・タイムズ紙の記事では、ある弁護士が「裁判に臨む前夜に『L.A.ロー 七人の弁護士』を見ない弁護士は愚か者だ」と語っている[23]。2002年の陪審員調査では、人気法廷番組『Judge Judy英語版』の視聴者は、法廷内における判事の役割を大きく誤解していることが判明している[24]。法制度や捜査システムに対する世間の認識に影響を与えたと思われる以前の番組には、『ペリー・メイスン』(1957年-1966年)、『Dr.刑事クインシー』(1976年-1983年)などがあり、現代でも他に『ロー&オーダー』シリーズ(1990年-現在)などがある[1]:ch.4。また、ニュースメディアによる刑事裁判の報道、インターネットによる広範なブログイノセンス・プロジェクトの成功なども、法医学についての世間の認識を高めることに貢献している[25]。ズイカーは「"CSI効果"は、私の考えではこのシリーズから生まれた最も素晴らしいものだ」と述べている[26]

研究者のN・J・SchweiterとMichael・J・Saksは、CSIが犯罪被害者と陪審員の科学捜査、特に犯罪現場の調査とDNAテストに対する現実の期待を高めるという現象について言及する際にCSI効果という言葉を用いている[27]。Donald E. Shelton、Young S. Kim、Gregg Barakは、法廷において検察官がより多くの科学捜査の証拠を提出するように圧力をかけられているという点で、今日の多くの裁判のあり方を変えたと述べている[28]

2006年当時においてこの傾向を裏付ける証拠は、主に警察関係者や検察官の逸話に基づくものであり、実証的な検証はほぼなく、むしろ、この現象は都市伝説だと示唆する研究報告があったくらいだった[29]。 ミシガン州アナーバーの1,027人の潜在的な陪審員に対してドナルドE.シェルトンが実施した調査によると、CSIの視聴者は非視聴者に比べて科学的証拠に対する期待が高いものの、多くの場合、評決に至るまでに科学的証拠は必要なかった[30]

しかし、最近の研究ではこのような最新のテレビ番組が世間の認識や期待、陪審員の行動に誤解を招くような影響を与えていることが示唆されている[31][32]

研究者の中にはCSI効果を踏まえて、陪審員をスクリーニングし、テレビ番組からの影響を調査しようと提案している者もいる[32]

事例

脚注

参考文献

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