SEWACO
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SEWACO(英語: Sensor, Weapon control And Command system)は、オランダのシグナール社(オランダ語: Hollandse Signaalapparaten BV; 2000年末にタレス・ネーデルラント社に改称)が開発した艦載用の戦術情報処理装置のシリーズである[1][2]。
厳密には「SEWACO」という名称はオランダ海軍向けのシステムに対してのみ限定して使用される公式の呼称であり、シグナール社は輸出向けや簡易型のシステムに対してはDAISY、EASY、FORESEE、STACOS、TACTICOSなどの異なる名称を適用していたが、一般にはこれら輸出型も含めてSEWACOと総称されることが多い[1][2]。
DAISY
SEWACOの指揮・統制(C2)プログラムの中核をなすソフトウェアはDAISY(Digital Action Information System)と呼ばれる[1][2]。DAISYはもともとオランダ海軍の兵器・指揮システム自動化センター(CAWCS)によってモジュール方式のプログラムとして作成されたものであり、その共通エディションはMod 3にまで発展した[1][2]。シグナール社は、センサーや兵器までを含む戦闘システム全体(SEWACO)と、戦術データの管理を行う統制システムそのもの(DAISY)を明確に区別していた[1]。初期においてシグナール社が「DAISY」の名称をそのまま国外向けマーケティングに用いた結果、自軍の用語を流用されたオランダ海軍側から数回にわたって抗議や要請がなされるという一幕もあった[2]。かつてDAISYは、コンピュータと独自の戦闘情報表示システム(CIDIS)の組み合わせとして説明されていた[1]。
DAISYは、レーダーやソナーなどのセンサーから得られた生データまたはデジタル化された情報を受信・処理し、空中・海上・海中の総合的な戦術情景を合成・表示して作戦行動を支援する役割を担う[2][3]。これに加えて、DAISYおよびSEWACOは外部との戦術データ・リンクによる情報共有能力を最初期から重視して統合していた[1][2]。具体的には、リンク 11およびリンク 14の双方向データ通信・処理機能を標準で備えており、自艦のセンサー情報と他艦艇・航空機からの受信データをシームレスに融合して表示することが可能であった[1][2]。
また、シグナール社は戦闘システム全体とは別に、同社のインテリジェント・コンソールであるMOC(Multifunction Operator Console)を核とした双方向の「スタンドアロン型リンク 11システム」も製造していた[1]。このスタンドアロン型システムは1994年12月にポルトガル海軍のジョアン・ベーロ級フリゲート3隻への搭載契約を獲得したほか、トルコ海軍のノックス級フリゲートにも導入され、既存艦艇への手軽なデータリンク能力付与に貢献した[1]。
水上艦用システム
集中型システム(SEWACO I - VI)
初期のSEWACO IからSEWACO VIにいたる世代は、単一または少数の大型コンピュータを中心に据えた集中型アーキテクチャを採用していた[1]。ハードウェアは主にデータ処理キャビネットと複数の表示コンソールによって構成され、キャビネット内にはシグナール社製のSMRプロセッサ、センサーデータ分配ユニット(SDDU)、コンピュータデータ分配ユニット(CDDU)、ビデオエキストラクターなどが収められていた[1][3]。表示部にはCIDIS(Combat Information Display System)と呼ばれる技術が用いられ、垂直型表示コンソール(VDC)と水平型表示コンソール(HDC)が配置されていた[1][2]。
- SEWACO I
- トロンプ級フリゲートに搭載され、強力な防空指揮およびWM-25などの射撃指揮システムを中央コンピュータ(SMR)とCIDISコンソールの組み合わせで処理した[1][2]。
- SEWACO II
- オランダ海軍のコルテノール級フリゲート(汎用型)に搭載された[1][2]。汎用任務に合わせてソナーや魚雷、各種ミサイル管制が統合され、リンク 11・14データリンクの処理が標準化された[1][2]。
- SEWACO III / IV / V
- 輸出市場、あるいは特定の艦型向けにカスタマイズされたバージョンである[1]。例として、インドネシア海軍のファタヒラー級フリゲート向けなど、各国の要件に応じたセンサーや兵器の結合が行われた[1]。
- SEWACO VI
- オランダ海軍のヤコブ・ファン・ヘームスケルク級フリゲート(防空型)に搭載された[1][2]。防空に特化するため、同時多目標交戦能力とLink 11/14を介した外部との連携処理能力が大幅に強化されている[1][2]。
ネットワーク化システム(SEWACO VII)
1985年からオランダ海軍のカレル・ドールマン級フリゲート向けに設計されたSEWACO VIIは、従来の集中型アーキテクチャから、LAN(3重に冗長化されたイーサネット)を用いた協調分散型アーキテクチャへと移行した重要な画期となった[1][2]。このシステムでは、2基の中央コンピュータ(SMR-4を使用したデータ処理コンピュータ:DHC)を維持しつつも、多くの戦術データ処理や表示処理をワークステーション側へと分散させた[1]。コンソールには、高解像度ラスタースキャン表示器を備えたGOS(General-purpose Operator Stations)が新たに導入され、従来の水平型コンソール(HDC)は全廃された[1][2]。オランダ海軍向けに専用設計されたソフトウェアのコアは「SPIDER」と命名され、リンク 11・14を介した戦術データの自動処理・共有効率を劇的に向上させた[1][2]。
オープンシステム(SEWACO XI / XII)
オランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲート向けに開発されたSEWACO XIは、特定の専用ハードウェアから脱却し、商用オフザシェルフ(COTS)機器を全面的に採用したモジュール式の完全分散システムへと進化した[1]。プロセッサにはSunSPARCが用いられ、ATMプロトコルを使用する光ファイバーデータバスネットワークによって全システムが高度に冗長化・接続されている[1]。コンソールには、フラットな液晶ディスプレイ(LCD)を採用して人間工学的に合理化されたMOC(Multifunction Operator Console)Mk 3が24基搭載された[1]。データリンク面でも大幅に拡張され、従来のリンク 11に加えて、新たにリンク 16のマルチリンク処理能力が完全に統合され、共同交戦能力や広域防空、弾道ミサイル防衛(BMD)への対応基盤が整えられた[1]。
なお、これに付随して、カナダ海軍のハリファックス級フリゲートの近代化プログラム向けに、SEWACO XIの先進的な防空モジュールをカナダ既存のSHINPADSシステムに統合・アドオンする仕様としてSEWACO XIIも提案された[1][3]。
姉妹システム(EASY / FORESEE)
シグナール社は、大型水上艦向けのSEWACOの技術をベースに、小型艦艇や沿岸警備向けの簡易型・軽量型姉妹システムも展開していた[1][2]。
- EASY
- 主にコルベットや高速ミサイル艇向けに、DAISYプログラムをスケールダウンして派生させた指揮統制システムである[1][2]。
- FORESEE
- EASYよりもさらに簡素化された、沿岸警備艇や小型補助艦艇向けの戦術指揮支援システムであり、アルゼンチン海軍のエスポラ級コルベットやタイ海軍のラッタナーコーシン級コルベット、フリゲート「マクット・ラジャクマーン」などに搭載された[1][2]。これらは標準的なシグナール製兵器管制コンソールにコンピュータを直接組み込む形式で配置されていた[1]。
STACOS
STACOS(Signaal TActical Command and control System)は、SEWACOの各種構成をベースにして開発された、輸出市場向けの戦術指揮統制システムのブランド名である[2][3]。実質的にはSEWACO VIIと同様にLAN(データバス)概念を用いた協調・結合型アーキテクチャを有しており、Link 11等のデータリンクによる外部連携機能を含め、各国の予算や選定センサー・兵器(WM-25やSTIR射撃統制レーダー、AWS-6やMW 08捜索レーダーなど)に柔軟に適合できるようモジュール化されていた[1][2]。STACOSは以下のMod IからMod IVにわたって発展を遂げた[2]。
- STACOS Mod I
- 1987年に就役を開始したトルコ海軍のMEKO 200型フリゲート(ヤウズ級)で初めて導入された[1][2]。中央処理にはSMR-4コンピュータが採用されている[1][2]。
- STACOS Mod II
- 1991年にポルトガル海軍のヴァスコ・ダ・ガマ級フリゲート(MEKO 200型)で就役した[2]。本格的なデータバス技術とリンク 11の統合が図られた[2]。
- STACOS Mod III
- 1992年にギリシャ海軍のイドラ級フリゲート(MEKO 200型)で就役した[2]。インテリジェントな処理能力を持つ多機能オペレータコンソール(MOC)が導入され、コンソール側での戦術処理分散が進んだ[2]。
- STACOS Mod IV
- アーキテクチャの完全な分散化を達成した最終型であり、この実績がのちのTACTICOSの直接的な設計基盤となった[2]。
SEWACO-FDへの移行
シグナール社(現タレス・ネーデルラント社)は、STACOS Mod IVやSEWACO XIの成果を踏まえ、完全分散型アーキテクチャを備えた次世代の標準戦闘管理システム(CMS)としてTACTICOSを開発した[1][3]。輸出市場においては、TACTICOSを中核として各種センサーや兵器を統合した戦闘システム全体の構築コンセプトをSEWACO-FD(Fully Distributed)と呼び、指揮統制システムの中核そのものをTACTICOSと呼んで区別している[1][3]。
TACTICOSは、フランスのトムソンCSF社が持っていたTAVITAC 2000システムと、オランダのシグナール社が培ったSTACOSシステムの双方の長所・技術を融合させて誕生した[3]。本システムは、物理的に分散して配置された処理ノード(コンピュータ)と多機能コンソール(MOC)を高速ローカル・エリア・ネットワーク(イーサネット等)で相互接続している[1][3]。最大の特徴は、ハードウェアの依存性を排除するために導入された「Splice」と呼ばれるリアルタイムミドルウェア層である[1][3]。すべてのアプリケーション(監視、追尾、識別、データフュージョン、状況評価、交戦管制など)は自律的なモジュールとして動作し、Spliceを介してリアルタイムにデータを交換する[1][3]。これにより、人間の誤操作や判断ミスを減らす高度な自動化が実現されている[3]。
戦術データリンクについても完全にモジュール化されており、リンク 11・14・16のマルチリンク処理に標準で対応し、プラットフォームの規模(大型フリゲートから小型ミサイル艇、果ては単一のデータリンク専用コンソールまで)を問わず柔軟にスケールアップ・ダウンが可能である[3]。TACTICOSは国際市場で広く普及しており、ギリシャ海軍のエリ級フリゲート6隻の近代化改修プログラムや、ポーランド海軍のオルカン級ミサイル艇・ガヴロン級コルベット(後の哨戒艦「シュラザック」)の建造・改修プログラムなどで主契約を獲得し、多数が導入・運用されている[3]。
潜水艦用システム(SEWACO VIII / GIPSY)
オランダ海軍のワルラス級潜水艦向けに開発された潜水艦情報処理装置のシステム区分はSEWACO VIIIとされており、その戦闘指揮統制(C2)ユニットのコアとなるコンピュータシステムはGIPSY(General Information Processing SYstemあるいはGeïntegreerd Informatie Presentatie Systeem[4])と呼称される[1][2]。GIPSYは水上艦用のSEWACO/DAISYと基本機能の多くを共有しているが、潜水艦特有の隠密運用のための構成を有している[2]。
中央処理ユニットには、JOVIAL言語で記述されたソフトウェアを走らせる2基のSMR-MUプロセッサがマスタ・スレーブ(主従)構成で配置され、コンソール、各センサー、兵器間のリアルタイムなデータ交換を統制する[2]。さらに、潜水艦の主センサーであるパッシブ・ソナーシステムの制御および音響データ処理用として、別途2基のSMR-MUプロセッサが内蔵されている[2]。
発令所内の表示・操作部には7基の多機能共通コンソール(GOS)が並べて配置され、オペレータはこれらを通じてソナーの直接制御、コンタクト評価(時間/方位フォーマット表示など)、目標の自動/手動分類、および高度な目標運動解析(TMA)を実行する[2]。兵器管制面では、専用の兵器分配キャビネットを介して魚雷発射管に直結されており、有線誘導魚雷の誘導管理や、サブ・ハープーン対艦ミサイルの発射シーケンス・飛行データ入力などを統合的にコントロールする[2]。