Σ-有限測度
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動機
測度論において、最も扱いやすい測度は全空間の測度が有限である「有限測度」である。しかし、解析学において重要なルベーグ測度などは、全空間(実数全体など)の測度が無限大となるため、有限測度の枠組みには収まらない。
一方で、ルベーグ測度は無限大の測度を持つものの、「有限な長さを持つ区間の可算和」として空間を捉えることができるという重要な性質を持っている。このような性質を抽象化したものが -有限測度である。この概念を導入することで、無限測度を扱いながらも、有限測度に近い数学的利便性(一意性や積の定義など)を保持することが可能になる。
定義
可測空間 とその上の測度 について、以下のいずれか(すべて同値)の条件を満たすとき、 は -有限測度であると定義される。
- を可算個の有限測度な可測集合で被覆できる。すなわち、 かつ である集合列によって、 と書ける[1]。
- を可算個の互いに素な有限測度な可測集合の和として表せる。すなわち、、、かつ ならば である集合列によって、 と書ける。
- を有限測度な可測集合の単調増加列で被覆できる。すなわち、 かつ である集合列によって、 と書ける。
- 積分値が有限となるような、至る所正値な可測関数 が存在する[2]。すなわち、すべての で であり、かつ を満たす。
が -有限であるとき、三つ組 を -有限測度空間と呼ぶ[3]。
例
確率測度
確率空間 において、全空間の測度は であるため、自明に -有限である。
ルベーグ測度
実数上のルベーグ測度は有限ではないが、-有限である。実際、すべての整数 に対して半開区間 を考えると、これらは可算個であり、各区間の測度は 1 である。これらの和集合は実数全体となるため、定義を満たす。
数え上げ測度
自然数集合 上の数え上げ測度は、各一点集合 の測度が 1 であり、その可算和が全体となるため -有限である。一方、実数上の数え上げ測度は、測度が有限となる集合は有限集合に限られるため、可算個の被覆では実数全体を覆い尽くせず、-有限ではない。
リー群とハール測度
σ-コンパクトな局所コンパクト群上のハール測度は -有限である。特に、すべての連結な局所コンパクト群は σ-コンパクトであるため、すべての連結なリー群上のハール測度は -有限となる。
性質
-有限性は、測度論における多くの重要な定理の仮定として現れる。
- 拡張の一意性: カラテオドリの拡張定理において、完全加法的測度を環から生成される -代数へ拡張する際、環上での測度が -有限であれば、その拡張は一意に定まる。
- 積測度の構成: 二つの測度空間の積空間上に積測度を定義する際、それぞれの測度が -有限であれば、積測度は一意に定義され、フビニの定理が適用可能となる。
- ラドン=ニコディムの定理: ある測度が別の測度に対して絶対連続であるとき、それらが -有限であれば、ラドン=ニコディム導関数の一意な存在が保証される。
また、-有限性は「局所化可能(localisable)」というより緩い条件でもいくつかの定理が成立することがアーヴィング・セガールによって示されている[4]。
さらに、 上の任意の -有限測度 は、 上のある確率測度 と等価(互いに絶対連続)である。具体的には、 を互いに素な有限測度集合列 で分割し、和が 1 となる正の重み列 を用いて と定義すれば、 は と同じ零集合を持つ確率測度となる。