いす-1グランプリ
事務椅子に座って走行する耐久レース
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いす-1グランプリ(いすワングランプリ、いす-1GP)は、キャスター付きの事務椅子に座り、足で地面を蹴って走行する耐久レースおよびその大会シリーズである。標準的な競技では3人1組のチームが選手を交代しながら2時間走行し、コースの周回数を競う[1][2]。

2010年3月に京都府京田辺市のキララ商店街で、商店街の活性化を目的としたイベントとして始まった[3][4]。その後、日本各地へ普及するとともに台湾など海外でも開催されるようになった[2]。地域活性化センター掲載の大会紹介では、2026年までに国内30か所、海外4か所で開催され、競技人口は1万人を超えた[5]。
歴史
発案と創設
発祥地のキララ商店街は、近鉄京都線新田辺駅東側に位置する商店街である。2008年2月、商店街の若手店主や従業員、同志社大学の学生ら約10人が、商店街活性化のプロジェクトチーム「EVO&revo」を結成した[6]。
同活動に参加していた田原剛は、店舗の減少などが進むなか、地域の子供たちが自分たちのまちを誇りに思える催しを作ることを考えた[3][6]。田原によれば、小学生のころ教師の事務椅子に乗って遊んだ経験から、事務椅子を使ったレースを着想したという[3][6]。
2010年3月にキララ商店街で第1回大会が開催された[6]。3人1組のチームが事務椅子に乗り、選手を交代しながら2時間でコースを何周できるかを競う方式が採用された[4]。
全国への普及
京田辺で始まった大会は、2010年代前半から他地域の商店街でも開催されるようになった。田原は、国内へ普及する契機の一つとして、100円商店街の取り組みに携わっていた齋藤一成からの働きかけによって、2013年に山形県新庄市で大会が開催されたことを挙げている[6]。
新庄市ではその後も開催され、市は2015年度の施政方針で、100円商店街や新庄味覚まつりとともに、中心商店街の振興策としていす-1グランプリを位置づけた[7]。
徳島県鳴門市の大道銀天街でも2014年から開催された。大道銀天街振興組合は、100円商店街との併催による集客上の相乗効果を企図し、地域外からも参加者を集める催しとして導入した[8]。
2015年には山形県、徳島県、長崎県、岡山県、広島県、秋田県、北海道などですでに開催され、同年9月までの参加者は延べ1,500人を超えたと報じられた[3]。同年10月には川崎市の武蔵小杉で関東地方初の大会が開催された[9]。
競技の普及を目的として、田原らは2015年3月に日本事務いすレース協会(JORA)を設立した[3]。協会によれば設立以来、大会の開催・運営や各地域で開催される大会への支援などを行っている[10]。
2019年6月に埼玉県羽生市で行われた大会には55チームが参加した。ロイターは同年、いす-1グランプリが日本国内10大会で開催されるシリーズとなっていたと報じた[11]。
海外への展開
2015年には台湾の台南市での開催計画が報じられ[3]、翌2016年4月に台南で大会が開催された。ユーロニュースは、この大会を日本国外で初めて開催されたいす-1グランプリと報じた[12]。『タイペイ・タイムズ』も、台南市政府と地元商業関係者が協力して日本から競技を導入した経緯を報じた[13]。
2018年の京都府の審議会で、当時キララ商店街事業協同組合理事長だった田原は、いす-1グランプリが国内約20都市に広がり、海外でも台湾、マレーシア、シンガポール、中国で開催されていると説明した[14]。
新型コロナウイルス流行後
発祥地の京田辺では、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって大会の中止が続いた[2]。2023年3月、4年ぶりに京田辺大会が開催され、33チーム99人が参加した[2]。
その後も大会は継続され、2025年の大阪・関西万博では吉本興業と連携したレースが行われた。地域活性化センター掲載の大会紹介によれば、会期中に14レースが実施され、延べ700人以上が参加した[5]。
競技
競技方式
3人1組のチームが事務椅子で走行し、選手を交代しながら2時間の周回数を競う耐久競技である[2][11]。日本事務いすレース協会の標準規定では、選手は市販の事務椅子に座り、人力のみで足を使って走行する。選手交代は指定されたピットで行い、各選手は最低1周を走行してから交代する[1]。
コースは原則として商店街内のアスファルト舗装された車道に設け、1周約200メートル以下、幅約3メートル以上を標準とする。道路を使用する場合には警察や消防などの必要な許可を得るとともに、観客との間に安全対策を施すことが規定されている[1]。発祥地のキララ商店街では約180メートルの特設コースが用いられていた[4]。
事務椅子と安全対策
使用する椅子は、第三者の支えを必要とせず自立する市販の事務椅子とされる。チェーン、ギア、ブレーキの使用やタイヤ交換など、走行性能に関わる改造は禁止されている。1チームが使用できる椅子はスペアを含め2脚までで、競技前には主催者による車検を受ける[1]。
参加者は靴・ヘルメット・手袋・肘パッド・膝パッドなどの防具を着用することが定められている。コースについては、観客との分離などの安全対策が求められる[1]。
派生競技
日本事務いすレース協会は、標準的な2時間耐久のいす-1グランプリのほか、会場条件や参加者に応じた競技形式を定めている[1]。
地域活性化との関係
いす-1グランプリは、店舗の減少などが課題となっていたキララ商店街の地域活性化事業から生まれた[3][4]。地域の店主らは、子供たちが生まれ育ったまちや商店街を誇りに思える催しを作ることを目指して大会を企画した[4]。
大会には、参加者による消費を商店街へ還元する仕組みも取り入れられた。2015年の京田辺大会では、1チーム4,500円の参加費のうち1,500円を商店街で利用できる金券として参加者へ還元していた[3]。
京田辺で考案された大会は、他地域でも中心市街地や商店街への集客策として導入された。新庄市は2015年度、いす-1グランプリを100円商店街などと並ぶ中心商店街振興策の一つに位置づけていた[7]。鳴門市の大道銀天街では2014年から100円商店街と併催し、地域外から参加者を集めることによる集客上の相乗効果を企図していた[8]。
こうした取り組みに対し、2016年には「いす-1GP『キララ2時間ISU耐久レース』」が、第20回ふるさとイベント大賞のふるさとキラリ賞を受賞した。同センターは、商店街の活性化策として独自のイベントを創出したこと、発祥地としての広報効果、市外から訪れる参加者や観客による波及、若手店主や学生が運営に参加していることなどを評価した[4]。
一方、イベントの開催が商店街の恒常的な商業活性化へ直結するとは限らない。鳴門市の大道銀天街・本町商店街などで行われた店舗調査では、いす-1グランプリの影響について回答した20店舗の60.0%が「特に変化はない」と回答した[8]。同調査において、阿波学会がいす-1グランプリの事業について検討した結果、イベント当日の売上増加や店舗間・地域住民との交流の増加はみられたものの、イベント後も継続する売上増加や商店街の通行量増加といった中長期的な効果はほとんど確認されなかった[8]。
発祥地でも、競技の普及と商店街自体の店舗数は異なる推移を示した。2018年の京都府の審議会で田原は、キララ商店街の会員店舗が2009年の約60店舗から約10店舗まで減少し、店主の高齢化や空き店舗の増加などによって存続上の課題を抱えていると説明している。また、同商店街は2018年から法人格を外して任意団体として活動している[14]。