2025年10月に労働基準法の40年ぶりの大幅改正が検討されていることが明らかになり、その中につながらない権利についても検討する方針であることがわかった[8]。よって以下は2025年9月時点までの情報であるが、改正が行われるまでは記載する。
日本の法律では、労働法に「つながらない権利」について規定した法令はなく、具体的な法制化の動きもない。一部企業では既存の法令の枠内で「つながらない権利」について対処している。具体例としては、ジョンソン・エンド・ジョンソンは午後10時以降と休日の社内メールのやり取りを禁止し、三菱ふそうトラック・バスは長期休暇中にメールを受信拒否・自動削除できるシステムを導入した[9]。特に2020年以降の新型コロナ禍においてリモートワークが普及すると、利便性とは裏腹に仕事と私生活の区切りをつけづらく、長時間労働に加担する危うさを持ち合わせることから、この問題は特に取り上げられることが多くなった。
厚生労働省は、2021年に改定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」[10]において、業務時間外における業務の指示や報告の在り方についてルールを設けるのが望ましい旨が記載され、さらに業務時間外の連絡に応じなかったことを理由に、不利益な人事評価を下すことは不適切であるとの注意喚起が明記された。ただしこのガイドラインには強制力はない。
連合の「“つながらない権利”に関する調査」(2023年)[11]によれば、「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」と回答した雇用者は72.4%(週1回以上連絡がある雇用者は42.0%)、「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答したのは44.2%(週1回以上連絡があるのは29.2%)に上った。また「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくるとストレスを感じる」と回答した雇用者は62.2%、「勤務時間外の部下・同僚・上司からの連絡を制限する必要があると思う」と回答したのは雇用者の66.7%に上っている。一方で、「つながらない権利の法制化で、勤務時間外の連絡を拒否することによって、勤務評価やキャリア形成、不利益な取扱いへの影響が心配だ」と回答したのは雇用者の49.8%、「つながらない権利の法制化で、勤務時間外の連絡を拒否することによって、緊急性の高いトラブルへの対応が遅れてしまうことが心配だ」と回答したのは64.9%、同様に「業務効率が低下することが心配だ」は59.0%に上っている。「つながらない権利」を求める声は高まっているものの、権利の行使がトラブル発生時の対応の遅れや業務効率の低下につながる可能性を懸念する人は多いようである。
あずさ監査法人では2017年、深夜・早朝(午後9時~午前7時)のネット接続を原則的に禁止したものの、2020年11月には管理職を除外し、月80時間を超える残業時間を厳しく管理することとした。一般職員でも、繁忙期、海外との連絡、自己研鑽など業務時間帯の柔軟化といった必要性・申請があれば上司が承認している[1]。
法制化の動きはないものの、雇用者が「つながらない権利」を求める声が高まっている現況では、企業としてルールを整備することが対応策の一つとして挙げられる。具体的には、「管理職への教育・研修で意識改革を促す」「取引先との契約内容に明記する」「社内ルールを設ける」等があげられる。問題を放置することは「黙認」とみなされる可能性もあることから、「つながり続けるリスク」を特に経営者や人事担当者は認識し、対策を講じることが求められるとされる[9][7]。