みらい翻訳
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株式会社みらい翻訳(英:Mirai Translate, Inc.)は、人工知能(AI)技術を用いた機械翻訳システムを開発する日本の企業である。東京都渋谷区に本社を置く[1]。2014年に株式会社NTTドコモ、SYSTRAN International、株式会社フュートレックの3社による合弁契約に基づき設立された[2]。
ニューラル機械翻訳(NMT)や自然言語処理の技術を基盤としたAI翻訳ソフトウェアの開発・提供を主な事業とし、SaaS型翻訳サービスや企業向けAI翻訳システムの開発を行っている[1]。近年は大規模言語モデル(LLM)を活用した文書処理技術や、法務分野などにおけるAIエージェントの開発にも取り組んでいる[3]。
沿革
- 2014年10月 株式会社NTTドコモ、SYSTRAN INTERNATIONAL Co.,Ltd、株式会社フュートレックの3社による合弁契約に基づき、東京都港区に株式会社みらい翻訳を設立。初代代表取締役社長に栄藤稔が就任[4]。
- 2015年9月 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した特許翻訳エンジンのライセンス販売を開始。これにより、同機構の技術を基盤とした翻訳エンジンの商用展開を開始する[5]。
- 2015年10月 パナソニック株式会社、日本電信電話株式会社(現:NTT株式会社)、国立研究開発法人情報通信研究機構らとともに「総務省委託研究開発・多言語音声翻訳技術推進コンソーシアム」を設立[6]。
- 2016年10月 本社を東京都渋谷区渋谷に移転[7]。
- 2017年10月 株式会社翻訳センターが、みらい翻訳に資本参加[8]。
- 2017年12月 ニューラル機械翻訳エンジンを搭載した機械翻訳サービス「Mirai Translator™」の提供開始[9]。
- 2018年7月 NTTコミュニケーションズ株式会社(現:NTTドコモビジネス株式会社)と資本業務提携を締結[10][11]。
- 2018年7月 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格「ISO/IEC 27001」の認証を取得[12]。
- 2019年6月 NTTコミュニケーションズ(現:NTTドコモビジネス株式会社)の関連会社となる[13][14]。
- 2019年9月 アンダーソン・毛利・友常法律事務所の協力を得て、契約書・法務専用の機械翻訳エンジンを開発、提供開始[15]。
- 2020年4月 国内クラウド機械翻訳サービスとしてはじめてISO/IEC 27017(クラウドセキュリティ認証)取得[12]。
- 2020年6月 大野 友義が代表取締役社長に就任[16]。
- 2020年12月 アンダーソン・毛利・友常法律事務所の協力と株式会社日本取引所グループが開発したコーパスの提供を受け、法務・財務専用の機械翻訳エンジンを開発、提供開始[17][18]。
- 2021年2月 エムスリー株式会社が運営する医療従事者専用サイト「m3.com」会員向けにAI翻訳サービスの提供を開始[19]。
- 2021年6月 鳥居 大祐が代表取締役社長に就任[20]。
- 2022年5月 法人向け統合型AI翻訳ソリューション「FLaT」の提供を開始[21]。
- 2024年1月 個人およびチーム向けAI翻訳サービス「みらい翻訳 Plus」の提供を開始[22][23]。
- 2025年2月 リアルタイム多言語AI音声翻訳「みらい翻訳 リスニングアシスタント」の提供を開始[24][25]。
- 2025年4月 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)「未来社会ショーケース事業」に協賛。デジタル万博のバーチャル会場において、多言語翻訳システムを提供[26][27][28]。
- 2025年10月 アンダーソン・毛利・友常法律事務所および弁護士ドットコムと共同で、法務領域における「マルチエージェント連携」の実証実験を開始[29][30]。従来の翻訳事業に加え、AIエージェント領域における研究開発を本格化させる[3]。
- 2025年11月 AI翻訳ソリューション「FLaT」「Mirai Translator®」において、セキュリティ運用の有効性を示すSOC 2 Type 2報告書を取得[31]。
技術・研究開発
みらい翻訳は、情報通信研究機構(NICT)との共同研究成果を基盤としつつ[32]、自社開発のニューラル機械翻訳(NMT)エンジンを中核とした独自の技術体系を構築している。特定の外部エンジンに依存せず、自社でエンジンの開発・運用を行うことで、高度なセキュリティ環境の維持と柔軟なカスタマイズを両立させている[33]。近年は、NMTに加えて大規模言語モデル(LLM)や生成AIなどの先端技術を積極的に統合しており[34]、翻訳精度の向上のみならず、英文作成[35]や文章の校閲[36]、専門AI同士が自律的に連携するマルチエージェント技術[29]など、高度な言語処理領域の研究開発を推進している[3]。
専門ドメインへの適応
汎用の機械翻訳エンジンのほかに、特定の分野や業務に特化した専門モデルの研究・開発を行っている。
- 契約書・法務モデル:アンダーソン・毛利・友常法律事務所の監修により開発された法務専用の機械翻訳モデル[15]。日本語⇔英語、日本語⇔中国語(簡体字)に対応[37]。のちに法務・財務モデルに統合された。
- 法務・財務モデル:契約書・規定などの法務関連文書や、決算短信・有価証券報告書などの財務関連文書の翻訳に適した法務・財務専用の機械翻訳モデル。アンダーソン・毛利・友常法律事務所の監修に加え、日本取引所グループ(JPX)提供の財務特化コーパスを追加学習に用いている。また、金融庁のEDINETタクソノミおよび国際財務報告基準(IFRS)の対訳辞書を標準搭載する。日本語⇔英語、日本語⇔中国語(簡体字・繁体字)に対応[17]。
- 製薬モデル:製薬分野に特化した専用モデル。日本語⇔英語に対応。翻訳センターおよびNTTコミュニケーションズ(現:NTTドコモビジネス)と共同で、複数の製薬企業が参画するプロジェクトを通じて開発された。一般には公開されない医薬品開発文書の翻訳データを学習に用いており、薬剤・化合物名や研究開発文書特有の言い回しや構成など、新薬開発の現場で求められる専門的な記述への対応を特徴としている[38][39]。
- 特許モデル:特許翻訳に特化した専用モデル(日本語⇔英語)の提供を開始。NTTが保有する約3億文の特許コーパスを学習データとして構築された[40][41]。
立命館大学との共同研究
2022年度より立命館大学の英語教育プログラム「PEP」において、AI翻訳を活用した継続的な共同研究を実施している。同プログラムを受講する約5,000人の学生に対し、標準的な学習環境として「Mirai Translator®」および「FLaT」を提供[42]。その大規模な導入環境下において、特定の授業や学生群を対象とした詳細な調査・分析を行うことで、AIとの協働が学習に与える影響を検証している[43]。
これまでの調査によって報告された主な成果は以下の通りである。
- 心理的影響と学習効率の向上:特定の学生群を対象とした調査において、AI翻訳の利用により自作英文への自己評価が高まり、英語発信に対する自信の向上に寄与することが確認された[44]。また、読解スピードの向上(1単語あたり平均1秒短縮)や、英作文における文法エラー率の大幅な減少(4.13%から0.36%へ)といった学習効率化のデータが報告されている[45]。
- 教育指導の変容: AI翻訳の活用により学生の基礎的な文法エラーが減少したことで、教員の指導内容が語彙・文法の訂正から、文章の論理構成や表現の質の向上を促す指導へと変化し、学生の成果物の質的な向上が見られた[45]。
- AIとの協働と学術的評価: 2024年度には学部生および大学院生の一部を対象に、AI翻訳と生成AIを組み合わせた学習プロセスを検証。AIの提案を「思考の素材」として扱い、学生自らの専門知識を反映させて「自分の言葉」へと磨き上げるプロセスを確認した[46]。この成果をまとめた論文[47]は「2025PCカンファレンス」において優秀論文賞を受賞した[48]。
- 成果の書籍化: 2023年度までの共同研究成果と教育実践の知見は、同プログラムを主導する教授陣と同社代表の鳥居大祐らによる共著『AI・機械翻訳と英語学習 教育実践から見えてきた未来』(2024年、朝日出版社)として刊行されている[49]。
社会実装に向けた実証実験
技術の社会還元や実用性の検証を目的として、自治体や専門機関と連携した実証実験を継続的に実施している。
- 法務分野(進行中):2025年10月より、アンダーソン・毛利・友常法律事務所および弁護士ドットコムと共同で、法務領域における「マルチエージェント連携」の実証実験を開始した。複数の専門AIを自律的に連携させ、法務実務の高度化を目指す研究開発を本格化させている[50][29]。
- 行政分野(終了):神戸市およびNTTドコモと共同で、AI翻訳を行政サービスに活用する「神戸市ドコモ AI翻訳実証事業」を実施した。窓口業務の多言語対応や、市立高等学校での学習支援における実用性の検証が行われた[51][52][53]。
- 防災分野(終了):総務省の委託事業として、神奈川県藤沢市において災害時の多言語音声翻訳システムの実証実験を実施した。避難所等における多言語コミュニケーションの円滑化に向けた技術検証が行われた[54]。
主な製品・サービス
自社ブランドサービス
- FLaT:法人向けの統合型AI翻訳プラットフォーム。AI翻訳エンジン「Mirai Translator」(後述)を中核とし、ブラウザ上でのテキスト・ファイル翻訳のほか、Chrome拡張機能、デスクトップアプリ、LLMによる後編集機能、音声翻訳機能「リスニングアシスタント」などを統合している。翻訳処理のトラフィック量に応じた定額制を採用しており、法人による大規模導入を想定した仕様となっている[21]。
- Mirai Translator:みらい翻訳の基盤となるAI翻訳サービス。日本語および英語を軸として、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語のほか、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語などのアジア言語、フランス語、ドイツ語、ハンガリー語、ポーランド語を含む欧州言語など、実務需要の高い計21言語に対応している。訳文の妥当性を確認できる「逆翻訳」や、元のレイアウトを保持したままWord、PDF、Excel、PowerPointファイルを翻訳できるファイル翻訳などの機能がある。現在は主に「FLaT」などのソリューションに含まれる形で提供されている[55][56]。
- みらい翻訳 Plus:個人および小規模チーム向けAI翻訳サービス(テキスト翻訳・ファイル翻訳)。日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、ロシア語に対応[57]。
- リスニングアシスタント:リアルタイム多言語AI音声翻訳サービス。日本語、英語、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語の10言語に対応。オンライン・オフラインの会議、セミナーイベント等の場での利用を想定している[58]。
- みらい翻訳 AI動画字幕:動画翻訳および字幕生成ツール。動画ファイルやYouTubeのURLから英文字幕の書き起こしおよび日本語訳の表示を行う。字幕用ファイル(.srt)の出力機能を備える[59]。
技術提供・OEM実績
評価・認証
AAMT長尾賞の受賞
2016年、アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)より「AAMT長尾賞」を受賞した。本賞は機械翻訳の実用化や普及促進、研究開発に優れた貢献のあった個人・グループを表彰するものである。
規則ベース機械翻訳(RBMT)や統計的機械翻訳(SMT)等の基本技術を統合し、実用的な翻訳精度と速度を両立したB2B向け機械翻訳プラットフォームを開発・実現した点、およびSNS向け自動翻訳市場への展開可能性などが評価された[64]。
翻訳精度に関する公表
2019年には、自社開発のニューラル機械翻訳エンジンにおいて、和文英訳がプロ翻訳者レベル、英文和訳がTOEIC960点レベルの精度に達したことを公表している。この指標は、ネイティブスピーカーがプロ翻訳者の訳文と比較しても遜色ないと判断する水準とされる[65]。
セキュリティ・信頼性
法人利用を前提とし、「データの非二次利用」および「国内サーバーでの処理完結」をセキュリティポリシーとして掲げている[66]。