イーコール

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イーコール古希: ἰχώρ, Īchōr[注 1])は、ギリシア神話に登場する神もしくは不老不死者の血(霊液)である。長母音を省略してイコルとも表記される。

古典学者ジェフリー・S・カーク英語版によれば、「神々のもつ血液に相当する体液」としての用例は、古代ギリシアの詩人ホメーロス叙事詩イーリアス』中の2回のみで[注 2]、まずディオメーデースが女神アプロディーテーに傷を負わせた箇所がある[1]。原文・訳は次の通り:ディオメーデースが長槍を振り上げ[3]

サルティのタブラ・イーリアカ英語版より、『イーリアス』の場面。アテーナー(左端)が扇動するディオメーデースが、槍で上向きに攻撃する図。前かがみなアイネイアース(中央)が傷ついており[注 6]、息子を助けようとアプロディーテー(右端)が近づいてくる[6]

そのまもなく後の行に、アプロディーテー(ディオーネー)がイーコール(ἰχῶ、416行)を両手で拭えば治ってしまっているので[7]、激痛のわりには人族のディオメーデースに負わされたのは軽傷であった[1]。ディオメーデースは、アテーナーにより神と人を見分ける能力を授かり、また、アプロディーテーを怪我させる許可もあらかじめ与えられていた[9]

ディオメーデースがアプロディーテーを傷つける、まさにその瞬間に迫る場面が、サルティのタブラ・イーリアカ英語版レリーフ彫刻に描写される(右図参照)[8]

また、クレーテー島の神話に登場する神造の巨人タロースの体にも流れている[10][11]。偽アポロドーロス『ギリシア神話』(『ビブリオテーケー』)によれば、青銅人タロースは首からかかとまでたった一つの血脈が通っており、青銅の釘で留められていた。タロースはクレーテー島の警護をあずかり、島を巡回中にアルゴナウタイ金羊毛を入手済のイアーソーンたち)が近寄るのを見つけ、アルゴー号に岩石を投げて攻撃した。魔術にたけたメーデイアは、タロースを薬で狂わせるか、不死を与えると口約束して騙し、(下のかかとの)釘をぬいて、神血イーコールを流れ出させて斃した[12][13][14]ロドスのアポローニオスによれば、タロースは尖った岩角でかかとをすりむいて、イーコールがまるでどろどろと融解した鉛のように流れ出てしまった[15]

また、アレクサンドロス大王は、神の子を気取っていたため、王が負傷して流血した際に格闘家ディオクシッポス英語版が、「それは神々の静脈に流れるイーコールですぞ」と言った逸話が残されている[16][17]プルータルコス対比列伝』(いわゆる『プルターク英雄伝』)では、大王自身が、これは「イーコールではない、血だ」と述べたことになっている[17][注 7]

脚注

関連項目

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