グレートソルト湖
アメリカ・ユタ州の塩水湖
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グレートソルト湖(グレートソルトこ、英: Great Salt Lake)は、アメリカ合衆国ユタ州の北部にある、西半球最大の塩水湖であり、五大湖と太平洋との間にある湖としても最大である[1]。
アメリカ地質調査所によると、2022年時点の湖水面積は2600平方キロメートル以下である。 湖の水位が過去最高位近く[2]となって湖面が広がり洪水が被害が発生した1986年の約6000平方キロメートルと比べると、現在は大きく縮小している[3]。大塩湖(だいえんこ)やグレートソルトレイクと表記されることもある。
地質・形成史
グレートソルト湖は、更新世後期にグレートベースンを覆っていた巨大な淡水湖ボンネビル湖(w:Lake Bonneville)が縮小・後退した結果として形成された。湖底堆積物の同位体解析によれば、過去約8,000年間にわたり、気候変動と流入水量の変化に応じて湖の水量と塩分状態が大きく変動してきたことが示されている。[5] [6]。
ボンネビル湖は約30,000年前から約16,000年前にかけて存在し、最大時には現在のグレートソルト湖の約10倍にあたる58,000平方キロメートルを誇り、深さは300メートルを超えていた[7]。約16,000年前、アイダホ州のレッドロックパス(Red Rock Pass)において堤防が決壊し、湖水の大部分がスネーク川流域を通じて太平洋に流出した。その後、気候が乾燥化・温暖化するにつれて蒸発量が流入量を上回るようになり、湖が縮小して現在のグレートソルト湖、ユタ湖(Utah Lake)、シービア湖(Sevier Lake)などを残すこととなった[8]。ボンネビル湖に含まれていた大量の溶存塩類が濃縮されたことが、現在の高い塩分濃度の主要因である。毎年、流入河川を通じて約200万トンの溶存塩類が湖に追加されているとされる。
湖底には微生物岩礁(マイクロバイアライト)が発達しており、なかでもストロマトライトと呼ばれる藍藻(シアノバクテリア)が形成する積層構造が浅所に広がっている。これらは湖の生態系の基盤を形成する重要な構造物とされている[9]。
歴史
ヨーロッパ人による最初の公式な記録は1824年、毛皮猟師のジェームズ・ブリッジャー(James Bridger)による探索とされる[10]。それ以前は、ショショーニ族、パイウテ族、バノック族、ユテ族などの先住民族が周辺に居住し、湿地や湖の恵みを享受していた[11]。
1840年代より本格的な調査・探検が開始され、1847年にモルモン教徒(末日聖徒イエス・キリスト教会の信者)がソルトレイクバレーに入植した。これが現在のソルトレイクシティの起源となった。19世紀後半から農業用水の大規模な取水が始まり、湖への流入水量が徐々に減少していった[12]。
1903年、湖を東西に横断する木橋(ルーシン短絡線)が開通し、アメリカ大陸横断鉄道の一部となった。その後、1950年代にユニオン・パシフィック鉄道が木橋に代わる築堤を建設したことで、湖は南北に分断され、南北間で塩分濃度に大きな差異が生じるようになった[13]。
20世紀後半には洪水対策として西砂漠への排水事業が行われた一方、21世紀には干ばつと上流での水利用増加により湖面積は歴史的低水位に近づき、湖の持続可能な管理が課題となっている。[14]
特徴
湖水の水位と面積
グレートソルト湖へは3つの河川が注ぎ込んでいる。
流出河川はなく、湖面からの蒸発もあるため、湖水の塩分濃度は高い場所では30%近くあり、海水(約3%)よりはるかに高い[3]。
湖の広さに対して深さ平均は13feetと浅いため[16]、水位の変動により、湖の面積は大きく変化することになる。
20世紀の最低水位記録は1963年10月に記録された4195.35feet=約1277.5mであり、最高水位は1987年4月に、4211.85feetに達した。 なお、4206feetを超えるとベア川渡り鳥保護区は水没し、4208feetで湖岸の造成地も水没する。この洪水対策として、湖を分断している築堤を破ることが実施された[17]。
アメリカ合衆国西部の気候変動に起因する大旱魃により、2021年・2022年に2年連続で更新されている(2022年7月3日時点の最低記録は約1277.1m)[18]。
流入河川からの農業用水などの取水による流入量減少、地球温暖化に伴う蒸発量の増大などにより湖水の縮小が続き湖が消失する可能性すら予測されており、ユタ州政府は水利用の効率化や専任の理事職の設置などで対策を進めている[3]。湖水のミネラル分が多いため、かつての湖底の露出が広がると、有害な鉱物を含んだ砂塵が飛散することが懸念されている[3]。
生態系
水生生物
湖の塩分濃度が極めて高いため、水中に生息できる動物は非常に限られている。主要な水生動物はアルテミア(Artemia franciscana)と呼ばれる節足動物であり、ブラインシュリンプとも称される。アルテミアはグレートソルト湖の食物連鎖の基盤となっており、渡り鳥の主要な栄養源となっている。その耐久卵(シスト)は小魚の飼料として50カ国以上に輸出されており、国際的な水産養殖産業を支えている[19][3]。アルテミアは冬季に死滅するが、耐久卵の形で越冬し、春季に孵化して再び大量繁殖する。
湖水中には各種の藻類(珪藻類を含む)や原生動物も生息している。北湖と南湖では塩分濃度の差異から生育する植物プランクトンや珪藻類の種組成が異なり、このことが湖面の色の違いとして宇宙からも観測可能な形で現れている(南湖は青緑色、北湖はハロバクテリアなどの存在によりピンク色)[20]。
野鳥・渡り鳥
グレートソルト湖とその周辺湿地帯は、北米における最重要の渡り鳥の中継地・繁殖地の一つである。毎年339種、約1,200万羽以上の鳥類がこの湖とその関連湿地を利用している。
ここは、北極圏から中南米にいたる半球規模の渡りルート(パシフィックフライウェイ(Pacific Flyway)、セントラルフライウェイ)(Central Flyway)の中継地点として機能している[21][3]。
グレートソルト湖が特に重要視される理由は、複数の種についてその世界個体群の相当割合が一時期に集中することにある。アメリカヒレアシシギ(Wilson's Phalarope, Phalaropus tricolor)の世界個体群の3分の1以上にあたる50万羽以上が秋の渡りにさきに集結することが確認されており、これはアメリカーアビ類の世界最大の集結地として記録されている[22]。
以下に、グレートソルト湖に飛来・繁殖する主要な鳥種を示す。
- 大規模に集結する渡り鳥
- アカエリヒレアシシギ(Red-necked Phalarope, Phalaropus lobatus):最大24万羽
- アメリカヒレアシシギ(Wilson's Phalarope, Phalaropus tricolor):世界個体群の30%超、最大60万羽以上
- アメリカソリハシセイタカシギ(American Avocet, Recurvirostra americana):北米個体群の56%にあたる最大25万羽
- ヒメハマシギ(Western Sandpiper, Calidris mauri):最大19万羽
- ハジロカイツブリ(Eared Grebe, Podiceps nigricollis):北米個体群の最大90%にあたる500万羽
- 繁殖コロニー
- アメリカシロペリカン(American White Pelican, Pelecanus erythrorhynchos):ガニソン島での繁殖コロニーは最大2万羽
- クロエリセイタカシギ(Black-necked Stilt, Himantopus mexicanus):北米個体群の37%
- ユキチドリ(Snowy Plover, Anarhynchus nivosus):北米大陸繁殖個体群の21%
- アメリカオオソリハシシギ(Marbled Godwit, Limosa fedoa):最大4万4千羽
- その他の記録種
- アメリカコハクチョウ(Tundra Swan, Cygnus columbianus)
- ハクトウワシ(Bald Eagle, Haliaeetus leucocephalus)
- カナダガン(Canada Goose, Branta canadensis)
- アカシマアジ(Cinnamon Teal, Spatula cyanoptera)
- ホオジロガモ(Common Goldeneye, Bucephala clangula)
- シロサギ類、カリフォルニアカモメ(California Gull)など
渡りの季節には、アメリカヒレアシシギがグレートソルト湖での滞在中に体重を2倍に増やし、南アメリカへ向けてノンストップ飛行するための脂肪を蓄えることが知られている。ハジロカイツブリもブラインシュリンプを大量に摂食して体重を倍増させ、換羽のために一時的に飛翔能力を失う「飛べない時期」をグレートソルト湖で過ごす[23]。
保護区・保全指定
西半球渉禽類保護区ネットワーク(WHSRN)
1991年、グレートソルト湖は西半球渉禽類保護区ネットワーク(WHSRN: w:Western Hemisphere Shorebird Reserve Network)において「半球的重要地点(Hemispheric Site)」の最高ランクの指定を受けた[24]。これはWHSRNが付与しうる最高位の指定であり、渉禽類の保全において世界規模の重要性を認定するものである。
また1992年には、アルゼンチンのラグーナ・マル・チキータおよびカリフォルニア州モノ湖との「三者姉妹地(Three-way Twinning)」が締結され、アメリカヒレアシシギの渡りルートを通じた国際的な保全協力が進められている[25]。
ラムサール条約
グレートソルト湖本体はラムサール条約(湿地に関する条約)の登録湿地(ラムサールサイト)には現時点で指定されていないが、グレートソルト湖のオーデュボン協会などの保護団体はラムサール登録に向けた運動を進めている[26]。湖が有する国際的な重要性や、年間1,200万羽以上の渡り鳥を支える湿地生態系の価値は、ラムサール条約の登録基準を十分に満たすと考えられている。
重要野鳥生息地(IBA)
ギルバート湾(Gilbert Bay)は2004年にバードライフ・インターナショナルおよび全米オーデュボン協会によって重要野鳥生息地(IBA: Important Bird Area)に認定されている[27]。
IUCN レッドリストとの関係
IUCNのレッドリストにおいて、グレートソルト湖自体が単一のカテゴリーに分類されているわけではないが、湖に依存する複数の鳥種が保全上の関心対象とされている。ユキチドリ(Snowy Plover)はユタ州の野生生物行動計画において最優先保護種として指定されており、その北米大陸繁殖個体群の21%がグレートソルト湖の岸辺に依存している[28]。
各保護区・自然保護地区
グレートソルト湖の周辺には多数の保護区・自然保護地区が設置されている。
- ベア川渡り鳥保護区(Bear River Migratory Bird Refuge)
- 合衆国魚類野生生物局(USFWS)が管理する国立野生生物保護区(National Wildlife Refuge)。1928年に議会により設立され、ベア川がグレートソルト湖の北東腕へ流入する地点の湿地帯を保護している。面積は約7万4,000エーカー(約300 km²)に及ぶ。
- ここは、パシフィックフライウェイ、セントラルフライウェイの両方に位置し、毎年数百万羽の渡り鳥が利用する。250種以上の鳥類が記録されており、約70種が繁殖に利用している[29]。また、ベア川湾はWHSRNのグローバル重要野鳥生息地にも指定されている[30]。なお、グレートソルト湖の水位が4206feetを超えるとベア川渡り鳥保護区は水没してしまう。過去に水没したときは、ここを利用する多数の野鳥は周辺の保護区へ移動した[31]。
- ギルモア・サンクチュアリ(Edward L. & Charles F. Gillmor Sanctuary)
- 「全米オーデュボン協会が1995年にグレートソルト湖南東岸に設立した、面積約3,597エーカー(約14.6 km²)の保護区。
アメリカソリハシセイタカシギ、アメリカヒレアシシギ、アメリカオオソリハシシギ、各種シギ類など多数の渉禽類・水鳥が利用する湿地と泥干潟を保護する[32]。
- グレートソルト湖岸地保護区(Great Salt Lake Shorelands Preserve)
- ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)が管理する、湖東岸沿いの約4,400エーカー(約18 km²)の湿地・高台ハビタット。1マイルを超えるボードウォークが整備されており、一般来訪者のバードウォッチングにも開放されている。淡水湿地、泥干潟、塩性湿地、高台植生など多様な環境が隣接して存在し、生物多様性が高い[33]。
影響・評価
近年の干ばつと水利用増加により湖水位が低下し、生態系・大気質・地域経済への影響が懸念されている。[36]
周辺
自然の地形としては、南にオカー山脈がある。
西部開拓時代における湖の「発見」は1824年とされている[3]。湖の東側、ワサッチ山脈の間にユタ州の州都ソルトレイクシティが築かれた。湖岸には湖水浴場がある。北および西側には人口密集地がない。
1903年、湖を東西に横切る橋(ルーシン短絡線)が作られ、その上をアメリカ大陸横断鉄道が敷設された。当初は橋は木橋であったが、1950年代に石を積み上げた築堤が建設され、木橋は廃止された。
このルーシン短絡線の築堤が湖水の移動を阻害するため、南北で塩分濃度が異なる。北西部は川が流れ込んでいないため平均より湖水の塩分濃度が高い。 なお、北東部のベア川の河口部は淡水湖に近い区画がある。