サミュエル・オーギュスト・ティソ
From Wikipedia, the free encyclopedia
1728年にスイスのヴォー州で生まれ、南フランスのモンペリエ大学で医学を修め、1749年に医学博士号を取得し、スイスのローザンヌで医師として開業した[1][2]。開業してすぐに天然痘の治療に成功して有名となり、1754年にローザンヌで出版された最初の著作『種痘の正しさ』では天然痘の種痘の有効性を主張した[2]。当時名の知れた医師の一人となり、彼の診察を受けにきた著名人の中には、ヴォルテール、イギリスの歴史家エドワード・ギボン、ユジェヌ・ド・ヴュルテンベルク公、ヨーゼフ二世などがおり、1760年には後のオナニー有害論の有力な典拠となった『オナニスム』を出版した[3]。
その他の主要著書としては、大衆向け医学書で衛生学の手引きとして1761年に出版され、多数の版を重ね、ヨーロッパの各言語に翻訳されベストセラーとなった『健康についての人々への助言』(Avis au peuple sur sa santé)[2]、てんかん発作の症候を記述し、病因、経過、予後に関する自身の見解を述べ、現代てんかん学の礎石となった1770年出版の"Traité de l'épilepsie"[4]、片頭痛の記述に83ページを割き、古典的権威となった"Traité des nerfs et de leurs maladies"[5]などがある。
著書『オナニスム』について
ティソは、著書『オナニスム』(L'Onanisme, ou Dissertation physique sur les maladies produites par la masturbation, 1760年)[1]において、オナニーの悪影響について述べている。彼によれば、人体機能の最も重要な要素である体液の中で、頂点に立つ精液が体内から大量に失われると、体力・記憶力・理解力が顕著に衰え、視力が低下し、神経や頭の病気、痛風・リューマチ・血尿、背中や性器の衰弱など様々な病気を発症するという[2]。
当初、1758年に胆汁質(Biliary disposition)に関する論文の付属文書として「オナニスム、あるいは自慰行為による諸疾病に関する論文」(ラテン語原題: Tentamen de morbis ex manustupratione)をラテン語で発表した[1]。1760年にはこの付属文書を大幅に増補した『オナニスム』をフランス語で出版し、1764年には更なる増補版を出版し,18世紀だけでもフランス語版が31版、ドイツ・イギリス・イタリアなどで翻訳版が刊行されるという国際的なベストセラーになった[1]。
これは、ヨーロッパ中に名声を博していた臨床医により、体液論に基づき医学的に見える言説に、「若き時計職人の話」の例を取り上げるなど恐怖の逸話を散りばめながら、オナニーの有害性を訴えた本であり、当時謎だった多くの病気に対して、オナニーという「原因」を提供することとなった[6]。1765年に現れた『百科全書』の自慰行為の項目はティソの主張に沿った内容で記述されており、ドイツの哲学者カントは『教育学』(1803年)において自慰の有害性を主張し、またジャン=ジャック・ルソーも『告白』において有害性を主張するなど、当時の宗教的・道徳的価値観と強く結びついたこともあり、ティソのオナニー有害論は20世紀初頭まで広く影響を与えた[3][6]。
『オナニスム』に対する批判
バジェット病で有名なイギリスの外科医ジェイムズ・バジェット(英語: James Paget)は、1875年に講演とエッセイをまとめた著書(Selected essays and addresses)の中で、オナニーと性交による支障に違いが見られないこと、オナニーは精神病の原因ではないことを指摘している[7]。フランスの梅毒専門医モーリャックは、1877年刊行の『実験医学・外科新事典』(Nouveau dictionnaire de médecine et de chirurgie pratiques)の「オナニーと性の過剰」の項で、『オナニスム』には誇張が多く、批評が欠如しており、オナニーと病気の間での因果関係の逆転が見られるとし、フランスの精神科医ジュール・クリスチャン(Jules Christian, 1840–1907)は、1881年刊行の『医学百科事典』(Dictionnaire encyclopédique des sciences médicales)の「オナニー」の項で、20年以上病人を見てきたがそんな例を一度も見たことがないと批判した[7]。
またイギリスの医師で性科学者でもあるハヴロック・エリスは、1899年刊行の『性の心理学研究』第2巻において、マスターベーションが蔓延している事実を示しつつ、狂気の原因になるのなら全人類はずっと前から精神薄弱だろうとし、マスターベーションをしたとされる高名な人物を複数取り上げ、『オナニスム』を批判した[7]。
脚注
- 1 2 3 4 阿尾安泰「18世紀のオナニスム : ティソを中心として」『言語文化論究』第25巻、九州大学大学院言語文化研究院、2010年3月、53-63頁、doi:10.15017/18356、ISSN 13410032。
- 1 2 3 4 ジャン・スタンジェ; アンヌ・ファン・ネック 著、稲松三千野 訳「ティソ」『自慰 : 抑圧と恐怖の精神史』原書房、2001年4月、83-102頁。ISBN 9784562034048。
- 1 2 ディディエ=ジャック・デュシェ 著、金塚貞文 訳「医学とマスターベーションの恐怖」『オナニズムの歴史』白水社、1996年9月、39-59頁。ISBN 9784560057834。
- ↑ “Samuel-Auguste Tissot 1728-1797): on the 200th anniversary of his death”. The National Institutes of Health (1997年7月18日). 2026年3月11日閲覧。
- ↑ “Samuel Auguste Andre David Tissot (1728–1797)”. Hektoen International (2023年). 2026年3月11日閲覧。
- 1 2 ジャン・スタンジェ; アンヌ・ファン・ネック 著、稲松三千野 訳「ティソの大勝利」『自慰 : 抑圧と恐怖の精神史』原書房、2001年4月、103-132頁。ISBN 9784562034048。
- 1 2 3 ジャン・スタンジェ; アンヌ・ファン・ネック 著、稲松三千野 訳「信頼が初めてぐらついたとき」『自慰 : 抑圧と恐怖の精神史』原書房、2001年4月、156-172頁。ISBN 9784562034048。
| 全般 | |
|---|---|
| 国立図書館 | |
| 学術データベース | |
| 人物 | |
| その他 | |
この項目は、科学者に関連した書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています(プロジェクト:人物伝/Portal:自然科学)。 |
この項目は、医学に関連した書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています(プロジェクト:医学/Portal:医学と医療)。 |
