ジェローム・ホーセイ
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家系
立身
ホーセイは1571年にモスクワ会社に徒弟身分で雇われたが、当時ロシア側はイングランドとの交易を一時的に拒んでおり、彼の最初の取引相手はオランダ商人だった。1573年5月に会社とロシアとの通商関係が回復すると、間もなくロシアに渡り通訳として働いた。首都モスクワに向かう途上、ツァーリの粛清からコストロマの町を守ったことで、町の指導層や聖職者から沢山の金と宝石を贈られた。モスクワ到着後、おそらくツァーリの命令で売春宿に売られかけていたマデリン・フォン・ユクセルという女性を救い、この人助けが後にホーセイに幸運をもたらすことになる。会社はホーセイに、彼の影響力を利用して、イングランド人居住区(この頃はザリャージェ地区のヴァルヴァルカ通りにあった)を拡張する許可を得るために交渉してほしいと要請した。この地区の一部は彼の家に接していた。ホーセイの家ではロシア貴族が歓待され、召使をも抱えていた。またホーセイは後に大勢のドイツ人の囚人を助命したことを誇りにしていたが、この囚人たちはおそらく居留地が粛清対象となったと思われる。この後、ハンブルクの商人はダマスク織のテーブルクロスとナプキンを、リューベックの商人は「大きな銀製の友愛記念カップ(loving cup)」をホーセイにプレゼントした。またホーセイはモスクワで収監されている1,200人のスコットランド人(と数人のイングランド人)の囚人と親しくなり、彼らにロシア軍への就職を斡旋し、彼らが自らの宗派の教会を建てる許可までツァーリ政府に出させた。
ホーセイはモスクワ滞在中、レスター伯爵ロバート・ダドリーやフランシス・ウォルシンガムなど、モスクワ会社の貿易支配に反対していたイングランド宮廷のメンバーによる私貿易を仲立ちしていたようである。このことは後にモスクワ会社側から問題としてホーセイが責められる原因となったが、これはホーセイがモスクワで築いた財産を放棄し、彼の財産を会社側の人間が手に入れることで解決した。ホーセイはモスクワ宮廷で栄誉ある待遇を受けた。イヴァン4世は彼を宝物部屋に招き、その後継ぎで1584年に即位したフョードル1世の戴冠式にも出席を許されている。
使節
1581年11月末、ホーセイはイヴァン4世からエリザベス1世に宛てた瓶詰めの親書を届けるよう命じられたが、北東航路が凍っていたため陸路での移動だった。旅は非常に困難で、さらにデンマーク領のエーゼル島で逮捕された。ところが島の総督夫人は偶然にもかつて自分が助けたマデリン・フォン・ユクセルであり、彼女の計らいですぐに釈放された。イングランドに到着するとジェロームはエリザベス1世に何度か謁見を許され、イヴァン4世の親書を英語に翻訳して読み上げた。この時の親書では、イングランドの王女をイヴァン4世の妻に迎えたい意向が伝えられた(これは実現されなかった)。
ホーセイはモスクワ会社以外の冒険商人が集めてきた物産品を含む、土産の積み荷を搭載した9艘の船でロシアに向かった(2度目の訪露)。1586年にホーセイは再びイングランドに新ツァーリのフョードル1世の親書を携えてロンドン宮廷に戻ってきた。この親書には「妃が妊娠しにくく、子供が出来ないので力を貸してほしい」と書かれていた。イングランド宮廷はホーセイに助産婦を伴わせてモスクワへ向かわせた(3度目の訪露)が、この助産婦はヴォログダでモスクワ入りを拒まれた。これはフョードル1世の妻の兄で宮廷の実力者であるボリス・ゴドゥノフと、その敵対勢力との政争の道具になったのである。ボリスの対抗派閥は「ボリスは異教徒の手を借りて皇子を産ませようとしている」とボリスを糾弾したのである。ホーセイ自身は西欧文化に憧れを持つボリスとは友人関係にあった。
ホーセイはロシア政府の依頼により、王家の一員であるマリヤ・ウラジーミロヴナを救出した。マリヤはリヴォニア戦争での戦略の一環としてイヴァン4世が傀儡に立てたリヴォニア王マグヌスと結婚したが、夫の死後は囚われの身となっていた(ホーセイは1581年末にイングランドへ向かう途中、ピルテンでリヴォニア王夫妻に謁見している)。ホーセイはマリヤとの結婚を望んだが、ボリスは彼が平民であることを理由にこれを許さなかった。こうしたなか、1587年にホーセイはイングランドで詐欺罪に問われたために帰国せざるを得なくなったが、宮廷内の友人たちの弁護もあって事なきを得た。1591年にホーセイはロシアに戻った(4度目の訪露)が、フョードル1世は彼に謁見を許そうとせず、エリザベス1世に2度とホーセイにはロシアの国土を踏ませないよう要求した。さらにイングランドでは彼に「公然たるスパイ行為を働いている」という疑いがかかり、結局は故国に戻ることとなった。友人であるボリスはホーセイの帰国の旅のお膳立てをしたうえ、彼に沢山の高価な贈り物を持たせている。
