スチュアート・J・リッチー

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全名 Stuart James Ritchie
出身校 エディンバラ大学(PhD、2014年)
スチュアート・J・リッチー
人物情報
全名 Stuart James Ritchie
国籍 イギリスの旗 イギリス
出身校 エディンバラ大学(PhD、2014年)
学問
研究分野 心理学認知科学行動遺伝学
研究機関 Anthropic(現職)
キングス・カレッジ・ロンドン(前職)
エディンバラ大学(前職)
主な業績 再現性の危機に関する先駆的研究、知能の科学的研究
主な受賞歴 米国心理学会「ライジング・スター」賞(2015年)
公式サイト
https://www.sciencefictions.org
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スチュアート・J・リッチー(Stuart James Ritchie)は、スコットランド出身の心理学者サイエンスコミュニケーターである。人間の知能に関する研究で知られ、現在はAI研究企業Anthropicでリサーチ・コミュニケーション部門を率いている[1]

2018年夏からキングス・カレッジ・ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所(IoPPN)の講師を務め[2]、以前はエディンバラ大学でポスドク研究員として知能研究に従事した。2020年に出版した著書『サイエンス・フィクションズ』(Science Fictions)は2021年のロイヤル・ソサエティ科学書賞にノミネートされた[3]

学歴・初期キャリア

リッチーはエディンバラ大学心理学の博士号を2014年に取得した[4]。博士課程では、認知能力の発達と教育・遺伝的要因との関係を主要テーマとした。

博士号取得後、エディンバラ大学認知加齢・認知疫学センター(CCACE)でポスドク研究員として勤務し、ヒト知能の加齢変化や遺伝的基盤に関する研究を続けた[4]

再現性の危機への関与

2011年、著名な心理学者ダリル・ベム(Daryl Bem)が「予知覚」(precognition)を支持するとする論文をトップジャーナルに発表した。リッチーはクリス・フレンチ(Chris French)、リチャード・ワイズマン(Richard Wiseman)とともに、この論文の追試を3ヶ所の研究室で独立して実施し、いずれも超能力の証拠を確認できなかった[5]。しかし、この否定的な追試結果をベムの論文を掲載したジャーナルに投稿したところ、「追試論文は掲載しない」として却下された。結果的に別のジャーナルに掲載されたが、この経緯は科学界の査読・出版システムの欠陥を示す象徴的事例として広く知られるようになった[6]

この出来事がリッチーにとって科学の再現性問題に対する関心を深めるきっかけとなり、後の著書『サイエンス・フィクションズ』へとつながった。

キングス・カレッジ・ロンドン

2018年夏よりキングス・カレッジ・ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所(IoPPN)社会・遺伝・発達精神医学センターの講師となり[2]、認知能力の発達・遺伝・教育的影響などを研究した。引用数は2025年時点で16,700件を超えており[7]行動遺伝学・神経画像・心理計測など多角的な手法を用いた。

Anthropicへの転職

2024年1月、リッチーはAI企業Anthropicの研究広報リーダー(Research Communications Lead)として転職した[8]。X(旧Twitter)のプロフィールおよびSubstackにて同職を公表している[9]

研究

リッチーの研究領域は主に以下の通りである。

  • 人間の認知能力の個人差とその遺伝・環境的要因の解明
  • 教育知能の因果関係の検証(ノルウェーの教育改革を利用した研究などで、1年間の追加教育がIQを約3.7ポイント引き上げることを示した)
  • 神経画像(MRI)を用いた脳構造と認知能力の関連研究
  • 加齢に伴う認知機能変化の追跡(ロシアン出生コホート研究などを活用)
  • 心理学における再現性の危機とオープンサイエンスの推進
  • 行動遺伝学的手法による知能の遺伝的基盤の研究

ジェイコブズ財団のリサーチフェローシップを受けて、認知能力の発達に関する多コホート研究を推進した[4]

主要論文

  1. Ritchie SJ, Wiseman R, French CC. "Failing the Future: Three Unsuccessful Attempts to Replicate Bem's 'Retroactive Facilitation of Recall' Effect." PLOS ONE 7(3): e33423, 2012. doi:10.1371/journal.pone.0033423[5]
    (ダリル・ベムの「予知覚」論文を独立した3機関で追試し、いずれも有意な効果を確認できなかったことを報告。科学における再現性問題を世界的に可視化した先駆的論文。)
  2. Ritchie SJ, Bates TC, Plomin R. "Does Learning to Read Improve Intelligence? A Longitudinal Multivariate Analysis in Identical Twins From Age 7 to 16." Child Development'' 86(1): 23–36, 2015. doi:10.1111/cdev.12272[10]
    (一卵性双生児1,890組の縦断データを用い、早期の読書能力の差異がその後の知能差と関連することを示した。)
  3. Ritchie SJ, Tucker-Drob EM. "How Much Does Education Improve Intelligence? A Meta-Analysis." Psychological Science 29(8): 1358–1369, 2018. doi:10.1177/0956797618774253[11]
    (42データセット・60万人超のメタ分析により、1年間の追加教育が認知能力を1〜5IQポイント向上させることを示した。)
  4. Ritchie SJ, Cox SR, Shen X, et al. "Sex Differences in the Adult Human Brain: Evidence from 5216 UK Biobank Participants." Cerebral Cortex 28(8): 2959–2975, 2018. doi:10.1093/cercor/bhy109[12]
    (UKバイオバンクの5,216人を対象に成人脳の構造・機能における性差を網羅的に調査。この種の単一サンプル研究として当時最大規模。)
  5. Cole JH, Ritchie SJ, Bastin ME, et al. "Brain Age Predicts Mortality." Molecular Psychiatry 23: 1385–1392, 2018. doi:10.1038/mp.2017.62[13]
    (神経画像から「脳の予測年齢」を算出する生体バイオマーカーを開発し、脳の老化度が死亡リスクと関連することを示した。)

受賞・表彰

  • 2015年 - 米国心理科学学会(Association for Psychological Science)「ライジング・スター」(Rising Star)賞受賞[14]
  • 2021年 - 著書『サイエンス・フィクションズ』がロイヤル・ソサエティ科学書賞(£25,000)にノミネート(受賞はマーリン・シェルドレイクの『Entangled Life』)[3]

著書

  1. "Intelligence: All That Matters" (London: Hodder & Stoughton, 2015年、ISBN 9781444791877[15]
  2. "Science Fictions: How Fraud, Bias, Negligence, and Hype Undermine the Search for Truth" (London: The Bodley Head / New York: Metropolitan Books, 2020年、ISBN 9781250222695[16]
    邦訳:『Science Fictions―あなたが知らない科学の真実』(矢羽野薫訳、ダイヤモンド社、2021年、ISBN 9784478113400[17]

メディア活動

ニュースレター・執筆

リッチーは「Science Fictions」と題したサイエンス・ニュースレターを運営しており、2023年以前はSubstackで、以後は英国紙「i」(アイ)でも連載した[18]。科学論争や研究不正・バイアス問題を一般向けにわかりやすく解説する内容で知られる。また、『タイムズ』、『ワシントン・ポスト』、『ワイアード』、『スペクテーター』、『Aeon』などにも寄稿している[14]

ポッドキャスト

2023年7月より、サイエンスライターのトム・チヴァース(Tom Chivers)と共に週次ポッドキャスト「The Studies Show」(後に「Science Fictions」と改称)を配信している[19]。科学的に論争のある研究テーマを毎週掘り下げ、研究の信頼性や方法論を批判的に検討する内容である[20]

テレビ・ラジオ

BBCラジオ4の「The Infinite Monkey Cage」「More or Less」「Bringing Up Britain」などにも出演した[3]

思想

マートン規範と科学の理想

リッチーは、社会学者ロバート・マートン(Robert K. Merton)が提唱した科学規範

  1. 普遍主義(universalism)
  2. 無私性(disinterestedness)
  3. 共有主義(communality)
  4. 組織的懐疑主義(organized scepticism)

を科学の理想的な基準として支持している[21]。その上で、現実の科学界ではこれらの規範が「歪んだインセンティブ構造」――雇用評判・資金獲得への圧力――によって慢性的に侵食されていると論じており[16]、科学に固有の「」があるというよりも、あらゆる職業を歪めるものと同じ経済的・社会的圧力が科学界にも作用していると主張する[22]

オープンサイエンスへの積極的支持

リッチーは、再現性の危機を克服するための実践的な処方箋としてオープンサイエンス運動を強く支持している。事前登録(pre-registration)、データの公開共有、統計的検定力の向上、多機関共同研究(multisite collaboration)などの改革手段を推奨しており[6]、これらが研究の透明性を高め、バイアスや不正の温床となる「出版バイアス(publication bias)」を是正できると考えている。一方で、こうした改革はあくまでも症状への対処であり、根本的な原因である研究資金・出版システムのインセンティブ構造の抜本的な見直しが不可欠だとも主張している[16]

知能研究への肯定的立場

リッチーは、知能指数(IQ)の研究が一般社会において不当に忌避されがちであることを懸念し、その科学的有効性を擁護する立場をとる。IQスコアは教育達成度・収入健康寿命など多くの人生上の指標と強い相関を示し、遺伝的要因やの構造とも結びついていることが主要科学誌に繰り返し示されているとして、IQ研究への偏見は証拠から切り離された政治的反応に過ぎないと論じている[23]

また、知能は教育によって一定程度向上可能であり、特に幼少期の読書能力の獲得が知能の非言語的側面にも恩恵をもたらすという立場から、教育政策への科学的知見の応用を提唱している[24]

懐疑主義と科学コミュニケーション

リッチーは、科学的懐疑主義(scientific scepticism)を科学の本質的な美徳として位置づけており[16]センセーショナルな主張を無批判に受け入れるメディア・科学コミュニティ双方の傾向を強く批判している。科学者にはより高い倫理訓練が必要だと主張し[25]、同時に、科学は原理的に自己修正的な営みであることへの信頼を失わないよう、一般市民への誠実な科学コミュニケーションの必要性を訴えている[6]。また、自ら著書・ニュースレター・ポッドキャストを通じてその実践に取り組んでいる。

発言

リッチーの思想の理解を助けるため、彼自身の説明等の発言を以下に引用する。

科学の誠実性と再現性

懐疑主義
「科学とは、最も厳しい懐疑主義、最も鋭い合理性、最も硬骨な経験主義が見られるはずの分野です。なのに今やそこは、無能妄想自己欺瞞がめまぐるしく渦巻く場所になってしまいました。」
(原文:"Science, the discipline in which we should find the harshest scepticism, the most pin-sharp rationality and the hardest-headed empiricism, has become home to a dizzying array of incompetence, delusion, lies and self-deception.")[16]
研究不正
研究不正は科学界の最高位で起きるというなら、それはレーダーに引っかからないところではさらに多く起きている可能性を示しています。無名の雑誌では、なおさら多くが。」
(原文:"If this kind of fraud occurs at the very highest levels of science, it suggests that there's much more of it that flies under the radar, in less well-known journals.")[26]
科学システム
「現在の科学研究の資金調達・出版システムは、過ちから私たちを守るどころか、悪い科学を積極的に奨励しているのです。」
(原文:"The current system of research funding and publication not only fails to safeguard us from blunders but actively encourages bad science.")[27]

オープンサイエンスと科学改革

オープンサイエンスへの楽観論
「ここ数年で起きている真の変化が見えてきます。それが、科学が抱える多くの問題を解決できるという楽観的な気持ちを持たせてくれています。」
(原文:"I do see real changes happening within the last few years that make me optimistic that a lot of these problems in science can be dealt with.")[6]

Anthropic・AI

Anthropicへの転職
Anthropicに転職しました。研究広報(リサーチ・コミュニケーション)に携わり、彼らの本当に優れた、世界最先端の科学を世界に発信するお手伝いをしています。」
(原文:"I'm working on research communications, helping to share their (really excellent, genuinely world-leading) science with the world.")[8]

出典

関連項目

外部リンク

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