タングステン鋼
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用語と範囲
「タングステン鋼」は、特定の単一鋼種名というより、タングステンを添加した鋼を指す広い呼称として用いられる。文献・分野によっては、 (1) 高速度工具鋼などの工具鋼におけるW添加鋼 (2) かつて永久磁石材料として用いられた磁石鋼としてのタングステン鋼 を指して述べられることがある。[3][2]
用語上の混同(W添加鋼と超硬合金)
「タングステン鋼」という日本語呼称は、資料の種別や分野によって指す範囲が揺れうる。辞典類では一般に「鋼にタングステンを加えた合金」として説明され、切削工具など工具材料としての利用に言及する例がある。[4] 一方、工具材料の文脈では高速度工具鋼を含む工具鋼の説明と結び付けて述べられることもある。[5] さらに実務・商流上は、鋼(鉄基合金)ではなく、炭化タングステン系の超硬合金(硬質材料)を指すかのように用いられる場合があることが、業界団体の概説等で示されている。[6][7]
規格・用語(JISにおける「鋼」「合金鋼」の枠組み)
JISの鉄鋼用語規格は、鋼材の分類と用語を整理しており、鋼(鉄を主成分とする合金)や合金鋼の枠組みで材料を理解するための基盤となる。したがって、規格用語の観点から「タングステン鋼」を位置付ける場合、基本的には「タングステンを合金元素として含む合金鋼(鋼材)」の範囲に置いて整理するのが妥当である。[8]
材料体系と製造法の相違(W添加鋼と超硬合金)
W添加鋼は鉄基合金(鋼)として溶製・熱処理の枠組みで扱われるのに対し、超硬合金は硬質炭化物粉末を金属バインダーとともに焼結した材料として定義される。[9] 粉末冶金に関する研究でも、超硬合金が粉末を混合・成形したのち焼結して得られる材料として説明されている。[10]
注意点
本項で扱う「タングステン鋼」は、原則としてW添加鋼(鋼材)を指す。超硬合金は、タングステン(元素)や炭化タングステンを主要成分として含み得るものの、材料体系が異なるため同一視しない。[8][9][7] ただし用語の実態として混同が起こりうるため、出典に基づいて「どちらの材料を指しているか」を特定した上で記述することが望ましい。[6][4]
特性(材料学的背景)
タングステン添加の役割(炭化物形成・焼戻し軟化抵抗)
タングステンは炭化物形成元素として工具鋼の組織・熱処理挙動に影響し、焼入れ温度設定や焼戻し時の軟化抵抗(いわゆる二次硬化に関連する現象)と結び付けて説明されることが多い。日本特殊鋼協会の技術誌では、タングステン添加鋼の例として、W添加により変態温度域や焼入れ条件が変化し得ること、さらに多元素添加工具鋼(高速度工具鋼を含む)では高温域での軟化抵抗が特徴となることが解説されている。[1]
赤熱硬さと高温特性(主として工具鋼)
高速度工具鋼は、WやMoなどを多量に含む工具鋼として整理され、切削時に刃先温度が上昇する条件でも硬さを保持する性質(赤熱硬さ)を重視して発展してきた、という系譜で説明される。[3] (赤熱硬さという用語自体は、工具鋼の分野で用いられる性質表現であり、評価・測定条件は文献により異なる。)
分類と代表例
工具鋼・高速度工具鋼におけるタングステン鋼
高速度工具鋼は、歴史的にはW系(タングステン系)と、Mo系(モリブデン系)に大別して論じられることがある。『鉄と鋼』の解説では、鋼種動向の説明とともに、当時実用されている高速度工具鋼の化学成分と主要用途が表として提示されており、W系としてJIS SKH2(AISI T1相当)などが挙げられている。[11] 同表では、W系の例として、SKH2(T1)がW約18%を含む組成として示されている。[11]
磁石鋼としてのタングステン鋼(歴史的用途)
NIST(当時の米国標準局)の永久磁石材料に関する概説では、焼入れ硬化型磁石鋼の1つとして「tungsten steel」を取り上げ、W含有量5–6%程度・炭素約0.6%が最適範囲とされることなどを述べている。[2] また、日本磁気学会系の概説(百年史)でも、19世紀末から20世紀初頭にかけて炭素鋼・クロム鋼・タングステン鋼などの工具鋼が永久磁石として用いられていたことが整理されている。[12] 東北大学金属材料研究所の公開資料(回顧記事)でも、当時「最も強い磁石」としてタングステン鋼(組成例を含む)が言及され、KS鋼との比較文脈で扱われている。[13]
利用
タングステン鋼(W添加鋼)の利用は、工具鋼としての用途(切削・塑性加工など)が中心である。用語上の混同が起こりやすいことから、用途記述では材料体系(鋼材か、超硬合金等の硬質材料か)を区別して扱うことが望ましい。[4][6]
製造(切削工具・金型など)
高速度工具鋼(W系を含む)が切削工具などに用いられることは、『鉄と鋼』解説の表でも示されている。[11]
建設・鉱業(耐摩耗用途)
(超硬合金は鋼とは異なる材料体系であるが)耐摩耗用途で超硬合金が利用されることは、粉末冶金・加工に関する大学研究等でも扱われる。[10]
軍事(高密度材料としての周辺領域)
タングステンは高比重であることから高密度材料として利用されることがあるが、これは主としてタングステンを用いた高密度合金等の利用であり、W添加鋼(タングステン鋼)そのものの用途とは区別して扱う必要がある。[7][6]