20世紀前半のB♭管チンバッソ
チンバッソと呼ばれる楽器の歴史は非常に混乱している。この語の正確な由来は明らかでないが、おそらく「低音金管楽器」を意味するイタリア語 の「corno in basso」を略して「c. in basso」と書いたことに由来する[ 1] 。この語は19世紀はじめからイタリアで用いられているが、当時は特定の楽器を指したわけではなく、最低音の金管楽器全般に対して広く用いられた語だった[ 1] 。
ジュゼッペ・ヴェルディ は最初のオペラ『オベルト 』(1839年)以来「チンバッソ」のパートをスコアに使用しているが、初期の作品はおそらく「ロシア式ファゴット (fagotto russo)」と呼ばれたセルパン の一種で演奏された。おそらく1841年ごろからはオフィクレイド が使われた。やがてオフィクレイドにかわってボンバルドン という3本ピストンのF管の金管楽器が使われるようになり、この楽器も「チンバッソ」と呼ばれたが、ヴェルディはこの楽器の音色に不満で、かわりに低音のトロンボーンを追加する案を1872年のリコルディ あての手紙で述べている。当時のイタリアのトロンボーンはB♭ 管のテノール2本とF管のバス1本という組み合わせで、いずれもバルブ式だった。
1881年、ヴェルディはミラノ の楽器製作者 ペリッティ (イタリア語版 ) のもとを訪れ、バルブ式のバストロンボーン を特注した。ただし、このときのバストロンボーンは現在チンバッソと呼ばれる楽器とは異なり、4つのバルブを持つBB♭ 管のコントラバストロンボーンだった。それ以降、ヴェルディは『オテロ 』と『ファルスタッフ 』にこのバストロンボーンを使用した。また、それ以前のヴェルディ作品についてもチンバッソのパートをこのバストロンボーンで演奏することが多くなった。ヴェルディ以外ではジャコモ・プッチーニ もこのバストロンボーンを使用した。イタリアの各オーケストラで広くこのバストロンボーンが採用され、少なくともイタリアでチューバが一般的になる1920年代まで使われ続けた。
その後、スライド式トロンボーンが国際的に普及してバルブ式トロンボーンは衰えたが、ヴェルディのトロンボーンの半音階的な書法に対応した楽器をベルリン・コーミッシェ・オーパー から注文されたハンス・クーニッツは1959年に新しいトロンボーンをデザインし、アレキサンダー 社によって製造された。この楽器は「チンバッソ・バストロンボーン」と命名されたが、2つのバルブを持つF管のスライド式トロンボーンだった。1980年代中頃[ 7] 、タイン社によってやはりF管で4-5個のバルブをもつバルブ式トロンボーンが製造され、「チンバッソ」と名づけられた。現在チンバッソと呼ばれる楽器はタインのデザインにもとづいている。この楽器は実際にヴェルディが使用したものとは異なるが、ヴェルディやプッチーニの作品を演奏するために使われている。