トンネル栽培
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トンネル栽培(トンネルさいばい)とは、主として露地の畝に弓状の支柱を設置し、その上を農業用フィルム、不織布、寒冷紗、防虫ネットなどでトンネル状に覆って作物を栽培する被覆栽培の一種である[1][2]。露地で利用されるほか、ガラス室や農業用ハウスの内部に設置して追加の保温に用いる場合もある[2]。
農林水産省の統計上、「トンネル」は農業用被覆資材で覆われた施設のうち、作物の肥培管理を行う人が通常の作業姿勢で内部に入れない高さのものと定義され、内部で立って作業できるガラス室やハウスと区別されている[3]。
トンネル栽培は、低温期の保温、地温上昇、防霜、防風、防虫などを目的として行われる[1]。被覆資材の素材、厚さ、透光性、通気性、換気孔の有無および被覆方法によって、トンネル内の気温、地温、湿度、日射量および通風条件は異なる[4][5]。
歴史
平凡社『世界大百科事典』によれば、日本では昭和初期に高知県や宮崎県などで、油紙を張ったトンネルを用いたトマト、ナス、キュウリなどの促成栽培が行われた。ポリエチレンフィルムが利用されるようになった1955年以降、トンネル栽培は各地へ急速に普及した[6]。
1959年刊行の『東北農業研究』第1号には、キュウリの直播ビニールトンネル栽培について、実用性と地域別の栽培法を検討した研究が掲載されている。翌1960年刊行の第2号には、スイカのトンネル様式と換気法に関する研究が掲載されており、ビニールフィルム普及後の早い時期から、作物別の構造や換気管理が研究対象となっていた[7]。
トンネル栽培は、換気作業や低い姿勢での管理作業を必要とするため、一部では人が内部に入って作業できる農業用ハウスへ移行したが、露地栽培より簡易な被覆方法として引き続き利用されている[6][3]。
構造
トンネルは、畝をまたぐように弓状の支柱を一定間隔で設置し、その上から被覆資材を掛ける構造を基本とする[1][2]。農林水産省は、トンネルを一作ごとに撤去されるものとして統計上取り扱い、二重トンネルについては内外のトンネルを重複計上せず一組として扱っている[3]。
支柱には鋼線や樹脂被覆鋼管などが用いられ、被覆資材は裾を土へ埋める方法、留め具やピンで固定する方法、資材の上から押さえひもを掛ける方法などによって保持される。実際の固定方法は、使用する資材、風の強さ、換気方法および作物の管理方法によって異なる[8][9]。
トンネルの幅と高さは、畝幅、条数、作物の草姿および栽培期間によって異なる。スイカの栽培では高さ約1メートル、幅約2メートルのトンネル内でつるを管理する事例があり、作業者が正座や片膝立ちの姿勢で作業することによる身体負担が農作業研究の対象となっている[10]。
被覆資材
農業用フィルム
農業用フィルムを使用するトンネルでは、日射を透過させながらトンネル内の熱を保持することによって、低温期の気温と地温を確保する。用途に応じて異なる素材、厚さ、光学特性および換気孔を持つ資材が使用される[1]。
密閉性の高いフィルムは保温性を確保しやすい一方、日射が強い日にはトンネル内温度が急上昇する。兵庫県立淡路農業技術センターの冬どりレタス試験では、外気の最高気温が15度となった晴天日に、農業用ビニールを被覆したトンネル内の最高気温が32度まで上昇した[5]。
有孔フィルムは、フィルムに設けられた孔を通じて自然換気を行う資材である。換気孔の割合や配置によって保温性と換気性が変化する。暖地の3月どりレタスでは、開孔率の異なる有孔フィルムを使用し、球重や球形への影響を比較した試験が行われている[11]。
鳥取県が夏ネギの早出し栽培について示した技術では、厚さ0.05ミリメートル、幅230センチメートルの孔なしポリオレフィン系フィルムが、地温を確保しやすく価格が比較的低い資材として採用された。同技術では、密閉状態でトンネル内気温が30度以上となる2月中旬から下旬に孔を開けて換気を開始し、3月下旬にトンネルを除去している[12]。
不織布・通気性資材
不織布は、繊維を織らずに重ね、接着または熱処理によってシート状に加工した資材である。繊維間に隙間を持つため通気性があり、内部に空気を含むことで保温性を持つ。素材、繊維密度および厚さによって透光性、遮光性、吸湿性および透湿性が異なる[4]。
兵庫県立淡路農業技術センターのレタス試験では、空隙率10パーセントの通気性資材によるトンネル内の最高気温は24度であり、農業用ビニールを使用したトンネルの32度より昼間の高温が抑えられた。同試験では、冬どりレタスの生育、結球重量および球形について、通気性資材を用いたトンネルが農業用ビニールを用いたトンネルより良好な結果を示した[5]。
秋田県農業試験場がネットメロンのトンネル早熟栽培について示した方法では、ビニールの内側に不織布を被覆し、ビニールだけを段階的に巻き上げて換気することで、裾を毎日開閉する方法と同程度のトンネル内温度と生育を確保しながら、換気労力を削減できるとされた[9]。
寒冷紗・防虫ネット
寒冷紗や化学繊維製ネットは、素材、色、織り方および網目によって透光性、遮光性、通気性および防虫性が異なる。農林水産省は、害虫を物理的に遮断する防虫ネットについて、対象害虫に応じた網目を選ぶ必要があり、一般に網目が細かいほど透光性と通気性が低下するとしている[4]。
防虫ネットをトンネル状に設置する方法は、コマツナやハクサイなどの露地野菜における害虫管理法として研究されている。農研機構の研究では、防虫ネットトンネルと栽培前の太陽熱処理を組み合わせた場合を含め、アブラムシ類などによる被害への影響が調査された[13]。
被覆方式
一重トンネル
一重トンネルは、一組の支柱に一枚の被覆資材を掛ける方式である。密閉フィルム、孔を設けたフィルム、通気性資材または防虫ネットなどが、栽培時期と目的に応じて使用される[5][11][13]。
一重トンネルでは、裾を開閉する方法、フィルムに孔を開ける方法、有孔資材を使用する方法などによって換気が行われる。レタス用の簡易換気装置では、ひもで固定した塩化ビニル製トンネルのフィルムを温度に応じて開閉し、手作業による換気の省力化と品質確保を図っている[8]。
二重トンネル
二重トンネルは、外側のトンネル内に小型の内トンネルを設置する方法、または異なる被覆資材を二層に配置する方法である。二層の間に空気層を設けることで、低温期の保温に利用される[14]。
山口県農業試験場が示したエダマメの5月出し栽培では、黒色ポリエチレンマルチと水封マルチを設置した上に、有孔ポリフィルムとビニルフィルムによる二重トンネルを設け、定植後は内側で不織布によるべたがけを併用している。この方法では、2月中旬から3月上旬の栽培開始によって、播種から80日から85日程度で収穫する作型が示された[14]。
ハウス内トンネル
ガラス室や農業用ハウスの内部にトンネルを設置する方法は、外側の施設被覆に加えて作物周辺へ追加の被覆層を設けるものである[2]。茨城県の1月から2月どりハウスレタスでは、農業用ビニールの一重トンネルにハウス内張りカーテンを併用する方法や、アルミ蒸着フィルムと空気緩衝被覆資材を組み合わせる方法によって、マイナス2度以下への遭遇を避け、凍害を軽減する技術が示された[15]。
温度と換気の管理
トンネル内では、日射によって昼間の気温が外気温より大きく上昇する場合がある一方、夜間や曇天時には保温効果が限定される場合がある。このため、被覆資材の選択、密閉期間、換気開始時期、開口部の大きさおよび除覆時期は、作物と作型に応じて設定される[5][12][16]。
冬どりレタスでは、品質を確保するためにトンネル内の温度と湿度を換気によって調節する必要があり、作型によっては1か月から2か月にわたる手作業の開閉管理が生産者の負担となる。香川県農業試験場が開発した簡易換気装置は、10アール当たりの設置・撤去時間が、慣行の手作業による換気5回分に相当する5.3時間であり、換気作業の省力化に有効とされた[8]。
北海道のスイカ栽培では、定植後約4週間トンネルを密閉した試験において、日最高気温が約50度に達したものの、慣行の開閉換気区と比べて葉焼け程度に有意差が認められず、良果収量と糖度が高くなった。密閉期間後に裾をわずかに開けた状態で固定する方法を組み合わせることで、定植から着果期までの換気作業の大半を省略し、全作業時間の約10パーセントを削減できると試算された[16]。
トンネルの換気管理は、同じ作物でも地域、播種・定植時期、資材および品種によって異なる。鳥取県の夏ネギでは、トンネル内気温が30度以上となる時期から孔換気を開始する方法が示される一方[12]、北海道のスイカでは生育初期の密閉管理が試験されている[16]。
栽培上の効果
保温と地温上昇
トンネル被覆は、低温期に作物周辺の気温と地温を高め、生育可能な温度を確保する目的で利用される[1]。被覆の効果は、フィルムの放射特性、通気性、密閉度、日射量、風速および外気温などによって変化する[5][15]。
エダマメの5月出し栽培では、二重トンネル、黒色マルチ、水封マルチおよび不織布べたがけを組み合わせ、低温期に必要な温度を確保する技術が示されている[14]。ハウス内の厳寒期レタスでは、トンネルと追加の保温資材を併用することによって、凍害が発生する低温への遭遇を回避する方法が検討されている[15]。
凍霜害と風害の軽減
京都府農林水産技術センターが示したエビイモの早植え栽培では、4月下旬に定植してトンネル被覆を行うことで、晩霜と風の影響を防ぎ、親株と子株の生育を早め、5月上旬から中旬に定植する無被覆栽培より収量が増加した[17]。
同技術では、有孔透明フィルムと不織布を被覆資材として比較し、有孔透明フィルムは価格が低い一方で孔開け作業を要し、繰り返し利用できないとされた。不織布は価格が高い一方、繰り返し利用でき、夜間の保温効果が高いとされた[17]。
作期の前進と拡大
トンネル栽培による保温は、露地の無被覆栽培より早い時期に播種または定植し、収穫期を前進させる作型に利用される[14][12]。
山口県のエダマメでは5月出しの早熟栽培[14]、鳥取県の夏ネギでは5月下旬から6月上旬に収穫する早出し栽培が示されている[12]。京都府のエビイモでは早植えトンネル栽培により生育と収量が増加し、無被覆栽培と比べて10アール当たり所得が増加するとの試算が示された[17]。
害虫の物理的遮断
防虫ネットや不織布を使用するトンネルでは、害虫の成虫が作物へ到達して産卵することや、飛来性害虫がトンネル内へ侵入することを物理的に妨げる。網目が細かいほど小型害虫を遮断しやすい一方、通気性と透光性は低下する[4]。
ハクサイの春まきトンネル栽培では、割繊維不織布を被覆資材として用いることで、トンネルを日ごとに開閉せずに5月上旬収穫を行う方法が示されている[18]。コマツナとハクサイについては、防虫ネットトンネルを利用した害虫管理法が研究されている[13]。
降雨の遮断と果実品質の安定化
果樹では、樹冠上部をフィルムで覆う大型のトンネル型施設が、降雨の遮断、収穫期の前進および果実品質の安定化を目的として利用される場合がある[19]。
熊本県農業研究センターの早生モモ試験では、トンネルハウス栽培によって露地栽培より収穫期が約1週間早まり、果実品質も向上した。天井フィルムは2月下旬から3月上旬までに被覆し、収穫終了後に除去する方法が適するとされた[19]。
作物別の利用
レタス
冬どりおよび春どりレタスでは、低温期の保温を目的としてフィルムや通気性資材によるトンネル被覆が行われる。兵庫県立淡路農業技術センターは、冬どり栽培では12月中旬から空隙率10パーセントの通気性資材を使用し、春どり栽培では中央部の通気性を高めた資材を定植時から使用する方法を示している[5]。
密閉性の高い農業用ビニールでは、昼間の高温によってレタス球の形が乱れる場合があり、通気性資材や有孔フィルムの利用、裾の開閉、自動換気装置などによる温度管理が検討されている[5][11][8]。
厳寒期に閉め切ったレタストンネルでは、灰色かび病などが問題となる場合がある。近紫外線除去フィルムを用いた試験では、慣行フィルム区で19.4パーセントであった灰色かび病の発病株率が、近紫外線除去フィルム区では5.7パーセントとなった[20]。
メロン・スイカ
メロンとスイカでは、低温期の定植後にトンネルを設置し、保温によって初期生育と早熟化を図る作型が行われる[9][16]。
ネットメロンでは、定植から開花期までの寒暖差に対応するため、トンネルの開閉による保温と換気が必要となる。秋田県農業試験場は、不織布とビニールを組み合わせ、ビニールだけを段階的に巻き上げる省力換気法を示している[9]。
北海道のスイカでは、トンネルの裾を換気に利用する方式について、密閉期間と裾をわずかに開けた固定管理を組み合わせ、換気労力を減らしながら生育、収量および糖度を確保する技術が研究されている[16]。
オクラ
オクラの早熟栽培では、外側のトンネル内で幼苗を不織布によってべたがけし、初期生育を安定させる方法が示されている。農研機構の研究では、4月上旬頃にトンネルの換気を開始する時期にべたがけ資材を除去し、資材をトンネルの妻面から引き出す方法が採用された[21]。
エダマメ
エダマメでは、二重トンネル、マルチおよび不織布を組み合わせた5月出し栽培が示されている。山口県農業試験場の技術では、2月中旬から3月上旬に播種し、無加温ハウス内で温床育苗した苗を定植することで、播種後80日から85日程度で収穫する[14]。
ネギ
夏ネギの早出し栽培では、トンネル内の地温を確保することによって低温期の生育を進める一方、低温遭遇とその後の温度条件によって抽苔が発生するため、播種時期とトンネル内温度を調整する必要がある。鳥取県の技術では10月20日前後に播種し、2月中に地温10度以下の積算時間を200時間以下に抑えることで、抽苔率を約5パーセントに抑えるとしている[12]。
エビイモ
エビイモでは、早植えした株をトンネルで覆うことによって晩霜と風の影響を軽減し、生育を促進する方法が示されている。京都府の試験では、4月下旬定植のトンネル被覆栽培で、5月上旬から中旬定植の無被覆栽培より増収した[17]。
ハクサイ・コマツナ
ハクサイの春まき栽培では、割繊維不織布をトンネル状に被覆することで、換気のための開閉作業を行わずに収穫する方法が研究されている[18]。ハクサイとコマツナでは、防虫ネットトンネルを利用してアブラムシ類などの被害を抑える技術も検討されている[13]。
果樹
果樹のトンネル栽培では、野菜の小型トンネルより大型の骨組みを設置し、樹冠上部をフィルムで覆う方式が用いられる場合がある。熊本県ではモモとナシについて、トンネルハウスによる収穫期、果実品質および栽培管理への影響が研究されている[19][22]。
ブドウでは、岡山県がシャインマスカットのトンネル栽培について、果実生産に必要な葉面積を確保しながら枝の管理労力を抑える摘心方法を示している[23]。
管理上の留意点
トンネル栽培では、保温効果が大きい資材ほど晴天時に内部温度が上昇しやすく、換気が不足すると作物の生育や品質に影響する。冬どりレタスでは農業用ビニールトンネル内が32度まで上昇し、球形が乱れた事例が報告されている[5]。夏ネギでは、内部温度が30度以上となる時期から換気孔を設ける管理法が示されている[12]。
湿度が高い状態で密閉管理を続けると病害が発生する場合がある。厳寒期のレタストンネルでは灰色かび病が問題となり、フィルムの光学特性を利用した防除試験が行われている[20]。
防虫ネットを利用する場合には、対象害虫を遮断できる網目と、作物の生育に必要な通気性・透光性との調整が必要となる。農林水産省は、網目を細かくするほど透光率と通風性が低下するとしている[4]。
トンネルの設置、フィルムの固定、換気、除覆および資材回収には労働を要する。レタスでは長期間の換気作業を省力化する装置が開発され[8]、メロンでは不織布を併用した段階的な換気法が示されている[9]。スイカでは低いトンネル内でのつる管理による身体負担が研究課題となっている[10]。
資材と管理方法の適否は作物と地域によって異なり、ある作物で有効な密閉管理を別の作物へそのまま適用できるとは限らない。レタスでは通気性を高めて昼間の高温を抑える方法が有効とされた一方[5]、北海道のスイカでは定植後約4週間の密閉管理によって生育、収量および品質が向上した[16]。
他の被覆栽培との区別
農業用ハウスは、作業者が通常の姿勢で内部に入って肥培管理を行える高さを持つ施設であるのに対し、農林水産省の統計上のトンネルは、そのような姿勢で内部へ入れない高さの施設である[3]。
べたがけは、通気性を持つ不織布、寒冷紗、ネットなどを、原則として支柱を使わずに作物へ直接掛ける方法である。これに対してトンネル栽培では、支柱によって作物と被覆資材との間に空間を設ける[4]。
マルチングは、塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルムなどを地表面へ敷き、地温調節、土壌水分保持、雑草抑制などに利用する方法である。トンネル栽培では畝と作物の上部を被覆するため、マルチングとは被覆位置が異なるが、両者を併用する栽培法も多い[3][14]。