ヌルカ

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Mk 53 DLSからの発射シーン。

ヌルカ英語: Nulka)は、オーストラリアで開発された艦載用のアクティブ・デコイ[1][2][3]電波妨害装置を搭載したロケット弾を発射し、艦から離れたところでホバリングしながら妨害電波を発することで、飛来する対艦ミサイルをこちらに誘引する[1][2][3]

名称は、オーストラリア諸語の一つで「迅速に」を意味する[4]

1967年に発生したエイラート撃沈事件は、西側諸国において対艦ミサイルの脅威を強く印象付けた[5]オーストラリア海軍は保有艦艇が少数で、1隻の喪失も許されなかったことから、特に状況は深刻であった[6]。1970年代初頭にオーストラリア国防科学技術機構(DSTO)で行われた分析では、特にエグゾセのような新世代のシースキマーに対して、ファランクスのようなCIWSによるハードキルでは不十分であると結論された[7]。エグゾセがオーストラリアの近隣諸国に輸出され始めていたこともあり、電子戦によるソフトキル手段を充実させる必要性が認識された[8]

当初、計画は「ウィニン」(Winnin)と称されており[9]ソルズベリーWSRL(Weapons Systems Research LaboratoryメルボルンGAF(Government Aircraft Factoriesとの共同開発計画として1974年に発足、1981年に飛翔体が初飛行した[2]

オーストラリアは、開発費の分担や、ペイロードとしての電子装置の開発についての支援を求めて、他国との提携を模索していた[10]。イタリア、西ドイツ、日本、ニュージーランド、シンガポール、スウェーデン、イギリスなどが打診を受け、更にはペルシャ湾航路でのタンカーなど商船の防護に関心を抱く保険会社までもが対象とされていた[10]。1986年には了解覚書(MoU)が作成されて、アメリカ海軍向けとして開発が進められることになった[2]。豪米の共同開発体制に移行するにあたり、計画名は「ヌルカ」に変更された[4]。アメリカによる技術・運用評価は1992年に完了し[2]、1996年9月には、Mk 36 SRBOCにヌルカの運用能力を付与したモデルがMk 53として制式化された[11]

オーストラリア海軍では、1997年6月にアデレード級フリゲートメルボルン」にヌルカの試作システムを搭載し、洋上試験に供した[11]。同艦は1998年の環太平洋合同演習に参加したほか、1999年にはペルシャ湾での海上阻止行動に従事した[11][12]。また1997年10月には、アメリカ海軍でもスプルーアンス級駆逐艦スタンプ」にヌルカを搭載して試験を開始したが、同艦での試験中にデコイが艦本体に接触する事故が発生し、飛翔体の製造を担当するBAEシステムズオーストラリア社は、工程を抜本的に見直して対処した[13]

1998年8月より、アメリカ海軍は「ピーターソン」において運用評価(OT-IIB)を実施した[14]。11月30日に公表された最初のレポートでは「不適合」と判定されたが、アメリカ海軍調査研究所(NRL)でデータの再解析が行われ、1999年1月、「適合」と結論された[14]。同年、アメリカ海軍は11セットのMk 53を発注した[11]

構成

デコイ

飛翔体の発射シーン。飛翔体頂部から四方に伸びる棒状物は姿勢制御用の翼。

ヌルカ・システムの飛翔体は、発射艦から離れた空中でロケットを下方噴射してホバリングし、電波を輻射して、アクティブ・デコイとしての機能を発揮する[1][2][3]

飛翔体は、ウィニン計画当初は「ホバロック」(Hoveroc)と称され、北大西洋条約機構(NATO)での制式名はMk.234 Mod.1[11]、直径200ミリ×全長2メートル、重量67.5キロである[1][2][3]。飛翔体本体の開発およびシステム統合はオーストラリアのAWA(Amalgamated Wireless Australia; 後のBAEシステムズオーストラリア)、ペイロード部分の開発はアメリカのロッキード・マーティン・シッピカン、ロケットモーターは豪ADI社(現在のタレスオーストラリア)と米ARC社(Atlantic Research Corp)が並行して担当した[15]

ペイロードは、飛翔体中部に組み込まれた81×15センチ大、重量13.2キロの電子機器セクションと、モジュラー送信アンテナから構成される[11]。動作周波数は8-20 GHz(I/Jバンド)[11]、低コスト・高出力・広帯域を要求されたことから[7]送信機には広帯域進行波管(TWT)による増幅器が採用されており[16]AN/ALQ-135の技術が導入された[17]。またアンテナについては、当初は全方向性が検討されたが、電力効率の観点から指向性アンテナに変更され、飛翔体自体を高速で回転(スピン制御)させることで、アンテナを常に脅威の方向に向け続ける仕組みが導入された[18]

飛翔体には、艦船の動きを模倣するため、横移動の機能が付与されている[3]。これはホバロック時代に開発された技術で、3つの可動タブ(ランプタブ)を用いてエンジンの排気を制御し、空中静止と姿勢制御を同時に行う世界初のシステムである[19]。艦の電子戦支援(ESM)システムからの情報を基にして、飛来する対艦ミサイルを誘引するために効果的な飛翔経路が策定され、艦と同程度の擬似的レーダー反射断面積(RCS)を形成するように電波を輻射する[1][2][3][11]

発射機

Mk 53へのキャニスターの装填作業。前方には在来型の130mm口径6連装発射機も見えている。

飛翔体は気密性の保たれたキャニスターに収容されており、保管容器を兼ねている[11]。標準的なチャフないし赤外線デコイ弾とは寸法が大きく異なるため、運用のためには専用の発射機が必要になる[2]

当初は4連装の箱型発射機が用いられており、アメリカ軍が試験に供した際にはMk.160と称された[2]。また10連装発射機も開発された[2]。一方アメリカ軍では、上記の通り現用のMk 36 SRBOCにヌルカの運用能力を付与することとし、在来型の130mm口径6連装発射機の後方にMk.234用の連装箱型発射機を追加して、発射機としてはMk.137 Mod.7[2]、システムとしてはMk 53 DLS(Decoy Launching System)と称される[1][11]

脚注

参考文献

関連項目

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