ネァイリング
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ネァイリング (Næġling) は、古英語の叙事詩『ベーオウルフ』に登場する表題の人物ベーオウルフが持つ剣の一つ。ネイリング、ナイリングとも。 その名は"næġl" 、すなわち「爪」を語源としており、『シズレクのサガ』に登場する剣ナーゲルリングと対応している可能性があるとも考えられている。ネァイリングは名剣として「鋭い」「光り輝く」「力強い」などと、あるいは由緒ある古剣として「素晴らしいいにしえの剣」「いにしえの家宝」「古き灰色の」などと繰り返し称揚されるが、ベーオウルフの最期となった竜との対決では耐える事はなく二つに折れてしまう[1]。これは竜の力によるものではなく、ベーオウルフ本人の膂力が原因であると説明されている[2]。
折も折 戦で怯むを知らぬ王己が誉れに思いをいたし
渾身の力込めて戦火くぐった剣打ち下ろす
剣の動きは敵意のままに敵の頭部に突き刺さる
ベーオウルフの剣ナイリング
灰色にくすむ刃の古き剣二つに折れて最早それまで
鉄の刃が戦の助けにならぬことベーオウルフに間々あった
剛力の度が過ぎたゆえ
この詩人の聞き知るところ
ベーオウルフが戦いに
傷に血塗られ強度の増した剣持ち行こうといかなる剣も
その一振りにかかる力が無理になる
力強さがベーオウルフに徒になる事態変わらず[3]
ベーオウルフの腕は剣にとって強すぎた、と語り部は語る。しかし、ストップフォード・ブルックは「ベーオウルフはこの剣を以って生涯を戦い抜いてきたのであるから(急に彼の力によって剣が折れたというのは)理に適わない」「後世の編集者によってマーシア王オッファの逸話と『ベーオウルフ』が合成され、この節が挿入されたのではないか」と主張している[2]。
肝心の時に英雄の剣が折れてしまうというモチーフは『ヴォルスンガ・サガ』や『デンマーク人の事績』といった他のゲルマン文学にも見られるが、その中でも特にベーオウルフのネァイリングと強く重なるのが『蛇舌のグンラウグのサガ』 [注 1] であり、このサガの作者は剣を折ったのは敵ではなく英雄その人であることを苦心して示している[5]。更に、ゲルマン文学では伝統的に、並外れて優れた剣に対し「古い」「古の」「先祖伝来の」といった表現を使用する(ただし、英雄本人が剣を鍛えた場合などの例外もある)。ネァイリングの場合では、その名が示す通り代々受け継がれてきた古剣というよりはむしろ文学的な性質を強く備えたものなのだが、それにもかかわらずこの剣は「古き灰色の」と表現されている[6]。