ハードウィック・ホールの歴史は、持ち主であるベスの波瀾万丈な人生と分けて語ることは出来ない。彼女はエリザベス朝時代を代表する実業家であり、策略家であった。
- 貧しい出自から成り上がった女性
- 1521年、ベスはダービーシャーの小貴族の家に生まれる。貧しい出自ながらも4度の結婚を成功させ、そのたびに莫大な財産と人脈を築き上げる。
- 戦略的な結婚
- 建築への情熱と自己顕示欲 - ベスは財産と地位を誇示するため、壮麗な建物を次々と建設する。ハードウィック・ホールは、彼女の野心と権力の集大成ともいえる作品である
- 建築様式と特徴:エリザベス朝の「ワンダー・ハウス」- ハードウィック・ホールは、ルネサンス様式の影響を色濃く受けた、エリザベス朝時代の「ワンダー・ハウス(驚異の館)」の傑出した例である。建築家ロバート・スマイソン(Robert Smythson)によって設計された。
- 広大なガラス窓 - 最大の特色は、壁面を覆い尽くすほどの巨大な窓である。当時、ガラスは非常に高価な贅沢品であり、そのふんだんな使用はベスの富を内外に誇示するものであった
- 「ES」のイニシャル - 建物の屋上にある6つの塔には、ベスのイニシャル「E.S.(エリザベス・シュルーズベリー)」が欄干に刻まれている。彼女の功績を永く後世に残そうという強い意志の表れである
- シンメトリーと階層構造 - ハードウィック・ホールは、左右対称の均整の取れたデザインが特徴である。また、階を上がるごとに天井が高くなる構造になっており、最上階のロング・ギャラリーとハイ・グレート・チェンバーが最も格式の高い空間として設計されている
- 内部装飾とコレクション - ハードウィック・ホールの内部は、エリザベス朝時代の壮麗な内装がほぼそのままの形で保存されている
- 見事な石膏彫刻 - 部屋の壁には、狩猟の様子やギリシャ神話などを描いた、アブラハム・スミスによる精緻な石膏彫刻が施されている
- 膨大なタペストリー - ベスは熱心なタペストリー収集家でもあり、館内には16世紀の貴重なタペストリーが多数残されている。織物の国際的なコレクションとして重要視されている
- ロング・ギャラリー - 館の最上階を占める長さ約50メートルにも及ぶギャラリーは、ゲストを圧倒する空間である。肖像画やタペストリーが飾られ、晩餐会やレセプションの場として使われていた
- オールド・ホール - ベスが生まれた館で、彼女が最初の増築を行った場所である。後に新しいホールが完成すると使用されなくなるが、廃墟となった現在もその威容を留めている
- ニュー・ホール - ベスがその晩年、自身の威信をかけて建設した現在のハードウィック・ホール。オールド・ホールと隣接して建つことで、ベスの富と権力の拡大を象徴的に示している。ハードウィック・ホールは、長い歴史を経て最終的にベスの子孫であるデヴォンシャー公爵家からナショナル・トラストに寄贈され、現在に至ります。
- 映画のロケ地 - その歴史的な魅力から、映画のロケ地としても使用されている。たとえば『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』では、ヴォルデモートの拠点のマルフォイ邸としてCGIで再現された。
- ナショナル・トラストによる保存と公開 - ナショナル・トラストによる修復作業と適切な管理により、今も創建時の姿をほぼそのままに保っている。内部の見学が可能で、庭園や広大な敷地内を散策することもできる。ハードウィック・ホールは単なる建築物ではなく、一人の女性の強大な野心と、それを可能にした時代背景、そして移りゆく歴史を雄弁に物語る貴重な文化遺産である