バリー・ワインゲスト
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バリー・ロバート・ワインゲスト(Barry Robert Weingast、1952年9月1日 - )は、アメリカ合衆国の政治学者、経済学者。スタンフォード大学政治学部のWard C. Krebs Family Professor、フーヴァー研究所上級フェロー。専門は政治経済学、新制度派経済学、公共選択論、比較政治学、法と経済学であり、政治制度と経済発展との関係を制度論の立場から分析した研究で知られる。[1][2]
バリー・ワインゲスト | |
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バリー・ワインゲスト(2013年) | |
| 生誕 |
Barry Robert Weingast 1952年9月1日(74歳) |
| 国籍 |
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| 研究分野 |
政治学 政治経済学 新制度派経済学 |
| 研究機関 |
スタンフォード大学 フーヴァー研究所 セントルイス・ワシントン大学 |
| 出身校 |
カリフォルニア大学サンタクルーズ校(B.A.) カリフォルニア工科大学(Ph.D.) |
| 博士論文 | 'A Representative Legislature and Regulatory Agency Capture' (1978) |
| 主な業績 | 市場維持型連邦制、新制度派経済学、政治経済学 |
| 公式サイト |
mcnollgast |
| プロジェクト:人物伝 | |
ダグラス・ノースとの共著「Constitutions and Commitment」は、17世紀イングランドにおける制度変化と経済発展との関係を論じた新制度派経済学の代表的研究として知られる。また、銭穎一らとの共同研究では、中国の経済改革を「市場維持型連邦制(Market-Preserving Federalism)」の観点から理論化し、中国経済研究にも大きな影響を与えた。[1][3]
経歴
カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれる。1973年、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で数学の学士号(B.A.)を取得した。その後、カリフォルニア工科大学大学院へ進学し、経済学を専攻した。1978年、A Representative Legislature and Regulatory Agency Captureと題する博士論文により、経済学博士(Ph.D.)の学位を取得した。博士論文では、立法機関と規制機関との制度的関係や、規制機関が利益集団に取り込まれる過程について分析を行った。[3]
1977年、セントルイス・ワシントン大学経済学部助教授に就任した。同大学ではCenter for the Study of American Businessの研究員も兼任し、1983年に准教授、1986年に教授へ昇任した。この時期には政治学、経済学、法学を横断する制度分析を進め、後の研究の基盤を形成した。[3]
1987年にはフーヴァー研究所のSenior Research Fellowとなり、1990年にはSenior Fellowへ昇格した。1989年からはスタンフォード大学経済学部の兼任教授を務め、1992年には同大学政治学部教授へ就任した。1997年にはWard C. Krebs Family Professorの称号を授与されている。[3]
スタンフォード大学では政治学部長(Chair)、大学院研究科長(Director of Graduate Studies)などを歴任したほか、Freeman Spogli Institute for International Studies、Center for East Asian Studies、Stanford Center for International Development、Woods Institute for the Environmentなど複数の研究機関に所属し、政治制度、経済発展、比較制度分析、中国研究など幅広い分野の研究を行っている。[1][2]
また、カリフォルニア大学バークレー校、コーネル大学ロースクール、バージニア大学ロースクール、スタンフォード大学Graduate School of Business、オークランド大学などで客員教授・客員研究員を務めた。[3]
1996年にはアメリカ芸術科学アカデミーフェローに選出され、2011年にはアメリカ合衆国科学アカデミー会員となった。また、International Society for New Institutional Economics(現:Society for Institutional & Organizational Economics)の理事・会長を歴任し、新制度派経済学の国際的発展にも貢献した。[4][3]
研究
ワインゲストの研究は、政治制度が市場や経済発展に与える影響を分析する政治経済学、新制度派経済学、公共選択論を中心としている。とくに、政治制度が政府の行動をどのように制約し、財産権の保護や市場への信頼を形成するかを理論的・歴史的に分析した研究で知られる。[1][3]
研究領域は、政治制度、法制度、行政制度、規制、比較政治学、経済史、公共選択論、連邦制、経済発展論、中国経済など多岐にわたる。スタンフォード大学では政治学部のほか、Freeman Spogli Institute for International Studies、Center for East Asian Studies、Stanford Center for International Developmentなど複数の研究機関に所属し、制度分析と比較政治経済学の研究を進めている。[1][5]
公共選択論と行政制度
初期の研究では、公共選択論および合理的選択理論を用いて、議会、官僚機構、規制機関の制度設計を分析した。1981年にケネス・シェプスル、Christopher Johnsenとの共著で発表した「The Political Economy of Benefits and Costs」では、利益誘導政治(ポーク・バレル)の制度的要因を分析し、政治的意思決定と経済的効率性との乖離を説明した。[6]
1980年代には、マシュー・D・マカビンズ、ロジャー・ノルとの共同研究を進めた。3人の姓を組み合わせた「McNollgast」の名で知られる研究グループは、行政法や行政手続を議会による官僚機構の統制手段として捉える一連の研究を発表し、アメリカ行政学や法と経済学に大きな影響を与えた。[7]
また、1984年に『Public Choice』へ発表した「The Congressional-Bureaucratic System」では、プリンシパル=エージェント理論を連邦議会と行政機関との関係に適用し、立法府による官僚制統制を説明した。この研究は、政治学・行政学における制度分析の代表的研究の一つと評価されている。[8]
制度と経済発展
ワインゲストの代表的業績として、ダグラス・ノースとの共著論文「Constitutions and Commitment: The Evolution of Institutions Governing Public Choice in Seventeenth-Century England」(1989年)が挙げられる。同論文では、名誉革命後の17世紀イングランドにおいて、議会と国王との権力関係が変化したことにより、政府が財産権を尊重するという「信頼可能なコミットメント(credible commitment)」を獲得し、それが資本市場の発展や近代経済成長を支えたと論じた。[9]
この研究は、新制度派経済学および歴史制度論における古典的文献として位置付けられており、政治制度が経済発展に与える影響を論じた代表的研究として極めて高い被引用数を記録している。Google ScholarやIDEAS/RePEcにおいても、ワインゲストの業績の中で最も影響力の大きい論文の一つとされる。[10][11]
市場維持型連邦制と中国研究
1990年代以降、ワインゲストは中国の改革開放と経済発展を主要な研究対象の一つとした。とくに銭穎一およびGabriella Montinolaとの共同研究では、中国の地方分権体制を分析し、「市場維持型連邦制」(Market-Preserving Federalism)の概念を提示した。[12]
市場維持型連邦制論では、中国の経済発展は単なる市場化政策によるものではなく、地方政府が一定の財政的・行政的自律性を有し、地域間競争を通じて経済成長を促進した制度的枠組みによって支えられたと説明した。中央政府が地方政府へ一定の権限を委譲しつつ、市場経済を維持する制度的インセンティブを与えたことが、中国経済の急速な発展を可能にしたと論じている。[13]
続いて銭穎一との共著「Federalism as a Commitment to Preserving Market Incentives」では、地方分権が市場への信頼可能なコミットメントを形成し、中央政府による過度な介入を抑制する制度として機能すると論じた。[14]
また、Yuanzheng Cao、銭穎一との共同研究では、中国の国有企業改革や民営化の制度的条件について分析し、地方政府と企業との関係が改革の進展に重要な役割を果たしたことを指摘した。[15]
さらに、Hehui Jin、Yingyi Qianとの共同研究では、中国における財政分権と地方政府間競争を実証的に分析し、地方政府の経済成長へのインセンティブが改革期中国の発展を支えたと論じた。[16]
中国研究は、その後の比較政治経済学や開発経済学にも大きな影響を与え、中国語圏では「维护市场型联邦主义(市場維持型連邦制)」あるいは「市场保护型财政联邦主义」などの名称で広く紹介されている。一方で、中国の政治制度を市場維持型連邦制のみで説明できるかについては、中国の研究者を中心に批判的検討も行われている。[17][18]
日本でも、中国の地方政府間競争や中央・地方財政関係を論じる研究において、市場維持型連邦制論は主要な理論の一つとして参照されている。[19][20]
その他の研究
ワインゲストは、中世ヨーロッパの商業制度についても研究を行っている。アヴナー・グライフ、ポール・ミルグロムとの共同研究では、中世の商人ギルドを事例として、契約履行や財産権保護を可能にした制度的メカニズムを分析した。[21]
また、近年は古代アテナイの政治制度や民主政、暴力と国家形成、制度と経済発展との関係についても研究を進めている。Federica Carugati、ジョサイア・オーバーらとの共同研究では、古代ギリシアの制度分析を現代の政治経済学の理論と結び付けて検討している。[1][2]
評価
ワインゲストは、新制度派経済学および政治経済学を代表する研究者の一人とされる。政治制度と経済発展との関係を制度論の観点から分析した研究は、政治学、経済学、法学、経済史など幅広い分野に影響を与えた。[1][2]
とくにダグラス・ノースとの共著「Constitutions and Commitment」は、政府が財産権を尊重するという「信頼可能なコミットメント(credible commitment)」の概念を提示した研究として、新制度派経済学における代表的業績と評価されている。イングランド名誉革命後の制度変化を分析した同論文は、制度と経済成長との関係を説明する古典的研究として現在も広く引用されている。[22]
また、銭穎一らとの共同研究による市場維持型連邦制論は、中国の改革開放政策や地方分権を説明する代表的理論の一つとなり、中国経済研究、比較政治経済学、開発経済学など多くの分野で引用されている。一方で、その理論の適用範囲や、中国の政治体制を十分説明できるかについては、中国国内外で活発な議論が続いている。[13][23]
経済学文献データベースであるIDEAS/RePEcでは、政治経済学および制度経済学分野における主要研究者の一人として位置付けられている。Google Scholarにおいても、多数の論文が高い被引用数を記録しており、「Constitutions and Commitment」、「Federalism, Chinese Style」、「The Political Economy of Benefits and Costs」などは、それぞれ数千件規模の引用を受けている。[24][25]
受賞・栄誉
- 1996年 - アメリカ芸術科学アカデミーフェロー[3]
- 2006年 - William H. Riker Prize in Political Science[26]
- 2011年 - アメリカ合衆国科学アカデミー会員[27]
- 2011年 - 2012年 - International Society for New Institutional Economics(現:Society for Institutional & Organizational Economics)会長[3]
- 2018年 - Daniel J. Elazar Distinguished Federalism Scholar Award[28]
- 2019年 - Elinor Ostrom Lifetime Achievement Award[29]
著書
単著
- Is the Market Moral? A Political Economy of Markets and Christian Virtue(2022年、オックスフォード大学出版局、共著者あり)
共著
- Banking Reform: Economic Propellants, Political Impediments(Kenneth E. Scottとの共著、1992年)
- China's Transition to Markets: Market-Preserving Federalism, Chinese Style(銭穎一との共著、1995年)
- Violence and Social Orders(ダグラス・ノース、John Joseph Wallisとの共著、2009年)
- Analytic Narratives(Robert H. Bates、アヴナー・グライフ、Margaret Levi、Jean-Laurent Rosenthalとの共著、1998年)
共編著
- Positive Theories of Congressional Institutions(Kenneth A. Shepsleとの共編、1995年)
- The New Federalism: Can the States Be Trusted?(John A. Ferejohnとの共編、1997年)
- Preferences and Situations(Ira Katznelsonとの共編、2005年)
- The Oxford Handbook of Political Economy(Donald A. Wittmanとの共編、2006年)
- Political Institutions and Financial Development(Stephen Haber、ダグラス・ノースとの共編、2008年)
主要論文
- Weingast, Barry R.; Shepsle, Kenneth A.; Johnsen, Christopher (1981). The Political Economy of Benefits and Costs: A Neoclassical Approach to Distributive Politics.
- Weingast, Barry R. (1984). The Congressional-Bureaucratic System: A Principal Agent Perspective.
- McCubbins, Mathew D.; Noll, Roger G.; Weingast, Barry R. (1987). Administrative Procedures as Instruments of Political Control.
- North, Douglass C.; Weingast, Barry R. (1989). Constitutions and Commitment: The Evolution of Institutions Governing Public Choice in Seventeenth-Century England.
- Greif, Avner; Milgrom, Paul; Weingast, Barry R. (1994). Coordination, Commitment, and Enforcement: The Case of the Merchant Guild.
- Montinola, Gabriella; Qian, Yingyi; Weingast, Barry R. (1995). Federalism, Chinese Style: The Political Basis for Economic Success in China.
- Qian, Yingyi; Weingast, Barry R. (1997). Federalism as a Commitment to Preserving Market Incentives.
- Jin, Hehui; Qian, Yingyi; Weingast, Barry R. (2005). Regional Decentralization and Fiscal Incentives: Federalism, Chinese Style.