ビロードの爪
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『ビロードの爪』はガードナー44歳の時の作で、これにより世間から注目を集めた彼は弁護士をやめて、創作と狩猟・旅行に日々を費やすようになった、という出世作である[1]。ただし、日本でこの作ほかのガードナー作品が日本で注目されたのは戦後になってからであり、この作品も1937年(昭和12年)に井上良夫によって『法律事務所の奇妙な客』として抄訳されたまま、忘れ去られていたという[2]。
ガードナーの成功は、旧来の探偵小説に現れる「虫眼鏡で物的証拠を集めるよう旧式の探偵がもう古くなったことは明らかである」として、「登場人物のうちの誰かが何事かをする、その行動そのものが、のっぴきならない証拠となるのである」(訳:江戸川乱歩)というように、従来の本格推理小説の軛を外して、行動と会話を主体とし、その上でダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーの作品のような性格描写を切り捨てて、本格物の風味を添えたという、一種の折衷主義によるものである。また、彼の探偵役であるメイスンをカリフォルニア州以外の事件に関わらせぬようにするなど、熟知しない他の州の法律に抵触させぬようにするといった配慮も見られる[1]。
序幕の依頼者の奇妙な依頼より始まり、探偵役のメイスンがその裏にある真相解明に熱中し、それに秘書のデラ・ストリート、私立探偵のポール・ドレイクが協力する、といったメイスンものにおける基本形式はこの作品より始まっている。
あらすじ
弁護士ペリー・メイスンはある時、イヴァ・グリフォンと名乗る女から依頼を受けた。彼女の語るところによると、ピーチウッド・インというところでピストル強盗があり、政治家のハリスン・バーグと密会中にその現場に出くわしてしまった、という。このことを赤新聞『スパイシ・ピッツ』の編集長、フランク・ロックに感づかれ、新聞に掲載する、と脅されてしまった。ハリスンに迷惑がかからぬように、とイヴァは記事の差し止めを望んで、知り合いよりメイスンの名前を紹介して貰った、という。
メイスンの秘書のデラは、イヴァのことを気に入らず、自分を助けるためなら人を裏切ることを厭わぬ悪女だと忠告するが、メイスンは依頼人に誠実であることがモットーだとして、探偵のポール・ドレイクを通じてイヴァのことを調べさせ、また自身はフランク・ロックに接触し、警察のシドニー・ドラムの協力も得て、ロックの裏には富豪ジョージ・C・ベルダーがいることを突き止める。ベルダーにゆさぶりをかけようとしたメイスンはその屋敷で、イヴァと再会する。イヴァはジョージ・ベルダーの後妻だった。
メイスンがジョージと面会して間もないある夜、就寝中のメイスンを起こすように、イヴァから電話がかかってきた。夫のジョージがとある客と面会後にピストルで射殺され、その話して客がメイスン(あるいは彼によく似た声の人物)だというのである。警察に知らせる前にメイスンに電話を入れたというイヴァに、メイスンは証言すべき内容をイヴァの頭にたたき込ませ、自分はベルダー家と親しいものだという名目で事件に立ち会うことにした。
ベルダー家から帰宅後、デラとポールに連絡をとったメイスンは、独自の調査活動を開始し、自身が容疑者として疑われることを察知して、姿をくらました。