フライウェイ
全世界における渡り鳥の移動ルート、いくつかに分かれる
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フライウェイ(英語: Flyway)とは、渡り鳥が繁殖地と越冬地の間を移動する際に習慣的に利用する、大陸規模の広域的な渡りルートのことである[1]。
| Flyway | |
|---|---|
| 渡り鳥が繁殖地と越冬地の間を移動する際に使用する広域的な渡りルート | |
| 基本情報 | |
| 英語名 | Flyway |
| 概念の提唱者 | フレデリック・チャールズ・リンカーン(Frederick Charles Lincoln) |
| 提唱年 | 1935年 |
| 関連条約 | 渡り鳥保護条約(ボン条約)、ラムサール条約 |
| 国際機関 | 国連環境計画・渡り性野生動物の種の保全に関する条約(UNEP/CMS) |
単に個々の種が辿る移動経路(マイグレーション・ルート)を指すのではなく、多数の種が共有する大きな空域の帯として捉える概念である[2]。フライウェイは通常、大陸を縦断し、しばしば海洋を越えて広がる。
世界にはいくつかの主要なフライウェイが存在する[3]。
フライウェイをまたぐ渡り鳥の保全には複数の国家・地域間の国際協力が不可欠であり、ラムサール条約やボン条約(CMS)をはじめとする国際的な枠組みのもとで保全活動が進められている[4]。
概要
背景・概念の成立
概念の起源
フライウェイという概念は、1920年代から1930年代にかけてアメリカの鳥類学者フレデリック・チャールズ・リンカーン(Frederick Charles Lincoln、1892–1960年)によって提唱された。リンカーンはアメリカ合衆国農務省生物調査局(現:合衆国魚類野生生物局, FWS)の鳥類標識プログラムを主導し、水鳥の標識(バンディング)データを大規模に収集・分析した[9]。
1918年に制定された米国渡り鳥条約法(Migratory Bird Treaty Act of 1918)を契機に、渡り鳥の移動に関するより詳細な科学的知見が求められるようになった。リンカーンは膨大な標識データを解析した結果、北米の水鳥が4本の主要な経路に沿って移動していることを示し、これを「フライウェイ」と命名した[10]。合衆国FWSは行政的管理的フライウェイとしてこの4本の枠組みをしている。
- Atlantic
- Mississippi
- Central
- Pacific
この成果は1935年に農務省回報『北米の水鳥フライウェイ(The Waterfowl Flyways of North America)』として発表された[11]。リンカーンはこの中で「保護活動家たちは、鳥が祖先伝来のフライウェイに強い執着を持つことを認識している」("Conservationists now know that the birds have a strong attachment for their ancestral flyways...") と記した[12]。フライウェイ概念はその後、世界各地の渡り鳥保全に広く応用されるようになった[13]。
世界への普及
北米で確立されたフライウェイ概念は、やがてユーラシア・アフリカ・オセアニアにも適用されるようになった。フライウェイが大陸を越えた国際協力の必要性を可視化する枠組みとして機能することが認識されたためである[14]。
各地域のフライウェイ
- ※ 資料によって、本数や名称に異同がある。
- 以下は birdlife international のdatazoneの情報[15]を主にリスト作成し、一部他を加えた。
- アジア・オセアニア
- 東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(EAAF)
- 中央アジアフライウェイ (Central Asian Flyway, CAF)
- 西太平洋フライウェイ (West Pacific Flyway, WPF)[16]
- 東大西洋フライウェイ (East Atlantic Flyway, EAF)
- 黒海・地中海フライウェイ(Black Sea–Mediterranean Flyway)
- 東アジア・東アフリカフライウェイ(East Asia-East Africa Flyway) [17]
- 地溝帯・紅海フライウェイ (Rift Valley/Red Sea Flyway)
- 南北アメリカ大陸[18]
- 太平洋アメリカズフライウェイ(Pacific Americas Flyway)
- 大西洋アメリカズフライウェイ(Atlantic Americas Flyway)
- セントラルアメリカズフライウェイ(Central Americas Flyway)
- その他
- 周極地域フライウェイ (Circumpolar Flyway) - 北極海周縁域
- マリーンフライウェイ (Marine Flyways) - 海鳥を対象
中継地の役割
国際的な保全枠組み
フライウェイは国境を越えて広がるため、一国だけの努力では渡り鳥を保全することができない。このため、以下のような国際的な条約・枠組みのもとで協調した保全活動が行われている[21]。
- 移動性野生動物種の保全に関する条約(CMS、ボン条約)
- 1979年採択、1983年発効。UNEP(国連環境計画)の下に置かれる国際条約。9つのフライウェイを認定し、各フライウェイの保全に関する行動計画を策定している。
- ラムサール条約
- 1971年採択。「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」が正式名称。フライウェイ上の重要湿地を国際登録し保護する枠組みを提供する[22]。
- 東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)
- 2006年発足。東アジア・オーストラリア地域フライウェイに属する政府機関・国際機関・NGOが参画し、渡り性水鳥とその重要生息地の保全を推進する[23]。
- アフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(AEWA)
- アフリカ・ユーラシアのフライウェイをカバーする渡り性水鳥の保全協定。
- 北極渡り鳥イニシアティブ(Arctic Migratory Birds Initiative: AMBI)
- ワッデン海フライウェイ・イニシアティブ (Wadden Sea Flyway Initiative: WSFI)
- 中央アジアフライウェイ・イニシアティブ (構想段階
[24], Initiative of Central Asian Flyway )
- アフリカ・ユーラシアフライウェイ・イニシアティブ (African–Eurasian Flyway Initiative: AEFI)
- アメリカズ・フライウェイ・イニシアティブ (Americas Flyways Initiative: AFI)
- 大西洋フライウェイ・シギ・チドリ類・イニシアティブ (Atlantic Flyway Shorebird Initiative: AFSI)
影響
生態系サービスにおける役割
渡り鳥は害虫駆除・種子散布・栄養塩の循環など多様な生態系サービスを担っており、フライウェイの健全な機能は人間社会にとっても重要である[25]。フライウェイ上の湿地・沿岸域は、地域住民の生計・食料・高潮防護においても不可欠な資源となっている[26]。
現在の脅威
フライウェイ上の渡り鳥は複合的な脅威にさらされており、世界的な個体数減少が報告されている[27]。
- 生息地の喪失・劣化
- 開発・農業転換・干拓などによる湿地・干潟の消失が最大の脅威とされる。東アジア・オーストラリア地域フライウェイの主要中継地である黄海地域では、潮間帯干潟の50%以上が過去数十年で失われたと推計されている[28]。
- 気候変動
- 気温上昇と海面上昇は、渡り鳥が利用する沿岸湿地の消失を引き起こすとともに、渡りのタイミングと食物資源の発生時期のずれ(フェノロジカル・ミスマッチ)をもたらしている。北アメリカでは50%以上の鳥類種が気候変動によって深刻な脅威にさらされていると評価されている[29]。
- 違法・持続不可能な狩猟
- 渡り経路上での過剰な捕獲や毒餌による被害が、特にアフリカ・ユーラシアフライウェイで報告されている[30]。
- 高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)
- 渡り鳥は高病原性鳥インフルエンザの主要な担体・伝播者であり、近年の流行によって一部の個体群が壊滅的な被害を受けている。2026年に公表されたCMSの中間報告によれば、26種のCMS登録渡り鳥種がより高い絶滅リスク区分に移行しており、そのうち18種はシギ・チドリ類であった[31]。
- インフラとの衝突
- 送電線・建築物への衝突や、道路・鉄道・柵などがフライウェイを遮断する障害物となることも問題視されている[32]。
保全への取り組み
バードライフ・インターナショナルは「グローバル・フライウェイズ・プログラム」を通じて、各フライウェイにわたる加盟団体のネットワークを結び付け、違法狩猟対策・エネルギーインフラの鳥類への影響軽減・湿地ネットワークの保全・復元に取り組んでいる[33]。
日本とフライウェイ
関連項目
- 渡り鳥
- 米国とカナダの渡り鳥保護条約 (MBC)
- 米国渡り鳥条約法 (MBTA)
- 移動性野生動物種の保全に関する条約 (CMS)
- 鳥類標識調査(バンディング)
- フレデリック・チャールズ・リンカーン
- 渡り鳥の日(World Migratory Bird Day)