中央アジアフライウェイ

渡り鳥のルート、ユーラシア大陸中央を南北に縦断する From Wikipedia, the free encyclopedia

中央アジアフライウェイ(英: Central Asian Flyway、略称: CAF)は、ユーラシア大陸の中央部を南北に縦断する渡り鳥の主要な渡り経路(フライウェイ)である[1]

別称 CAF、中央アジア飛行路
地理的範囲 北極海沿岸(シベリア)からインド洋(モルディブ・英領インド洋地域)まで
対象国数 30か国(北・中央・南アジア、トランスコーカサス)
登録鳥種数 605種(84科)
概要 Central Asian Flyway(CAF), 基本情報 ...
中央アジアフライウェイ
Central Asian Flyway(CAF)
ユーラシア大陸中央部を縦断する渡り鳥の主要渡り経路
基本情報
別称 CAF、中央アジア飛行路
地理的範囲 北極海沿岸(シベリア)からインド洋(モルディブ・英領インド洋地域)まで
対象国数 30か国(北・中央・南アジア、トランスコーカサス)
登録鳥種数 605種(84科)
脅威指定種 48種(IUCNレッドリスト 2022年版)
関連条約 渡り性野生動物の種の保全に関する条約(CMS/ボン条約)、アフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(AEWA)
主要行動計画 中央アジア・フライウェイ行動計画(2008年採択)
最新の国際枠組み 中央アジア・フライウェイ・イニシアティブ(CMS COP14、2024年採択)
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北極海に面したロシア連邦(シベリア)の繁殖地から、西アジア南アジアモルディブ・英領インド洋地域の越冬地にいたる広大な地域をカバーし、北・中央・南アジアおよびトランスコーカサスの30か国にまたがる[2]

2023年の状況分析によれば、84科605種の渡り鳥が本フライウェイを利用しており[3]、そのうち少なくとも40%の種の個体数が世界規模で減少傾向にあり、48種がIUCNレッドリスト(2022年版)で世界的絶滅危惧種に指定されている[4]

概要

フライウェイとは、渡り鳥が繁殖地・越冬地・中継地の間を季節的に移動する際に利用する地理的ルートを、流域規模でまとめた概念である。世界ではいくつかの主要フライウェイが認識されており、中央アジアフライウェイはそのひとつとして、アフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(AEWA)のカバー区域および東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(EAAF)と地理的に一部重複する[5]

本フライウェイは北はシベリアツンドラ地帯から、南はモルディブ熱帯の島々まで、多様な生態系を横断する。渡り鳥はその年周サイクルにおいて、北極ツンドラ・熱帯草原・砂漠・外洋・原生林・高密度都市部に至るさまざまな生息環境を利用する[6]。本フライウェイの地域には世界人口の6分の1以上が暮らしており、中国やインドをはじめとした多くの発展途上国が含まれる[7]

地理的範囲と対象国

中央アジアフライウェイは以下の30か国を地理的範囲としている[8]

アフガニスタンアルメニアアゼルバイジャンバーレーンバングラデシュブータン中国ジョージアインドイランイラクカザフスタンクウェートキルギスタンモルディブモンゴルミャンマーネパールオマーンパキスタンカタールロシア連邦サウジアラビアスリランカタジキスタントルクメニスタンアラブ首長国連邦英国(英領インド洋地域)ウズベキスタンイエメン

インドはフライウェイの南端に位置する主要国であり、257種の水鳥を支え、そのうち81種は中央アジア・フライウェイにおける保全上の懸念種である[9]。ロシアでは143種が確認されている[10]

主な鳥種

本フライウェイには、水鳥・猛禽類・陸鳥・海鳥など多様な鳥類が含まれる。CMS公式資料によれば、本フライウェイは少なくとも182種の渡り性水鳥の279個体群をカバーし、そのうち29個体群が世界的な絶滅危惧種または準絶滅危惧種に指定されている[11]。2023年のシチュエーション分析では、陸鳥・猛禽類・海鳥を含む605種が記録された[12]

特に注目される種には以下がある[13]

また、ヒマラヤ山脈を越える渡りで知られるインドガンAnser indicus)は、8,000メートル超の高度での渡りを行うことで知られ、中央アジアフライウェイにおける高地渡りの象徴的存在である[15]

フライウェイ上の鳥類は文化的にも重要な意味をもつ。ウズベキスタンシュバシコウブータンオグロヅルカザフスタンソウゲンワシは、それぞれの国において長年にわたり地域社会と共存してきた象徴的な種である[16]

経緯

初期の取り組み(2001年〜2008年)

中央アジアフライウェイにおける水鳥保全の必要性を認識した移動性野生動物種の保全に関する条約 (CMS)は、国際的な協力体制の構築に向け、段階的に協議を進めてきた。2001年、ウズベキスタンタシュケントで第1回レンジステート(生息域諸国)会合が開催され、行動計画の草案が議論された。この会合においてインドが行動計画の主導国として名乗りを上げた[17]

2005年にインドニューデリーで開催された第2回会合では、「渡り性水鳥とその生息地の保全のための中央アジアフライウェイ行動計画」の内容について大筋で合意が形成された[18]。この行動計画は国際湿地保全連合(WI)の技術支援のもとで策定され、2008年1月に正式に採択された[19]

行動計画は、アビ類・カイツブリ類・ペリカン・ウ・サギ・コウノトリ類・トキ・フラミンゴ・ガン・ツル・クイナ・タマシギ・レンカク・セイタカシギ類・ツバメチドリ類・チドリ類・シギ類・カモメ類・アジサシ類を含む175種を対象とし、種・生息地の保全、単一種行動計画、緊急措置の規定を含む[20]

AEWAとの統合議論(2012年)

2012年12月、アブダビで第3回交渉会合が開催され、行動計画の実施を支える法的・制度的枠組みについて協議された。この会合においてレンジステートは、中央アジアフライウェイの制度的枠組みとしてアフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(AEWA)への統合が望ましいとする宣言を採択した[21]。これはAEWAの地理的対象区域をCAF地域まで拡大し、附属書への追加種の掲載を必要とするものであった。CMS・AEWAおよびその統治機関は、AEWA締約国が区域拡大の可否について十分な情報に基づいた判断を下せるよう検討を継続した[22]

CMS COP14における中央アジアフライウェイ・イニシアティブの採択(2024年)

2024年2月12日から17日にかけて、ウズベキスタンのサマルカンドで開催されたCMS第14回締約国会議(COP14)において、インドが提案した「中央アジアフライウェイ・イニシアティブ」が2024年2月17日に全会一致で採択された[23]。本イニシアティブはBirdLife Internationalおよびシベリアからモルディブにいたる30か国の政府の支持を得て成立した[24]

イニシアティブの目的は、フライウェイにおける渡り性動物個体群の良好な保全状態の回復・維持と、生態的連結性の支援である[25]。また、インド政府の財政支援のもと、インド国内に調整ユニットを設置することが決定された[26]。約20年にわたる議論の末に実現した本イニシアティブは、フライウェイの鳥類保全における新たな時代の幕開けと評されている[27]

主な脅威

中央アジア・フライウェイ上の渡り鳥とその生息地は、複合的な脅威にさらされている。

直接的脅威

2023年の状況分析によれば、渡り鳥への最も直接的な脅威として以下が挙げられている[28]

  • 成鳥・幼鳥・卵の合法・非合法な捕獲および狩猟
  • 人工構造物(電線風力発電設備等)への衝突および感電死
  • 繁殖地・採餌地・塒(ねぐら)への人的撹乱
  • 人工光による光害
  • 感染症侵略的外来種
  • 毒物汚染・プラスチック汚染
  • 食物資源への悪影響

間接的脅威

生息地の喪失と劣化
無制御な狩猟・生息地の劣化・持続不可能な水資源管理・法執行能力の不足により、フライウェイ上の湿地・草地などが深刻な脅威にさらされている[29]
気候変動
気候変動の影響は、生息地の分断・縮小をいっそう加速させており、ソデグロヅルなどの種を絶滅の瀬戸際に追いやっている[30]
エネルギーインフラの急速な整備
電力線・風力発電などのエネルギーインフラの急速な拡大が、渡り鳥の衝突・感電死リスクを高めている。

2024年時点で、フライウェイ上の240を超える渡り鳥種の個体数が減少しており、48種が世界的絶滅危惧種または準絶滅危惧種に指定されている[31]

保全上の重要性

中央アジア・フライウェイは、渡り鳥の生態学的指標としての役割を担っている。渡り鳥は森林・草原・湿地・高山植生などの多様なバイオームを通過するため、フライウェイ各地の生態系の健全性を示す指標(バイオインジケーター)として機能する[32]

インドの主要な湿地・保護地域
ケーオラーデーオ国立公園バラトプル
チリカ湖オリッサ州
ウラル湖ジャンムー・カシミール
ハリケー湿地パンジャーブ州
ポン・ダムヒマーチャル・プラデーシュ州
ポイントカリメアタミル・ナードゥ州

これらは、このフライウェイを利用する数億羽もの渡り鳥にとって不可欠な中継地・越冬地となっている[33]

BirdLife Internationalは、本フライウェイ上の1,717か所の国際的に重要な渡り鳥生息地を特定している[34]

関連する国際条約・協定

移動性野生動物種の保全に関する条約(CMS・ボン条約)
1979年締結、1983年発効。移動性(渡り)の陸上・海洋・鳥類の保全を目的とした国連環境計画(UNEP)傘下の条約。2022年時点で133か国が締約国。インドは1983年から締約国[35]
アフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(AEWA)
1995年にオランダのハーグで締結。中央アジア・フライウェイを構成する30か国のうち16か国がAEWA協定区域内に含まれ、CAFの145個体群(全体の50%超)がAEWAの対象となっている[36]
ラムサール条約
特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保全に関する条約。フライウェイ上の重要湿地の保護網として機能する[37]

関連項目

脚注

外部リンク

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