ブロードキャストストーム
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ブロードキャストストームとは、ローカルエリア・ネットワーク (LAN) 上でブロードキャスト用のデータや信号が際限なく転送され続ける現象である[1][2]。通信経路でループが形成された際に発生する[3]。
レイヤ2スイッチ (L2スイッチ) はブロードキャストフレームを受け取ると、それを全てのポートから送信するが、この時に通信経路でループが生じていると、ブロードキャストフレームがレイヤ2スイッチに戻ってきてしまい、それを受けてレイヤ2スイッチが再び全てのポートからブロードキャストフレームを送信してしまう[4][5]。これによりネットワークを流れるフレーム量が増大し、通信が妨げられる[4]。
ブロードキャストストームは、LANケーブルをリング状に接続した際のみならず、無線LANを使用した状態でも生じる[4][6]。例えば、無線LANアクセスポイントから電波を受信している無線LAN中継機の有線LANポートに、LANケーブルを挿してしまった場合などがあげられる[6]。
対策
スパニングツリープロトコル
スパニングツリープロトコル (STP/RSTP) を使用してスイッチ同士が情報を交換することで、LANスイッチがループの生じるポートを無効にし、ブロードキャストストームを防止する[3][7]ことができる。また、もし使用しているルートが故障した場合、無効にしたポートを有効にし、通信を再開することもできる[7]。STPは、ネットワークの冗長化を担保しつつ、論理的なループフリー構成を構築・維持し、ブロードキャストストームが発生しないようにする方法である[7]。
ただし、三上信男と豊増佳宏はSTPのデメリットとして「メーカーごとに初期設定が異なる」「設計手順が煩雑」「STPを設定したスイッチのハードウェア障害などが原因でブロードキャストストームが起きるリスクがある」という3点を挙げている[8]。また、『日経NETWORK』に掲載された2016年の記事では、STPのデメリットが以下とおり指摘されている[9]。
標準でSTPに対応しているスイッチは多いため、導入自体の障壁は低い。ところがSTPは設定が複雑なため設定ミスによるトラブルが起こりやすい。また、STPを使うと通信できない経路が発生してしまうため、通信の効率も悪くなる。それに加え、機器の故障などでネットワークトポロジーが変化した場合、STPでは経路の再計算に1分程度かかってしまう。(略)こうした理由から、実際には現在の企業ネットワークではSTPはほとんど使われなくなってきているという[9]。
ループ検知・遮断機能
スイッチの特定のポートから独自の検知パケット(ループプロトコルパケットなど)を送信し、そのパケットが同じポートに戻ってくることを検出する。検出した対象ポートを遮断して障害の拡大を防止する。STPが機能しない環境で使用される防御機能である。
ループ検出機能の限界
2022年の論稿にて安藤正芳は「最近では、ループ接続を検出する機能を搭載したルーターやスイッチが安価に販売されている。検出の仕組みはベンダーや機種によって異なる。MACアドレスを利用する方法や、専用の監視フレームを使う方法、しきい値を定める方法などがある。しかしループ検出機能は万能ではない」と指摘し[6]、ブロードキャストストームの発生に伴う輻輳により監視フレームが廃棄される例などを挙げている[10]。
リンクアグリゲーション(LAG)
ブロードキャストストームが生じる例として、単純にスイッチ同士をLANケーブル2本でつないでできるループが挙げられる。リンクアグリゲーション(LAG)を用い、2本を束ねて論理的に1本とみなすことで、このループ構造を解消できる。リンクアグリゲーションを行う際、スイッチ同士が通信を行ってからリンクアグリゲーションを有効にする、LACP(802.3adモード)が推奨される[11]。
スイッチのスタッキング
複数のスイッチをスタック(積み上げ)し、論理的に1台のスイッチのように見せ、それぞれからのケーブルを子スイッチにつなぎ、両方を束ねて使用するスタッキングも、ブロードキャストストーム対策としてあげられる[7]。この構成ではループが生じないため、スパニングツリープロトコルが不要で、かつネットワークの冗長化が可能となる[7]。
上掲の『日経NETWORK』に掲載された2016年の記事では、スパニングツリープロトコルに代わりスタックがスイッチの冗長化によく用いられるようになっていると指摘されている[9]。
ストームコントロール
スイッチ本体でブロードキャストの流量を制限するストームコントロール機能も、ブロードキャストストーム対策の1つとしてあげられる[12]。スイッチにあらかじめ閾値が設定され、それを超えるとループ接続によるブロードキャストストームが生じたとみなされる[12]。ループ接続が発生したと判定されると、閾値を超えた分のフレームがドロップされたり、該当するポートがシャットダウンされたりするが、どのような処理を行うかはスイッチの設定で選択できる[12]。
VLAN
1つのローカルエリア・ネットワーク (LAN) を複数のLANに分けるバーチャル・ローカルエリア・ネットワーク (VLAN) により、ブロードキャストストームの影響範囲を限定することも対策としてあげられる[13][14]。
物理的な対策
ポートを塞ぐ
鈴木慶太はブロードキャストストーム対策の1つとして「(物理的に)ポートを塞いでLANケーブルを挿せなくする」ことを挙げている[15]。これについて鈴木は「ネットワークのトラブルを防止するだけでなく、空きポートの無断使用を防ぎセキュリティの強化にもつながる」と指摘している[15]。
配線ケーブルのタグ付け・色分け
配線ケーブルのタグ付け・色分けをすることで接続先・行き先を明確にし、誤接続によるループを防ぐ[16]。
小型スイッチングハブの撤去
デスクの下や床の上にある管理者不在の小型スイッチングハブを撤去する[17]。
事故
- 気象庁(2020年)
2020年3月24日、気象庁が運営するサイトで生じた、気象データの更新が停止した事例の原因について同庁予報部業務課は「故障したコアスイッチが停止せず、異常なパケット処理を続けたことでブロードキャストストームを発生させた可能性がある」とコメントしている[18]。また、2022年2月7日には、国立国会図書館で配線ミスに起因するブロードキャストストームが生じ、東京本館と関西館の双方でシステム障害が発生[19]。利用者カードを用いた入退館や、館内のコンピュータを用いた資料の閲覧等に支障が生じた[19]。
- 沖縄県那覇市役所(2024年)
2024年4月1日に沖縄県那覇市の市役所全体で生じたネットワーク障害も、ブロードキャストストームが原因とされる[20]。なお、当該ブロードキャストストームが発生した原因について『日本経済新聞』は以下のように論じている[20]。
那覇市役所の職員が使うパソコンは、有線接続と無線接続のものが入り交じっている。有線接続でパソコンを使っていた職員が席替えの際にパソコンから抜いたLANケーブルをその場に置いて移動。その周辺に引っ越してきた職員などが、放置されているLANケーブルと、ポートが空いているエッジスイッチを見て、誤ってつないでしまった──。そんな想定が成り立つ。那覇市役所のトラブルは、スイッチにループ検知機能が備わっていても、思わぬ原因によって作動しないという事実を教えてくれる[20]。
- NTT西日本(2025年)
2025年9月16日にNTT西日本管内の大阪府と京都府の全域、兵庫県の一部で起きた大規模通信障害も、LSループによるブロードキャストストームが原因と報告された。227万回線が1時間弱不通となり、119番通報や110番通報に影響が発生、男性が1人死亡した[21][22][23]。