ラシュバ効果

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ラシュバ効果(ラシュバこうか、: Rashba effect)は、ビシュコフ・ラシュバ効果(ビシュコフ・ラシュバこうか、: Bychkov-Rashba effect)とも呼ばれ、バルク結晶[note 1]および低次元凝縮系(ヘテロ構造や表面状態など)のスピンバンドの運動量に依存した分裂であって、ディラック・ハミルトニアンにおける粒子と反粒子の分裂と同様のものである。分裂は、スピン軌道相互作用と結晶ポテンシャルの非対称性、特に2次元平面に垂直な方向(表面やヘテロ構造に適用される場合)の複合効果である。この効果は、エマニュエル・ラシュバに敬意を表して名付けられた。ラシュバは、1959年[1]にバレンティンI.シェカと3次元システムで、その後1984年にユリイA.ビチコフと2次元システムで発見した.[2][3][4] 。 ラシュバ効果とドレッセルハウス効果は、PhySH Physics Subject Headlines の概念の一つである。

驚くべきことに、この効果は、2次元金属状態のバンド構造のわずかな修正であっても、さまざまな新しい物理現象、特に電界による電子スピンの操作を駆動できる。 Rashbaモデルで説明できる物理現象の例は、異方性磁気抵抗(AMR)がある[note 2][5][6][7]

さらに、大きなラシュバ分裂を持つ超伝導体は、とらえどころのないフルデ-フェレル-ラーキン-オフチンニコフ(FFLO)状態[8]マヨラナフェルミオントポロジカルp波超伝導体[9][10]の可能な実現として提案されている。

近年、運動量に依存する擬スピン軌道相互作用が冷原子系で実現された[11]

ラシュバ効果はラシュバハミルトニアンと呼ばれる単純なハミルトニアンのモデルで最も容易に見ることができる。

,

ここではラシュバパラメータ、は運動量、はパウリ行列を並べたベクトル(ストークスベクトル)である。これは単に2次元の場合の(スピンを90度回転させた)ディラックハミルトニアンに過ぎない。

固体中のラシュバモデルはk·p摂動論[12]の枠組みの中で、または強結合近似[13]の視点から導出される。しかしながら、これらの方法の詳細は退屈であると見なされ、定性的に同じ物理を提供する直観的なトイモデルによる説明がよくなされる(定量的にはの評価が不十分である)。

ここでこの直観的なトイモデルによる説明を行い、その後により正確な導出を行う。

単純な導出

ラシュバ効果は、2次元平面に垂直な方向の対称性の破れの直接的な結果である。 したがって、ハミルトニアンに電界の形でこの対称性を破る項を追加しよう.

,

相対論的補正により、電界内で速度vで移動する電子は、有効な磁場Bを感じる。

,

ここでは光の速さである。この磁場は電子のスピンと結合する。

,

ここでは電子の磁気モーメントである。

このトイモデルでは、ラシュバハミルトニアンは次で与えられる。

,

ここでである。しかし、この"トイモデル"は一見説得力があるが、エーレンフェストの定理により、方向の電子の軌道は2次元表面に張り付いた束縛状態であるために、電子が経験する時間平均電場(つまり、電子を二次元表面に貼り付けている電位による電場を含む)はゼロでなければならない。この議論をトイモデルに適用すると、ラシュバ効果は排除されているように見える(そして実験的確認の前に多くの論争を引き起こした)が、より現実的なモデルに適用すると微妙に間違っていることがわかる[14]。上記の単純な導出は、ラシュバハミルトニアンの正しい分析形式を提供するが、効果は単純なモデルのバンド内の項ではなくエネルギーバンド(バンド間マトリックス要素)の混合から生じるため、一貫性がない。 一貫性のあるアプローチは、eV程度の結晶のエネルギーバンドを分割するMeVオーダーのディラックギャップ の代わりに分母に含まれる大きな効果を説明する。次項を見よ。

実際の系におけるラシュバ相互作用の見積もり – 強結合的なアプローチ

この節では、 強結合モデルを用いて微視的にラシュバパラメータを見積もる方法を述べる。単純には、2次元電子ガス(2DEG)を構成する巡回電子は原子のp軌道とs軌道から生成される。簡単のために、バンドのホールを考える[15]。この描像では電子は点近くの僅かなホールを除いてp状態を埋める。

ラシュバ分裂を得るために必要なものは、原子のスピン軌道相互作用

,

と2次元平面に垂直な方向への非対称なポテンシャルである。

ポテンシャルの対称性の破れが引き起こす主要な効果は等方的な, , バンドの間にバンドギャップを作ることである。副次的な効果としては、 バンドを バンドと混成させる。この混成は強結合近似の下で理解される。サイトにありスピンがであって軌道にある状態が、サイト にありスピン軌道または軌道にある状態 に移る飛び移り要素は、

,

で与えられる。ここでは全ハミルトニアンである。対称性を破る電場が無ければ、すなわちであれば、飛び移り要素は対称性により消える。しかし、であれば飛び移り要素は有限の値を持つ。例えば

、最隣接サイト間の飛び移り要素は、

,

である。ここではそれぞれ方向の単位長さで、クロネッカーのデルタである。

ラシュバ効果はアップスピンのホールが、例えば状態 からへと振幅で遷移して、スピン軌道相互作用を用いてスピンフリップを起こしてへと振幅で戻るというような2次の摂動として理解できる。ここで全てのホールが飛び移り、スピンがフリップすることに注意しよう。この摂動論におけるエネルギーの分母はもちろんになり、

,

となる。ここでは格子定数である。この結果は前の節で導いたナイーブな結果よりも数桁ほど大きい。

応用

  • スピントロニクス - 電子デバイスは電場を用いて電子の位置を制御できることを基礎としている。同様にして、スピン自由度の制御を基礎としたデバイスもあり得る。ラシュバ効果は磁場を用いずにスピンを制御することを可能にする。このようなデバイスは電子的な対応物に比べて多くの利点がある[16][17]
  • トポロジカル量子コンピュータ - 最近、p波超伝導体の実現にラシュバ効果を用いることができることが提案されている[9][10]。このような超伝導体はマヨラナ束縛状態として知られる非常に特殊なエッジ状態になっている。この非局所性が超伝導体に対して局所的な散乱に対し耐性を持たせ、従ってこれらは長いコヒーレンス時間を持つと考えられている。デコヒーレンスはフルスケールの量子コンピュータを実現するための大きな障害の一つであるが、このような安定な状態が量子ビットのよい候補であると考えられている。
  • BiTeI[18]強誘電体のGeTe[19]といったバルク結晶、そして多くの低次元系におけるが5 eVÅ程度の巨大ラシュバ効果の発見によって、電子のスピンをナノスケールでかつ短い操作時間で制御できるようなデバイスの作成が可能であることが期待されている。

ドレッセルハウススピン軌道相互作用

ラシュバスピン軌道相互作用は、一次元対称性を持つシステム、たとえば、最初に見つかったCdSおよびCdSe[20]ペロブスカイトの六方晶系、および2次元平面に垂直な方向の対称性が破れた場の効果として発現するヘテロ構造[2]に典型的に見られる。 これらすべてのシステムには、反転対称性がない。 ドレッセルハウススピン軌道相互作用[21]として知られている同様の効果は、反転対称性を欠くAIIIBV型の立方晶およびそれらから生じる量子井戸において生じる。

参考

脚注

参考文献

参考

外部リンク

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