以下は、日本が法廷地になった場合の不法行為の準拠法に関する扱いである。
日本では、2007年1月1日から施行された法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号、以下「通則法」という)によって全面改正される前の法例(明治31年法律第10号)において、原則として「原因タル事実ノ発生シタル地」が不法行為の成立及び効力の準拠法になるのを原則としつつ(法例11条1項)、日本国外で発生した事実が日本法によれば不法ではない場合には、当該不法行為地法を適用しないとともに(同条2項)、日本国外で発生した事実が日本法によっても不法な場合であっても、日本法が認めた損害賠償その他の処分しか請求できない(同条3項)ものとしていた。
通則法においても、不法行為地法と法廷地法を併用する立場は貫かれているが、解釈上分かれていた点の明確化や準拠法の選択の柔軟化がされている。
まず、隔地的不法行為における不法行為地の意義に関して解釈が分かれていた点について、被害者保護の観点から「加害行為の結果が発生した地」と規定することにより、結果発生地説を採用することを明確にした(通則法17条本文)。ただし、これを貫くと、通常は想定されない地で加害行為の結果が発生した場合に、加害者にとって予見できない事態が生じる場合もある。そのため、「その地における結果の発生が通常予見することのできない」場合には、例外的に加害行為が行われた地の法を適用するものとしている(同条但書)。
法例においては、解釈上はともかく、明文上は不法行為の類型に応じた個別的な規律はされていなかった。これに対し通則法では、不法行為の類型に応じて最密接地を選択すべきであるとする近時の考え方を考慮し、生産物責任と名誉・信用毀損の準拠法について、特例を設けた。
生産物で引渡しがされたものの瑕疵により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者等に対する債権の成立及び効力については、通則法17条の規定にかかわらず、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法によるとして(通則法18条本文)、いわゆる市場地法を準拠法にすることを原則とした。
ただし、問題となる引渡地における引渡しが通常予見できないものではない場合については、生産業者等の保護の観点から、生産業者等の主たる事業所の所在地法(事業所を有しない場合は常居所地法)によるとの例外を認めている(通則法18条但書)。例えば、A国に事業所がある生産業者甲が、B国の定める安全性に関する基準に合致した製品をB国に輸出したところ、盗難により基準が異なるC国で販売され、C国で製品を購入した乙が欠陥により損害を被った場合、原則的として甲の責任の準拠法はC国法になるが、客観的に見てC国での引渡は予見できないと判断される場合は、A国法が準拠法になる。
なお、通則法において、一般的に使われる「製造物」や「製造業者等」という語を用いず、「生産物」や「生産業者等」という語が用いられているのは、日本の製造物責任法(平成6年法律第85号)で使用されている語より広い概念を意味することによる。
不法行為について、通則法17条本文に規定する結果発生地法を準拠法とすると、名誉や信用を毀損する情報が複数の法域に伝播した場合に、いずれの地が結果発生地になるのかという問題が生じ(被害が一番大きい地の法の選択するのか、情報が伝播した全ての法域を結果発生地とするのかなど)、法的解決が複雑になる恐れがある。
そのため、通則法では、準拠法の明確化、被害者の保護、加害者の予見可能性の観点から、名誉毀損又は信用毀損の不法行為については、被害者の常居所地法を準拠法にすることにより、バランスをとった(通則法19条)。例えば、A国に居住する甲が、B国内のサーバに設置されている電子掲示板に、C国に常居所を有する乙の名誉を毀損する書き込みをした場合、C国法に基づき不法行為の成否が判断される。
名誉や信用以外の人格権を毀損した場合については、条文上は本条の送致範囲には含まれていない。この点に関する立案担当者の解説によると、いかなる権利が人格権の範疇に含まれるかが各国により様々であることから、適用範囲を明確にすることが困難である等として、特則規定は設けられなかったとされている(小出邦夫編著『一問一答 新しい国際私法』112頁)。これに対しては、パブリシティ権侵害と呼ばれるものについてはいわゆる市場の問題であり、通常の不法行為として扱う(通則法17条の問題として結果発生地法が原則になる)べきであるのに対し、プライバシー権の侵害については名誉や信用を毀損した場合と異なる連結政策を採るのは妥当ではないとして、19条の送致範囲に含まれるとの見解も示されている(澤木敬郎=道垣内正人『国際私法入門〔第6版〕』246頁)。
以上のような、通則法の規定(原則としての結果発生地法、生産物責任の市場地法、名誉毀損・信用毀損の場合の被害者の常居所地法)にかかわらず、具体的な事案によっては、これら以外の地の法を準拠法とするのが妥当な解決を生む場合も考えられる。
そのため、通則法は、上記の規定にかかわらず、不法行為当時に当事者が法域を同一にする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に基づく義務違反による不法行為であること、その他の事情などに照らして、明らかに当該事案に関してより密接な関係がある地が他に存在する場合は、当該他の地の法を準拠法にすることにした(通則法20条)。
不法行為によって生じた債権については当事者自治を認めるのが妥当とも考えられることは前述したとおりである。
そのため、通則法においては、第三者の権利を害さない限り、不法行為の当事者による不法行為の発生後における準拠法の変更を認めることにした(通則法21条)。
不法行為の準拠法が外国法になる場合において、日本法によれば不法にならない場合や、日本法では認められない損害賠償その他の処分については、当該外国法が適用されないとして、法廷地法を考慮する規律は、通則法においても法例における規律と同様である(通則法22条)。
例えば、英米法で認められている懲罰的損害賠償の制度は日本法には存在しない。そのため、通則法17条本文により懲罰的損害賠償の制度がある地の法が適用される事案について日本の裁判所に損害賠償請求訴訟を起こした場合は、日本法により認められる損害賠償ではないとして(通則法22条2項)、懲罰的損害賠償の額に相当する部分については請求が棄却される。