主人公は、江戸は中橋に住む名医、尾台良玄の内弟子で銀南という男。幼少時は利発だったが、大人になった今は単なる「色ボケ」であり、頭も鈍くなってきたため玄関番しか勤まらない。先生も見かね、何とか一人前に育てようと、銀南に「代脈」に行くように命じた。
- 「ダイミャクぅ?」
医者の代わりの弟子が診療に行き、脈を取ってきて先生に報告する…ということなのだが、当然、銀南には分からない。患者は蔵前の伊勢屋という豪商であり、銀南が失敗したらそのまま失業しかねない。
- 「いいか、御嬢さんのおなかにシコリがあるが、こいつは決して触ってはならない。…というのはな、このシコリを触るとオナラが出るんだよ。もし間違って触ったら、こう言ってごまかすように。『この頃は、のぼせの加減で耳が遠くなっております。おっしゃりたいことがありましたら、ちと大声でお願いします』」
先生は、銀南に医者の心得から返事の仕方まで教え、少しでも箔をつけようと駕籠に乗せて送り出した。
- 「やっとお医者さんみたいなことができるなぁ」
大喜びしている銀南を乗せ、駕籠は蔵前へと到着した。
- 「若先生、お待ちしていました!」
伊勢屋総出のお出迎えに、びっくりした銀南はつい何時もの調子で「へいへーい!」と答えてしまう。あわてて「はいはい」と言い直した。
- 「そんなにそっくり返って、若先生、具合でもお悪いのでしょうか?」
座敷に上がっても、先生が言っていた「羊羹なんかが出てきても、食べ飽きたふりをして手を出すな」という言葉がちらついて涙ぐむなど銀南の暴走は止まらない。やっと病間へやってきたが、お嬢さんと猫の前足を取り違えて診察したりするため、番頭もだんだん不安になってきた。
- 「若先生、大丈夫でしょうか?」
- 「大丈夫ですよ。まず脈を見て…エヘヘ、キチンと生きていますね。次はおなかを…ん? これがシコリか。どれどれ…?」
止せばいいのにグッと押したものだから、たちまちものすごい音が響き渡った。
- 「ア…ヒャ…!! お、奥さん、何かあったら大声でおっしゃってください。最近、のぼせの加減で耳が遠くなっておりますので…」
- 「ホゥ、大先生もそのようなことを仰ってましたが、若先生ものぼせでございますか?」
- 「ええ。ですから、さっきのオナラも聞こえませんでした!」