作詞家

楽曲の歌詞を書く人 From Wikipedia, the free encyclopedia

作詞家(さくしか、: lyricist)とは、の言語部分である歌詞を創作する者である[1]。作詞を主な職業とする者だけでなく、作曲家歌手、演奏家などが自ら歌詞を書く場合もある[1]

作詞家は、作曲家から提供された旋律に言葉を付ける場合と、先に歌詞を書き、作曲家がそれに旋律を付ける場合がある[2][3]。共同制作では、作曲家、音楽プロデューサー、音楽出版社、歌手、舞台作品の脚本家などと協働し、歌詞の内容と旋律、リズム、歌唱表現、作品全体の構成を調整する[1]

英語のlyricistは主として歌詞を書く者を指す。これに対し、ソングライター(songwriter)は、歌詞だけでなく旋律や和声を含む楽曲全体の創作を行う者を指す場合があり、両者は必ずしも同義ではない[1][4]

職務

作詞家は、歌詞の主題、語り手、語彙、文体、反復、押韻、各節の構成などを定め、言葉を歌唱可能な形へ組み立てる[1][2]。旋律が先に存在する場合には、言葉のアクセント、音節数、母音・子音、句の長さ、韻の位置などを旋律のリズムや音高に適合させる必要がある[2]

バークリー音楽大学は、旋律へ歌詞を付ける際の主要な要素として、言葉の強勢と音楽上のアクセントの一致、歌詞のフレージング、押韻の位置、フック、音価、拍子および曲式を挙げている[2]。作詞家は、ヴァースコーラス、プリコーラス、ブリッジなど、曲の各部分が異なる役割を持つように歌詞を構成することもある[2]

歌詞は単独の文章としてだけでなく、旋律、和声、リズム、歌手の声質および演奏様式と組み合わされて提示される。このため、同じ言葉でも、強勢を置く位置、音を伸ばす長さ、休符の位置などによって聴き手に与える意味や印象が変化する[2]

制作方法

旋律に歌詞を付ける場合

既に作られた旋律へ歌詞を付ける場合、作詞家は旋律上の強拍・弱拍、音の長短、フレーズの区切り、反復部分などを確認し、それに合う語句を選ぶ[2]。言葉本来のアクセントと音楽上のアクセントが大きく異なると、発音や意味が不自然に聞こえるため、語順や表現を変更する場合がある[2]

また、旋律上で目立つ音や反復される箇所には、題名、中心的な語句、フックなどを配置することがある[2]

歌詞に旋律を付ける場合

歌詞が先に作られる場合には、作曲家が言葉の韻律、構文、感情の変化などを基に旋律を作る。オペラでは、台本作家が作成したテキストを作曲家が後から音楽化する場合がある一方、台本作家と作曲家が制作過程を通じて緊密に協働する場合もある[3]

作詞家と作曲家の共同制作では、歌詞や旋律が一度で確定するとは限らず、歌唱のしやすさ、曲の長さ、物語上の役割、歌手の表現などに応じて双方を修正することがある[1][2]

トップライン制作

現代のポピュラー音楽では、音楽プロデューサーなどが制作した伴奏トラックに、歌唱旋律、ハーモニーおよび歌詞を加えるトップライン(top line)制作が行われる[4]。これを担当する者はトップライン・ソングライターまたはトップライナーと呼ばれる[4]

トップライナーは、伴奏トラックに合わせて複数の短い旋律や語句を試し、フック、ヴァース、コーラスなどへ発展させる。完成後には、自ら仮歌やコーラスを録音し、歌手が録音する際の見本となるデモ音源を制作する場合がある[4]

分野別の作詞

ポピュラー音楽

ポピュラー音楽では、作詞家が作曲家や音楽プロデューサーから依頼を受けて特定の歌手のために歌詞を書く場合、音楽出版社に所属するスタッフ・ライターとして共同制作を行う場合、歌手自身が作詞を行う場合などがある[1]

バークリー音楽大学は、現代の英語圏の音楽産業では、歌詞だけを専門に書く専業作詞家は少なくなり、作詞家がトップライン制作、作曲、歌唱、舞台作品の執筆などを兼ねる例が増えていると説明している[1]

ミュージカル

ミュージカルの作詞家は、作曲家および台本を担当するブック・ライターと協働して楽曲を制作する[1]。ミュージカルの歌詞には、単独の歌としてのまとまりだけでなく、登場人物の性格や感情を示すこと、物語を進行させること、時間や場所を表現することなどが求められる[1]

一人の作者が台本と歌詞を兼任する場合や、作曲と作詞を兼任する場合もあるが、台本、作曲、作詞がそれぞれ別の作者へ分担される場合もある[1]

オペラ

オペラなどの歌劇において、作品全体のテキストであるリブレットを執筆する者はリブレット作家(librettist)と呼ばれる[3]。リブレット作家は、既存の小説、戯曲、伝説などを翻案する場合と、オリジナルの物語を書く場合がある[3]

リブレットには、歌詞に相当する言葉だけでなく、登場人物、物語、台詞、場面構成などが含まれるため、一般的な楽曲の作詞家よりも劇作家に近い役割を担う場合がある[3][1]

広告・映像作品

作詞家は、広告用のコマーシャルソングジングル、映画・テレビ番組などで使用される楽曲の歌詞を制作する場合もある[1]。この場合、商品名、作品の主題、映像の長さ、放送上の制約など、依頼者が指定した条件に合わせて歌詞を作る[1]

関連する職種・呼称

ソングライター

ソングライターは、歌詞、旋律、和声など、歌を構成する要素を創作する者である。作詞だけを担当する者を作詞家、作曲だけを担当する者を作曲家と区別する場合がある一方、一人で歌詞と楽曲の双方を作る者もソングライターと呼ばれる[1][4]

自作した歌を自ら歌唱する者はシンガーソングライターと呼ばれる。

詩人との違い

詩人は、原則として独立した言語作品としてのを制作する者である。作詞家は、言葉を旋律、リズム、歌唱および曲式と結び付けて制作するため、音節数、言葉の強勢、発音、反復など音楽上の制約を受ける[2]

詩人が書いた詩に後から作曲家が音楽を付ける場合には、その詩が歌詞として使用されることもある。

訳詞家

外国語の歌詞を別の言語で歌えるように作り替える作業は訳詞と呼ばれ、これを行う者は訳詞家と呼ばれる。訳詞では、原文の意味を訳すだけでなく、元の旋律へ合わせて音節数、アクセント、韻などを調整する必要がある。

著作権が存続している歌詞を翻訳・改変する場合には、原則として権利者への確認が必要であり、改変の内容によっては翻案権や同一性保持権が問題となる[5]

概念の適用範囲

井上貴子によれば、近代西洋音楽では19世紀後半までに、作詞家、作曲家、演奏家という専門的な役割の分化がみられるようになった[6][7]

一方、井上は、作詞家、作曲家、演奏家という西洋近代の職能区分を、西洋以外の伝統音楽へそのまま適用する際には注意が必要だと述べている[7]。例えば、カルナータカ音楽におけるヴァーッゲーヤカーラ(vaggeyakara)は、詩を作り、旋律を付け、自ら歌唱する者を指し、作詞家・作曲家・歌手の役割を一体として担っていた[6][7]

著作権

歌詞の著作物性

日本の著作権法では、思想または感情を創作的に表現した文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものを著作物とする。創作的に表現された歌詞は音楽の著作物に含まれ、作詞家はその著作者となる[8][5]

著作権は、歌詞が創作された時点で発生し、権利の発生に登録や届出を必要としない[8][5]。歌詞と楽曲の作曲部分は、それぞれ作詞家と作曲家が創作した著作物として扱われる[9]

歌手や演奏家の実演、レコード製作者が制作した録音物には、作詞家・作曲家の著作権とは別に著作隣接権が発生する[9][5]

音楽出版社と著作権管理

作詞家は、作品の利用促進や著作権管理のため、音楽出版社と契約する場合がある。JASRACの説明では、作詞家・作曲家から著作権の譲渡を受けた音楽出版社は、レコード会社や放送事業者などへ作品を売り込み、使用料を作家と分配する[10]

複製権、演奏権、公衆送信権などの財産的な著作権は譲渡できるが、公表権、氏名表示権、同一性保持権などの著作者人格権は作詞家本人に帰属し、第三者へ譲渡できない[8][10]

歌詞の利用と改変

著作権が存続している歌詞を出版、複製、配信、表示などの方法で利用する場合には、著作権法上の権利制限規定が適用される場合を除き、利用方法に対応する権利者の許諾が必要となる[8][5]

歌詞の一部を書き換える替歌や、別の言語へ翻訳する訳詞などは、原著作物の改変に当たる。JASRACは、編曲、替歌、訳詞については翻案権や同一性保持権が関係し、同協会がこれらの改変を直接許諾できない場合があるため、作詞家または音楽出版社などへの事前確認が必要だとしている[5]

脚注

関連項目

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