傾斜磁場

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傾斜磁場(けいしゃじば、勾配磁場)は、静磁場B0に位置に比例する成分を重ねて共鳴周波数を空間的に変化させる磁場で、MRIの空間エンコードを担う。臨床MRIの性能を左右する中核要素である。スライス選択・位相/周波数エンコード・k空間走査でFOVと分解能を定め、拡散MRI、位相コントラスト、EPI・スパイラル等の高速撮像を可能にする。一方で末梢神経刺激や騒音を生じ得るため、規格に基づく運用とコイル設計・制御の最適化が求められる。

傾斜磁場(勾配磁場)は、静磁場B0に対して位置に比例して上乗せされる線形成分で、空間座標(x,y,z)に沿ってBz成分を変化させる磁場を指す。臨床MRIではX・Y・Z各軸に対応する3組の勾配があり、しばしば「Gx・Gy・Gz」と表記される[1][2]

理想化すればBz(r)=B0+G·r(=B0+Gxx+Gyy+Gzz)と書け、位置依存のラーモア角周波数 ω(r)=γ(B0+G·r) を生む[2]。この「周波数=位置」対応が空間エンコードの基礎であり、RFの中心周波数と帯域を勾配と同時に与えることで、所望位置のスライスのみを共鳴させる(スライス選択)[3]

一方、勾配を一定時間τだけ印加するとスピンは位相 φ(r)=γ∫G(tr dt を獲得する。ここでゼロ次勾配モーメント m0=∫G dt が位相付与量を規定し、同式を2πで規格化すると k(t)=(γ/2π)∫G dt と定義できる[4][5]

このとき受信信号は S(k)=∫Mxy(r,0) exp(i2π k·r) dr と表され、勾配波形が時間とともにk空間を走査して空間周波数成分を計測し、逆フーリエ変換で画像を再構成する。k空間中心は低周波成分(コントラスト)、周辺は高周波成分(エッジ・解像)に対応し、サンプリング間隔と範囲がそれぞれ視野(FOV)と分解能を決める[4][5][1]

コイルの構造・駆動・性能

傾斜磁場は、ボア内の所定領域で直線性が高い磁場勾配を生むよう設計された表面電流分布(巻線)によって生成される。巻線形状は円筒・平板・多面体など任意面に拡張でき、設計法として境界要素法(BEM)やターゲットフィールド法、流線関数(ストリームファンクション)法などが用いられる。BEMはコイル表面上の電流密度を直接未知数として扱い、線形性や外部漏洩の抑制を含む多目的最適化に適する[6]。流線関数法は任意形状メッシュ上で無発散の面電流を基底関数で表し、目的関数に線形場の誤差、インダクタンス(磁気エネルギー)、必要ならトルク制約を組み込んで解く手法で、解から得た等流線に沿って溝加工したフォーマへ配線できる[7]。さらに最大電流密度を直接制約するminimax定式化により、冷却や安全余裕を見込んだ巻線の実装可能性を高めることができる[8]

近年は永久磁石ハルバッハ配列のように主磁場が横向きとなる構成でも、ターゲットフィールド法を拡張して内筒面に所望の横向き勾配を規定し、外筒面の表面電流を解く設計が実証された。流線関数から導いた配線を3Dプリント金型で実装し、測定された勾配効率や線形体積はシミュレーションと良好に一致し、当該設計例では横方向勾配で広い線形成分が得られたと報告されている(一般特性かどうかは設計条件に依存)[9]。外部場や機械トルクを低減するためのアクティブシールド(二重巻線)も設計目的に含められるが、渦電流・騒音対策の詳細は別節で述べる[6]

性能指標には最大勾配強度(mT/m)、スルーレート(dB/dt)、線形性、デューティ比のほか、電気的には抵抗・インダクタンスが挙げられ、設計と測定の両面で評価される[7][9]。駆動には大電圧・大電流の勾配増幅器(しばしば多段Hブリッジ)が用いられ、過渡応答やオーバーシュート、パルス再現性が画像品質を左右する。高精度な状態空間制御や搬送波外帯域信号の注入により、オーバーシュート低減とノイズ抑制、電流パルスの再現性向上が報告されており(具体的な数値は出典に従う)、所望のスルーレート達成にも寄与する[10]

MRIにおける役割と撮像プロセス

MRIでは傾斜磁場を用いて、(1)スライス選択(SS)、(2)位相エンコード(PE)、(3)周波数エンコード(FE)の順に空間情報を付与する。まずB0と平行な軸にGzを印加し、帯域幅ΔfのRFを同時に与えることで厚さΔz=Δf/(γGz)のスライスのみを励起する。これにより撮像体積のz位置が決まる。[11]

次に短時間のPE勾配Gpeを印加して位置rに位相φ(r)=γ∫Gpe・r dtを与え、k空間のkyをΔky=(γ/2π)∫Gpe dtだけ離散シフトする。これによりFOVy=1/Δky、分解能Δy=FOVy/Nyの関係が定まり、TRごとに異なるkyを1本ずつ充填するのが2Dカーテシアンの基本である。[12]

読み出しでは一定のFE勾配Gr下でADCを動作させ、kベクトルはk(t)=(γ/2π)∫G(t)dtに従ってkx方向へ走査される。エコー中心(k=0)をTEに一致させるために読出しプリフェーズを用い、サンプリング間隔Δtは受信帯域RBW=1/Δtと対応する。FOV全体の周波数スプレッドはΔf\_FOV=(γ/2π)Gx・FOVxで、画素帯域はRBW/Nx、化学シフトによる画素ずれはΔx\_cs=Δf\_cs/(RBW/Nx)で与えられる。[13][12]

k空間軌跡は手法により異なり、カーテシアンでは線形走査、EPIでは励起後に多数の読出しを連続して実行して短時間で全面を充填する。[14]

これら一連の処理は、Larmor式により共鳴周波数が位置依存となる原理と、勾配モーメントで位相・周波数を制御して信号を空間周波数領域に写像するという一般枠組みに基づく。[15]

応用と主要撮像法

生体影響・安全性とアーチファクト対策

脚注

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